BOOBY TRAP 〜僕らが生きる理由〜

鬼霧宗作

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暴走するモラルと同調圧力【午後5時〜午後6時】

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「約束してくれ。俺達も一緒に境界線まで連れて行くこと。そして、勝手に一人で境界線を越えないこと。無事に俺達が境界線を越えることができたあかつきには、この金を全部あんたにやる」

 あくまでも口約束。何かしらの契約を交わすわけではないし、どちらかが勝手に反故ほごにしたところで、何ら問題はない。ただ、村山が現金を持っている以上、磯部は勝手に約束を破ることはできない。もし心変わりして、勝手に一人で境界線を越えてしまえば、村山が所持している現金1000万も燃えてしまうからだ。磯部が金を欲するのなら、裏切ることはできないはずだ。

 この金は偽物。その事実は絶対に磯部に知られてはならない。偽物の現金1000万は村山と真子の生命線であり、磯部を引き止める唯一の抑制力だ。すなわち、今現在の村山には1000万の価値があり、だからこそ磯部と交渉することができている。もし村山にびた一文の価値もないとばれてしまった時は――きっと磯部は一人で境界線に向かうことだろう。

「悪くない相談だ。その約束――乗ってやる」

 村山は心の中でガッツポーズをする。後はショルダーバッグを肌身離さず持ち歩き、磯部に隙ができるチャンスを伺うしかない。本当に境界線を越える気なんてさらさらない。とにかく、時間さえ稼ぐことができれば、活路が見出せると考えていた。

「む、村山君――本気なの?」

 自分のそばに戻っていた真子の言葉に小さく頷く。

「ここは任せておいて。君はこれまで通りに振る舞っていればいいから。それに、境界線を越えるつもりはないから安心して」

 真子に相談すらせずに、単独で持ちかけた交渉。心配そうな真子の言葉に、村山は磯部には聞こえないような小さな声で答えた。

「交渉成立だな。それじゃあ、改めて境界線を目指そうか」

 これでしばらくの時間稼ぎになる――。そう確信した村山であったが、やはり大人とは一筋縄ではいかない。いいや、磯部という男な元々疑ぐり深いのかもしれない。村山にとって触れて欲しくない部分に踏み込んでくる。

「その前に――もっと良く見せてくれよ。1000万もの大金をね」

 思わず開いたままだったショルダーバッグの口を閉じた。これが偽物だとばれた時点で交渉は決裂してしまう。磯部を止めることができるのは自分しかおらず、自分が失敗してしまえば、他の参加者も死ぬことになる。それがプレッシャーとなっていたこともあり、挙動不審になっていたのかもしれない。ともかく、ショルダーバッグの口を閉じる行為はよろしくなかった。
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