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第二章
二話
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ロセウスの気遣いにより、情事の最中を見られなかったことにほっと胸を撫で下ろす。一部の者にはばれてしまっていそうだが、見られるよりは何倍もマシだ。
「久しぶり、ラヴィ。それに、エリオット、トトー、コーディリアも」
ロセウスの案内の元、二人の輝人とその召喚獣である二人がリビングへと足を踏み入れた。
ほんわかとした雰囲気の二十代前半男性がラヴィック・フロースで、ふんわりとしたクリーム色の髪が特徴的なのだが、そんな雰囲気とは対照的にがさつで熱血という漢らしい一面を持つ輝人だ。
そんなラヴィックの相棒は歌兎という歌が上手で、歌を使った魔法が得意なトトー・カルメンという可愛らしい白髪の男の子の姿を持つ召喚獣だ。歌兎という種族上、人化しても小柄な体型を持つことが多く、ロセウスたちよりも歳は大分上なのだが、十代前半にしか見えない。獣の姿の時は真っ白な兎姿で、もふもふ好きには堪らない可愛い子である。獣姿、人間の姿ともに可愛らしい外見を持つトトーだが、ラヴィックの面倒を見る役目を負っているので、お母さん的な小言が多かったりする。
「ラヴィ! よお、じゃないでしょ!! お邪魔しますって言うんだよ、そこは。ベル、久しぶり。ごめんね、ラヴィがいつもこんなんで」
それは今も変わらないみたいで、ラヴィックの代わりちょこんと頭を下げていた。
「いいよ、気にしなくて。ラヴィはいつものことだし」
「確かに、いつものことではあるな。邪魔をするぞ、ベル嬢。それにしても、目が覚めてよかったな」
ラヴィックとトトーのやりとりに小さな笑みを浮かべて、会話に入ってきたのは、背中まである金の髪を右肩あたりで一つにまとめている、王子様然とした顔立ちをしているエリオット・フォードだ。むしろ「召喚術師はじめました」に書いてあった設定では、数百年前のサマーウス国第二王子だと書かれていたのだから、本当に元王子ではあるのだが。輝人に憧れ、努力をして輝人になった現在ではその位を返上し、自由気ままな輝人生活を過ごしているらしい。そんなエリオットの相棒は、その腕に両腕を絡めているエリオットと揃いの髪色を緩く巻いた女性、コーディリア・ドロップだ。釣り目で、口調はきついが、仲間思いな優しい獅子の召喚獣である。
ベルとロセウス、アーテル、アルブスの四人と関係と同様、エリオットとコーディリアは恋人同士だ。最初はエリオットが狙われているのではないかとコーディリアに敵視されていた時もあったが、ベルたちも恋人同士だと知ってからは、仲のいい女友達としていい関係を築いている。
「ベル、また貴女とお話ができて嬉しいわ。もう次は長く眠りにつかないでちょうだいよ」
「ごめんね、コーディリア。もうあんなに長く眠ったりしないから大丈夫だよ」
それぞれと一言、二言会話を交わし、座っていたソファ三人掛けのをソファを譲った。最初は断られてしまったが、せっかく来てくれた四人が地べたに座って家主のベルがソファに座るというのはおかしい。どうにか押し切って、四人にはソファに座ってもらうことにした。
とはいえリビングには一人掛けのソファと三人掛けのソファが一つずつしかない。三人掛けのソファとは言っても、三人で腰かければ若干窮屈を感じてしまうだろう。なので一人掛けのソファにラヴィック、その膝に獣化した小柄なトトー、三人掛けのソファにエリオットとコーディリアに座ってもらうことにした。
ベルはロセウスの案で、獣化したロセウスのふわふわな三本の尾に座らせてもらうこととなった。ロセウスの両隣には同じく獣化したアーテルとアルブスが座っていて、まさにもふもふパラダイスである。その毛並みを堪能しながら、客人が来たとき用にソファを買い足さないとなあと脳内の買い物リストに追加していた。
獣化する前にアーテルとアルブスに用意してもらった紅茶を各々飲みながら、近況報告をする。十年間に何がどんなことがあったのか、それを輝人目線で聞けるのは二人しかいないので、貴重な情報源となった。
