怪物コルロルの一生

秋月 みろく

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■行き先とコルロル

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「てことは……ちょっと待って」、話を聞き終えると、ライアンは整理が追いつかいない、という様子で頭を抑えた。「二人は……恋人同士ってこと?」

「そうなるね」

「ならないわ。こうして聞いてみても違和感だらけよ。それ、本当にあたしなの? でっちあげじゃないの?」

「え、事実だよ。心外だな」

「それじゃあこの憎しみはなんなの? あんたの話だと、あたしはまるで恋をしてるようじゃない」、あたしはコルロルに詰め寄る。

「し、してたんだよ」

「俺もそう思うな」

「ありえない」、思わず足を踏み鳴らす。「そんなはずない、あたしがこのバケモノに恋をするなんてありえない」

「そう思うのは、僕が盗んでしまったからだろうね」

「この場合、心を盗んだってことかな」

 コルロルとライアンは、顔を合わせたかと思うと、『ヒュウーーー』と口を鳴らし、指をさし合った。

「……」

 バケモノのくせに、なかなか高度なコミュニケーションをするじゃない……。今のはマニュアルにも載ってないわ。

「そういうわけだから、僕はずっと遠距離恋愛ってやつを楽しんでたんだけど」

 あたしは顔をしかめる。「十年も?」

「何百年も生きている僕からしてみれば、十年はあっという間だよ。でも、そうか……レーニスからすれば長いのか……その間一度も会わないなんて、恋人としては異常、になるのかな?」

「そうだろうな」、ライアンが答える。

「そっか……気付かなかったよ」

「まあいいわ」、話に終止符を打つ。目を閉じ、長く息を吐き出す。「納得のいかないところはあるけど、話を聞けてすっきりした。あんたを殺せば、感情は戻るのね?」

 剣や弓をはテントに置いてきてしまった。でも、サバイバルナイフがある。あたしはナイフを握り、前へ構えた。「わあ」、コルロルは無表情に声を出す。その前にライアンが体を滑り込ませ、間に立った。

「待て待て、レーニス。落ち着けよ」

「邪魔する気? あんたがあたしを騙して、どんぐりを盗もうとしたのも、忘れてないわよ」

 そんなことはこの際どうでもよかった。ただ、彼はコルロル側に立っている。つまりは敵だ。

「悪いが、殺すつもりなら俺は止める。コルロルには国から多額の懸賞金がかけられているけど、そいつは惜しいけど、それでも止める」

「なぜ? そいつは怪物よ? 多くの人を殺したし、あたしの感情を盗んだ」

「命を助けてもらった」、ライアンは声を強め、両手を胸に当てる。命のありかを示すように。「レーニス、君もだ。俺は一度だけど、君は二度も助けられてる」

 一歩、歩を進める。じゃり、足元で砂が音を鳴らす。「それでも、憎まずにはいられないのよ」

「ふふ、ふふふふー」
 
張り詰めた空気の中に、突如間の抜けた笑い声が放り込まれる。

「やだ、だめだめ、殺すって? 物騒な話。うふふ」

 どこかもったりとした、男なのか女なのか、老人なのか子供なのか、判断しづらい声だった。その声はすぐ近くで聞こえていた。しかし背後を振り返ってみても、絶壁の岩があるだけだ。

「レーニス」、ライアンがあたしを指差す。「それ……」

 困惑しているのを、無理に笑わせて引きつった顔だった。あたしは自分の足元を見た。

「だめだよー、憎むなんて。みんな、仲良くしよう?」

 テディーベアだった。テディーベア……要するに、ぬいぐるみだ。茶色くて、片方の目は、糸がほつれて取れかけている。二足で立つそのぬいぐるみは、ところどころ綿の飛び出す短い両手を広げて、こちらを見上げていた。

「な、なにこいつ」

「生きてる、のか……?」

「生きてる? そう! すごぉーく、生きてるって感じ!」、テディーベアを興奮ぎみに、その場で駆け足するみたいに両足を踏み鳴らす。「なーんかよく分かんないけど、生きてるってきっもちいぃー!」

 捨てられたぬいぐるみに、命が吹き込まれた。テディーベアの汚れた風貌と、手放しの生への解放感が、そういう経緯を想像させる。ライアン達も、同じように感じ取ったみたい。あたし達は顔を見合わせた。


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