『あなたを捨てたのは、私です』 〜冷酷公爵を追い出した元恋人ですが、隠し子ごと溺愛されています〜

ria_alphapolis

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第26話「五年後」



 ――そして、時は流れた。

---

 エリーゼが9歳になった春。

 あれから5年。

 公爵邸には、変わらぬ幸せが続いていた。

---

 エリーゼは、美しい少女に成長していた。

 亜麻色の髪は、腰まで伸び、蒼い瞳は以前よりも深く、知的な輝きを宿していた。

 そして、その魔力も――

 日々、強くなっていた。

---

## * * *

 庭で、エリーゼは魔術の訓練をしていた。

 彼女の前には、セレスティアが立っている。

---

「エリーゼ様、集中して」

「はい」

---

 エリーゼが手を掲げると、赤い光の球が現れた。

 5年前よりも、ずっと大きく、強力な光だった。

---

「それを、あの的に向けて放ちなさい」

「はい!」

---

 エリーゼが手を振ると、光の球が的に向かって飛んでいった。

 的に当たり、赤い光が爆発する。

---

 的は、跡形もなく消えていた。

---

「……っ」

 エリーゼは、驚いて手を引っ込めた。

「やりすぎちゃった……」

---

 セレスティアは、穏やかに微笑んだ。

「いいえ。力は、確実に成長しています」

「でも、こんなに強いなんて……」

「恐れることはありません」

---

 セレスティアは、エリーゼの肩に手を置いた。

「力は、使い方次第です」

「……はい」

---

 エリーゼは、自分の手を見つめた。

 この力が、自分にはある。

 守るための力。

 でも、同時に――

 傷つけることもできる力。

---

## * * *

 その夜。

 リディアとアーサーは、執務室で話していた。

---

「エリーゼの力が、日に日に強くなっていますね」

「ああ」

---

 アーサーは、資料を見ながら答えた。

「セレスティア様からの報告でも、そう記されている」

「……12歳まで、あと3年」

「そうだ」

---

 リディアは、不安そうに続けた。

「その時、<真紅の瞳>が完全に目覚めると」

「ああ。そして、七つ目の試練が訪れる」

---

 アーサーは、資料を閉じた。

「これまで、エリーゼは六つの試練を乗り越えてきた」

---

 リディアは、頷いた。

 5年間で、エリーゼは確かに六つの試練を経験した。

---

 一つ目は、<黒の結社>との戦い。

 二つ目は、魔力の覚醒。

 三つ目は、6歳の時に訪れた、心の迷い。

 四つ目は、7歳の時に訪れた、魔力の暴走。

 五つ目は、8歳の時に訪れた、別の魔術師集団からの襲撃。

 六つ目は、つい先月、魔力を使いすぎて倒れたこと。

---

 どの試練も、エリーゼは家族の支えで乗り越えてきた。

---

「あと、一つ」

 リディアは、小さく呟いた。

「最後の試練は、どんなものになるのでしょう」

「……わからない」

---

 アーサーは、窓の外を見た。

 月が、美しく輝いている。

---

「だが、俺たちがいる」

「……はい」

「何があっても、エリーゼを守る」

---

 リディアは、アーサーの手を握った。

「……一緒に」

「ああ、一緒に」

---

## * * *

 翌日。

 エリーゼは、王都の市場に出かけていた。

 護衛を連れて、リディアと一緒に。

---

「ママ、見て! 可愛いリボン!」

「本当ね」

---

 エリーゼは、すっかり少女らしくなっていた。

 可愛いものが好きで、おしゃれにも興味がある。

---

 でも、その手には――

 確かに、強大な力が宿っている。

---

「エリー、あまり走らないで」

「ごめんなさい」

---

 エリーゼは、素直に謝った。

 9歳になっても、その明るさは変わっていない。

---

 市場を歩いていると、突然、悲鳴が聞こえた。

---

「きゃあ!」

---

 エリーゼとリディアが振り返ると、馬車が暴走していた。

 制御を失った馬が、人々に向かって突進している。

---

「危ない!」

---

