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1章
朝を楽しむ人々
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しとしとと降る雨音の中に、パタパタとリズミカルに水が跳ねる音が一つ。
店内にいる男は、その音が近づいてくるだけであの子が帰ってきたことが分かり、ほほえましい気持ちになった。
水を撥ねていた足音は、店の入り口で一度止まると、バサバサと硬い布のようなものを振る音に変わり、それが傘だと分かる頃には、足音の主はドアベルを鳴らして中に入ってきていた。
「マスター、ただいま戻りましたー!」
古びた店内に似合わぬ朗らかな声に呼ばれた男は、カウンターからいそいそと出てきて天泣海を迎え入れる。
首都から電車を乗り換えて2時間くらいしたところにある古女市。その古女市を南北に二分するように古女町駅がある。
その古女町の南側、かつては賑わっていたのが窺える、通称・旧繁華街の端にカフェ&バー『プリュ』は存在した。
古いタイプの喫茶店だった店を、今のマスターである安宿が買い取ってリノベーションを施したのが、20年前。
つまり、計40年以上が経った建物であったのだが、マスターの趣味が幸いしてか、外装、内装共に懐かしさは感じるものの、とても清潔で過ごしやすい空間であった。
そんな昔ながらの空間に入ってきたのが、つい数ヶ月前に雇われたアルバイトの女の子、カイである。
「朝早くから買い出し頼んでごめんねえ。ありがとうカイちゃん。」
「いえ!買い出しって言っても、そこのコンビニまでですから。」
「今日は暖かいとは言え、少し冷えちゃったでしょ。まだお客さんも来てないからコーヒーでも飲むかい?」
マスターがカイを心配したのは、袖をまくったスクールシャツにチェックのスクールスカートという、10月の朝には少し不釣り合いな恰好をしていたからだ。とは言うものの、彼女がこの店で働くときにはいつもこの恰好なのだから、不自然というわけではないのだが、店主としては放っておけないようだった。
彼女はその気遣いが嬉しかったのか、
「はいっ!いただきます!」
と爛漫とした表情で元気よく返事をした。
マスターは、カイから受け取った牛乳を手早くしまい、コーヒーを淹れるための準備を始める。
少しして適温に温められたお湯がドリッパーに注がれると、ふんわりとした湯気とともに、甘みと深いコクを感じる豆の香りが店内に広がっていった。
そして、カップにコーヒーが満たされるのを待ち、カイの目の前へと静かに置いた。
彼女はそれを高価な宝石に触れるように両手で大事そうに持つと、ゆっくりと口へ運んでいく。
「はぁ、やっぱりマスターのコーヒーは落ち着きます。」
「そういってくれると淹れ甲斐があるよ。」
心底美味しそうに自分が淹れたコーヒーを飲んでくれるのは、マスターにとっても幸せを感じるこの上ない時間であった。
二人が耳を傾けていた店内BGMであるボサノバが、次の曲に切り替わろうとフェードアウトを始めたその時だった。
「あ、あのさぁ、まさかと思うけど、俺の存在忘れてない?」
突如として店の奥から聞こえてきた、低く、くぐもった声に、思わず二人は振りむく。
店に一つしかないテーブル席に、新聞を広げてドカリと座る一人の中年男がいた。
「あれ?陣さんいたの?」
目を丸くしてカイが返事をし、続けてマスターが口を開いた。
「あぁ、ごめんごめん。陣さんの事忘れてたよ。」
「いや、まずカイちゃんさ、俺、君が買い出しに行くときにはすでにいたよ?それにマスターさ、客が来てないって。客ここにいるから。んで、コーヒーのおかわり頼んだの俺じゃない。なんでカイちゃんに先に入れちゃうのよ。」
