聖邪の交進

悠理

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森に入ってからも、悪魔の襲撃は時折起こった。その度にウルゴは拳を振るい、モモは銃の引き金を引いた。ウルゴの場合は拳で一撃。モモは頭に当たれば一撃、他であればおよそ三発で一体を倒すといった様子だ。襲撃が落ち着く度、やはりモモは追悼の祈りを捧げていた。
そんな彼女らを観察しながら、ムートは考察を始めていた。

(あの銃から繰り出される弾丸。普通のそれよりも遥かに威力が大きい。なにより、あの口径にも関わらず、あの娘が肩や腕を痛めた様子が一切無い)

普通の銃は口径が大きければ、その分反動も増す。彼女の扱うリボルバーであれば、なおさらだ。肩が外れたり、腕の骨にひびが入るといった事はないが、それでも連続で使用すれば、指や腕に負荷がかかるのは間違いない。だがモモに反動による影響は一切見られなかった。

(彼女の腕が桁外れに強いだけか、それも加護とやらの影響か)

どちらにせよ、彼女の銃から悪魔への対抗策を見出すのは難しそうだ。ならばウルゴの方に思考を移す。彼の方はシンプルだが、より疑問が浮かぶ。
ただの拳で、悪魔を圧倒している。ウルゴは大柄で、筋骨隆々といった外見ではあるが、それだけであれほど容易く悪魔を倒せるものだろうか。であるならば、悪魔なんぞ従来兵器で絶滅できそうだとムートは考えた。

(可能性があるとすれば、加護の存在か)

ムートの考えは間違っていなかった。聖痕を持つウルゴは、常に加護を受けている状態ともいえ、その肉体そのものが悪魔に対する武器だった。そして本から多くの知識を得ていたムートは、それに今まさに気が付いた。

「なるほど。だから君は彼女の護衛を担えているというわけか」

一人納得して呟くと、ウルゴが煩わしそうに舌打ちをした。悪魔を相手に拳を振るえばすぐにばれるとも思ったが、小型の悪魔を相手にするにはこれが一番だった。

「モモ。目当ての悪魔はまだか?」ムートに余計な声を掛けられる前に、モモに話を振る。

「もう近いです。おそらくこの先、それもかなりの大型のようです」

アミュレットを見つめながら、モモが答える。アミュレットは、昨日のセティアとサラを浄化した際に戦った邪気を元に、目的の悪魔の位置を指していた。すなわちそれは、彼女らを悪魔病へと誘発させる因果の元だった。
森が開かれると、夕日が三人を照らす。その先に、ここまで三人の前に現れた悪魔よりも、比較にならない程大きな悪魔がいた。
立派な角を三本携え、血走った眼をしており、ウルゴよりも巨大でたくましい肉体をした、大柄の悪魔。モモたちを視界にいれると、即座に接近してきた。大柄にも関わらず、まるで瞬間移動でもしたかのように、三人の前に迫る。

「よっと」

ウルゴのみが、その動きに対応した。すぐに先頭に立ち、背負った棺桶を盾にして、接近と同時に振るわれた悪魔の拳を防いだ。

「なかなかのパワーだな……っらあ!」

両手で担ぐように持った棺桶で、悪魔の拳をはじき返す。悪魔はウルゴにパワー負けして、体を後退させた。
ウルゴはすぐに次の攻撃を仕掛ける。足に力を込め、高く跳躍する。そして悪魔の頭上に達すると、棺桶に巻かれた鎖を解くと、その鎖を握りしめた。

「こいつを食らいなぁ!」

鎖を軸にして、振り下ろされた棺桶が、悪魔の顔面に命中する。大きくのけ反った悪魔に対し、地上にいるモモが接近した。

「……!」

無言で五回、引き金を引く。モモのリボルバーの装填数限界だ。狙いは無防備になった腹だった。だがこれまで悪魔に大きな風穴を開けてきた弾丸だが、この大型悪魔を相手には、傷跡をつけるのみで、貫通には至らなかった。
そしてムートは、信じられない光景を目にした。弾丸がつけた傷が、みるみるうちに塞がっていったのだ。

