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■負傷と大群
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しおりを挟む「ライアンの策は、だいたいうまくいくからね」
「ライアン? ああ」、架空のヒーローのことか。策士なヒーローなのか?「なあコルロル」
「なに」
やばい時ではあるが、尋ねてみた。「ライアンっていうヒーローは、コルロルのことも助けると思うか?」
コルロルの返事は、意外なものだった。「ライアンは、怪物をやっつけるヒーローだよ」
「……それ、読んでて楽しいのか?」
「僕に似たのがやられた時は複雑な気分だったよ。どっちを応援するべきか」
「それはそうだ」
「怪物を助けてくれるのは、偽物のライアンだけみたいだね」
俺は俯いて、そこにあった手のひら程度の石を握りこんだ。これが最後の時なら、彼に伝えたいことがあった。
「いいかコルロル、俺たちはここで終わる」
「……そうなの?」
「状況を見てみろ。例外なく武器を携えた兵の大群が、俺たちめがけて押し寄せてきてるんだ。レーニスはもうすぐ火炙りだし、絶望的だ」
言いながら、俺は石で地面を削って、絵を描いた。即興の下手なレーニスだ。頭には髪飾り。
―――『あたしはコルロルを殺せない』、そう言った笑わない少女の姿が、頭の中にあった。あの時感じた違和感。俺は、思ったんだ。
「これから死んじまうんだから言うが……俺はずっと、寂しかった」
突然の台詞に、やつは俄かな驚きを示して瞬く。俺は構わず言った。
「一人でいることが……誰にも認められないことが。愛されないことが。全部が俺を心細くさせた。愛情という枠組みからつまはじきにされた自分の運命を、呪って生きてきたよ。親に甘える子供を見て憎らしくも思った。もしかすると、この途方もない寂しさは、君と共通しているかもしれない」
コルロルは少しだけ笑って見せる。「分かるよ、オプレタ」
言おうとしていたことが、全部吹き飛んでしまうようだった。オプレタ。捨てた名に、一体どんな愛着があるっていうのか。かつて俺の母親だった女が、そう呼んでいたってだけなのに。愛の源みたいな懐かしさがこみ上げてきて、俺は目頭を抑えた。
「……聞いてくれ。ヒーローライアンみたいな解決策じゃないが、希望のある話なんだ」、雲散しかけた話を、頭の中でたぐり寄せる。「レーニスが言ってたろ? 失った感情の分は、ぽっかり空いてなくなるんじゃない、別の感情で補われるって」
コルロルは急な話に追いつけない様子で、「ああ……言ってたかな」と漏らしたが、なんで今そんなことを、という不審さを滲ませる。それでも奴の金の目は、地面をはしる石を追っていた。
「そこで思ったんだ。君がレーニスから盗んだ、嬉、楽、哀。この三つを差し引いてしまうと、芽生えるのが難しい感情はいくつもある。それらの感情に台頭したのが、憎しみや怒りだった。本当は別のものなのに、長い月日をかけ、レーニスの中で憎しみとして成長した。それって、まやかしじゃないか? あてがわれた代理の感情ってことじゃないか?」
コルロルの絵ができる。レーニスとコルロル、並んだ二人の間に、またガリガリ。
「そこで問題だ。あの膨大な憎悪は、本当のところはなんだと思う?」、二人の間に、ハートマークが刻まれる。気分はまるで、名探偵。「それってさ、愛じゃないか?」、押し寄せる大勢の雑踏が、地響きにも似た終わりを告げる。いたぞ、あそこだ! そんな声を聞きながら、なんでか俺は、すごく嬉しかった。
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