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第二章
一話
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この世界へやってきて早数カ月。
たった数カ月だというのに、まるで数年もいたかのような怒涛な日々を過ごした気がする。それもこれも学院で起こったロゼリアやクライシスたちの件が主な原因だ。
まだ事件は解決をしていないが、事件を解決させるための次の手は打ってある。その人物たちが来るまで束の間の休息という名目の元、ロセウスやアーテル、アルブスたちと楽しい日々を過ごしていた。
建国祭までにサマーウスの輝人、エリオット・フォードとハクノウの輝人、ラヴィック・フロースがナツゥーレへ到着するか些か不安が残るものの、手紙以外の連絡手段はこの世界には存在しない。よって、二人が当日までに到着するのを信じて待つしかなかった。
とは言っても、手紙が到着したのは三日前。ラヴィック単体であれば不安が尽きないが、しっかり者のエリオットが一緒に向かってきているのだ。手紙を出してからすぐ出たのであれば、そろそろ着いてもおかしくはないはずだ。
大好物であるチェツを絞った百パーセント果実ジュースをストローで啜りながら、ソファでゆったりとしていると、キッチンからひょっこりとアルブスが顔を出してきた。
「お嬢、チェツで試しにムース作ってみたんだけど、食べる?」
ベルの召喚獣の一人である、アルブス・ティグリス。本性の獣の姿は白虎で、その白い毛並みは素晴らしい触り心地である。普段はこうして人化しており、一房だけ黒い髪を腰ほどまで伸ばし、白髪は襟首で揃えている。瞳は召喚獣の証である金目だ。
「チェツのムース? 食べたい、食べたい!!」
ベルが深い眠りについていた間に、その腕は磨かれたらしく、三人が三人とも料理の腕が上達していた。特にアルブスとアーテルはお菓子類が得意で、こうしてよく試作品を食べさせてくれるのだ。
「了解、ちょっと待ってて。アーテル、お嬢ムース食べるってさ。盛り付け頼む」
「わかった」
キッチンにはアーテルもいたらしく、中からアーテルの声が聞こえてきた。
アーテル・ティグリス。アルブスと双子の黒虎で、その顔立ちは瓜二つだ。アルブスとは逆に一房だけ白い髪を腰ほどまで伸ばし、黒髪は襟首で揃えている。もちろんアーテルの瞳も金色だ。アーテルもベルの召喚獣で、今は人化をしているが、ベルが望めばすぐに本性の獣の姿である黒虎になってくれる。
街に行けば騒がれるほどに顔立ちがいいが、ベルとしては顔立ちよりもモフモフの方が重視している。そのため両手に花ならぬ、両手にモフモフをよく実現させては、しまりのない頬を緩めていた。
そんな二人が揃ってベルのために作ってくれたムースを綺麗に盛り付けして持ってきてくれた。
チェツの実は、桃と苺、マンゴーを足したような味をしているのに、その実の色は濃い紫色なのだ。これでぶどうの味がしないのだから、なんとも不思議な果実である。そんなベルの感想は置いておき、持ってきてくれたチェツのムースに瞳を輝かせた。
透明で細長い容器に入っているチェツのムースは三層に分かれており、下から順に一層目は白いムース、二層目は薄い紫色のムース、三層目はチェツ本来の色である濃い紫色のムースとなっていた。一番上には小さくカットされたチェツの実と、生クリームがトッピングされている。
「はい、どうぞ」
そんなベルに苦笑しつつ、アルブスがスプーンでムースをすくって、ベルの口元まで運んでくれた。最初の頃は照れていたものだが、最近では日常化しつつあってその好意に甘えてしまっている。両手で持っていたチェツのジュースはアーテルが零すといけないからと、コップを持ってくれた。まさに至れり尽くせりの状態である。いつか駄目人間になってしまうのではないだろうかという不安を持ちつつも、しっかりとした食事を摂るときはきちんと席について食べているのでまあいいかと思う自分がいた。
アルブスがスプーンで運んでくれたムースをぱくりと口の中へ入れる。
最初に食べたのは一番上と、真ん中のムース。一番上のムースはその色が示す通り、チェツ本来の味がした。そして真ん中のムースは生クリームが一緒に混ぜられているのか、チェツのまろやかさがさらにアップしていた。
「美味しい?」
「うん、美味しい」
緩む頬を抑えられず緩ませれば、満足げな顔をしてアルブスがベルの額へキスを落とした。