口元の無精ひげを揺らしながら陣将成はまくし立てた。
「だって陣さん中々帰らないんだもん。」
「そんな言い方ないんじゃない?店のもんならさ、普通長くいてくれる方が嬉しいでしょ?」
「陣さんの場合は別。いつもコーヒー一杯で粘ろうとするし。」
「だーから、おかわり頼んでたんだってぇ。」
「まあまあ、陣さん落ち着いてよ。お詫びにおかわり、サービスするからさ。」
何度も見たことのあるやり取りを楽しそうに眺めながら、マスターは陣の分のコーヒーを淹れはじめた。
「マスター、陣さん甘やかしちゃ駄目ですよ。すぐ調子乗るんだから。」
「まあ、たまにはいいじゃない。陣さんだってこれから仕事なんだから。」
「えー、陣さんってホントにちゃんと仕事してるの?」
服装はアロハシャツにジャケット、髪はぼさぼさでライオンのたてがみ状態という、いかにもな姿を見れば、カイの言い分も当然の事だろう。
陣は意に介さずといった風で、大仰にジャケットの内ポケットから手帳を取り出し、スケジュールを確認する素振りを見せた。
「あのね、俺くらいの歳にもなると普通の戦い方はしないの。余裕を持って一手ずつ詰めていく方が仕事は上手くいくって知ってるのよ。」
得意げに話す彼だが、残念ながらカイの視線の先には、陣が先程まで広げていた競馬新聞がある。
「ふーん……。」
「ち、ちょっとくらい話聞いてよぉ…。」
カイはカップの底に残ったコーヒーをくいと飲み干すと、脇にかけてあったエプロンを手際よく身に着けていく。
そして、テーブル席の陣のもとに駆け寄り、モーニングセットを食べたであろう食器を片付けていく。
入れ替わりで、すぐさまマスターがおかわりのコーヒーを持ってくるのだから、二人の息はぴったりだと言えるだろう。
「さすがマスター。美味いね。これ飲んだら、さらに仕事が上手くいきそうだよ。」
「陣さんにそう言ってもらえるとは光栄だね。でも、無理はしないでよ?」
「大丈夫大丈夫。昔みたいな無茶はもうできないから。」
「ははは。僕ももう昼間だけで手いっぱいって感じだなぁ。」
「え?マスターって夜も働いてたんですか?」
洗い物をしていたカイが、その手を止めて問いかけたのは無理もない。たまに手伝いに顔をだすが、夜のバーと言えば矢凪夕子という女性が一人で切り盛りしているイメージが強かったからだ。
「そうだよ。というか昔は夜のバーがメインだったんだよ。客も夜の方が多かったしね。でも、古女駅の向こう側が再開発されて新しい飲み屋が増えちゃったんだよね。それ以来うちはカフェのイメージが強いね。」
「あー、それで……。」
「ん?どうかしたの?」
「夕子さん、寂しがってましたよ。最近あんまり話せてないなぁって。」
「あれ?マスター、夕子ちゃん悲しませちゃダメだよぉ。あんなに出来た子そういないんだから。」
先程とは打って変わり、難しい顔をして仕事の段取りを考えていた陣までもが、遠くから声を掛けてきていた。
「いやぁ……。ははは。そうかぁ……、夕子さんが……。」
いつもニコニコしているマスターとは思えない予想外の動揺ぶりに、カイまで困った表情になってしまっている。
「何か、あったんですか……?」
「……え?あ、いや、特に何もないよ。うん。いつも通り。」
どう見ても何かあるようにしか見えない反応だろうと、マスター自身もわかっていたのだが、彼にはこれが精いっぱいの返答だったようだ。
そして、カイもそれを感じたのか、
「それなら、いいんですけど……。」
とだけ返した。
マスターは呼吸を整えるように丸眼鏡の位置をすっと持ち上げると、いつもの笑顔でカイに向き直った。
「ごめんね。教えてくれてありがとう、カイちゃん。夕子さんのことはちゃんと考えておくよ。」
