ハッピーエンド執行人

いちごみるく

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第二章 血にまみれた赤ずきん

6.赤ずきん

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昔、昔、ある所に、小さい可愛い女の子がありました。それは誰だって、少し見ただけで、可愛くなるこの子でしたが、でも、誰よりも、この子のおばあさんほど、この子を可愛がっているものはなく、この子を見ると、なにもかもやりたくてやりたくて、いったい何をやっていいのかわからなくなるくらいでした。それで、ある時、おばあさんは、赤いビロードで、この子に頭巾を拵えてやりました。すると、それがまたこの子によく似合うので、もう他のものは、何もかぶらないと、決めてしまいました。そこで、この子は、赤ずきんちゃん、赤ずきんちゃん、とばかり、呼ばれるようになりました。
 ある日、お母さんは、この子を呼んでいいました。
「さあ、少しいらっしゃい、赤ずきんちゃん、ここにお菓子が1つと、葡萄酒が1瓶あります。これを赤ずきんちゃん、おばあさんのところへもっていらっしゃい。おばあさんは、ご病気で弱っていらっしゃるが、これをあげると、きっと元気になるでしょう。それでは、暑くならないうちにお出かけなさい。それから、外に出たら気をつけて、お行儀良くしてね、やたらに、知らない横道へ駆け出して行ったりなんかしないのですよ。そんなことをして、転びでもしたら、せっかくの瓶は壊れるし、おばあさんにあげるものがなくなるからね。それから、おばあさんのお部屋に入ったら、まず、おはようございます、をいうのを忘れずにね。入ると、いきなり、お部屋の中をきょろきょろ見回したりなんかしないでね。」
「そんなこと、私、ちゃんと良くしてみせるわ。」と、赤ずきんちゃんは、お母さんにそう言って、指きりしました。
 ところで、おばあさんのお家は、村から半道はなれた森の中にありました。赤ずきんちゃんが森に入りかけますと、狼がひょっこり出てきました。でも、赤ずきんちゃんは、狼って悪い獣だか知りませんでしたから、別段、怖いとも思いませんでした。
「赤ずきんちゃん、こんにちは。」と、狼は言いました。
「ありがとう、狼さん。」
「大層早くから、どちらへ行くの。」
「おばあさんの所行くのよ。」
「前かけの下にもってるものは、なあに?」
「お菓子に、葡萄酒。おばあさん、ご病気で弱っているでしょう。それでお見舞いに持って行ってあげようと思って、お家で焼いたの。これでおばあさん、しっかりなさるわ。」
「おばあさんのお家はどこだい、赤ずきんちゃん。」
「これからまた、八、九町も歩いてね、森の奥の奥で、大きなかしの木が、三本立っている下のお家よ。お家の周りに、くるみの生垣があるから、すぐ分かるわ。」
 赤ずきんちゃんは、こう教えました。
 狼は、心の中で考えていました。
(若い、柔らかそうな小娘、こいつは脂がのって、美味しそうだ。ばあさまよりは、ずっと味が良かろう。ついでに両方一緒に、ぱっくりやるのがいいな。)
 そこで、狼は、しばらくのあいだ、赤ずきんちゃんと並んで歩きながら、道みちこう話しました。
「赤ずきんちゃん、まあ、そこらそこらじゅう綺麗に咲いている花をごらん。なんだって、ほうぼう眺めてみないんだろうな。ほら、小鳥が、あんなにいい声歌っているのに、赤ずきんちゃん、なんだかまるで聞いていないようだなあ。学校へ行く時のように、むやみと、せっせこ、せっせこと、歩いているんだなあ。森の中がこんなに明るくて楽しいのに。」
 そう言われて、赤ずきんちゃんは、仰向いてみました。すると、お日さまの光が、木と木の茂った中から漏れて、これが、そこでもここでも、楽しそうにダンスしていて、どの木にもどの木にも、綺麗な花がいっぱい咲いているのが、目にはいりました。そこで、
「私、おばあさまに、元気で勢いのいいお花をさがして、花束をこしらえて、持って行ってあげましょう。するとおばあさん、きっとお喜びになるわ。まだ朝早いから、大丈夫、時間までに行かれるでしょう。」
と、こう思って、ひょいと横道から、その中へ駆けだして入って、森の中の色々な花を探しました。そうして、一つ花を摘むと、その先に、もっと綺麗花があるんじゃないか、という気がして、奥へ駆けて行きました。そうして、だんだん森の奥へ奥へと、誘われて行きました。
 ところが、この間に、隙を狙って、狼は、すたこらすたこら、おばあさんのお家へ駆けて行きました。そして、とんとん、戸を叩きました。
「おや、どなた。」
「赤ずきんちゃんよ。お菓子と葡萄酒を、お見舞いに持って来たのよ。開けてちょうだい。」
「とっ手をおしておくれ。おばあちゃんはご病気で弱っていて、起きられないのだよ。」
 狼は取っ手をおしました。戸は、ぼんと開きました。狼はすぐ部屋に入って行って、何にも言わずに、いきなりおばあさんの寝ているに所へ行って、驚くおばあさんの首を掻っ切り、その肉を長い爪で引き裂き、自分で少し味わいました。その後、余ったおばあさんの肉は戸棚に、血はビンに入れて棚の上に。そして狼はおばあさんの頭巾や服を着て、ベッドに横になります。

 赤ずきんちゃんは、でも、お花を集めるのに夢中で駆け回っていました。そうして、もう集められるだけ集めて、このうえ持ちきれないほどになったとき、おばあさんのことを思い出して、またいつもの道戻りました。おばあさんの家へ来てみると、戸が開いたままになっているので、変だと思いながら、中へ入りました。すると、何かが変わって見えたので、
「変だわ、どうしたのでしょう。今日はなんだか胸がぞくぞくして、気味の悪いこと。おばあさんの所へ来れば、いつだって楽しいのに。」と、思いながら、大きな声で、
「おはようございます。」
と、呼んでみました。すると、カーテンの向こうから声が帰って来ました。
「やあやあ、よく来たね、赤ずきんちゃん。戸棚の中に、新鮮なお肉があるから、食べなさい。お前のために用意した肉だよ。」
赤ずきんちゃんが、戸棚を開けると、確かに肉がありました。赤ずきんちゃんは気持ちが悪いと思いましたが、おばあさんがあまりにも食べてほしいというので、仕方が無く、目をつぶって食べました。
「赤ずきんちゃん、お次は服を脱いでベッドに入っておいで。」
 そこで、お床とこのところへいって、カーテンをあけてみました。すると、そこにおばあさんは、横になっていましたが、ずきんをすっぽり目までさげて、なんだかいつもとようすがかわっていました。赤ずきんちゃんは言われた通りに、服を脱ぎ、ベッドに入ります。
「あら、おばあさん、なんて大きなお耳。」
「お前の声が、よく聞こえるようにさ。」
「あら、おばあさん、なんて大きなお目目。」
「お前のいるのが、よく見えるようにさ。」
「あら、おばあさん、なんて大きなお手手。」
「おまえが、よく掴めるようにさ。」
「でも、おばあさん、まあ、なんて気味の悪い大きなお口だこと。」
「お前のことを食べやすいようにさ。」
 赤ずきんちゃんは、おばあちゃんでないことに気が付いて、恐怖しました。そこで機転を利かせて
「私、トイレ行きたくなっちゃった。行ってくるわ。」
そうして、おばあちゃんのお家を飛び出しました。赤ずきんちゃんは、もう寄り道はしないようにしようと誓いました。
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