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第9話(前編)「少しずつ、私らしく」
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あれから三日が経った。
私は――少しずつ、変わり始めていた。
いや、正確には「戻り始めていた」と言うべきか。
本来の、私に。
「エリーゼ様、今朝はどちらのドレスになさいますか?」
マリアが尋ねる。
差し出された二着のドレス。
一着は深い蒼色。もう一着は明るい水色。
私は――迷わず、蒼色を選んだ。
「蒼色で」
「かしこまりました」
マリアが嬉しそうに笑う。
「やはり、エリーゼ様には蒼色がお似合いですわ」
「ありがとう、マリア」
鏡に映る自分を見る。
蒼色のドレス。
殿下の瞳の色。
これを着ていると――殿下と繋がっている気がする。
「髪型は、どうなさいますか?」
「えっと……編み込みで、リボンもつけて」
言いながら、少しだけ躊躇する。
でも――
殿下の言葉を思い出す。
『君の我儘は、我儘じゃない』
『僕は、君のそういうところが好きだ』
「マリア、やっぱり――リボンは真珠のものがいいわ。それと、少し時間をかけても大丈夫?」
「もちろんです」
マリアが優しく微笑む。
「エリーゼ様が戻ってきてくださって、私も嬉しいです」
「戻ってきた……?」
「はい。本当のエリーゼ様に」
その言葉に、胸が温かくなった。
## ◆
王宮の応接室で、私は殿下を待っていた。
約束の時間より――十五分遅れてしまった。
髪を編むのに、思ったより時間がかかったのだ。
「遅くなって、ごめんなさい……」
扉が開き、殿下が入ってくる。
私は立ち上がって、頭を下げた。
「エリーゼ」
殿下の声。
顔を上げると――
殿下が、微笑んでいた。
「遅刻したな」
「はい……申し訳ございません」
「理由は?」
殿下が尋ねる。
私は少し恥ずかしそうに答えた。
「髪を……編むのに、時間がかかって……」
「そうか」
殿下が近づいてくる。
そして――私の髪に、そっと触れた。
「綺麗だ」
「……っ」
顔が、熱くなる。
「殿下のために、可愛くしたくて……」
「ありがとう」
殿下が私の頭を撫でる。
「君が僕のために時間をかけてくれる。それが――とても嬉しい」
「殿下……」
「だから、これからも――遠慮せずに、好きなだけ時間をかけていい」
優しい声。
温かい手。
私は――殿下の手を、ぎゅっと握った。
「はい。これからは、我慢しません」
昼食の後、私たちは庭園を散歩していた。
穏やかな陽射し。
色とりどりの花々。
そして――殿下の隣を歩けること。
全てが、幸せだった。
「エリーゼ」
「はい?」
「最近、笑顔が増えたな」
殿下が言う。
「以前は――作り笑いばかりだったが」
「……そうでしたね」
私は苦笑する。
「殿下に嫌われないように、必死で笑っていました」
「もう、そんな必要はない」
「はい」
私は殿下を見上げる。
「もう、怖くありません。殿下が――ずっと私を愛してくださっていたと知ったから」
殿下の表情が、柔らかくなる。
「ああ。そうだ」
そして――
殿下が立ち止まり、私の手を取った。
「エリーゼ。一つ、約束してほしいことがある」
「約束……?」
「これから先、また不安になったら――すぐに僕に言え」
殿下が真剣な顔で言う。
「一人で抱え込むな。一人で悩むな」
「殿下……」
「君の不安も、恐怖も――全部、僕が受け止める」
その言葉に、涙が滲む。
「はい……約束します」
私は殿下の手を、両手で握った。
「もう、一人で抱え込みません」
「よし」
殿下が微笑む。
そして――
私の額に、そっとキスをした。
「っ!?」
突然のことに、顔が真っ赤になる。
「て、殿下……!?」
「どうした?」
殿下が悪戯っぽく笑う。
「婚約者なのだから、これくらい当然だろう?」
「そ、それはそうですけど……」