「いえ……!わたしの方こそ急にごめんなさい!この話は終わりにしましょう!もうすぐお客さんも来ますしね。あ、そうだ!ハナコに水あげないと。」
カイの明るさをありがたく感じながら、マスターも仕事に戻ることにした。
陣はと言うと、何やら真剣な表情でマスターをじっと見ていた。
それにすぐさま気づいたカイは、
「ほら、いつまでも余計な事考えない!それ飲んだら早く仕事行きなよ!」
いつもの3割増しで陣に当たっていた。
さすがになんだか釈然としない顔の陣だが、普段の空気に戻ったことを内心喜んでいるような、そんな様子だった。
今、カイが霧吹きで水をやっている窓際の鉢植え、通称”ハナコ”は、カイが最近育て始めた何かしらの植物につけた名前だ。しかし、実のところマスターや、持ってきたカイですら何の花が育つのかは知らなかった。
そもそもちゃんと育つのかすらわからなかったが、カイが大事そうに植えていたので、マスターは何も聞かずに様子を見守ることにしていた。
「元気に育って、素敵な花を咲かせるんだよ。ハナコ。」
カイはいつもこうしておまじないのように話しかけている。爛漫な彼女とは少し違う真剣さを帯びているように見え、マスターはどうしてか出会った頃を思い出してしまう。あのときのような表情をさせてはいけないと。だからなのか、彼はいつも以上の優しい声で話しかけた。
「どうだい、カイちゃん。ハナコの調子……」
ところが、言い終わる前にその声は乱暴なドアベルの音にかき消されてしまった。
「ちぃ~~~っす!おはざすっ!!」
快活だが少々ぶっきらぼうな声の持ち主は、白いTシャツにモスグリーンのツナギという、この店の客ではかなり珍しい恰好をしていた。
「やあ、陽人くん。おはよう。」
「おはざす!マスター!」
彼は森田陽人。マスターの記憶が正しければ、近くにあるバイクショップで働く青年で、今まで通りすぎるだけだったこの店に、最近になって頻繁に遊びに来るようになった客の一人だ。
そして、その理由は、誰が見てもすぐにわかるものだった。
「おはよ!カイ!」
「あ、うん。森田さんおはよー。」
「今日も気持ちのいい朝だな。なんていうか、うん。涼しくて過ごしやすい。」
「森田さん、今日仕事は?」
「あ、あるけど……。な、なあ、いらっしゃいませぐらい言ってくれよー……。」
「だって森田さんいっつも頼まないじゃん。」
「え、いや、それはさ……」
こんな調子で、彼はお目当てのカイにはとことん相手にされていなかった。
その光景が面白いのか、奥のテーブル席では堪えきれず陣が笑っていた。
「くくく、毎度無様だなぁ、陽人。」
「うっせーな、おっさんは黙ってろ!」
「そりゃ、カイちゃんに嫌われても仕方ないな。」
「だから、うっせーんだよ!早く仕事いけ!」
「あ、そうだ!陣さん、まだいるじゃん!おかわり飲み終わったでしょ?早く仕事行きなよ!いつまで経ってもテーブル席片付けられないんだから!」
「そうだそうだ!カイの邪魔すんな!」
「おー、怖……。若者はおじさんに厳しいね……。はあ、マスター、勘定お願い。」
文句を垂れながらも、早々とテーブルの上のものを片付け始める。
その様子を見て、マスターは小さく手を合わせて謝った。
「急かしちゃってごめんね、陣さん。」
「いいよいいよ。こっちもサービスでコーヒー飲んでたわけだしね。」
「ありがとう。また来てね、陣さん。」
と、マスターが決まりの挨拶を交わしながら清算を済ませていると、不意に声を小さくして陣だけに聞こえるように喋りはじめた。
「あ、それと……、例の件なんだけど……」
「大丈夫大丈夫。何か進展あったら連絡するから。」
そう言ってマスターを安心させる言葉を掛けると、何事もなかったかのように店のドアを後にした。
一方で若者二人はと耳を傾けると、先ほどと内容の変わらないような話を続けていた。
