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■行き先とコルロル
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しおりを挟む「今日も、見つけられなかった」
三角に引っ込んだ、テントの低い天井を見上げ呟く。あの日以来、あたしの毎日は、こうして終わる。今日も見つけられなかったな、と思うと一日の疲れがじんわりと体に広がり、自分が次第に石になっていくような感覚に襲われると、いつの間にか眠っている。そうして朝が来る。
「残念ね」、お決まりの台詞。リーススはいつもそう言う。「どう? おじさんと暮らしていけそう?」
「なんだか、想像つかない」
「そうでしょうね。ねえ、今日は顔合わせだって言ったけど、実は必要な荷物はほとんど持ってきてるの。このまま、おじさんのところで暮らそうと思う」、リーススは淡々と告げる。「あなたはどうする?」
急に、突き放されたみたいだった。茎の繋がったさくらんぼみたいに、二つが隣り合っているのが当たり前で、一方が移動するなら必然的にもう一方のくっついていく。あたし達の関係性について考えたことはなかったけど、無意識にそういうものだと思い込んでいた。
「あたしは」、視線が彷徨う。あたしはリーススみたいに、すぐには決められなかった。「急には分からないよ。なんで? リーススはなんで、そんなに簡単に決められるの?」
「あのね、急にじゃないの。ずっと前から思ってたの。今の生活を変えたいって」
今の生活。そう言われて振り返ってみる。あたしは毎日コルロルを探しに出かけた。朝起きてから、暗くなるまで。家に帰るとリーススの作ったご飯を食べて、ほとんど会話もないままにベッドへ潜る。記憶を振り返ってみて気づいたけど、あたしは日中の間、彼女がどんなふうに過ごしているのか、全然知らない。家の中でどう過ごしているのか、何を思っているのか、全くの空白だ。ご飯は作っている。
「生活を変えたいって、そんなこと、一度も言わなかったじゃない」
「あなたに言ってどうなるの? コルロルに復讐することしか頭にないじゃない。もうそんな生活には付き合えないって言ってるのよ。うんざりなの」
リーススが全力であたしから離れていこうとしているみたいだった。そっか。ずっと一緒にいるのが当たり前だと思っていたのは、あたしだけなんだ。
「分かった。リーススの好きにすればいい。そんなに、あたしのことが嫌いだったのね」
「そうは言ってないでしょう?」
「そう聞こえるよ。言い方にも……さっきから棘がある気がする」
「よく気づいたわね。刺を出してるの。今までは気付きもしなかった」
「なんで? 不満だったの? あたし、なにかした?」、体を起こす。
リーススは膝に手を置いて、小さく息を吐いた。
「あなたはいいよね、コルロルを探すことに躍起になって、剣や弓矢の練習をして、一日中外を駆け回ってる。家にいる私は? ずっとひとりなの。あなたが家の手伝いをしたことある? 家にあるあたたかい食事を、誰が用意しているか、考えたことある?」
「そんなの、リーススが用意してくれてるのは分かってるよ。ちゃんとありがとうって毎日言ってたし」
「マニュアルに従ってね」
「そうだけど……」、自信はなかったけど、あたしは小さく聞いてみた。「寂しかったの?」
「やっと気づいた? ここまで言わないと分からないのね」
「これからは気をつけるよ。なにも出て行かなくても」
「もうこんな生活耐えられないのよ」、胸の前で、彼女は手を握る。「私はあなたを支えてきた。十年間も。あるのはマニュアルどおりの『ありがとう』の言葉だけ。感情を盗まれたという、あなたを理解しようとした。生活を投げ打ってでもコルロルに復讐したいあなたの気持ちも理解しようとした。でも無理なの。私は普通に生きたいの。もう一人は嫌なのよ」
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