ベルも目が覚めたあとに起こった事件のことを日本のことを伏せて話し、四人の意見を求める。ベルが輝人になったのはラヴィックやエリオットと比べてまだ浅く、それに比例してロセウスたちも召喚獣になって日が浅い。だから、何百年も輝人や召喚獣をやっている四人の意見を聞きたかった。
「クライシス、か……」
エリオットが苦々しい口調でその名を呟く。
その名前に各々心辺りがあるのだろう。四人が四人とも表情を険しくしていた。
沈黙のした空気の中、ラヴィックが口を開いた。
「クライシスという人物について、俺たちはニー爺とヴァイオレットに聞いただけだから、今は何とも言えない。話に聞いたことだがあるだけで、実際その時は輝人どころか生まれてすらいなかったからな」
「ニー爺とヴァイオレットさんに?」
「ああ」
ニー爺ことニード・ブラウンは長い茶ひげを生やした八十代男性ほどの外見をした輝人だ。そしてヴァイオレット・ウィオラ。こちらも紫色の髪が綺麗な四十代女性の外見をした輝人である。この二人はラヴィックやエリオットが輝人になる前からいる輝人で、ベルの前任者でもある輝人と何百年も肩を並べてこの世界の龍脈を正してきた。
この話し方から察するに、同一人物であるとすればクライシスは何百年も前から生きていることになる。この世界の人間は長く生きても百歳前後で、平均寿命は日本とそう変わらない。人間とかけ離れた寿命を持つのは輝人とその相棒である召喚獣くらいだ。クライシスが輝人でもない限りありえない話になってくる。
「あの二人もベル嬢が目を覚ますのを心待ちにしていた。一度会いに行ってみてはどうだろうか。私もこの話ばかりは、直接聞いた方がいいと思うぞ」
「僕たちから言えるのは、クライシスには気をつけた方がいいということだけ」
「その話を聞く限り、このまますぐ帰らない方が良さそうね」
ラヴィックを皮切りに、エリオット、トトー、コーディリアの順に各々意見を述べる。他の者より圧倒的な強さを持つ召喚術師と召喚獣。その誰もが揃って警戒をしている。
「わかった。とりあえず二人には会いたい旨を手紙に書いてみるよ」
ベルは想像以上に危険人物だったと知り、頷いた。
「久しぶり、ラヴィ。それに、エリオット、トトー、コーディリアも」
ロセウスの案内の元、二人の輝人とその召喚獣である二人がリビングへと足を踏み入れた。
ほんわかとした雰囲気の二十代前半男性がラヴィック・フロースで、ふんわりとしたクリーム色の髪が特徴的なのだが、そんな雰囲気とは対照的にがさつで熱血という漢らしい一面を持つ輝人だ。
そんなラヴィックの相棒は歌兎という歌が上手で、歌を使った魔法が得意なトトー・カルメンという可愛らしい白髪の男の子の姿を持つ召喚獣だ。歌兎という種族上、人化しても小柄な体型を持つことが多く、ロセウスたちよりも歳は大分上なのだが、十代前半にしか見えない。獣の姿の時は真っ白な兎姿で、もふもふ好きには堪らない可愛い子である。獣姿、人間の姿ともに可愛らしい外見を持つトトーだが、ラヴィックの面倒を見る役目を負っているので、お母さん的な小言が多かったりする。
「ラヴィ! よお、じゃないでしょ!! お邪魔しますって言うんだよ、そこは。ベル、久しぶり。ごめんね、ラヴィがいつもこんなんで」
それは今も変わらないみたいで、ラヴィックの代わりちょこんと頭を下げていた。
「いいよ、気にしなくて。ラヴィはいつものことだし」
「確かに、いつものことではあるな。邪魔をするぞ、ベル嬢。それにしても、目が覚めてよかったな」
ラヴィックとトトーのやりとりに小さな笑みを浮かべて、会話に入ってきたのは、背中まである金の髪を右肩あたりで一つにまとめている、王子様然とした顔立ちをしているエリオット・フォードだ。むしろ「召喚術師はじめました」に書いてあった設定では、数百年前のサマーウス国第二王子だと書かれていたのだから、本当に元王子ではあるのだが。輝人に憧れ、努力をして輝人になった現在ではその位を返上し、自由気ままな輝人生活を過ごしているらしい。そんなエリオットの相棒は、その腕に両腕を絡めているエリオットと揃いの髪色を緩く巻いた女性、コーディリア・ドロップだ。釣り目で、口調はきついが、仲間思いな優しい獅子の召喚獣である。