「じゃあさ、今から飲み物頼むからいらっしゃいませって言ってよ。」
「それだと、順番が逆だよ。」
「いいからさ。お願い!マスター、コーラひとつ!」
「もう!ここはカフェだってわかってる?」
「わかってるって!でもさ、俺、コーヒー嫌いなんだよ……。」
「それならコンビニ行けばいいじゃん!」
なんともかみ合わない二人に見兼ねて、マスターが遠慮がちに口をはさんだ。
「まあまあ、カイちゃん。せっかく頼んでくれるんだし、そう邪険にしちゃダメだよ。そして、陽人くんも。そうお願いばっかりじゃカイちゃんが困っちゃうよ。一旦、座って落ち着いたらどう?」
マスターの言葉に冷静になったのか、陽人はきまり悪そうに頭を掻きながら、促されたカウンター席に着いた。
「なんか、すんません……。」
「朝から元気なのは良いことだけど、ここはみんなが寛ぐための場所だからね。」
「私も、ごめんなさい……。」
「よし、じゃあ、カイちゃん。僕は手が離せないから、コーラ出してあげてくれる?」
「……は、はいっ。」
特段、忙しそうにしていないのは見れば分かる。つまり、これはマスターの気遣いなのだと気づき、カイは気恥ずかしそうな顔で急いで冷蔵庫から瓶のコーラを取り出し、栓を開けた。
「はい。森田さん、コーラお待ちどおさま。」
そう言って今度は丁寧な、つまり店員然とした態度でコーラの瓶をカウンターに置いた。
「やったー!ありがと、カイ!」
さっきまでのしおらしさが嘘のように陽人は嬉々としている。
その様子を見たマスターは再び口を開く。
「それで?陽人くんは今日何か用があったんじゃないの?」
コーラをごくごくと飲んでいた陽人が思い出したように答える。
「あ、そうだった!カイに教えてあげようと思ってたんだった!」
「何を……?」
「あのさ、古女駅の北口にさ、ショッピングモールあんじゃん。あそこに新しい服屋さんが何軒か出来てたんだよ!でさ、良かったら一緒に見に行かね?カイ、いつもその恰好だしさ。たまには気分替えないかなーって思ってさ。」
「あぁ、うーん……。」
「ほら、これから寒くなるしさ。冬物買っといた方が良いと思うんだよ。俺も欲しいしさ。」
「でも、お店もあるし……。」
「俺は全然、カイの休みの日に合わせるから!」
「…ハナコの世話もあるし……。」
カイはどうすればいいのか分からない、といった風で手をもじもじとさせていた。
「カイ、休みの日もあんま出かけないんだろ?閉じこもってると体にも良くないって。」
「うん……。」
少しの沈黙の後、カイに声をかけたのはマスターだった。
「カイちゃん。行ってきたらどうかな?」
「マスター……。」
「いつも店を手伝ってくれて本当に助かってるけど、たまには羽を伸ばすことも大事だよ。」
「マスターがそう言うなら……」
「おっし!そしたら、次の休み教えてよ!俺もそこは休みにするから。」
「陽人くんと出かけるのは嫌だったかい?」
陽人が仕事に戻るのを見送った後で、マスターは窓の外を見つめながら、そうカイに問いかけた。
「いえ、そういうわけじゃ、ないんですけど。」
隣に立つカイは答える。
「彼は君が嫌がることをやるようなタイプじゃないと思うよ?」
カイからの返答はない。しかし、マスターは続ける。
「今の君ならちゃんと受け止められるんじゃないかな。」
「……え?」
驚いて顔を上げたカイに、マスターは温かな笑みを向けて言った。
「さあ、そろそろお客さんが来る頃だ。今日も一日頑張ろうか。」
カイは敢えて先ほどの言葉の意味を確かめることはしなかった。
ただ、何かを言い聞かせるように両手をきゅっと握りしめていた。
店内の時計は8時30分を指している。
『プリュ』に一番人が訪れる時間帯だ。忙しい一日が今日も始まろうとしていた。
