『あなたを捨てたのは、私です』 〜冷酷公爵を追い出した元恋人ですが、隠し子ごと溺愛されています〜

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第27話「予兆」


 エリーゼが10歳の誕生日を迎えた日。

 公爵邸では、ささやかな祝宴が開かれていた。

---

「おめでとう、エリー」

 アーサーが、娘にプレゼントを渡した。

「わあ、ありがとう、パパ!」

---

 エリーゼは、包みを開けた。

 中には、美しい銀の髪飾りが入っていた。

---

「綺麗……」

「お前に似合うと思って」

「嬉しい!」

---

 エリーゼは、アーサーに抱きついた。

 リディアも、微笑みながら見守っていた。

---

 穏やかな時間。

 幸せな時間。

---

 でも――

 その平穏は、長くは続かなかった。

---

## * * *

 誕生日の夜。

 エリーゼは、突然目を覚ました。

---

 胸が、熱い。

 まるで、何かが燃えているような。

---

「……っ」

---

 エリーゼは、自分の胸に手を当てた。

 そこから、赤い光が漏れていた。

---

 いつもよりも、ずっと強い光。

 そして――

---

 その時、エリーゼの視界が、赤く染まった。

---

## * * *

 ――ある光景が、見えた。

---

 暗い森。

 月明かりだけが、周囲を照らしている。

---

 その中央に、一人の少女が立っていた。

 亜麻色の髪。

 蒼い瞳。

---

 それは――自分だった。

---

 でも、違う。

 その瞳は、蒼ではなく――

 深紅に輝いていた。

---

 <真紅の瞳>。

---

 そして、その少女の周りには――

 無数の黒い影が、蠢いていた。

---

 「来るな……!」

---

 少女が、叫んだ。

 その声は、エリーゼ自身の声だった。

---

 「私に、近づかないで!」

---

 少女の手から、強大な赤い光が放たれる。

 黒い影たちが、次々と消えていく。

---

 でも、影は減らない。

 むしろ、増えていく。

---

 「やめて……!」

---

 少女が、泣き叫んだ。

---

 その時――

 一つの影が、少女に襲いかかった。

---

## * * *

 「きゃああ!」

---

 エリーゼは、悲鳴を上げて飛び起きた。

 全身が、汗でびっしょりだった。

---

 扉が、勢いよく開いた。

 リディアとアーサーが、駆け込んでくる。

---

「エリー!」

「どうした!」

---

 エリーゼは、震えながら二人を見た。

「……ママ、パパ」

---

 リディアが、娘を抱きしめた。

「大丈夫よ、エリー。悪い夢を見たの?」

「……うん」

---

 エリーゼは、リディアの胸で震えた。

「怖い夢だった……」

「もう大丈夫よ」

---

 アーサーも、娘の背中を撫でた。

「ここにいるぞ、エリー」

---

 エリーゼは、二人に抱きしめられながら、泣いた。

---

 ――あれは、何だったのだろう。

 ただの夢?

 それとも――

---

## * * *

 翌朝。

 セレスティアが、緊急で公爵邸を訪れた。

---

「昨夜、強大な魔力の波動を感じました」

「……それは」

「エリーゼ様からです」

---

 セレスティアは、真剣な表情で続けた。

「おそらく、<真紅の瞳>の覚醒が、始まっています」

---

 リディアの顔色が、変わった。

「でも、まだ10歳に……」

「年齢は、関係ありません」

---

 セレスティアは、エリーゼを見た。

「エリーゼ様、昨夜、何か見ましたか」

「……はい」

---

 エリーゼは、小さく頷いた。

「赤い目の、私が見えました」

「赤い目……」

「それと、黒い影がたくさん」

---

 セレスティアの表情が、険しくなった。

「……それは、予知夢です」

「予知夢?」

「ええ。未来を見る夢です」

---

 エリーゼは、震えた。

「じゃあ、あれは本当に起こるの?」

「……可能性があります」

---

 セレスティアは、静かに続けた。

「それが、おそらく七つ目の試練です」

---

 アーサーは、拳を握りしめた。

「……いつだ」

「わかりません。ただ――」

---

 セレスティアは、窓の外を見た。

「遠くないでしょう」

---

## * * *

 その日から、公爵邸の警備は最大限に強化された。

 魔術師協会からも、護衛が派遣された。

---

 エリーゼは、外出を禁止された。

 訓練も、一時中断された。

---

「……私、閉じ込められてるみたい」

 エリーゼが、窓辺で呟いた。

---

 リディアが、隣に座った。

「ごめんね、エリー」

「ううん、いいの」

---

 エリーゼは、小さく微笑んだ。

「みんな、私を守ろうとしてくれてるんだよね」

「……ええ」

---

 リディアは、娘を抱きしめた。

「あなたを、絶対に守るわ」

「ありがとう、ママ」

---

 エリーゼは、リディアの胸に顔を埋めた。

---

 でも、心のどこかで――

 不安が、消えなかった。

---

 あの夢は、本当に起こるのだろうか。

 自分の瞳が、赤く染まるのだろうか。

 そして、黒い影とは――

---

## * * *

 数日後。

 王都に、奇妙な噂が流れ始めた。

---

「夜な夜な、黒い影が出るらしい」

「人を襲うとか」

「魔物じゃないか?」

---

 アーサーは、その噂を聞き、すぐに調査を命じた。

---

 翌日、報告が上がってきた。

---

「公爵様、確かに黒い影のようなものが目撃されています」

「……どこだ」

「王都の東区です」

---

 アーサーは、地図を広げた。

 東区。

 かつて、<黒の結社>の拠点があった場所だ。

---

「……まさか」

---

 アーサーの顔色が、変わった。

---

「セバスチャン、すぐに魔術師協会に連絡を」

「かしこまりました」

---

## * * *

 その夜。

 エリーゼは、また同じ夢を見た。

---

 暗い森。

 赤い瞳の自分。

 そして、無数の黒い影。

---

 でも、今回は――

 影の正体が、少しだけ見えた。

---

 それは、人の形をしていた。

 黒いローブを纏い、顔は見えない。

---

 そして、その中心に――

 一人の女が立っていた。

---

 「……あなたは」

---

 エリーゼが、問いかけた。

---

 女は、ゆっくりとフードを取った。

 そこには――

 美しいが、冷たい顔があった。

---

 「私の名は、イレーヌ」

---

 女が、静かに言った。

---

 「<黒の結社>の、最後の生き残り」

---

## * * �*

 エリーゼは、再び悲鳴を上げて目を覚ました。

---

 「イレーヌ……」

---

 その名前が、頭から離れなかった。

---

 リディアとアーサーが、また駆けつけてきた。

---

 「エリー、また?」

 「……うん」

---

 エリーゼは、震えながら答えた。

---

 「イレーヌって人が、出てきた」

---

 アーサーの表情が、一変した。

---

 「……イレーヌだと?」

 「知ってるの、パパ?」

 「ああ」

---

 アーサーは、暗い表情で頷いた。

---

 「<黒の結社>の長だった女だ」

 「でも、確か捕まったはず……」

---

 リディアが、不安そうに言った。

---

 「すぐに、地下牢を確認する」

---

 アーサーは、立ち上がった。

---

 そして、その予感は的中した。

---

 イレーヌは――

 地下牢から、消えていた。

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