「邪気による再生能力ですか。これほどとは……」

弾丸を装填しながら、モモが呟く。その隣に、ウルゴが着地して並ぶ。

「もうしばらく叩いてみるか。それでもだめなら、こいつを解放する」

「そうですね。とりあえずウルゴさん。あの角を狙ってください。悪魔の力の象徴ですから、あれを壊せば再生能力もなくなるかもしれません」

「よし。じゃあお前はあの男の近くにいろ。邪気に当てられて、他の悪魔も集まるだろうしな」

「わかりました。それではウルゴさん。ご武運を」

「お互いに、な」

二人がそれぞれ、行動に移る。打ち合わせウルゴはそのまま大型悪魔と対峙し、モモはムートの元へと戻ってくる。

「おい。あんなでかい悪魔を相手に、聖者とはいえ一人で大丈夫なのか?」

「恐らく大丈夫でしょう。ウルゴさんには聖遺物がありますから」

「聖遺物……察するに、あの棺桶か」

ムートの言葉に、モモは頷いて肯定の意を示す。
聖遺物とは、暁の門が崇める主が作ったとされる道具である。そのすべてが悪魔に対し何らかの特効を示すものとされており、悪魔を遠ざける聖水や、聖装具を作る聖炎もそれだった。

「中に兵器でも積んでいると思っていたが、まさかただの重量兵器とはな」

「それは一面に過ぎませんよ。あの聖遺物は、もっと強い力を秘めていますから」

そこで一度話が途切れた。ウルゴも懸念していた通り、周囲に次々と小型の悪魔が集まってきたからだ。モモは悪魔の姿を見るや、すぐさま銃を構えて、引き金を引いた。ほとんど狙いを定めていないように見える彼女の早撃ちだが、確実に悪魔の頭部や体を捉えており、その数を減らしていく。
容赦ない殺戮だった。ムートは彼女がどんな顔でこれほどの事をしているのかと、視線を向ける。
そこにあったのは、およそ殺戮をしているとは思えない、悲哀の込められた表情だった。
自分が行っている所業を悔やむような。散っていく悪魔たちに懺悔するような。このような事をしなければならない、世の無常さを嘆くような。涙こそ流していないが、それは彼女の涙が枯れ果ててしまい、流すことが出来なくなってしまったように見えた。

「なぜ君はそこまでする?」

視線を逸らしながら、ムートが尋ねる。モモはリボルバーに装填しながらすぐに答えた。

「世界の平和を望んでいるからです」

「君一人で世界を救うと? 随分と」

「傲慢ではありませんよ。ただ、世界の平和を望む一人として、行動しているだけです」

先程までとは別の方向に銃を向け、弾を放つ。悪魔は四方から迫っていた。モモはムートの護衛に専念していた為、何匹か打ち漏らし、ウルゴの方に向かっていた。だがモモはそれに気を留めることなく、あくまで自分とムートの近くにいる悪魔だけを殺していった。
その最中、ムートは自分の懐に手を入れる。そこから取り出したのは、小型のデリンジャー銃だ。自衛の為に、常に持ち歩いているものだ。
悪魔に従来兵器は効かないと言われているが、それは教団が言っただけで、彼は完全に信じてはいない。先程の聖水もどきは失敗したが、こっちはどれほどの効果があるのか、確認しようとした。
モモが装填を始める。その間に迫ってきた悪魔に対し、ムートのデリンジャーが火を噴いた。
繰り出された弾丸が、悪魔に命中する。だがモモが撃つそれとは違い、悪魔は一切傷を負った様子がなかった。口径の大きさの問題ではない。そもそも弾丸が肉体に届かず、直前で加速度を失くしたかのように地面に落ちたのだ。

「加護の無い武器で悪魔に傷を負わせることは出来ませんよ」

ムートを一瞥すると、モモは装填を終えた銃で悪魔を撃つ。ムートの時と打って変わり、弾丸に貫かれた悪魔はそのまま消滅した。

「これで教団の発表に嘘偽りがないことがわかりましたか?」

「……ああ。癪だけどね」

ムートは悔しそうにつぶやくと、デリンジャーをしまう。この場において、どうやら自分はただの足手まといのようだ。
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