探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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5.安楽樹は渋々推理する

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 勢い良く管理人がテーブルを叩いた。その音に、ただでさえ静まり返っていた周囲が、さらに静寂に包まれる。いよいよ、外から聞こえる波音でさえかき消されてしまいそうだ。ふと、誰かの視線を感じて、そちらのほうに目をやると、香純と目が合った。香純は蘭と目が合ったことが分かると、すぐに目を逸らす。どうしたのであろうか。

「娘が自分で命を絶ったのは、それから数ヶ月後のことだった。これだけ懸命に育ててよ、最後はガレージで首を吊って終わりだよ。なんとも呆気ないもんだった。車が来るから危ない――とか、小さい頃は良く手をひいてやっていたが、ようやく手が離れたと思ったら、ガレージで首吊りだよ。自分が親として何かを間違えたんじゃないかと何度も思ったよ」

 会話の中だけでしか出てこなかった娘という存在。思い返せば、あちら側の大学の人間もまた、そこまで彼女の存在には触れなかったような気がする。それはもしかすると、すでに彼女が亡くなっているということは知っていたからなのかもしれない。

「だが、どうやら原因は俺の育て方にあったわけじゃないみたいだったんだ。日本で何かがあったらしい――。あえて、ここで聞きたいんだが、なにか知っている人はいないか?」

 管理人の問いかけは、明らかに全てを分かったうえで投げかけているものに思えた。もうすでに彼は答えを知っている。知っているうえで聞いているのだ。娘が帰国することになってしまった理由を。

「あの……彼女、日本でミステリ作家をしたいって言ってて。それで、たまたまweb小説の賞レースに参加したみたいで。そこで、二次選考まで残ったんです。結果的に受賞は逃しましたけど。それが、どうやら麗里ちゃん、面白くなかったみたいで」

 海外の人間が、日本という独特な文化を兼ね備える国で、しかも小説というものを書く。それは並大抵のことではないだろう。しかも、受賞は叶わなかったが、二次選考まで残ったとなれば、それはプライドの高い人間から嫉妬されそうではある。

「一次選考に残ろうが、二次選考に残ろうが、結果的に落選してるわけだろ? どうして神楽坂はそれが面白くなかったんだろうな?」

 榎本がぽつりと言う。きっと、彼は公募などに小説を出すようなタイプではないのだろう。

「まぁ、考え方によっては二次選考まで残れたってことになるからね。二次選考で落とされた――という考えかたをしなければ、結果が出なかった人間からすれば、羨ましいんじゃないかな」

 安楽がフォローを入れると、管理人が店員に向かって「酒を持ってきてくれ」と一言。しばらくすると、瓶ビールとコップが運ばれてきた。瓶ビールのラベルには見覚えがある。別荘の地下室で見つけたビールだ。
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