探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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3.深まる謎と疑惑

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「それじゃあ、お言葉に甘えて勝手にさせてもらう! 誰もあんたに場を仕切ってくれなんて頼んでいないんだから!」

 食堂から飛び出すと、観音開きの扉に頭を突っ込み、メガホンのようにして言葉を続ける細川。食堂から出てきた時に一瞬顔が見えたのであるが、顔など見えなくても、扉に頭を突っ込んでいる体型から、安易に彼だと分かったことだろう。

「せいぜい、そっちはそっちで仲良くやってくれよ! その朝食に毒が入っていないとも限らないし、人を殺した奴と同じ空間にいるなんてごめんだからな!」

 どうやら随分とご立腹らしいが、細川に負けじと菱田の怒鳴り声が飛んでくる。

「それどころじゃないのに、彼女達がわざわざ作ってくれたんだ! そんなことを言う権利は君にはない! 俺は別に構わないが、彼女達には謝れって!」

 ふと、コンソメの匂いが鼻腔をくすぐった。夜中に遺体を発見し、朝まで過ごした蘭達。人間のメカニズムは同期というものをするらしく、まるで安楽達の会話を聞いていたかのごとく、食事の準備をしてくれた者がいるようだ。

「空気を読めって言ってるんだよ! あんた達は見てないかもしれないけど、俺と榎本はバラバラにされた神楽坂達の死体を見てるんだぞ! 飯なんか食えるかよ!」

 捨て台詞とばかりに吐き捨てた細川。ごく当たり前のように腹が減ったこともあって戻ってきた蘭達ではあるが、食欲など沸きようが人もいるということを忘れていた。あの時、部屋に足を踏み入れた榎本はもちろん、蘭よりもはっきりと部屋の中を見てしまった細川は、きっと食事どころではないのだろう。

「どこに行くつもりだい?」

 憤慨した様子で廊下のほうに向かおうとする細川。それを安楽が引き止めたのは、ちょうど彼と蘭達がすれ違った時のことだった。振り返った細川は、いまだに怒りが冷めやらぬといった様子で声を荒げた。

「自分の部屋にこもるんだよ!」

 そうとだけ告げ、さっさと部屋に戻ろうとしたのであろう。踵を返した細川を「ちょっと待ったほうがいい!」と呼び止める安楽。怪訝そうな表情を浮かべながら振り返った細川に対して、安楽は口を開く。

「サメ映画の冒頭でイチャイチャするカップル。ゾンビ映画でやたらと主人公にいじわるをするやつ、そして――ミステリで部屋にこもろうとするやつ。こういうタイプの人達は……大抵死ぬ。気持ちは分からなくないが、今は大人しくみんなと一緒にいればいい」

 あぁ、また変なスイッチが入ったのか。なかば呆れると同時に、このような時でも自分のペースで動ける安楽が少しばかり心強かったりもする。
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