お隣さん家の圭くんは

角井まる子

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あり得ない失態

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「待って、待って下さい小嶋さん!!いま圭は混乱してるんです!圭の冗談を本気にしないでください!」

「冗談じゃないよ。僕は本気だ。小嶋、行って」

小嶋さんは少し困ったように笑いながらも、わたしの手を外そうと触れてくる。
圭もわたしを小嶋さんから引き離そうとしてくる。
嫌だいやだ!!ぜったい離すもんか!!死んでもこの手は離さない!!
高級であろうスーツに思いっきり皺をつけて握り込む。
誰も諦めず無言の引っ張り合いが続く中、圭は小嶋さんに目でなにか合図したらしい。
小嶋さんは軽く頭を下げると、「それでは失礼して」と胸ポケットからスマートフォンを取り出した。

ひ、卑怯だ―!!

冗談じゃない!この2年、どんな思いで必死に身を隠してきたと?!
いや元から存在感薄い人間だけど!そうじゃなくて!

金持ちばかりの学校に、圭の我が儘で無理矢理入学させられて、ただでさえ肩身の狭い思いをしてるのに、その上クラスまで一緒だと?!今日あんなことがあって、宮森さんにも忠告されたばかりなのに!
学園の生徒の構成比は特進:普通が1:9で、絶対的な少数がその他大多数を管理している、まるで社会の縮図のような構図だ。圭などファンクラブをもつカリスマ生徒は、そのほとんどが特進クラスに在籍しており、校舎すら違う普通クラスの生徒は、イベント時や登下校でしか彼らの姿を間近で見る事はない。圭のように、部活動に顔を出す人間も珍しく、その際はファンクラブや親衛隊がきっちりと周りを固めている。
もし圭が、秩序のない普通クラスになんて移ってきたら、学園は混乱を極めるだろう。圭さまファンクラブを仕切っている特進クラスの人間も、もしかしたら普通クラスに移ってくるかもしれない。
というかあの宮森は、確実に付いてくる!!

想像するだけで身震いが起きる。なんて恐ろしい・・・!

そんなことを考えているうちに、小嶋さんはスマートフォンでどこかに電話をかけ始めた。

待って!ちょっと待ってよ小嶋さん!!今決断するからー!!
麻実は覚悟を決めた。
圭が普通クラスに来て、世紀末のような無秩序な学園になるぐらいなら――!!

「わ、わかった!わたしが、特進クラスに移りますっ!!」

圭に来られるくらいなら、自分が向こうに行った方が何万倍もマシだ。
特進クラスなら人数も限られている。あと1年、どんな目に合おうと耐え抜いてみせる。
目立たなければいいんだ。圭と同じクラスでも、ただじっと、今までどおり静かにしてたらいい。
小学校の時と同じ。あの時と同じになるだけ。だから大丈夫。

「・・・麻実、ほんとう?こっちに来てくれるの?」

抵抗を止めて一気に力の抜けたわたしは、圭の腕の中で肩を揺すられる。

「ほんとだよ。もう、離して・・・」

「嬉しいよ、麻美!!また一緒に学校に通えるね!」

ぎゅうっとさらに強く抱きしめられ、ぐぇっと色気のない声が出る。
もうやめて。わたしのHPは0なのよ・・・
歓びを噛み締めている圭はほっといて、小嶋さんに目を向ければ、驚きながらも嬉しそうな表情だった。
ただ耳元のスマホはそのままである。

「小嶋さん、そういうことなので、圭パパには――」

「あ、もしもし。わたくし九条家の小嶋と申します。・・・いえ、こちらこそいつもお世話になっております。はい、広瀬お嬢様ですが、どうやら学校で体調を崩されたようでして、ええ、今圭ぼっちゃまと一緒にこちらにいらっしゃいます。・・・はい、帰りはわたくしどもが責任を持ってお送り致しますので。はい、それでは失礼致します」

通話を終えたスマホを、再びスーツの胸ポケットにしまうと、小嶋さんはニコリと微笑んだ。

「広瀬お嬢様。お母さまのご了承は頂きましたので、どうぞ夕食は我が家でお召し上がり下さい。学園の件、わたくしも大変うれしく存じます。すぐに旦那様にお伝え致しましょう。きっと、旦那様も奥様も喜ばれることでしょう。移動の手配とご両親への説明はわたくしから致しますので、どうぞご安心ください」

そうして綺麗にお辞儀をして、今度こそ部屋の扉をパタンと閉めた。
わたしは自分の失態を受け入れられず、しばらく抜け殻のように圭にされるがままとなっていた。





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