召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

文字の大きさ
45 / 136
第一章

四十四話

しおりを挟む
 クライシスとロゼリアの姿が消えたと知り、すぐに魔力の痕跡を辿るが、残念なことに魔力の痕跡は途中で途切れてしまっていた。まるで神隠しにでもあったみたいだ。これでは追跡が不可能だと判断し、まずはイトナとノアにかかっている魔法を解くことにした。

 ベルが魔法を解いている間、ロセウスやアーテル、アルブスには散らかってしまった備品や、椅子や机などを戻してもらっていた。

 クライシスが予め魔法を張っていたのか、戦闘中はあれだけ騒音を出していたのに誰も駆けつけてこなかったことをふと思い出す。邪魔をされたくなかっただけなのかもしれないが、ベルからしてみれば先程までの戦闘に巻き込まれる者がいなかったので、その点に関しては良かったと思った。

 ノアやイトナの意識が戻ると、ベルはどこまでの記憶があるのかを細かく確認していった。幸い抜けている記憶はどこもなく、魔法は綺麗に解けたようだ。ほっと胸を撫でおろし、ノアとイトナには今日のことを誰かに話すことを固く禁じ、早く休むようにと寮へ帰ることを促した。

 陽が沈み、教室内が薄暗くなってくる。下校時刻をすでに過ぎていることもあって、校内は静まり返っていた。

「さて、と」

 教室内を見渡せば、三人のおかげで粗方元通りにはなっているが、そうでないもの多々ある。明日も授業があるので、事が大きくならないうちに知らせた方がいいだろう。

「セスはラシード殿とエド殿に、アーテはルークへこのことを知らせてきてほしい。アルは私と細かな掃除ね」

 それぞれに指示を出して、知らせに向かったロセウスとアーテルの背を見送ると、アルブスと再び掃除に専念した。

 ルークの方は元々仕事で学院内に残っていたようで、数十分ほど経った頃に教室に慌ててソフィとともに駆けつけてきてくれた。

「簡単な説明は聞きましたが、ここまでとは……」

 片づけたとはいえ、まだ戦いの跡は残っている。その惨状を目のあたりにして、言葉も出ないようだった。

「ごめんね、ルーク」

 不可抗力でロセウスの結界を頼ることができない戦闘となった。仕方がなかったにしても確かに酷い惨状だ。クライシスが放った火によって、教室の扉は焼失し、床や壁、机などにも焦げ跡がついていた。それに最後の竜巻によって、様々な備品が巻き込まれ、一部の物は再使用が不可能なほど壊れている。

 素直にベルが頭を下げて謝れば、ルークは慌てて両手を振った。

「頭を上げてください。ベル様のせいではないと聞きましたから。それに私の生徒であるイトナやノアを助けてくださって、本当に感謝をしているんです」

 ルークも記憶改ざん魔法『メモリーズテンパー』をかけられた一人だ。『メモリーズテンパー』をかけられたことを知ったのは、ロセウスがロゼリアの契約獣として偽りのパートナーとなる少し前。そのため、ロセウスがロゼリアのパートナーであるという、記憶改ざん魔法を受けることはなかった。しかしその前にかかっていたイトナとロゼリアが入れ替わった件については魔法を解いていなかったので、入れ替わりが真実だと調べているうちに判明しても、実感は沸かなかったはずだ。

 しかしルークの言葉を聞く限り、その魔法は解けているようだった。ルーク以外の生徒や教師にかけられた魔法が解けたかどうかについては、明日以降に調べるしかないだろう。

 精神攻撃魔法は、魔法を使用した本人の意志で解くか、死亡したりしない限り、解けることはない。ベルのような膨大な魔力を持っていない限り、他者でも解くことは難しいはずだ。考えられることとすれば、クライシスがロゼリアを亡き者にしたという事だが、わざわざロゼリアを連れ去っていったのだ。亡き者にしたという考えは、まず除外していいだろう。

 ロゼリアの件は置いておくことにして、後から遅れてやってきたラシードとも話をし、生徒の契約獣の魔法が失敗して、教室が一時的に使用不可能となったとすることとした。その際にラシードにイトナの事を尋ねてみたのだが、やはり記憶が戻っているようだった。けれど記憶が戻ってはいても、ルークの記憶の戻り方に違いがあった。

 ルークはロゼリアとイトナが入れ替わっていた時の記憶があり、同時に魔法にかかっていたのだと自覚もあった。ラシードはロゼリアとイトナが入れ替わっていた時の記憶はなく、ずっとノアのパートナーはイトナだったという謎の記憶改ざんが行われていた。また改ざん魔法がかかっているのかと、魔力を流してみたが記憶の変化は起こらなかった。結果、これは記憶の改ざんではなく、負担がかからないように脳が記憶の辻褄合わせをしたのではないかという推測が生まれる。しかし推測は推測でしかないので、何人かの話を聞く必要があるだろう。

 ラシードにあとは任せるようにと言われたが、その検証のためにもまた明日来ると告げ帰宅することにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?

処理中です...