店内にいる男は、その音が近づいてくるだけであの子が帰ってきたことが分かり、ほほえましい気持ちになった。
水を撥ねていた足音は、店の入り口で一度止まると、バサバサと硬い布のようなものを振る音に変わり、それが傘だと分かる頃には、足音の主はドアベルを鳴らして中に入ってきていた。
「マスター、ただいま戻りましたー!」
古びた店内に似合わぬ朗らかな声に呼ばれた男は、カウンターからいそいそと出てきて天泣海を迎え入れる。
首都から電車を乗り換えて2時間くらいしたところにある古女市。その古女市を南北に二分するように古女町駅がある。
その古女町の南側、かつては賑わっていたのが窺える、通称・旧繁華街の端にカフェ&バー『プリュ』は存在した。
古いタイプの喫茶店だった店を、今のマスターである安宿が買い取ってリノベーションを施したのが、20年前。
つまり、計40年以上が経った建物であったのだが、マスターの趣味が幸いしてか、外装、内装共に懐かしさは感じるものの、とても清潔で過ごしやすい空間であった。
そんな昔ながらの空間に入ってきたのが、つい数ヶ月前に雇われたアルバイトの女の子、カイである。
「朝早くから買い出し頼んでごめんねえ。ありがとうカイちゃん。」
「いえ!買い出しって言っても、そこのコンビニまでですから。」
「今日は暖かいとは言え、少し冷えちゃったでしょ。まだお客さんも来てないからコーヒーでも飲むかい?」
マスターがカイを心配したのは、袖をまくったスクールシャツにチェックのスクールスカートという、10月の朝には少し不釣り合いな恰好をしていたからだ。とは言うものの、彼女がこの店で働くときにはいつもこの恰好なのだから、不自然というわけではないのだが、店主としては放っておけないようだった。
彼女はその気遣いが嬉しかったのか、
「はいっ!いただきます!」
と爛漫とした表情で元気よく返事をした。
マスターは、カイから受け取った牛乳を手早くしまい、コーヒーを淹れるための準備を始める。
少しして適温に温められたお湯がドリッパーに注がれると、ふんわりとした湯気とともに、甘みと深いコクを感じる豆の香りが店内に広がっていった。
そして、カップにコーヒーが満たされるのを待ち、カイの目の前へと静かに置いた。
彼女はそれを高価な宝石に触れるように両手で大事そうに持つと、ゆっくりと口へ運んでいく。
「はぁ、やっぱりマスターのコーヒーは落ち着きます。」
「そういってくれると淹れ甲斐があるよ。」
心底美味しそうに自分が淹れたコーヒーを飲んでくれるのは、マスターにとっても幸せを感じるこの上ない時間であった。
二人が耳を傾けていた店内BGMであるボサノバが、次の曲に切り替わろうとフェードアウトを始めたその時だった。
「あ、あのさぁ、まさかと思うけど、俺の存在忘れてない?」
突如として店の奥から聞こえてきた、低く、くぐもった声に、思わず二人は振りむく。
店に一つしかないテーブル席に、新聞を広げてドカリと座る一人の中年男がいた。
「あれ?陣さんいたの?」
目を丸くしてカイが返事をし、続けてマスターが口を開いた。
「あぁ、ごめんごめん。陣さんの事忘れてたよ。」
「いや、まずカイちゃんさ、俺、君が買い出しに行くときにはすでにいたよ?それにマスターさ、客が来てないって。客ここにいるから。んで、コーヒーのおかわり頼んだの俺じゃない。なんでカイちゃんに先に入れちゃうのよ。」
口元の無精ひげを揺らしながら陣将成はまくし立てた。
「だって陣さん中々帰らないんだもん。」
「そんな言い方ないんじゃない?店のもんならさ、普通長くいてくれる方が嬉しいでしょ?」
「陣さんの場合は別。いつもコーヒー一杯で粘ろうとするし。」
「だーから、おかわり頼んでたんだってぇ。」
