怪物コルロルの一生

秋月 みろく

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■行き先とコルロル

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「十年前、こいつに感情を盗まれたの」

「感情を?」、ライアンは眉を歪める。「感情なんて盗めるの?」

 あたしは岩に腰を降ろし、十年前の出来事を語った。今まで断片的にしか覚えていなかったけど、さっき走馬灯を体験してからは、蘇ったように記憶が鮮明だった。

「たしか、今の家に引っ越すときだった。朝はやくから準備をして、父さんが馬に乗って、あたしとリーススは馬が引く荷車に乗ってた」

「僕はそのときから見てた。木の上から、山に入ってくるのが見えたからね」

「道中、昼食を摂ったとき、あたしとリーススはその辺りを冒険して、あたしははぐれてしまった。それで、橋を渡ったんだけど、落ちちゃったの」

「そう、それが僕たちの出会いだった。僕が助けたんだ」

「そのあと、たしか、少し話をしたわ。どんな話だったか、詳しくは覚えてないけど、リーススたちと合流できた時にはもう夜で、あたしからはいくつかの感情が失われていた」

「あの時は楽しかったよね。たくさん遊んだんだ。遊ぶなんて、僕には初めてのことで」

「ちょ、ちょい待ち」、両手をだし、ライアンは待ったをかける。「話が入り乱れてる。あんた、おしゃべりなんだな。見かけによらず」

「人は言語でコミュニケーションをとるものだろう? ま、簡潔に言うと、喜・楽・哀だね。僕がレーニスから盗ったのはその三つだ。大まかに分類してのものだから、細かく言えばもっとたくさん盗ってる」

 あたしはじっとコルロルを見据えた。

「ずっと不思議だった。どうやって感情を盗んだの?」

 金色の目が、きょとんと丸くなる。「覚えてないの? あのとき説明したのに」

 落胆を表すように三角の耳端が垂れる。コルロルは首に下げているピラミッド型の透明なガラスを、鉤爪の先でそっと掴んだ。

「なんだそれ。その、中の煙みたいなのは」、数歩近づき、ライアンは目を丸くした。

「感情だよ」

 透明な三角錐の中は、色とりどりの気体で満たされていた。青・赤・黄などの数種類があるが、それぞれは端から混じり、混ざった部分はまた違う色を主張している。

「元々ね、僕は無害な怪物だったんだ。怪物っていうのも、人間が勝手にそう呼ぶだけなんだけどね」

 やつは遠い目をして語り出す。コルロルの話はこうだった。

 ずっと一人ぼっちのまま、コルロルは彷徨っていた。人間はコルロルを見ると、悲鳴を上げて逃げ出すか、攻撃的になるかのどちらかだった。

 コルロルは、人間のことがいまいち理解できなかった。姿形だけで相手を判断し、凝り固まった価値観のみを信用する、愚かしい生き物だと思っていた。でも、自分と同じような怪物はどこにもいなかった。コルロルはずっとひとりだった。

 ある日、魔女に出会った。
 実際に魔女なのかは分からない。薄汚い布を頭から被り、女のような声で話し、不思議な力を持っていた。だから魔女だと思った。

 魔女は透明なピラミッド型の水晶をコルロルに差し出した。

『喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲。七つの人の感情を集めれば、お前は人間になれる』

『人間? 僕が?』、コルロルは失笑する。『なんで人間なんかに成り下がらないといけないんだ。やつら、視野が狭いんだ。偏狭でくだらない。なぜ僕みたいに唯一無二で特別な存在が、ありふれた人間なんかに』

『残念だ、この話は無かったことに』

『まあ面白そうだから受け取っておくけど』

 魔女はそのネックレスについてこう説明した。

『いいかい? 集められるのは、お前に向けられた感情だけだ。そして集めた感情は、その人間から失われる』

『ようは盗むってことだね』

『いいや、借りると言うのが正しい。お前がこの世から立ち退いたとき、その水晶も砕ける。そして借りていた感情は、各々元の宿主に戻る』

『完全に自分のものにしようと思ったら、七つコンプリートして人間にならないといけないってことか。ところで、僕が元々持っている感情は、カウントされないの?』

『あくまで人間から集めたものだけが、お前を人間へ変える』


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