怪物コルロルの一生

秋月 みろく

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■脱出

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「きっと、私が会ったのと同じ魔女だわ」

「リーススもその魔女に?」

「ええ、きっとそうよ。でもそれよりも、あとは愛を集めればコルロルは人間になれるし、レーニスの感情も元通りに戻るのね?」

 あたしの肩を掴み、リーススは慎重にたずねた。

「そう言ってたけど」

「それじゃあ簡単じゃない! あとはコルロルに愛情を向けるだけよ!」

 あたしは辺りを見回してから聞いた。「誰が?」

「もちろんレーニスよ。私はコルロルを知らないし、他の誰かが怪物を好きになるとは思えない」

「リースス、無理なの。あたしはコルロルに会っても憎いだけだったし、その憎しみすら取られたもの」

 彼女は考えるように沈黙した。あたしは頭の中で状況を整理する。

「大丈夫。コルロルが死んでも、感情は戻る。いまさら感情が欲しいとは思わないけど、やつが死ねば勝手に戻ってくるそうよ。きっともうじきよ」

「レーニスに感情が戻るのは嬉しいけど……複雑ね」

「とっても単純よ」

「コルロルの死を喜べないもの。あなたが恋してる相手なんだから」

 リーススはあたしが恋をしていると思っているようだけど、あたしには恋愛というものが理解できない。誰かを想い夜も眠れないとか、どきどきと動悸がするとか、目が合っただけで赤面してしまうとか。話を聞く限り、病気の症状に似ている。

「恋ってなに?」

「え」、リーススはあからさまにぎくりとした。「ほら……、あれよ。恋っていうのは、その、どきどきするものよ」

「愛とはどう違うの?」

「そうね。愛と恋っていうのは……」

「リーススは恋したことあるの?」

「……………………もちろん」

「その間は」

「とにかく、説明が難しいわ。ライアンに聞いてみましょう」

 ということで、あたしたちはライアンに説明を求めた。彼はおじさんの荷物から取り出したと思われる、あらゆる宝石をじゃらじゃらと全身に身に着け、うっとりしながら話してくれた。

「恋……それは麻薬さ」

 あたしとリーススは顔を見合せる。

「麻薬だって」

「麻薬だってね」

「そう、この宝石と同じ。心を惹きつけ惑わせるんだ。店の店主に買い取らせるか、貴族に売りつけるか……俺を悩ます可愛いやつめ」

「これなんの話?」

「ライアンは宝石に恋したってことじゃない?」 

「貴様! わたしの財産に触れるな!」、足をじたばたさせて、おじさんは叫ぶ。「それが一体いくらすると……レーニス! リースス! なぜそれを着ている!」

 おじさんはあたしたちを見るなり怒鳴りつけた。

「おじさんの荷物にあった服だけど」

「そういえば、なんでおじさんが女物の服なんて持ってるの?」

「その裾についてるのはダイヤだぞ!」

 リーススは片足のつま先をぴんと伸ばし、自分の着ている服を後ろまで確認する。

「これ全部ダイヤなの? すごい!」

「へえ。2人とも、よく似合ってるじゃないか」、宝石からやっと目を離し、ライアンは褒めてくれた。「同じ服を着てると、やっぱり双子らしいな」

「今すぐ脱ぐんだ! ダイヤに傷ひとつつけてみろ、許さんからな!」

「おいおい、今すぐ脱げはないだろ。紳士とは程遠い発言だな」

 鼻息あらくするおじさんを見つめ、あたしはずっと不思議に思っていたことを尋ねた。

「おじさんは、なぜそこまで金に執着するの? 恋なの?」

 怒りが広がっていたおじさんの顔に、じんわり笑みが滲みだす。おじさんは声をだして笑った。

「はっはっはっ」、おじさんの笑い声は鷹揚だ。大きなお腹の底から、声が出てくるみたい。「金は人が生み出した至高の芸術品さ。目も眩むほどのな。なぜ集めずにいられる?」

「子どもにあんたの歪んだ価値観を聞かせるな」、ライアンは後ろからリーススの耳をふさぐ。

「私の考えが歪んでいると感じる貴様の価値観も、偏狭だがな」


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