「どれ、俺も少し味見」
アルブスはそのまま唇を額からベルの口元まで移動させ、口内へと舌を侵入させてきた。何度もしているキスだとはいえ、いまだ翻弄されっぱなしだ。そんなベルとのキスに満足をしたのか、アルブスはキスで濡れた唇を親指で拭いながら美味しくできててよかったと余裕の笑みを浮かべていた。
「んじゃ俺も。お嬢、次はこれね」
アルブスの手からムースの容器とスプーンを奪い、白い部分のムースをアーテルは自身の口の中へ入れると、そのままベルへキスをしてきた。器用に舌を使って、ベルの口の中へと入れてきた。白いムースの正体はヨーグルトだったようで、チェツのムースと相性は抜群だ。けれどキスのせいでゆっくりと味わうことができず、文句を言いたくなってくる。
しかしアルブスとアーテルがこれを気に入ったのか、交互にキス攻撃をしてくるせいで全く抗議をすることができない。
いつの間にかムースが無くなっていてこれで終わりかと思いきや、二人ともその気になってしまったのかベルの服を脱がしにかかってきた。まだ真昼間なのにこのままではやばいと思い、必死に抵抗をするが、二人がかりでは歯も立たない。ベルも嫌いな行為ではないので、流されてしまってもいいのではないかと悪魔が囁いてくる。
悪魔の囁きに流されて、抵抗を止めようとしたその時だった。
外へと繋がる扉が、ノックも無しに開けられた。驚いてそちらへ視線を向ければ、そこには買い出しへと出かけていたロセウスの姿があった。
ロセウス・ウルペース。ベルが初めて契約をした召喚獣で、本性は桜狐という桜色の毛並みを持つ狐だ。最近はロセウスのふんわりとした尻尾にダイブをするのがマイブームだったりする。
そんなロセウスの人化は桜色の綺麗な長髪をしている青年だ。上品な着物を纏っていて、ベルと揃いの金目をベルたちへと向けてきていた。
いつもならここで混ざりそうなのだが、ロセウスは困ったように自身の後ろにいる人物へ声をかけていた。
そんなロセウスの様子に、客が来たのかと慌てて服装を正す。アーテルとアルブスも客が来ているのならば、とベルを手伝ってくれた。そうしてどうにかみられる格好へと戻ると、ロセウスの案内の元四人の人物が家の中へと入ってきた。
「よぉ、元気そうじゃねぇか。ベル」
そう声をかけてきたのはハクノウの輝人、ラヴィック・フロースだった。
たった数カ月だというのに、まるで数年もいたかのような怒涛な日々を過ごした気がする。それもこれも学院で起こったロゼリアやクライシスたちの件が主な原因だ。
まだ事件は解決をしていないが、事件を解決させるための次の手は打ってある。その人物たちが来るまで束の間の休息という名目の元、ロセウスやアーテル、アルブスたちと楽しい日々を過ごしていた。
建国祭までにサマーウスの輝人、エリオット・フォードとハクノウの輝人、ラヴィック・フロースがナツゥーレへ到着するか些か不安が残るものの、手紙以外の連絡手段はこの世界には存在しない。よって、二人が当日までに到着するのを信じて待つしかなかった。
とは言っても、手紙が到着したのは三日前。ラヴィック単体であれば不安が尽きないが、しっかり者のエリオットが一緒に向かってきているのだ。手紙を出してからすぐ出たのであれば、そろそろ着いてもおかしくはないはずだ。
大好物であるチェツを絞った百パーセント果実ジュースをストローで啜りながら、ソファでゆったりとしていると、キッチンからひょっこりとアルブスが顔を出してきた。
「お嬢、チェツで試しにムース作ってみたんだけど、食べる?」
ベルの召喚獣の一人である、アルブス・ティグリス。本性の獣の姿は白虎で、その白い毛並みは素晴らしい触り心地である。普段はこうして人化しており、一房だけ黒い髪を腰ほどまで伸ばし、白髪は襟首で揃えている。瞳は召喚獣の証である金目だ。
「チェツのムース? 食べたい、食べたい!!」
ベルが深い眠りについていた間に、その腕は磨かれたらしく、三人が三人とも料理の腕が上達していた。特にアルブスとアーテルはお菓子類が得意で、こうしてよく試作品を食べさせてくれるのだ。
「了解、ちょっと待ってて。アーテル、お嬢ムース食べるってさ。盛り付け頼む」
「わかった」
キッチンにはアーテルもいたらしく、中からアーテルの声が聞こえてきた。
アーテル・ティグリス。アルブスと双子の黒虎で、その顔立ちは瓜二つだ。アルブスとは逆に一房だけ白い髪を腰ほどまで伸ばし、黒髪は襟首で揃えている。もちろんアーテルの瞳も金色だ。アーテルもベルの召喚獣で、今は人化をしているが、ベルが望めばすぐに本性の獣の姿である黒虎になってくれる。
