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第一章
二十一話
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「んー、よく寝た!!」
天井に両手を突き上げ、大きく伸びをする。
一日中街を歩き回っていたせいなのか、はたまた久しぶりにたくさん体を動かしたせいなのか。家に帰って夕飯と風呂を済ませるなり、すぐに眠ってしまった。眠った時間は然程遅くはない時間だったが、よほど疲れていたのだろう。夜中に一度も目を覚ますことなく、気持ちのいい朝を迎えた。
「今日はラシード殿のお願いの日だから、こっちの召喚術師の服を着るべきだよね」
昨日は街の散策だからとラフな格好をしていたが、今日は召喚術師としてお願いをされている。王城に行ったときのように、召喚術師の正装をするべきだろう。
ベルは召喚術師の正装である、黒と白を基調とした丈の短いワンピースを着ることにした。
一階のリビングへ降りていくと、今日はロセウスがキッチンへ立っていた。料理はすでに完成しており、机の上にはベーコンと目玉焼きが乗せられた厚切りのパンに生野菜が添えられた皿、チェツを一口サイズにカットした小皿が置かれていた。
(昨日の提案に甘えさせてもらったのは、正解だったかも)
昨晩ベルが夕飯を作っている際に、ロセウスから提案があったのだ。それは朝食は三人がローテーションで作るというもの。最初は反対したのだが、夕飯を毎日作ってもらうのだからこれくらいは、と押し切られ、またアーテルたちが作った朝食が美味しかったこともあって、ロセウスの提案に甘えさせてもらう形となった。
ベルの後に続いて欠伸をしながら二階から降りてきたアーテルやアルブスと椅子に座ると、ロセウスが紅茶を淹れてくれた。それに礼を告げ、ロセウスが椅子に座ると皆で朝食を食べ始めた。
美味しい朝食と大好きなチェツを食べられて満足をしたベルは、時間を見てそういえば、と重要なことを思い出した。
「困った」
唐突に呟いたベルに、三人の視線が集まる。
「どうしたんだい?」
ロセウスが三人を代表して尋ねてきた。
「実はさ、ラシード殿のお願いの内容を聞いていても、場所と時間を聞くのすっかり忘れていてさ」
「ああ、なんだそんなことか。それなら俺たちが場所を知っているから問題ない」
アルブスから場所を知っている、と聞いてそうかと納得をしてしまった。十年間眠っていたのはベルだけだ。ある程度のなら三人の誰かに聞けばいいのだと、考えればわかることである。
しかし次にアーテルによって知らされたのは、とても大きな爆弾だった。
「授業の始まりは……たしか九時からだったか?」
その言葉にはっとして、壁にかかった時計を見れば、時刻はすでに七時半を過ぎていた。昨日のうちに聞いておけばよかったと後悔しても、場所と時間を聞くのを忘れていたのを思い出したのが今なのだから仕方がない。知っていたら教えて欲しかったとも思うが、三人ともベルのように焦ってはいなかった。時間を指定されていないのだから、何時に向かっても問題はないという認識なのかもしれない。
しかし元々時間に余裕を持ちたい性格のベルは、バイトに行くにしても、大学に行くにしても、常に五分から十分前行動をしていた。そんな性格の持ち主からしてみれば、初日から遅刻はいただけない。けれどベルは服を着替えて顔を洗っただけで、まだ最難関である髪をまとめていなかった。
聞く限り目的地まで最低でも二時間はかかる。どう考えてもこれは遅刻だ。
「セス! 髪をまとめて、超特急で!!」
「もちろんさ」
顔を青ざめさせながらお願いをすれば、すでにロセウスは席を立って、ベルの座る椅子の後ろでゴムや櫛を準備していた。
アーテルとアルブスはベルの髪が結い終わり次第すぐに家を出られるよう、食べ終わった皿を片づけてくれていた。本当に三人とも頼れる召喚獣である。
ベルの髪を三分ほどで綺麗に纏め上げると、三人はすぐに獣化をした。もう少し時間に余裕があれば、まだ背中に乗っていないアルブスに跨りたかったが、アルブスはアーテルと同じく短毛だ。手綱や鞍などを了承を得て買っていればよかったのだが、ベルは買うどころか、聞くことすらすっかり忘れていた。
掴まるところがないから、アーテルに乗ったときのように首に抱きつかなければならない。王城まで行ったときは、緩やかな走りだったからまだよかった。けれど今回はそんな走りでは間に合わないから、全力疾走を頼む予定なのだ。でもそれだとベルの腕が目的まで持つのか些かあやしいものがあった。そこでアルブスではなく、安定感のあるロセウスに頼むことにした。その話を聞いたとき、アルブスは絶望したと言わんばかりの雰囲気を漂わせていたので、帰りに乗せてもらうことを約束した。
「セス、アーテ、アル。大変だけど、目的地まで全力疾走でお願いします!」
授業開始まで一時間半もない現状で、目的地に辿り着くのは正直難しいものがある。しかしベルは三人、いや三匹に頼るほか方法がない。
「任せておきなさい」
「大丈夫だ」
「絶対に間に合わせる」
ロセウスの長毛に掴まり、前回とは比べものにならないほどのスピードと風圧に耐えながら、ベルはひたすら間に合うことを祈った。街中を走ると人を避けながら走らなくてはならなくなる為、人気の少ない道などを選んで進んでいく。検問所に着くと、予めラシードが声をかけておいてくれたのか、ベルたちを待っていた騎士に案内されて、スムーズに通ることができた。いつもなら遠慮をするところだが、今回ばかりはそれをありがたく使わせていただくことにした。遅刻するよりはましだからだ。