ベルとロセウス、アーテル、アルブスの四人と関係と同様、エリオットとコーディリアは恋人同士だ。最初はエリオットが狙われているのではないかとコーディリアに敵視されていた時もあったが、ベルたちも恋人同士だと知ってからは、仲のいい女友達としていい関係を築いている。
「ベル、また貴女とお話ができて嬉しいわ。もう次は長く眠りにつかないでちょうだいよ」
「ごめんね、コーディリア。もうあんなに長く眠ったりしないから大丈夫だよ」
それぞれと一言、二言会話を交わし、座っていたソファ三人掛けのをソファを譲った。最初は断られてしまったが、せっかく来てくれた四人が地べたに座って家主のベルがソファに座るというのはおかしい。どうにか押し切って、四人にはソファに座ってもらうことにした。
とはいえリビングには一人掛けのソファと三人掛けのソファが一つずつしかない。三人掛けのソファとは言っても、三人で腰かければ若干窮屈を感じてしまうだろう。なので一人掛けのソファにラヴィック、その膝に獣化した小柄なトトー、三人掛けのソファにエリオットとコーディリアに座ってもらうことにした。
ベルはロセウスの案で、獣化したロセウスのふわふわな三本の尾に座らせてもらうこととなった。ロセウスの両隣には同じく獣化したアーテルとアルブスが座っていて、まさにもふもふパラダイスである。その毛並みを堪能しながら、客人が来たとき用にソファを買い足さないとなあと脳内の買い物リストに追加していた。
獣化する前にアーテルとアルブスに用意してもらった紅茶を各々飲みながら、近況報告をする。十年間に何がどんなことがあったのか、それを輝人目線で聞けるのは二人しかいないので、貴重な情報源となった。
ベルも目が覚めたあとに起こった事件のことを日本のことを伏せて話し、四人の意見を求める。ベルが輝人になったのはラヴィックやエリオットと比べてまだ浅く、それに比例してロセウスたちも召喚獣になって日が浅い。だから、何百年も輝人や召喚獣をやっている四人の意見を聞きたかった。
「クライシス、か……」
エリオットが苦々しい口調でその名を呟く。
その名前に各々心辺りがあるのだろう。四人が四人とも表情を険しくしていた。
沈黙のした空気の中、ラヴィックが口を開いた。
「クライシスという人物について、俺たちはニー爺とヴァイオレットに聞いただけだから、今は何とも言えない。話に聞いたことだがあるだけで、実際その時は輝人どころか生まれてすらいなかったからな」
「ニー爺とヴァイオレットさんに?」
「ああ」
ニー爺ことニード・ブラウンは長い茶ひげを生やした八十代男性ほどの外見をした輝人だ。そしてヴァイオレット・ウィオラ。こちらも紫色の髪が綺麗な四十代女性の外見をした輝人である。この二人はラヴィックやエリオットが輝人になる前からいる輝人で、ベルの前任者でもある輝人と何百年も肩を並べてこの世界の龍脈を正してきた。
この話し方から察するに、同一人物であるとすればクライシスは何百年も前から生きていることになる。この世界の人間は長く生きても百歳前後で、平均寿命は日本とそう変わらない。人間とかけ離れた寿命を持つのは輝人とその相棒である召喚獣くらいだ。クライシスが輝人でもない限りありえない話になってくる。
「あの二人もベル嬢が目を覚ますのを心待ちにしていた。一度会いに行ってみてはどうだろうか。私もこの話ばかりは、直接聞いた方がいいと思うぞ」
「僕たちから言えるのは、クライシスには気をつけた方がいいということだけ」
「その話を聞く限り、このまますぐ帰らない方が良さそうね」
ラヴィックを皮切りに、エリオット、トトー、コーディリアの順に各々意見を述べる。他の者より圧倒的な強さを持つ召喚術師と召喚獣。その誰もが揃って警戒をしている。
「わかった。とりあえず二人には会いたい旨を手紙に書いてみるよ」
ベルは想像以上に危険人物だったと知り、頷いた。
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