怪物コルロルの一生

秋月 みろく

文字の大きさ
52 / 73
■笑顔

3

しおりを挟む



「ははっ、お揃いの服しか見てないから、そうなるんだ!」、言って、軽やかに指笛をならす。高い音が喧騒に染み込めたかは分からないけど、ライアンは続けて叫んだ。「コルロルー!! レーニスとリーススはもう大丈夫だ!! 引き上げるぞー!!」

「コルロル……生きてるの?」

 離れていく街の広場を振り返る。黒い翼がいっぱいに広がったところだった。離れて見ていると分かり易い。コルロルの周りから、さーーーと人が引いていく。

「よく無事だったね。あの時の爆発、すごかったのに」

「まあね。あれは爆発の直前に逃げられたから良かったけど……。ここに来るまでが、本当に大変だった。レーニスは夜には火あぶりだって言うし、兵隊は誰もかれも銃を持って八方ふさがりに迫ってくる。もう終わりかと思ったけど、土壇場でいい策を思いついた。俺は軍服を着ていた。だから俺がコルロルを仕留めたことにして、街まで運ばせたんだ」

「……すごい。コルロルはずっと、死んだふりをしていたの?」

「まあ実際に殴って気絶させてたんだけど。名づけて、『殺される前に死んじまえ作戦』」

「そのネーミングはどうかと思うわ」

「ははは、その冷めた態度も懐かしく感じるよ。さあ、いくぞ! 馬よ、駆けろ! どうだ? 俺ってなかなか、ヒーローみたいじゃないか?」

 馬は森の中を疾走する。満足そうな高揚した声を聞きながら、あたしはライアンの広い背にもたれ、猛スピードで過ぎていく木々を見ていた。

「……リースス」

 ライアンの腕の中にいるリーススへ呼びかける。『もう限界なのよ、1人は嫌なのよ』、そう言って、初めて泣いたリーススのことを思い出す。

「もう、怒ってない?」

 ライアンの脇から前を覗く。すぐに返事はなかった。代わりにライアンが喋った。

「そうか、二人は喧嘩別れしてから、久しぶりの再会なのか。それにしても、テディがリーススだったなんて、びっくりだよ。ちなみにテディを逃がしたのも俺だよ、一応言っとくけど」

「テディ? テディってなんなの?」、リーススは不思議そうに尋ねる。

「ぬいぐるみだったのよ。汚れたテディベアで、良く笑って、けっこう毒舌だった。さっきは、焼かれそうなあたしの元に来たわ。死ぬときは、一緒だって」

 炎を背負うテディベア。焦げる匂いと、落ち着いた笑顔のアンバランスさを思い出す。年齢不詳なあの声で、テディは言った。『死ぬときは、一緒だよ』

「死ぬときは一緒ですって? ぬいぐるみになったあたしが、そう言ったの?」

「……そうだけど」

 リーススはおかしそうに、声を出して笑った。

「ぬいぐるみになっても、私は私ね」、彼女は晴れやかな顔で、空へ見上げる。「もう怒ってないわ。なんだかとっても、気分がいいの」



  ▲
  ▲
  △


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...