「つ、着いた~」
そして授業の始まる五分前に、目的地に辿り着くことができた。
天井に両手を突き上げ、大きく伸びをする。
一日中街を歩き回っていたせいなのか、はたまた久しぶりにたくさん体を動かしたせいなのか。家に帰って夕飯と風呂を済ませるなり、すぐに眠ってしまった。眠った時間は然程遅くはない時間だったが、よほど疲れていたのだろう。夜中に一度も目を覚ますことなく、気持ちのいい朝を迎えた。
「今日はラシード殿のお願いの日だから、こっちの召喚術師の服を着るべきだよね」
昨日は街の散策だからとラフな格好をしていたが、今日は召喚術師としてお願いをされている。王城に行ったときのように、召喚術師の正装をするべきだろう。
ベルは召喚術師の正装である、黒と白を基調とした丈の短いワンピースを着ることにした。
一階のリビングへ降りていくと、今日はロセウスがキッチンへ立っていた。料理はすでに完成しており、机の上にはベーコンと目玉焼きが乗せられた厚切りのパンに生野菜が添えられた皿、チェツを一口サイズにカットした小皿が置かれていた。
(昨日の提案に甘えさせてもらったのは、正解だったかも)
昨晩ベルが夕飯を作っている際に、ロセウスから提案があったのだ。それは朝食は三人がローテーションで作るというもの。最初は反対したのだが、夕飯を毎日作ってもらうのだからこれくらいは、と押し切られ、またアーテルたちが作った朝食が美味しかったこともあって、ロセウスの提案に甘えさせてもらう形となった。
ベルの後に続いて欠伸をしながら二階から降りてきたアーテルやアルブスと椅子に座ると、ロセウスが紅茶を淹れてくれた。それに礼を告げ、ロセウスが椅子に座ると皆で朝食を食べ始めた。
美味しい朝食と大好きなチェツを食べられて満足をしたベルは、時間を見てそういえば、と重要なことを思い出した。
「困った」
唐突に呟いたベルに、三人の視線が集まる。
「どうしたんだい?」
ロセウスが三人を代表して尋ねてきた。
「実はさ、ラシード殿のお願いの内容を聞いていても、場所と時間を聞くのすっかり忘れていてさ」
「ああ、なんだそんなことか。それなら俺たちが場所を知っているから問題ない」
アルブスから場所を知っている、と聞いてそうかと納得をしてしまった。十年間眠っていたのはベルだけだ。ある程度のなら三人の誰かに聞けばいいのだと、考えればわかることである。
しかし次にアーテルによって知らされたのは、とても大きな爆弾だった。
「授業の始まりは……たしか九時からだったか?」
その言葉にはっとして、壁にかかった時計を見れば、時刻はすでに七時半を過ぎていた。昨日のうちに聞いておけばよかったと後悔しても、場所と時間を聞くのを忘れていたのを思い出したのが今なのだから仕方がない。知っていたら教えて欲しかったとも思うが、三人ともベルのように焦ってはいなかった。時間を指定されていないのだから、何時に向かっても問題はないという認識なのかもしれない。
しかし元々時間に余裕を持ちたい性格のベルは、バイトに行くにしても、大学に行くにしても、常に五分から十分前行動をしていた。そんな性格の持ち主からしてみれば、初日から遅刻はいただけない。けれどベルは服を着替えて顔を洗っただけで、まだ最難関である髪をまとめていなかった。
聞く限り目的地まで最低でも二時間はかかる。どう考えてもこれは遅刻だ。
「セス! 髪をまとめて、超特急で!!」
「もちろんさ」
顔を青ざめさせながらお願いをすれば、すでにロセウスは席を立って、ベルの座る椅子の後ろでゴムや櫛を準備していた。
アーテルとアルブスはベルの髪が結い終わり次第すぐに家を出られるよう、食べ終わった皿を片づけてくれていた。本当に三人とも頼れる召喚獣である。
ベルの髪を三分ほどで綺麗に纏め上げると、三人はすぐに獣化をした。もう少し時間に余裕があれば、まだ背中に乗っていないアルブスに跨りたかったが、アルブスはアーテルと同じく短毛だ。手綱や鞍などを了承を得て買っていればよかったのだが、ベルは買うどころか、聞くことすらすっかり忘れていた。
掴まるところがないから、アーテルに乗ったときのように首に抱きつかなければならない。王城まで行ったときは、緩やかな走りだったからまだよかった。けれど今回はそんな走りでは間に合わないから、全力疾走を頼む予定なのだ。でもそれだとベルの腕が目的まで持つのか些かあやしいものがあった。そこでアルブスではなく、安定感のあるロセウスに頼むことにした。その話を聞いたとき、アルブスは絶望したと言わんばかりの雰囲気を漂わせていたので、帰りに乗せてもらうことを約束した。
「セス、アーテ、アル。大変だけど、目的地まで全力疾走でお願いします!」
授業開始まで一時間半もない現状で、目的地に辿り着くのは正直難しいものがある。しかしベルは三人、いや三匹に頼るほか方法がない。
「任せておきなさい」
「大丈夫だ」
「絶対に間に合わせる」
ロセウスの長毛に掴まり、前回とは比べものにならないほどのスピードと風圧に耐えながら、ベルはひたすら間に合うことを祈った。街中を走ると人を避けながら走らなくてはならなくなる為、人気の少ない道などを選んで進んでいく。検問所に着くと、予めラシードが声をかけておいてくれたのか、ベルたちを待っていた騎士に案内されて、スムーズに通ることができた。いつもなら遠慮をするところだが、今回ばかりはそれをありがたく使わせていただくことにした。遅刻するよりはましだからだ。
「つ、着いた~」
そして授業の始まる五分前に、目的地に辿り着くことができた。
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