「まあまあ、陣さん落ち着いてよ。お詫びにおかわり、サービスするからさ。」
何度も見たことのあるやり取りを楽しそうに眺めながら、マスターは陣の分のコーヒーを淹れはじめた。
「マスター、陣さん甘やかしちゃ駄目ですよ。すぐ調子乗るんだから。」
「まあ、たまにはいいじゃない。陣さんだってこれから仕事なんだから。」
「えー、陣さんってホントにちゃんと仕事してるの?」
服装はアロハシャツにジャケット、髪はぼさぼさでライオンのたてがみ状態という、いかにもな姿を見れば、カイの言い分も当然の事だろう。
陣は意に介さずといった風で、大仰にジャケットの内ポケットから手帳を取り出し、スケジュールを確認する素振りを見せた。
「あのね、俺くらいの歳にもなると普通の戦い方はしないの。余裕を持って一手ずつ詰めていく方が仕事は上手くいくって知ってるのよ。」
得意げに話す彼だが、残念ながらカイの視線の先には、陣が先程まで広げていた競馬新聞がある。
「ふーん……。」
「ち、ちょっとくらい話聞いてよぉ…。」
カイはカップの底に残ったコーヒーをくいと飲み干すと、脇にかけてあったエプロンを手際よく身に着けていく。
そして、テーブル席の陣のもとに駆け寄り、モーニングセットを食べたであろう食器を片付けていく。
入れ替わりで、すぐさまマスターがおかわりのコーヒーを持ってくるのだから、二人の息はぴったりだと言えるだろう。
「さすがマスター。美味いね。これ飲んだら、さらに仕事が上手くいきそうだよ。」
「陣さんにそう言ってもらえるとは光栄だね。でも、無理はしないでよ?」
「大丈夫大丈夫。昔みたいな無茶はもうできないから。」
「ははは。僕ももう昼間だけで手いっぱいって感じだなぁ。」
「え?マスターって夜も働いてたんですか?」
洗い物をしていたカイが、その手を止めて問いかけたのは無理もない。たまに手伝いに顔をだすが、夜のバーと言えば矢凪夕子という女性が一人で切り盛りしているイメージが強かったからだ。
「そうだよ。というか昔は夜のバーがメインだったんだよ。客も夜の方が多かったしね。でも、古女駅の向こう側が再開発されて新しい飲み屋が増えちゃったんだよね。それ以来うちはカフェのイメージが強いね。」
「あー、それで……。」
「ん?どうかしたの?」
「夕子さん、寂しがってましたよ。最近あんまり話せてないなぁって。」
「あれ?マスター、夕子ちゃん悲しませちゃダメだよぉ。あんなに出来た子そういないんだから。」
先程とは打って変わり、難しい顔をして仕事の段取りを考えていた陣までもが、遠くから声を掛けてきていた。
「いやぁ……。ははは。そうかぁ……、夕子さんが……。」
いつもニコニコしているマスターとは思えない予想外の動揺ぶりに、カイまで困った表情になってしまっている。
「何か、あったんですか……?」
「……え?あ、いや、特に何もないよ。うん。いつも通り。」
どう見ても何かあるようにしか見えない反応だろうと、マスター自身もわかっていたのだが、彼にはこれが精いっぱいの返答だったようだ。
そして、カイもそれを感じたのか、
「それなら、いいんですけど……。」
とだけ返した。
マスターは呼吸を整えるように丸眼鏡の位置をすっと持ち上げると、いつもの笑顔でカイに向き直った。
「ごめんね。教えてくれてありがとう、カイちゃん。夕子さんのことはちゃんと考えておくよ。」
「いえ……!わたしの方こそ急にごめんなさい!この話は終わりにしましょう!もうすぐお客さんも来ますしね。あ、そうだ!ハナコに水あげないと。」
カイの明るさをありがたく感じながら、マスターも仕事に戻ることにした。
陣はと言うと、何やら真剣な表情でマスターをじっと見ていた。
それにすぐさま気づいたカイは、
「ほら、いつまでも余計な事考えない!それ飲んだら早く仕事行きなよ!」