恥ずかしくて、顔が上げられない。
殿下は――そんな私を見て、楽しそうに笑っていた。
私は――少しずつ、変わり始めていた。
いや、正確には「戻り始めていた」と言うべきか。
本来の、私に。
「エリーゼ様、今朝はどちらのドレスになさいますか?」
マリアが尋ねる。
差し出された二着のドレス。
一着は深い蒼色。もう一着は明るい水色。
私は――迷わず、蒼色を選んだ。
「蒼色で」
「かしこまりました」
マリアが嬉しそうに笑う。
「やはり、エリーゼ様には蒼色がお似合いですわ」
「ありがとう、マリア」
鏡に映る自分を見る。
蒼色のドレス。
殿下の瞳の色。
これを着ていると――殿下と繋がっている気がする。
「髪型は、どうなさいますか?」
「えっと……編み込みで、リボンもつけて」
言いながら、少しだけ躊躇する。
でも――
殿下の言葉を思い出す。
『君の我儘は、我儘じゃない』
『僕は、君のそういうところが好きだ』
「マリア、やっぱり――リボンは真珠のものがいいわ。それと、少し時間をかけても大丈夫?」
「もちろんです」
マリアが優しく微笑む。
「エリーゼ様が戻ってきてくださって、私も嬉しいです」
「戻ってきた……?」
「はい。本当のエリーゼ様に」
その言葉に、胸が温かくなった。
## ◆
王宮の応接室で、私は殿下を待っていた。
約束の時間より――十五分遅れてしまった。
髪を編むのに、思ったより時間がかかったのだ。
「遅くなって、ごめんなさい……」
扉が開き、殿下が入ってくる。
私は立ち上がって、頭を下げた。
「エリーゼ」
殿下の声。
顔を上げると――
殿下が、微笑んでいた。
「遅刻したな」
「はい……申し訳ございません」
「理由は?」
殿下が尋ねる。
私は少し恥ずかしそうに答えた。
「髪を……編むのに、時間がかかって……」
「そうか」
殿下が近づいてくる。
そして――私の髪に、そっと触れた。
「綺麗だ」
「……っ」
顔が、熱くなる。
「殿下のために、可愛くしたくて……」
「ありがとう」
殿下が私の頭を撫でる。
「君が僕のために時間をかけてくれる。それが――とても嬉しい」
「殿下……」
「だから、これからも――遠慮せずに、好きなだけ時間をかけていい」
優しい声。
温かい手。
私は――殿下の手を、ぎゅっと握った。
「はい。これからは、我慢しません」
昼食の後、私たちは庭園を散歩していた。
穏やかな陽射し。
色とりどりの花々。
そして――殿下の隣を歩けること。
全てが、幸せだった。
「エリーゼ」
「はい?」
「最近、笑顔が増えたな」
殿下が言う。
「以前は――作り笑いばかりだったが」
「……そうでしたね」
私は苦笑する。
「殿下に嫌われないように、必死で笑っていました」
「もう、そんな必要はない」
「はい」
私は殿下を見上げる。
「もう、怖くありません。殿下が――ずっと私を愛してくださっていたと知ったから」
殿下の表情が、柔らかくなる。
「ああ。そうだ」
そして――
殿下が立ち止まり、私の手を取った。
「エリーゼ。一つ、約束してほしいことがある」
「約束……?」
「これから先、また不安になったら――すぐに僕に言え」
殿下が真剣な顔で言う。
「一人で抱え込むな。一人で悩むな」
「殿下……」
「君の不安も、恐怖も――全部、僕が受け止める」
その言葉に、涙が滲む。
「はい……約束します」
私は殿下の手を、両手で握った。
「もう、一人で抱え込みません」
「よし」
殿下が微笑む。
そして――
私の額に、そっとキスをした。
「っ!?」
突然のことに、顔が真っ赤になる。
「て、殿下……!?」
「どうした?」
殿下が悪戯っぽく笑う。
「婚約者なのだから、これくらい当然だろう?」
「そ、それはそうですけど……」
恥ずかしくて、顔が上げられない。
殿下は――そんな私を見て、楽しそうに笑っていた。
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