怪物コルロルの一生

秋月 みろく

文字の大きさ
62 / 73
■死ぬとき

1

しおりを挟む




「ひき殺されるかと思ったよ」

 開けっ放しの昇降口に捕まるコルロルは、生きた心地がしない、というように長く息を吐きだした。腕だけでは不安なのか、座席や飛行船の尾翼にまで、黒い髪の毛みたいな触覚を巻き付けてバランスをとっている。

「ははっ、生きててよかったじゃないか。それにしても、こっぴどくやられたな。翼もボロボロだ」

 操縦席で、ライアンは顔だけ振り返り、コルロルのぼろぼろの姿を手で示す。

「やつら無遠慮に撃ってくるんだ。あんな大人数に撃たれるものの気持ちが、まったくわかってない。少しは回復したけど、しばらくは動けそうにないよ」

 一安心したのか、コルロルは伏目がちに一呼吸を置いた。が、すぐにはっとしてあたしを見た。

「レーニス大丈夫? 軍のやつらにやられなかった? 街の連中は最悪だったよね。あんな火のついた棒で殴るなんて、心あるものの所業とは思えない。火傷は? ひどくなかったの?」

「……大丈夫。服は焦げたけど、火傷は軽傷だった。さっきの兵士たちには、銃を向けられただけだったし」

 自分の目の前にコルロルがいて、生きて動いていることが、なんだか奇妙に感じられた。もう死んだんじゃないかと思っていたから。コルロルは本当に不死身なのかもしれない。

「そっか……よかった。本当によかった。君になにかあったら、僕はどうしようかと……」

 あたしはコルロルを見つめた。やつの金の目は細まり、うるうると瞳が光っている。心の底から心配しているように見えて、思わずあっけにとられる。

 こんな目を、見たことがある。迷子になったあとのあたしを、父さんが、リーススが、見つめる目だ。

「あなたの方こそ、大丈夫なの? あんなに撃たれたのに」

 コルロルはきょとんとしてこちらを見返した。「……レーニス、心配してくれるの?」

「心配なんかしてない」

 やつの横腹あたりに目がいく。家の外壁がはがれ落ちたみたいに、横腹の辺りの外皮が、広い範囲で損なわれている。そこからワイン色の血がどくどくと流れ、いったん足元まで落ちると、飛行船の後方へと散っていく。飛行船が残す、道しるべみたいに。

 体が大きいから、致死量となる出血量も多そうだけど、こんなに血を流していて大丈夫なのか。

「そっか……心配なんてしないか……。なんかちょっと、クールになったね、レーニス。もっと怒りっぽかったのに」 

 なにか気づいたように、コルロルの目が動く。やつはあたしの姿を上から下まで眺め、「え、なんでそんな可愛いかっこうしてるの」と、三角の耳をピンと立てた。

「ああ、この服」、心持ちスカートをもちあげる。「おじさんの荷物にあったの」

「そ、そうなんだ。そっか……スカートなんだ……へえ」

「……なぜそんなに見るの?」

「え、ごめん。そんなに見てた? なんだか、目が離せなくなったんだ」

「コルロル、素直すぎるぞ」、前を向いたまま、ライアンが笑う。「そういう時は褒めるもんだ。すごく似合ってる、とか、世界一可愛い、とか、天使が舞い降りたかと思ったよ! てのもいいな」

「君に言われなくても、思ってるよ。でもそんな褒め言葉は陳腐だ」

「それよりコルロル、リーススとは初めてなんじゃないか?」 

 言われて、コルロルはあたしの隣へ目を向ける。やつと目が合うと、リーススは「はい」と小さく手を振った。

「レーニスのお姉さんだよね? ごめんね、気づいてなかったわけじゃないんだけど、ひとまずレーニスの無事を確認したくて。レーニスの言っていたとおり、本当にそっくりなんだね」

「よく言われるわ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...