怪物コルロルの一生

秋月 みろく

文字の大きさ
20 / 73
■行き先とコルロル

13

しおりを挟む

 でも、コルロルの中には、あたしが彼を愛し、その愛は彼を人間へと生まれ変わらせ、十年の遠距離恋愛の末に結ばれる、という筋書きが完成しているようだった。

「あたしは、あなたを見ているとイライラするし、一緒にいても楽しくないし、嬉しくもないし、ひとかけらも笑わないし、あなたが死んだところで哀しくもないけど、それでも愛することができるって言うの? あたしが向けられる感情は、憎しみだけよ」

 ライアンが頭を抑える。「ひどいフリ方だ……」

「ひどいの?」、ぬいぐるみはあたし達を不思議そうに眺める。「ああ、最悪さ」、ライアンがつぶやき答えると、「ひどいんだ……」、刺繍糸の口をへの字に曲げて、ぬいぐるみがあたしを見る。

「いたたまれなくて、コルロルを見れないよ」

「ちょっと待って、あたしは事実を言っただけよ? ひどいことない。それに、怪物がこんなことで傷ついたりする?」

「本当にそう思うか? それじゃあ確認するぞ? 君がひどくないなら、コルロルは平気にしてるはずだ。コルロルの方を振り返ってみるぞ? せーの、一・ニの三」

 あたし達は同時にコルロルを見た。やつは岩の上で体育座りをして小さく体を折りたたみ、膝に顔を埋めて突っ伏していた。

「みろ! 手本のような落ち込みっぷりだ! 人間でもこう分かりやすいやつはいない!」

「あ、あたしを責めないでよ。楽しいや嬉しいを盗んでおいて、恋愛してるつもりのあいつがおかしいんじゃない」

「……もちろん、このパターンも考えなかったわけじゃない」、たぶん考えてなかったんだろうと思わせるぎこちない声で、コルロルは言う。「でもちょっと……その辺をひとっ飛びしてくるよ」

 そう言って立ち上がろうとしたところで、コルロルはよろめいて岩から落ちた。どすん、と大きな音がする。

「大丈夫?」、ぬいぐるみが駆け寄る。

「大丈夫じゃないよ、見てた? 転んだんだ。痛いに決まってる」、コルロルは起き上がり、自分の顔を指差してぬいぐるみに見せた。「ここ、腫れてない?」

「……レーニス、俺はだんだん、あの怪物のことが恐ろしくなくなってきたよ」

「ひどく気弱なのね。拍子抜けしちゃう」

「そういえば」、ライアンはあたしの隣り、何もない空間を見た。「リーススは?」

 あたしはハッとした。

「そうだ……そうだそうだそうだった! リースス!」

 一気に狼狽した。あたしは自分の頬を両手で抑える。
 その様子に気づき、コルロルは立ち上がった。「リーススって、レーニスのお姉さんだよね? 前に言ってた」

「リーススが、どうしたんだ? そういえば、ガルパスが捜してこいって言っていたが」、ライアンは顔を覗き込んでくる。

 どうやったら、喜んでくれる? ねえ……。初めてみたリーススの涙が、思い出される。

「喧嘩したの。それで、リースス、どこかへ行っちゃった。どうしよう、おじさんに見つかってたら……」

 見つかってたら、なに? 殺される? それで? なぜあたしはこんなに慌てているの? リーススが死んだって、あたしはきっと、哀しくないのに。

「そうか。そいつは心配だな。でも、この暗い中探すのも危険だ」

 辺りは暗かった。頼れるのは、半分になった月明かりしかない。

「朝まで待とう」、とライアンは言ったけど、リーススが今でも泣いているような気がして、落ち着けそうになかった。

「リースス、泣いてたの。今も、泣いてるのかな」

 それには答えず、ライアンは「なぜ喧嘩を?」と尋ねてきた。あたしは経緯を説明した。

「レーニス、ここは君のためにはっきり言わせてもらうが」、話を聞き終えたライアンは、その前置きの通りきっぱり告げた。「君が悪い」

「……やっぱりそうなの?」

「あんまりだ、リーススが可哀想だよ。君はコルロルに感情を奪われた。それはもちろん、同情するよ。でも君の十年間の過ごし方は、リーススの感情を奪ったと言えるかもしれない」

「あは、ねえ見てみてー、変な石ー」、ぬいぐるみが柔らかい両手で石ころをはさんで掲げてくる。どうみても普通の石だ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...