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頑固親父と全く笑えない冗談【午後2時〜午後3時】

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 差し込んでいた光が外からのものだと分かったのは、ぽっかりと空いた穴から空が見えた時のことだった。穴からは一本の梯子がぶら下がっているが、しかし途中で途切れてしまっていた。背伸びをしても飛び跳ねても届きそうもない高さでだ。どうせ梯子を設けるのならば、下まで伸ばして欲しいものである。

 他にも奇妙なところがあった。ここが地下道ならば、出口はきっとマンホールなのであろうが、穴から見える空の景色に混じって、蓋の裏面らしきものが見えるのだ。それにはハンドルが付いており、蓋と穴とがマンホールのように分離するものではないらしい。実際どんなものなのかは知らないが、潜水艦の機密扉のような構造になっているのかもしれない。蓋というよりかは扉と表現したほうが正しいだろう。今はそれが開いている状態だと思われる。

 見上げてみる限り、かなりの高さがある。そもそも普通の下水道というものが、どれだけ地上から離れた地下にあるか分からないが、目測で地上から一般的な三階建て家屋の屋根くらいまでの高さはあるように思えた。なんとなく、穴までの距離が長い印象があった。

「どうやらここが出口で間違いないみたいだなぁ」

 西宮が肩で息をしながら地下道の先を照らす。しかし、その先に地下道は続いておらず、一面コンクリートの壁で阻まれていた。ここで地下道は行き止まりであり、となると頭上にある空の見える穴こそが、いよいよ脱出口の可能性が高くなった。いや、ここまで歩いてきておいて、それが脱出口ではないなんてこと、絶対にあってはならない。

「ここまで歩いてきた甲斐はあったってことね。梯子の長さは足りないけど――」

 途中で途切れた梯子を眺めつつ近づこうとすると、つま先に何かが触れた感覚があった。まずいと思った時にはすでに遅く、そのまま晴美は前のめりに倒れ込む。

「おっと、危ねぇ」

 そのまま転倒することを覚悟した晴美であったが、とっさに西宮が回り込んで支えてくれた。そこまでは良かったのだが、運が悪く西宮の手が晴美の胸に触れてしまった。動揺した様子で「悪い、そんなつもりじゃあ――」と弁明しながら晴美から一歩離れる西宮。転びそうになったのを助けてもらった手前、強く文句を言えない晴美は「まぁ、悪気はなかったってことにしてあげる」との言葉で手打ちとした。

「それにしても、こんなところに何が――」

 一体、何に蹴つまずいてしまったのか。晴美の視線に合わせて西宮が懐中電灯の光の輪をそこに向けた瞬間、二人は言葉を失った。
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