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狂気には凶器を【午後4時〜午後5時】

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「ほ、本当にそれで合ってるのか? 他に見落としているとか、そういうのはないか?」

 浜野の目は血走っていた。水落達はそれが正解だと思っていても、確実に間違いではないという保証はゼロ。ロジカルに考えるのであれば、まず春日の答えで間違いはないのだろうが、何事にも絶対はない。

「見落としはないと思う。今聞いてもらった通りのやり方であれば、運の要素を含まずに9グラムクッキーの袋がどれなのか分かる。しかも、一度計量器にのせるだけでだ。ロジック的に見ても筋が通っているし、矛盾もない。間違いなく【1】が答えだ」

 春日が答えるが、しかし浜野は小さく首を横に振った。ハサミをピアノ線のほうに向けようとするが、何やら迷っているようだった。

「も、もし間違っていたら死ぬんだぞ。これを切らなきゃ、俺は少なくとも生きてはいられる。でも、間違ったやつを切れば死ぬんだ。この気持ち、分かるか?」

 ピアノ線に閉じ込められてしまったのは浜野である。そして、脱出の鍵となるピアノ線を切断できるのも浜野だ。言わば運命のボタンを自分で押さねばならない状況。正解ならば現状脱出。間違っていたら現状悪化だ。ゆえに、現状を維持したくなる気持ちも分からなくはない。

「残念だが、私は君ではないからね。君の気持ちというものは分からないだろう。表面上、分かったように振る舞ってやることはできるが、あまりそういうのは得意ではない」

 浜野は気持ちに寄り添って欲しいだけなよかもしれないが、逆にそれを突っぱねてしまう春日。てっきり寄り添う言葉をかけてもらえると思っていたのだろう。浜野はハサミを片手に固まってしまった。

「それで君が満足だというのであれば、いくらでも分かったように振る舞ってもかまわないが――」

 極端な現実主義。頑固なまでの現実的な意見に、水落は小さくて溜め息を漏らした。春日の言っていることは間違っていないが、他に言い方というものがある。

「そ、そんな風に言わなくてもいいだろっ! 間違えたら死ぬんだぞっ!」

「――その時は私達も一緒に死ぬだろうな。これだけの量の手榴弾だ。この部屋そのものを吹き飛ばすなど造作もない」

 静かに言い放たれた春日の言葉に、ただでさえ静まり返っていた空間に、洗練された静寂が訪れた。

「私は君がピアノ線を切るまでここにいるつもりだ。もちろん、間違った時は一連托生。答えを出した以上、私にはそれが正しいのか観測する義務が生じる」
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