光の部屋、花の下で。

三尾

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四日目

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「……大丈夫か?」
 ほかにかける言葉を思いつけなくて、何度目かの問いを口にした。
 響野がうなずき、こちらの声を頼りにすがるように手を伸ばしてくる。俺の腕を探り当てて強く握る様子は、やはり濁流の中で藁をつかもうとする人間を彷彿とさせた。
「じゃあ、俺もそっちにするかな」
 唐突に、空き教室で聞いた響野の声がよみがえる。
 自分の進路調査票を見下ろした彼は、第一志望欄に書き入れた学校名を消しゴムで消すと、こちらが告げた偽りの志望校に書き換えた。
 驚いた、などという言葉では足りなかった。向上心があってプライドが高い。響野伸也はそういう人間だ。自分に能力が備わっているとわかっている出来の良い人間。だから、学力のように明確なものさしがある以上は、目指せる限り上を目指すべきだと考える。
 そういう人間、のはずだった。
「響野は上を狙えるんだから上に行けよ。担任に突っ込まれるぞ」
「入学するとき知ってるやつがいたほうがいいだろう? 俺も水元と一緒のほうが楽しい」
 応えるあいだ、響野は灰色の藁半紙から顔を上げようとしなかった。彼自身もこの選択が正解ではないと知っていたのだろう。
 自分の嘘が引き起こそうとしている事態に強い焦りと罪悪感を覚えた。不合理な決断をしかけている相手への怒りや苛立ちも。
 でも、胸を占めていた一番大きな感情は、喜びと……そして哀しみだった。
 俺の二の腕をつかんでいる響野の手から力が抜けて、ソファのきしむ音とともに上体が覆いかぶさってくる。また具合が悪くなったのかと相手の身体を支えようとしたけれど、俺が手を伸ばすよりも早く、彼はこちらの首に腕を回してぎゅっと力をこめた。
 驚いて声をもらしたあと、倒れかかってきたのではなく抱きしめられたのだと理解する。
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