聖邪の交進

悠理

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番外編

どうか届きますように

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悪魔の蔓延る世界で、町の外へと出歩く人は数少ない。
モモのように、『暁の門』の教えを広める宣教師や、各地に聖水を届ける修道士。悪魔討伐部隊『天使』の他、許可を得た商人。あるいは町を追われた罪人などもそれに当たる。
特に商人については、護衛として天使が付くこととなっており、殆どの町では決められた時間にキャラバンを組んで移動する。
また、外へ出る者に対し、罪人以外には聖水が支給される。そうすることで、町と町の往来を少しでも安全にしようとしていた。
しかしそれも万全ではなく、時には強大な、あるいは複数の悪魔に襲撃され、なす
すべなく殺されてしまうこともあった。



モモが見下ろす先にも、一つの死体があった。獣や鳥に襲われたのか、肉が散乱としており、身につけている修道服もボロボロだった。
近くに鞄が雑に転がっており、中を見ると、何通かの手紙が入っていた。

「なるほど。こいつは配達人ってわけか」

モモの背後から鞄の中を覗きこんだウルゴが、納得したように頷いた。
外を人が往来する事が少ないのと同様、町を跨いで手紙のやり取りをする人もまた多くない。
しかしそれでも需要が生まれるのは、移民の存在からだった。
教団の加護を得られず、住んでいた町や村を追われた人々は、大抵近くにある、加護を受けた町へと流れてくる。しかし必ずしも、全ての移民を受け入れられるほど余裕があるとは限らない。
その中で、友と、時には家族と別れる事になる場合もある。そうなった彼らは、別れた相手の安否を確認すべく手紙をしたためる。
相手がどこに行ったのかわからずとも、教団によって移民の名簿は管理されている。そこで教団は彼らの手紙を預かり、教団のある町へと届けているのだ。

「彼はどちらに向かうつもりだったのでしょうか?」

自分たちがこれから進む方か。あるいはその逆か。モモは手紙を一枚手に取り、すでに死体となっている修道士を見つめるが、彼が答える事はなく、ただ上空で鳥が鳴く声が帰って来るのみだった。

「……ひとまず、私たちが向かう先に届けましょうか」

「そうだな」

ウルゴが答えると、彼はモモから手紙の入った鞄を預かった。モモが彼に礼を言うと、自分の鞄を開き、中からマッチを取り出した。

「名前は知りませんが、同じ信者として、貴方の来世での幸せを、心より祈っております」

モモがマッチを擦り、火がついたそれを死体にそっと差し出す。衣服に着いた火は、速やかに死体へと移り、静かに燃え広がった。
燃え上がる炎の前で、モモは祈りを捧げる。ウルゴはそれを少し離れた位置で見守る。
やがて火が小さくなり、間もなく消え去ろうとする頃。モモは祈りを止め、鞄から水筒を取り出すと、蓋を開け、小さくなった火に向けて水をかけた。
暁の門の教えでは、遺体は火葬するように唱えられている。聖なる炎にくべられる事で、現世の罪を浄化し、また生命の根源たる水を与えられることで、来世で生まれ変わると伝えられていた。

「ウルゴさん。鞄を」

「はいよ」

ウルゴがモモに、手紙の入った鞄を手渡す。自分の鞄を右肩に、手紙の鞄を左肩に掛けた。
手紙の数はそれほど多くない。したがって、鞄そのものはさほど重くはなかった。
しかしモモは、実際の重さ以上の何かを背負ったように、表情を引き締めた。

「それでは行きましょうか。人々の想いを届けに」

モモが一歩、足を踏み出す。ウルゴは黙って、それに続く。
その後方では、二人を見届けるように、天高く煙が立ち上っていた。
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