怪物コルロルの一生
喜び、怒り、悲しみ。感情というもの。目には見えないけれど、確かに存在するもの。感じるもの。
この国には、感情を盗む怪物がいる。名前は『コルロル』。
小さい頃に見た絵本の中では、子供だましのチャチな怪獣として描かれていたけど、実際のコルロルはそうじゃなかった。一般的な人の2倍か3倍ほどの大きさで、それだけでも恐ろしいのだけど、着目すべきは、その禍々しさだ。
カラスみたいに真っ黒の翼は、その大きな体をすっぽり覆い隠せるほど広く、体の表面は甲殻類を想起させる、岩のように固いざらざらの皮膚から成り立っている。前のめりに曲がった背中と、翼を引きずって歩くその姿は、やっぱり『怪物』というより他にない。
コルロルは殺戮者だった。コルロルが現れた村には血が流れ、家々は破壊され、やがて腐敗臭が漂い、壊滅する。そういうことが、この国の歴史の中で、何度も繰り返された。
それなのに、やつについて正確な伝承が残らなかったのは、コルロルを見た人がみんな死んでしまうから、という理由らしい。それじゃあ、なんでコルロルが感情を盗む力を持っているなんてことが分かるのか。
実は、コルロルの言い伝えの中に、そんなエピソードは出てこない。あるのは悪行の数々だけ。コルロルは感情を盗む。そのことを知っているのは、あたしが盗まれたからだ。
人の感情は『喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲』の七つに分類されるらしいんだけど、あたしが盗まれたのは、喜・楽・哀。嬉しくて喜んだり、楽しくて笑ったり、哀しくて泣いたり……つまり、前向きないい感情はほとんど盗まれたってこと。
感情が盗まれてからのあたしがどうなったか、想像つくかしら。失くなった感情を埋めるように、怒りや憎しみが足を伸ばしてのびのびと面積を広げ、深く根付いた。喜びや楽しみのない人生は、泥に足を掴まれたまま歩き続けているような不愉快さしかなかった。
あれ以来、あたしはコルロルに復讐するためだけに生きてきた。やつを見つけ出し、この手で八つ裂きにできるように、剣術や弓矢の腕を磨いた。
『ありがとう。君のおかげで、僕は人間になれるかもしれない』
そう言って人間のように笑った、あの怪物を殺すために。
この国には、感情を盗む怪物がいる。名前は『コルロル』。
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カラスみたいに真っ黒の翼は、その大きな体をすっぽり覆い隠せるほど広く、体の表面は甲殻類を想起させる、岩のように固いざらざらの皮膚から成り立っている。前のめりに曲がった背中と、翼を引きずって歩くその姿は、やっぱり『怪物』というより他にない。
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それなのに、やつについて正確な伝承が残らなかったのは、コルロルを見た人がみんな死んでしまうから、という理由らしい。それじゃあ、なんでコルロルが感情を盗む力を持っているなんてことが分かるのか。
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