街に行けば騒がれるほどに顔立ちがいいが、ベルとしては顔立ちよりもモフモフの方が重視している。そのため両手に花ならぬ、両手にモフモフをよく実現させては、しまりのない頬を緩めていた。
そんな二人が揃ってベルのために作ってくれたムースを綺麗に盛り付けして持ってきてくれた。
チェツの実は、桃と苺、マンゴーを足したような味をしているのに、その実の色は濃い紫色なのだ。これでぶどうの味がしないのだから、なんとも不思議な果実である。そんなベルの感想は置いておき、持ってきてくれたチェツのムースに瞳を輝かせた。
透明で細長い容器に入っているチェツのムースは三層に分かれており、下から順に一層目は白いムース、二層目は薄い紫色のムース、三層目はチェツ本来の色である濃い紫色のムースとなっていた。一番上には小さくカットされたチェツの実と、生クリームがトッピングされている。
「はい、どうぞ」
そんなベルに苦笑しつつ、アルブスがスプーンでムースをすくって、ベルの口元まで運んでくれた。最初の頃は照れていたものだが、最近では日常化しつつあってその好意に甘えてしまっている。両手で持っていたチェツのジュースはアーテルが零すといけないからと、コップを持ってくれた。まさに至れり尽くせりの状態である。いつか駄目人間になってしまうのではないだろうかという不安を持ちつつも、しっかりとした食事を摂るときはきちんと席について食べているのでまあいいかと思う自分がいた。
アルブスがスプーンで運んでくれたムースをぱくりと口の中へ入れる。
最初に食べたのは一番上と、真ん中のムース。一番上のムースはその色が示す通り、チェツ本来の味がした。そして真ん中のムースは生クリームが一緒に混ぜられているのか、チェツのまろやかさがさらにアップしていた。
「美味しい?」
「うん、美味しい」
緩む頬を抑えられず緩ませれば、満足げな顔をしてアルブスがベルの額へキスを落とした。
「どれ、俺も少し味見」
アルブスはそのまま唇を額からベルの口元まで移動させ、口内へと舌を侵入させてきた。何度もしているキスだとはいえ、いまだ翻弄されっぱなしだ。そんなベルとのキスに満足をしたのか、アルブスはキスで濡れた唇を親指で拭いながら美味しくできててよかったと余裕の笑みを浮かべていた。
「んじゃ俺も。お嬢、次はこれね」
アルブスの手からムースの容器とスプーンを奪い、白い部分のムースをアーテルは自身の口の中へ入れると、そのままベルへキスをしてきた。器用に舌を使って、ベルの口の中へと入れてきた。白いムースの正体はヨーグルトだったようで、チェツのムースと相性は抜群だ。けれどキスのせいでゆっくりと味わうことができず、文句を言いたくなってくる。
しかしアルブスとアーテルがこれを気に入ったのか、交互にキス攻撃をしてくるせいで全く抗議をすることができない。
いつの間にかムースが無くなっていてこれで終わりかと思いきや、二人ともその気になってしまったのかベルの服を脱がしにかかってきた。まだ真昼間なのにこのままではやばいと思い、必死に抵抗をするが、二人がかりでは歯も立たない。ベルも嫌いな行為ではないので、流されてしまってもいいのではないかと悪魔が囁いてくる。
悪魔の囁きに流されて、抵抗を止めようとしたその時だった。
外へと繋がる扉が、ノックも無しに開けられた。驚いてそちらへ視線を向ければ、そこには買い出しへと出かけていたロセウスの姿があった。
ロセウス・ウルペース。ベルが初めて契約をした召喚獣で、本性は桜狐という桜色の毛並みを持つ狐だ。最近はロセウスのふんわりとした尻尾にダイブをするのがマイブームだったりする。
そんなロセウスの人化は桜色の綺麗な長髪をしている青年だ。上品な着物を纏っていて、ベルと揃いの金目をベルたちへと向けてきていた。
いつもならここで混ざりそうなのだが、ロセウスは困ったように自身の後ろにいる人物へ声をかけていた。
そんなロセウスの様子に、客が来たのかと慌てて服装を正す。アーテルとアルブスも客が来ているのならば、とベルを手伝ってくれた。そうしてどうにかみられる格好へと戻ると、ロセウスの案内の元四人の人物が家の中へと入ってきた。
「よぉ、元気そうじゃねぇか。ベル」
そう声をかけてきたのはハクノウの輝人、ラヴィック・フロースだった。
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