ボクはうさぎのぬいぐるみ

白井しのの

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一話 どうも、うさぎのぬいぐるみです。

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 ボクの名前は宇佐美つきみ。
 つい昨日までは十三歳の中学生。
 でも今はうさぎのぬいぐるみの姿で異世界にいる。
 事の発端は、昨日。


 二〇二四年 九月十七日

 二学期が始まって間もない頃。
 ボクは明日の準備を終え、ベットに入った。お気に入りのうさぎのぬいぐるみと一緒に。

 この白いうさぎのぬいぐるみの名前はサラ。
 全長四十センチメートル、二頭身、ロップイヤー。
 小五の時に近所の公園で出会ったお姉さんからもらった。
 そのお姉さんはとても綺麗な人だった。
 きれいな金髪のロングヘアーのお姉さん。
 顔は、顔は……どんなだっけ?
 なんだか朧げだ。

 その日は一日中お姉さんと遊んだんだっけ?

 当時、ボクがこのぬいぐるみを家に持って帰って来ると、両親は気味悪がった。
 くれたお姉さんはすごくいい人だったし、このぬいぐるみはこんなに可愛いのに。

 けど、今では何も言わない。
 何も。
 
 不思議な事に、このサラは常にほんのり温かい。
 まるでお姉さんと一緒に寝ているみたい。

 明日の時間割には家庭科があるな、楽しみだなあ。
 そう思いながら、ボクは眠りについた。


 夢を見た。
 とても長くて悲しい夢。
 いや、長いというにはあまりにも長すぎる。
 無限という概念に限りなく近い時間。
 単位を付けて表す事すら烏滸がましいと思える程、長い時間。
 

 誰か私を助けてよ。
 どうして私がこんな目に遭わないといけないの?
 こんな地獄、もうたくさん。
 せめて私を……終わらせて。


 誰かの、切なる願い。
 自分の事のように胸が痛い。
 君は、誰なんだ?


「ん……」

 長い夢を見たせいで時間の感覚が狂っている。
 何時間寝たんだろう。
 長い夢を見ても、起きると実際は5分くらいしか経ってなかったりする事がある。
 多分、それ。

「幸せの妖精さん、幸せの妖精サラさん。この世界に幸せをもたらしてください」

 透き通るような女性の声。
 視界は真っ暗だけど、その声で意識だけはハッキリした。

「幸せの妖精……サラ?」

 ボクは固い口をゆっくりと動かし、疑問を口にする。
 返事はすぐに返ってきた。

「そう、あなたは幸せの妖精サラ。私たちの世界に幸せをもたらす者」
「ボクがサラ……? ん?」

 その言葉を聞いた途端、自分の体がハッキリと見えた。
 真っ白で短い両手。手のひらはぺったんこ。
 手のひらで自分の顔や頭をペタペタと触って形を確かめる。

 困惑するボクの目の前に、突然鏡が現れた。
 ボクはうさぎのぬいぐるみのサラになっていた。

「ボクが! サラちゃんだ! なんで!?」
「その通り。あなたの魂はその幸せの妖精の器と融合したのです。さて、私が見えますか?」

 その一言で鏡は消え、声の主の姿が目の前に現れた。
 美しい金髪の女性。
 草の首飾りと紫色のオオトウワタの髪飾りをした白いワンピース姿。
 小五の時に出会ったあのお姉さんによく似ている!
 そうそう、こんな感じの顔だったんだ。
 でもあのお姉さんじゃない。少し顔付きが違う。
 
「あの、どこかでお会いしましたっけ?」
「いいえ」
「姉妹とかいたりは?」
「いい……え」

 金髪の女性は何か違和感を感じ、顔を顰めた。
 でも息を一つ吐いてすぐに表情を元に戻した。

「……で、これはどういう状況なの?」
「では簡単に説明しましょう。この世界はあなたから見れば異世界。科学ではなく、魔法が発展した世界です。そしてここはその中にある私の神殿」
「神殿?」

 神殿という言葉を認識した途端に風景が変わり、歴史の教科書で見た事あるような白くて太い柱の建物の内装が視界に映し出された。

「すごい……風景が一瞬にして変わった!」

 女性は腰に手を当て、えっへん、と言わんばかりの表情を見せた。
 ちょっと子供っぽいのかもしれない。

「ええと……あなたの名前は?」
「私はミルクウィード。皆さんからは『草原の女神』と呼ばれています」
「草原の女神……確かにその名前に相応しいくらい綺麗だし、この神殿も相性がいいね。ミルクウィードさんね。覚えたよ」
「ふふっ、綺麗だなんて、おませさんね。まあ私、本物の女神様には程遠いのですけどね。それでは本題に入りましょう。宇佐美つきみさん改め、幸せの妖精サラさん」

「うーん、その幸せの妖精って何なの?」
「それを今から説明するんです。これからあなたには私たちの住むこの世界で、色々な人に出会って、幸せを与えて欲しいのです」

 次の瞬間。
 ボクは空に浮いていた。
 それと同時にミルクウィードさんは両手をいっぱいに広げ、声を張り上げた。

「ここはミルフィルム! あなたの住む科学の世界とは異なる魔法の世界!」
「えっ、空っ!? 落ちちゃう!」
「大丈夫ですよ。落ちません、絶対に」

 ミルクウィードさんは目を閉じ、人差し指を立てて微笑んだ。
 ボクは足を上下させて透明な地面に足がついている事を理解した。

「あ、本当だ。びっくりした……」
「受験生たちにも縁起がいいでしょう?」
「何だって?」
「中一にはウケませんでしたね……コホン。サラさん、冒険の旅が始まりますよ?」

「え? 冒険? いきなり?」
「心配しないで。ハードなものではありません。胸踊るワクワクな冒険です」

 ミルクウィードさんがこの時嘘を吐いたのがボクには分かった。

「それにあなたは妖精さんですから、万が一にも死んで消えたりはしません、絶対に」

 ミルクウィードさんはまた目を閉じ、人差し指を立てて微笑んだ。

「じゃあ、安心……だね? でも学校はどうしよう?」
「大丈夫、義務教育に出席日数は関係ないですから」

「そうだけども! あ、そうだ、家族に伝えなきゃ!」
「家族……? あなたにその必要は……そうですね、そうしましょう」

「それで、いつになったら帰れるの? ずっとこの世界にいるわけにもいかないよ?」
「それはあなた次第。帰りたいと願えば『いつでも』帰ることができます。元の姿で。女の子のショートカットみたいな」
「やっぱり女の子みたいかーボクの髪型。うん、分かったよ。ありがとうミルクウィードさん」

 ミルクウィードさんは胸に手を当て、お辞儀をした。

「それでは。幸せの妖精サラさん、この世界、ミルフィルムに幸せを振り撒いてくださいね。『リプレイス』」

 ボクはミルクウィードさんの「空間移動魔法」ですぐ近くの草原に瞬間移動した。

「どうか、頑張って……」

 ミルクウィードさんはボクを送り届けた後、悲しそうな表情で虚空を見つめていた。
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