いつもの3割増しで陣に当たっていた。
さすがになんだか釈然としない顔の陣だが、普段の空気に戻ったことを内心喜んでいるような、そんな様子だった。
今、カイが霧吹きで水をやっている窓際の鉢植え、通称”ハナコ”は、カイが最近育て始めた何かしらの植物につけた名前だ。しかし、実のところマスターや、持ってきたカイですら何の花が育つのかは知らなかった。
そもそもちゃんと育つのかすらわからなかったが、カイが大事そうに植えていたので、マスターは何も聞かずに様子を見守ることにしていた。
「元気に育って、素敵な花を咲かせるんだよ。ハナコ。」
カイはいつもこうしておまじないのように話しかけている。爛漫な彼女とは少し違う真剣さを帯びているように見え、マスターはどうしてか出会った頃を思い出してしまう。あのときのような表情をさせてはいけないと。だからなのか、彼はいつも以上の優しい声で話しかけた。
「どうだい、カイちゃん。ハナコの調子……」
ところが、言い終わる前にその声は乱暴なドアベルの音にかき消されてしまった。
「ちぃ~~~っす!おはざすっ!!」
快活だが少々ぶっきらぼうな声の持ち主は、白いTシャツにモスグリーンのツナギという、この店の客ではかなり珍しい恰好をしていた。
「やあ、陽人くん。おはよう。」
「おはざす!マスター!」
彼は森田陽人。マスターの記憶が正しければ、近くにあるバイクショップで働く青年で、今まで通りすぎるだけだったこの店に、最近になって頻繁に遊びに来るようになった客の一人だ。
そして、その理由は、誰が見てもすぐにわかるものだった。
「おはよ!カイ!」
「あ、うん。森田さんおはよー。」
「今日も気持ちのいい朝だな。なんていうか、うん。涼しくて過ごしやすい。」
「森田さん、今日仕事は?」
「あ、あるけど……。な、なあ、いらっしゃいませぐらい言ってくれよー……。」
「だって森田さんいっつも頼まないじゃん。」
「え、いや、それはさ……」
こんな調子で、彼はお目当てのカイにはとことん相手にされていなかった。
その光景が面白いのか、奥のテーブル席では堪えきれず陣が笑っていた。
「くくく、毎度無様だなぁ、陽人。」
「うっせーな、おっさんは黙ってろ!」
「そりゃ、カイちゃんに嫌われても仕方ないな。」
「だから、うっせーんだよ!早く仕事いけ!」
「あ、そうだ!陣さん、まだいるじゃん!おかわり飲み終わったでしょ?早く仕事行きなよ!いつまで経ってもテーブル席片付けられないんだから!」
「そうだそうだ!カイの邪魔すんな!」
「おー、怖……。若者はおじさんに厳しいね……。はあ、マスター、勘定お願い。」
文句を垂れながらも、早々とテーブルの上のものを片付け始める。
その様子を見て、マスターは小さく手を合わせて謝った。
「急かしちゃってごめんね、陣さん。」
「いいよいいよ。こっちもサービスでコーヒー飲んでたわけだしね。」
「ありがとう。また来てね、陣さん。」
と、マスターが決まりの挨拶を交わしながら清算を済ませていると、不意に声を小さくして陣だけに聞こえるように喋りはじめた。
「あ、それと……、例の件なんだけど……」
「大丈夫大丈夫。何か進展あったら連絡するから。」
そう言ってマスターを安心させる言葉を掛けると、何事もなかったかのように店のドアを後にした。
一方で若者二人はと耳を傾けると、先ほどと内容の変わらないような話を続けていた。
「じゃあさ、今から飲み物頼むからいらっしゃいませって言ってよ。」
「それだと、順番が逆だよ。」
「いいからさ。お願い!マスター、コーラひとつ!」
「もう!ここはカフェだってわかってる?」
「わかってるって!でもさ、俺、コーヒー嫌いなんだよ……。」
「それならコンビニ行けばいいじゃん!」
