召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

六十五話

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 予め決めていた作戦とは違う指令に、それぞれ困惑の表情を浮かべる。しかしそれは一瞬のこと。ベルの判断を信じているロセウスたちは頷くなり、即座に行動へと移した。

 炎、風、水。攻撃に特化した魔法が一気にクライシスを襲う。

 これで場所は特定されてしまうが、作戦を変更した今、それを気にする必要はない。

「うん、さすが星野鈴の召喚獣の魔法だ。威力がある」

 身に受けたらただでは済まない魔法を目の前にしても、その余裕な態度を崩すことはしない。

「けれど、僕には効かない」

 クライシスは手を前にかざすと、それぞれの魔法に相反する魔法を使用し、相殺してみせた。そしてさらに魔法を行使し、標準をベルたちに向けて放つ。

「土魔法『クラック』」

 地面が激しく揺れ、地割れを起こす。その地割れはベルたちの元へ一直線に向かってきた。地割れ部分に落ちる前にアルブスがベルを抱きあげ、全員を空中へと非難させた。アルブスがベルを抱き上げる必要性はなかったが、自然と体が行動を起こしてしまったというところだろうか。

「また、会ったね。星野鈴」

 木々の繁みから完全に姿を現すことになり、クライシスと対面することになった。クライシスはベルの姿を見つけるなり、憎悪のこもった目で睨みつけてきた。

「私はもう星野鈴じゃない。ベル・ステライトだよ。貴方の名前が『クライシス』なのと同じ」

「ああそう。でも僕にとっては星野鈴だ」

(なんだろう、この今を見ていない感じ)

 ベルと星野鈴は同一人物だ。生まれ変わって、前世の人格が今世の人格を上書きしてしまった等というような、そんな小説やマンガの中みたいなことはしていない。だから鈴だと言い切られれば、そうだともいえる。けれどこうしてベルなのだと訂正するのは、ベルが鈴という名前を過去のものとして受け入れ、ベルという名前を現在の自身の名前だと受け入れているからだ。

 クライシスに星野鈴と呼ばれると謎の違和感を感じてしまうのはなぜか。内心首を傾げ、クライシスの濁った金の瞳を見つめる。そうして気づいた。

(そっか、過去に囚われているんだ。ずっと。クライシスは今の私を見ていない)

 クライシスは同じ時間軸にいるはずなのに、ずっと過去を見て生きている。それが違和感の正体だった。

「僕はお前を許さない」

「そうだね。クライシスからリーディルを奪ったのは私だから」

「……! どこで、その名前を知った!?」

 敢えてリーディルの名前を口にすれば、クライシスは怒りを顕わにした。

「私が今から話すことを大人しく聞いてくれるのなら、名前を知った経緯を教える」

「大人しく? 僕がお前の話を? 嫌だね。睡眠魔法『スリーピング』」

「そう言うと思った。あとね、その魔法は効かないよ」

 どこかで使ってくると思っていた睡眠魔法を、トトーの歌魔法で無効化する。無効化すると同時に歌声は聞こえなくなったが、あのまま自身の召喚獣たちが眠らされ、攻撃力が格段に下がるのを防げたことは大きい。

「星野鈴のくせにやるじゃないか」

(くせにってなに!)

 思わず言葉にしそうになり、寸前で心の内に留める。どうやらクライシスはベルのことをかなり侮っているようだ。悔しさを堪え、冷静にロセウスたちへ手で合図を送る。合図を一瞥するなり、ロセウスたちはクライシスに連続で攻撃を放つ。コーディリアも攻撃するロセウスたちを見て、ベルの指示だと判断したのだろう。少しだけ遅れて攻撃に参加する。

「また、それ? 僕には効かないよ。学習能力がないなあ」

「それは、どうかな?」

 クライシスはロセウスたちの攻撃をいとも簡単に魔法をぶつけて相殺している。これは敢えて、そうしているのだ。それに気づかないうちは、ベルの手の内だ。

 そうして魔法をぶつけ合うこと数十分。周囲の地形が変わりつつある頃、変化は訪れた。

「『ウォータースネイク』、『ダークア』っ……ごほ」

 急に魔法の最後まで唱えることが出来なくなり、その場で膝を地面につき、水気を含んだ咳を何度もしていた。よく見ると口元を覆う手には、真っ赤な血が吐き出されていた。
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