聖邪の交進

悠理

文字の大きさ
17 / 32

16

しおりを挟む
やがて三人は、小高い丘の麓までやってきた。陽も沈み始め、間もなく黄昏時になろうとしている時間だ。

「アミュレットの反応からして、ここに悪魔がいるようですね」

モモの言葉を聞いて、ウルゴとムートは丘を見上げる。先の方は木々が生い茂り、森のようになっていた。

「それにしても、ここまで悪魔が一匹も現れないとは」

「拍子抜けしたか?」

ウルゴの言葉に、ムートは「まあね」とそっけなく返した。

「悪魔は聖水を嫌うからな。力が弱くなる新月でもない限り、町の近くに立ち寄る事はねぇ。人が頻繁に行き交うわけでもねえから、大抵の悪魔は日影の多い森や洞窟の中に潜んでるんだよ」

「悪魔は陽の光に弱い、ということか」

「それはどうかな。人の気配を感じ取りゃあ、太陽の下でも普通に出てきて襲ってくる奴もいるからな」

ウルゴがそう言うと、彼は背負った棺桶を手で持ち上げ、二人の前に立った。
同時に、彼の言葉を証明するかのように、目の前の森から悪魔が飛び出してきた。

「っらあ!」

ウルゴが拳を振り下ろし、悪魔を殴りつける。悪魔が地面に叩きつけられると、ウルゴは追撃するように足で力強く踏みつけた。
その二回の攻撃で、悪魔はピクリとも動かなくなる。ものの数秒の出来事に、ムートは呆然としてしまった。

「ムートさん。これが悪魔です。見た目は多岐に渡しますが、共通するのは凶悪な角と、体中に刻まれた邪痕です」

ウルゴが悪魔を掴み、その体を起こした。
黒い邪痕が体中に広がり、真っ黒に染まった肌。頭部から伸びた角は、ウルゴの拳で中央辺りからへし折れている。手には鋭利な爪が長く伸びており、顔の形はどこか獣じみていた。

「これは生来の悪魔か? それとも悪魔病によって悪魔になった人間か?」

「さあな。お前はどっちだと思う?」

「質問に質問で返すのは感心しないな。だがそうだな。この獣みたいな見た目からして、生来のものだろう」

「いえ。悪魔の由来がどちらかは、見た目からは判別できません。悪魔病によって悪魔になった人の中には、本来の体格よりも大きくなり、手足の無い悪魔になった例もありますから」

モモが答えると同時に、ウルゴが持った悪魔の体が、ボロボロと崩れ去った。地面に落ちることも、風に乗って流されることもなく、崩れた肉体はまるで元々なかったかのように消滅した。
モモは両手の指を絡ませて、ウルゴに向けて祈りを捧げる。祈りの対象は、先程散っていった悪魔に向けてだった。

「悪魔は主の敵対者じゃあないのか?」

ムートが訊ねるが、モモは祈りに集中しているようで、答えは返ってこなかった。代わりにウルゴが口を開いた。

「元々人間だったかもしれねえから、来世の無事を願って祈るんだってよ。俺は無駄だと思うけどな」

呆れたようにウルゴが言うと、森の中から再び悪魔が現れた。先程とまるで同じ形態をした悪魔だ。背後から不意を突くようなタイミングだったが、ウルゴはとっさに振り向いて、同じように拳を振るった。同様に地面にたたきつけられた悪魔に対し、ウルゴが追撃をしようと足を上げる。

「おい。待て」

ムートが制止すると、ウルゴは足を上げたまま彼の方を向いた。

「少し僕の研究成果を試させてもらおう」

そう言ってムートは持ってきた鞄の中から、瓶を取り出す。昨日、サラが帰った後に改めて作った聖水の模造品だ。それを見たウルゴが表情をゆがめた。

「結局作ったのかよ……」

「人類が悪魔に立ち向かうためなら、君は協力すると言ってたじゃないか」

「人間の力だったらな。お前のそれは、神の模造品だろ」

「何が違う? いや、今はそんな議論をしてる場合じゃないな」

悪魔が起き上がる前に、ムートはそれに向かって瓶を投げつけた。瓶が砕け、中の液体が悪魔にかかる。だが悪魔に変化はなく、ゆっくりと起き上がった。
ウルゴが再び拳を構えるが、それより先に悪魔の頭が破裂した。ウルゴの後ろにいたモモが、銃を構えており、その銃からは硝煙が立ち昇っていた。

「ムートさん。主の生み出したものを再現するなど、我々人類には到底できませんよ」

モモはウルゴを追い越して、たった今撃ち抜いた悪魔に対しても、祈りを捧げた。

「それとウルゴさん。私の祈りは確かに無駄かもしれません。だとしても、今生を邪気によってけがされた魂には、来世での救いを願わずにはいられないのです」

祈りを終えると、モモはそのまま真っすぐに森の方を見た。

「行きましょう。目的の悪魔は、この先です」

モモが歩き出すと、ウルゴもその後に続く。そんな二人の後を追いながら、ムートはウルゴの言葉について考える。
悪魔に立ち向かう研究は認める。だが神の模造は認めない。一見矛盾しているように思えるが、そこにもう一つ、モモの言葉を思い出す。
主の生み出したものは、人類には再現できない。
つまり現存する主による悪魔への対抗手段は、それ以上増やすことは出来ないと捉えられる。

(人類の手で悪魔への対抗手段を生み出すには、既存の模倣ではなく、新たに何か見出さなければならないということか)

今までの研究は全て無駄だった。だがそれがわかっただけでも、彼らへの同行は意味があった。
それにまだ確認していない事もある。懐に手を入れながら、ムートは二人の背中を見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...