BOOBY TRAP 〜僕らが生きる理由〜

鬼霧宗作

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暴走するモラルと同調圧力【午後5時〜午後6時】

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 磨りガラスゆえに外の景色は把握できない。その磨りガラスにもたれかかる人影をしばらく観察していたが、動く気配はなさそうだ。内側から鍵を開け、引き戸をゆっくりと開けた。

 もたれかかっている位置が絶妙だったのか。それとも、あまり深く考えずに戸を開けてしまったからなのか。たまたま智美が開けた引き戸のほうへと、男の上半身が倒れ込んできた。思わず目が合ってしまい、さすがの智美も情けない声が出てしまう。

 一歩大きく後退ってから、改めて遺体の様子を伺う。どこで怪我をしたのだろうか。額がぱっくりと割れている。全身が血まみれなのは、どうやら額の怪我が主たる原因のようだ。この男の直接的な死因となったのも、恐らくは額の怪我であろう。その虚ろな瞳は宙を見つめるばかり。

 智美は男のかたわらに転がっていたショルダーバッグに視線を移す。この中に何か役に立つものが入ってくれていればいいのだが――。特にSGTに触れようとは思わなかった。どうせ死者の【固有ヒント】は、後でそれぞれのSGTに転送される。これから死にゆく者のSGTは調べる価値がないということだ。ここまで考えがいたっておきながら、智美は大事なところまで考えがいたっていなかった。すなわち、死者を知らせるアナウンスもなければ、SGTに【固有ヒント】が転送されていないことに疑問を抱かなかったのだ。

 ショルダーバッグを拾い上げようと、男の遺体をまたぐ。会社の制服を着たままであり、下はタイトスカートであるから、男にとってさぞ下からの眺めは素晴らしいものになっているだろう。せめてもの手向けだ――なんて馬鹿げたことを考えていた時のことだった。

 ショルダーバッグを手にするのと同じタイミングで、足首を強く掴まれた。思わず息を飲むと、足元へと視線を落とす。

「助けてくれって……言ってるだろ」

 男は死んでなどいなかった。生気のない混濁した瞳は、しかし彼女を強く睨みつけていた。爪が皮膚に食い込むほどの強い力で、智美の華奢きゃしゃな足首が絞り上げられる。もう一方の足はまだ自由だったから、思い切り男の手を踏みつけてやった。ヒールが手首に食い込む感触が伝わってくる。しかし、男は怯むことなく、自由だったもう片方の足首を掴んでくる。両足を拘束されてしまった智美は身動きが取れなくなった。

「こ、このままじゃ――このままじゃ、俺死ぬよ。俺、まだ死にたくねぇよぉぉぉぉ! なぁ、助けてくれよぉぉぉぉぉ!」
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