寄生宿めぐり

秋月 みろく

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寄生宿めぐり

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 生命も混ざり溶け込むような、深い深い夜のこと。私は薄い透明の羽をいっぱいに伸ばして、いっちばん高い木のてっぺんまで一気に飛んだ。葉っぱの上に着地して、顔を上げる。空にはまん丸おおきなお月様。

 やっと、この日が来た。私はドキドキして月を見た。
 月の前を、薄い雲がゆっくり流れていく。雲間を縫うように、ちら、ちら、と月明りが顔を出す。

 ああ、雲さん、はやく流れちゃってよ。いつもは背中を焼き付ける陽を遮ってくれて感謝してるけど、今はもどかしくてしょうがないの。

 はやく、はやく。あとちょっと。もう少しで、このちっぽけな緑色の体は終わりになるのよ。

「姉さま!」

「ミノ子姉さま!」

 びん、と羽音が聞こえたかと思うと、妹分たちが一斉に辺りの木から飛び出して、私の前までやっていた。一番前にいるのが、特に私を慕ってくれたサナ美だ。

「姉さま、もう成長されるのですね!」

「なにも言わずに行ってしまわれるなんて……祝の儀式も行わず……!」

 彼女は絶え間なく羽を動かして一点に浮かんだまま、せわしなく細い肢を振った。

「まあまあ、そう言わないで。儀式なんてしなくても平気よ。大人には、一人でなるものなんだから」

「そういうわけにもいきません!せめて私たちが聖歌を奏で、人道の輪になります!」

「そんな、いいのに」

「さあ、行くのよ!」

 彼女の号令一下、何百何千とも数え切れない同志が、一陣の風のように空を駆け上がっていく。彼女たちの姿は、螺旋となって月まで伸びて、月明かりの通り道を私まで繋げてくれたようだった。すぐに聖歌が聞こえてくる。私はいっそう感激して泣いてしまいそうだった。

「みんなありがとう!私うんと大きく綺麗になって、素敵な宿を見つけるわ!みんなもきっと、私に続いてね!」

 妹分の螺旋の先、雲が流れていく。そのとき月は、くっきりとした輪郭をあらわし、惜しみなくその光を私に注いだ。

「ああ……きた……」

 とくに痛いとか、苦しいとか、そういう感じはなかった。月明かりはただ、熱く……焼けるように熱い膨張変化の中で、私は落下の浮遊に意識を奪われていった。固い地面が、体を受け止める。不思議と痛みはなく、音だけが大きく響いた。

「ったくなんだよ今のは……って、わあ!なんだあんた!は、はだ、裸で人んちに……い、生きてる、よな?」

 声が聞こえた。体が重い。よかった。成功したんだわ。急に安心してしまって、私の意識は奈落の底へ沈んでいった。

                
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