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動き出した狂気の果てに【午後7時〜午後8時】

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 春日がそう返すと、深田はこくりと頷く。

「まぁ、俺の中じゃあ、あんたの好感度が上がったわ」

 人間とは、実に不思議な生き物だと春日は思う。それぞれの価値観があり、物の見方も様々。深田のように、本来ならマイナス要素でしかない春日の欠点をプラスに評価する者もいれば、素直にマイナス評価する者もいる。中には、粗探しをしてまでマイナスの評価をする者もいれば、そもそも全く無関心の者さえいる。脳の基本的な構造は全く同じであるはずなのに、考え方や脳の使い方が違う。人間を造ったのが神であるなどと春日は思わないが、それにしても実に不思議で複雑な生き物だとは思う。

「なんにせよ、まずはロープを調達する必要がある。しかも強度もそれなりにあって、長さもあるものでなければならない」

 比嘉を拘束する際に、陸士長が即席でロープを作ってくれたが、穴の中に降りるとなると、それなりの強度と長さが保証されたものでないと危ないだろう。一応、片岡に頼んで探してはもらっているが、都合良くロープがあるとも限らない。誰が降りるとか、そんなことを決める前に、まずはロープを見つけなければならないのかもしれない。

「わざわざ配布された物資のために降りる必要はないと思うんやけどなぁ。役に立つものならまだしも、結構俺達に配布されてる物資って、役に立たんもんが多いやろ? 俺のなんて腹が痛い人にしか役に立たん」

 深田の固有物資は腹痛の薬だった。しかし、役に立つ場面は少ないものの、ピンポイントで困っている人を救うことはできる。

「私の物資はあれだな。餃子を食そうとしている人の役に立つかどうか――。食の好みによっては、全く役に立たないなんてこともあり得る」

 春日の固有物資は食酢であり、どう考えてもこの状況で役に立つ場面が訪れるとは思えないものだ。強いて言うのであれば、この場で深田の笑いを少しだけ誘ったくらいである。

「あれや、酢の物作ろうとしてるオカンとかの役には立つけどな」

 そう言って笑みを浮かべた深田に合わせて、春日も笑ったつもりだった。小さい頃から作り笑いというのは実に苦手だ。

「そもそも、私達に配布された物資に意味はあるのだろうか? 街の中を探索すれば、それなりの物資は回収できるし、ならば私達に物資を配布する必要があるのかも疑問なところだ。必要なものを街のいたるところに配置しておけばいいだけだと思うのだが」

 春日は純粋な疑問を口にした。役に立つ役に立たない以前に、それぞれに配布された物資に何かしらの意味があるのだろうか。
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