 エリーゼは、咄嗟に手を掲げた。

 赤い光が、馬車を包み込む。

---

 馬車が、ぴたりと止まった。

---

 周囲が、静まり返った。

 人々が、エリーゼを見ている。

---

「……っ」

 エリーゼは、慌てて手を下ろした。

---

 リディアが、娘の肩を抱いた。

「大丈夫よ、エリー」

「でも、みんな見てる……」

「いいのよ。あなたは、人を助けたのだから」

---

 やがて、人々から拍手が起こった。

---

「ありがとう、お嬢ちゃん!」

「助かったよ!」

---

 エリーゼは、ほっと息をついた。

「……よかった」

---

 でも、心のどこかで――

 自分の力が、人前で露わになったことに、不安を感じていた。

---

## * * *

 その夜。

 エリーゼは、アーサーに相談した。

---

「パパ」

「ん? どうした」

「今日ね、市場で馬車を止めちゃったの」

「……聞いたぞ。よくやった」

「でも……」

---

 エリーゼは、不安そうに続けた。

「みんなに、私の力を見られちゃった」

「それで?」

「……怖くないかな」

---

 アーサーは、椅子から立ち上がり、エリーゼの隣に座った。

---

「エリー」

「はい」

「お前の力は、人を傷つけるためのものか?」

「……違う」

「では、何のため?」

「……守るため」

---

 エリーゼは、小さく答えた。

---

「そうだ」

 アーサーは、娘の頭を撫でた。

「お前は、今日、人を守った」

「……うん」

「ならば、誇りに思え」

---

 エリーゼは、アーサーを見上げた。

 その瞳には、涙が浮かんでいた。

---

「……でも、パパ」

「ん?」

「私、怖いの」

---

 エリーゼの声が、震えた。

「この力が、もっと強くなったら、どうなるのかな」

「……エリー」

---

 アーサーは、娘を抱きしめた。

「お前は、一人じゃない」

「……」

「パパも、ママも、ずっと傍にいる」

---

 エリーゼは、アーサーの胸で泣いた。

「……うん」

---

 アーサーは、娘の背中を優しく撫でた。

---

 ――この子は、まだ9歳なのに。

 こんなにも、重いものを背負っている。

---

 でも、俺たちがいる。

 何があっても、守る。

---

## * * *

 数日後。

 セレスティアが、公爵邸を訪れた。

---

「公爵、奥様」

「セレスティア様」

---

 セレスティアは、真剣な表情で言った。

「エリーゼ様の魔力が、予想以上に成長しています」

「……それは」

「ええ。おそらく、12歳を待たずに<真紅の瞳>が目覚めるかもしれません」

---

 リディアの顔色が、変わった。

「それは、どういう……」

「つまり、最後の試練が、早まる可能性があります」

---

 アーサーは、拳を握りしめた。

「……いつ頃です」

「わかりません。ただ――」

---

 セレスティアは、窓の外を見た。

「遅くとも、一年以内でしょう」

---

 リディアは、息を呑んだ。

 一年以内。

 エリーゼは、まだ10歳になったばかりになる。

---

「……わかりました」

 アーサーは、静かに答えた。

「準備を、進めます」

「ええ。私たち魔術師協会も、全力で支援します」

---

 セレスティアは、深く頭を下げた。

「必ず、エリーゼ様を守りましょう」

---

## * * *

 その夜。

 エリーゼは、何も知らずに眠っていた。

---

 リディアとアーサーは、娘の寝顔を見つめていた。

---

「……まだ、こんなに幼いのに」

 リディアが、小さく呟いた。

---

 アーサーは、娘の手を取った。

 小さな手。

 でも、その中には、強大な力が宿っている。

---

「俺たちが、守る」

 アーサーは、静かに誓った。

「何があっても」

---

 リディアは、頷いた。

「……はい」

---

 二人は、娘の寝顔を見つめ続けた。

---

 ――最後の試練が、近づいている。

 でも、恐れない。

 この家族なら、きっと乗り越えられる。
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