怪物コルロルの一生

秋月 みろく

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■塔の中と処刑

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 そこに見張り役はいるはずなのに、返事はない。取り合うつもりがないらしい。あたしは今一度声を強めた。扉を叩いてやりたいけど、扉には届かないように、鎖の長さが調整されている。

「これは本当のことなの。さっきはちょっと動転してて、ちゃんと説明できなかっただけなの。あたしはあいつの仲間なんかじゃないし、この街を襲う気もないのよ。そもそも、襲う理由がないわ」

「もう決まったことだ」、めんどくさそうな低い声が返ってくる。「それより、さっきから独り言が多いぞ」

「本気? 本気であたしを火であぶるつもり? そんなのって、ひどいと思わないの?」

「もう決まったことだ、静かにしてろ」

 元の場所まで引き返し、あたしはそこに座りこんだ。テディーがあたしの前に立つ。

「どうしよう。まったく相手にされてない。そこで考えたんだけど、色仕掛けなんかどう? ちょっと色気を出せば、あの見張り役、逃がしてくれないかな」

「それは無理だよ。絶対ムリ。私がやった方がまだいいかも」

「…………そっか。テディー、けっこう毒舌なのね。でもあたしも、ちょっとくらい胸の谷間とか出せば」

「谷間があればの話だよね」

「そうね。正論だわ」

 色仕掛けが無理となると、いよいよ実力行使的な方法で抜け出すしかない。
 この部屋の扉は、鍵で施錠されているわけではない。こちらから開くためのとっかかり、ドアノブがないだけだ。重い鉄の扉だから、それでじゅうぶん逃亡を防ぐ仕掛けなのだろう。

 見張りは一人。鎖の足枷をはずすための鍵は、そいつが持っている。扉には、食事の運び入れに使われている受け渡し口がある。横広い四角の穴。あたしは当然出入りできないけど、テディーのサイズなら……。

「頭、大丈夫?」

「へ?」、頭がイカれたのか? そう尋ねられたのかと思った。

 テディーは自分の頬を、短い手でぽんぽんと叩いていた。「あー」、あたしのおでこから血が垂れて固まっている。おでこを指したかったけど、テディーの手じゃ自分の頭に届かないから、頬を指してしまったようだ。

「もう大丈夫だよ」

 この塔に来るまでの道のり、あたしは木の板にくくりつけられ、まるで見世物のように人々のひしめく広場を運ばれた。

 あの時の広場に集まった人たちの、畏怖と憎しみにまみれた顔。顔。顔。怒りをこめて投げられる石。石。石。そのひとつがおでこに当たって、血が流れた。目の前で思い切り鈍器を振られたような衝撃だったけど、それは手で握れるくらいの石ころだった。あたしは石を投げたオヤジを睨んだ。顔も覚えた。

 小柄で白髪の男だ。よれた白いシャツを着ている。目は鋭いが眉は垂れている。鼻がでかくて口は薄い。どことなく幸の薄そうな印象を受ける顔だった。

「今度会ったら、石ぶつけてやるから。それより今は、ここから逃げないと」

 でも、と心の中で言葉が続く。でも、あたしはどこへ向かい、誰と会えばいいんだろう。 今まではずっと、リーススと生活していた。でも、リーススは……。

「ねえテディ、あたしって、一緒にいてつまんない?」

「ん~……普通」

「………あなたって、可愛げのないぬいぐるみね」

「だって、ほつれてるし」

「性格のことを言ってるんだけど」
 
 なんだかテディ、少し、大人になった? 会ったばかりの時は、ただ生きていることを喜ぶぬいぐるみだったけど、それからのすったもんだが成長させたのか、ちょっと落ち着いてきた気がする。思春期の子供みたいな。

「まあいいわ。つまんないと思われていないだけ。もっと小さい頃ね、学校に通ってたの。リーススと一緒に。あたしは一人も友達がいなかった」

「あはは、おもしろい。うんうん、友達できなさそうだもん」

「あのね、そんなことばっかり言ってると、その汚れた布を引きちぎるわよ」

「あーやだやだ、怖い怖い」


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