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■アルスト山
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しおりを挟むそろり。崖下を覗いてみる。自分が足場としている岩石は、遥か奥まで垂直に、切り立った壁のように続いている。悪魔の唸りみたいな風が吹き上げてきて、内蔵が縮み上がる感覚に襲われる。
恐怖。どうせなら、恐怖は盗んでくれて良かったのに。
もう、半分ほど来ただろうか。気をつけて歩きながらも、周囲への警戒は怠らなかった。どこにコルロルが潜んでいるか分からない。あの真っ黒な翼を休め、うたた寝でもしてようものなら、そこに矢を打ち込んでやる。そのために、弓は大男に預けていない。
「ねえ、どうするつもり?」、前を歩くリーススが、こちらを振り返って声を潜めた。「どんぐりのこと、早くライアンに説明してよ。あれはガルパスおじさんに渡すんだから」
先頭に二人の大男、ガルパスおじさん、あたしとリーススを挟んで最後尾にライアンがいる。一列にならないと歩けない道幅なのだ。後ろのライアンの様子を伺ってみる。彼は体力があるようで、この崖道にも息を上げず、目が合うと笑ってみせた。
「それよりもリースス、おじさんのところに住むつもりなの?」
「もしそうなら、あなたはどうするの?」
「分からない。やつを仕留めるまでは、なにも決められない」
「そうそう! リースス、レーニス!」、リーススの前でおじさんが叫ぶ。この辺り一体に響き渡る声だった。「どんぐりは持ってきたかね?」
「ええ、持ってきたわ。リュックに入ってる」、リーススも叫び返す。
「えー? なんだってえー?」、声がでかいのは、耳が悪いせいなのかもしれない。
「リュックに入ってる!」
「そうか。あれはねえ、君たちが持ってないといけないよ。君たちの父さんが言ってたんだ、必ず二人の手元に置いとくようにってね」
「なんでえー?」
「えー?」
「なんで私たちが持ってないといけないのー?」
「はあー?」
リーススは大きく息を吸った。
「どんぐりは、なんで私たちが持ってないといけないのー?」
「知らん」、たぶん、リーススはおじさんを崖から落とそうか、一瞬迷ったと思う。「君たちに持ってて欲しいと、そう言っていたよ」
「なんだ、おじさんが欲しかったわけじゃないんだね」
「そうみたいね」、彼女は少し息を切らして答えた。
「大丈夫?」、一連のやりとりを見ていたライアンが、後ろから顔を近づけて言った。
「大丈夫。あたしたちのものなら、あたしたちが誰に渡したって問題ないはず。それよりあなた、本当にあのバケモノを殺せるの?」
「はは、俺を誰だと思ってるんだ?」、彼は右の口端だけ上げて、自信満々に笑ってみせた。よく、笑う人だな。あたしもリーススも、笑うことなく暮らしているから、新鮮だ。でも彼が誰かは知らない。
「誰なの?」
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