なんともかみ合わない二人に見兼ねて、マスターが遠慮がちに口をはさんだ。
「まあまあ、カイちゃん。せっかく頼んでくれるんだし、そう邪険にしちゃダメだよ。そして、陽人くんも。そうお願いばっかりじゃカイちゃんが困っちゃうよ。一旦、座って落ち着いたらどう?」
マスターの言葉に冷静になったのか、陽人はきまり悪そうに頭を掻きながら、促されたカウンター席に着いた。
「なんか、すんません……。」
「朝から元気なのは良いことだけど、ここはみんなが寛ぐための場所だからね。」
「私も、ごめんなさい……。」
「よし、じゃあ、カイちゃん。僕は手が離せないから、コーラ出してあげてくれる?」
「……は、はいっ。」
特段、忙しそうにしていないのは見れば分かる。つまり、これはマスターの気遣いなのだと気づき、カイは気恥ずかしそうな顔で急いで冷蔵庫から瓶のコーラを取り出し、栓を開けた。
「はい。森田さん、コーラお待ちどおさま。」
そう言って今度は丁寧な、つまり店員然とした態度でコーラの瓶をカウンターに置いた。
「やったー!ありがと、カイ!」
さっきまでのしおらしさが嘘のように陽人は嬉々としている。
その様子を見たマスターは再び口を開く。
「それで?陽人くんは今日何か用があったんじゃないの?」
コーラをごくごくと飲んでいた陽人が思い出したように答える。
「あ、そうだった!カイに教えてあげようと思ってたんだった!」
「何を……?」
「あのさ、古女駅の北口にさ、ショッピングモールあんじゃん。あそこに新しい服屋さんが何軒か出来てたんだよ!でさ、良かったら一緒に見に行かね?カイ、いつもその恰好だしさ。たまには気分替えないかなーって思ってさ。」
「あぁ、うーん……。」
「ほら、これから寒くなるしさ。冬物買っといた方が良いと思うんだよ。俺も欲しいしさ。」
「でも、お店もあるし……。」
「俺は全然、カイの休みの日に合わせるから!」
「…ハナコの世話もあるし……。」
カイはどうすればいいのか分からない、といった風で手をもじもじとさせていた。
「カイ、休みの日もあんま出かけないんだろ?閉じこもってると体にも良くないって。」
「うん……。」
少しの沈黙の後、カイに声をかけたのはマスターだった。
「カイちゃん。行ってきたらどうかな?」
「マスター……。」
「いつも店を手伝ってくれて本当に助かってるけど、たまには羽を伸ばすことも大事だよ。」
「マスターがそう言うなら……」
「おっし!そしたら、次の休み教えてよ!俺もそこは休みにするから。」
「陽人くんと出かけるのは嫌だったかい?」
陽人が仕事に戻るのを見送った後で、マスターは窓の外を見つめながら、そうカイに問いかけた。
「いえ、そういうわけじゃ、ないんですけど。」
隣に立つカイは答える。
「彼は君が嫌がることをやるようなタイプじゃないと思うよ?」
カイからの返答はない。しかし、マスターは続ける。
「今の君ならちゃんと受け止められるんじゃないかな。」
「……え?」
驚いて顔を上げたカイに、マスターは温かな笑みを向けて言った。
「さあ、そろそろお客さんが来る頃だ。今日も一日頑張ろうか。」
カイは敢えて先ほどの言葉の意味を確かめることはしなかった。
ただ、何かを言い聞かせるように両手をきゅっと握りしめていた。
店内の時計は8時30分を指している。
『プリュ』に一番人が訪れる時間帯だ。忙しい一日が今日も始まろうとしていた。
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※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
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