復讐のナイトメア

はれのいち

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第二 天敵 風間一心

2-6

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 「松木秀子……どうして、小春にこんな酷い仕打ちを」

「だって……風間一心君が欲しかったの!」

松木は少し上目遣いで一度、一心を見た。 

それから松木は、徐々に顔を上げ、目をギラギラさせ一心をしばらく見つめる。

次いで松木は、口を開き、延々と語り始めた。

「あれはまだ、私が幼稚園にの時だった……父の

転勤で新しい幼稚園に通うことになったのだ

が……人見知りの性格のため中々の友達ができ

ず、いつも教室の片隅でポツンといた私を貴方

は、優しく声をかけてくれたの。

『……そこオレのコート掛けや、どいてくれないか』

花粉症だったのか……鼻から湧き出た水のように

透明な鼻汁が、鍾乳洞のように少しづつ垂れて

いた。

私は、ポケットから街角で配布していたポケッ

トティッシュを取出し『良かったらつかって』

とティッシュを貴方に渡した。

すると貴方は少し照れくさかったのか苦笑いを

していたわ。

でも貴方は『わりぃな』と言いティッシュを二

枚、取出し、チーンと鼻をかんだの。

その貴方の姿は眩しすぎる位に輝いていた。

私は小さいながらも恋の予感を感じたわ……。


だがしかし……また私は突然、引っ越しが決まった。

更に私は迫られた。

パパに着いていくか、ママに着いていくかを……。


そう……おとなの事情、つまり離婚。

そして私は、ママに着いていく事に決めたわ。

何故なら、ママの実家はこの町だから、いずれ

必ず貴方のいる、この町に戻ってこられると信

じて……。

そうして私の願い叶って高校進学と共にこの町

に戻ってきた私は運命を感じたわ。

入学式の壇上で、ボソボソと新入生代表のスピ

ーチをする貴方、そう風間一心と再会したのよ……。


貴方は感じなかったかしら……。

私は、感じたわ。

全身は震え上り、天まで昇るほどに興奮し、感

激した。

貴方のその品格ある輝きは、今でも変わらず

否、あの頃より遥かに眩しくなっていたわ」

 
 松木の話が終わった頃を見計らったように風

間一心は徐ろに口を開き、松木に囁いた。

「わりぃ、ティッシュ持ってないか……」と


「もしかして、これって貴方からの愛のメッセ

ージかしら、ああ私の身体と心は震撼する……」

一心は、何事も無いように小春に寄り添う。

「おい松木……もういい茶番はやめろ!!」

真山は、こめかみに青筋をたて、松木に苛立つ。


「お前の恋路に俺の能力を悪用しやがって……」

ボソボソと独り言をいい松木に苛立ちをぶつける。


「松木、お前は俺の顔に泥をつけやがった! 

これで俺は正義のヒーローから悪役に落ちたじゃねえか」

なんてな、そう言うと真山は、ニヤリと笑い動き出した。

一心は、驚きの顔を隠せなかった。

「ナゼだ……祖父ちゃんのふだが効かないのか!!」


すると真山の陰から浜家茉子が現れたのであった。

そう真山は、万が一の備えとして浜家を潜めておいたのだった。

そうして真山は高笑いをし一心にメッセージを残した。

「俺は、もう知らん。一生あの馬鹿女に、振り回されろ」

と言い放ち真山は、松木を残し浜家と一緒に消えていった。



 一心は松木をそのまま残す事が出来なかった。 

ーー恐らく松木は、オレと同じ霊体、あの男に

霊体のまま連れてこられたはず。

一心は、小春を横にし、その場にうずくまる。

「ここから、どうすれば戻れるんじゃ……」

「大丈夫……貴方となら、どこにいても構わない」

 松木が、一心の背中へ抱きつき囁く。

すると、夢の中の小春が覚醒した。

『うりゃーー』と松木に顔面に渾身のドロッキックを食らわせた。

松木は勢いよく後方にぶっ飛ぶと、そのま

ま小春の夢から消え去っていったのだった。

小春はドロップキックの後、一心の腕の中にすっぽりと収まり、こう囁いた。

「一心もう……帰ろう」


「そうだな」と一心は強く小春を抱きしめる。

その瞬間、一心の瞳の中には、祖父ちゃんのどアップの顔が現れた。

驚き飛び起きる一心。

それとほぼ同時に何事もなかったように小春が目を覚ましたのであった。


 それから小春は、悪夢をみることはなくなったのだが、一心は松木にしつこく迫られ慌てふためくのである。その一心の姿を見て、小春は、お腹を抱え笑うのであった。


 それから何事もなく二ヶ月程経った、とある日、探偵業を営んでいる一心の父に元同僚の刑事、春崎尚也が訪ねてきたのである。

その用件は、この二ヶ月の間、この町で自殺が多発していて、既に三十人は越えているとの事だ。

その刑事の春崎は、事件の匂いがするので一心の父に意見を聞きに来たのだった……。
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