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おっさん、綾華を家族に紹介する
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いきなりの事にロクに受け身も取れないまま、除雪された雪山に吹き飛ばされた。
右頬がジンジンする、歯は折れていないみたいだが口の中は多少切ったかもしれない。
親父は体調くずしてんじゃなかったのかよ。
「お、親父、いきなり何すんだよ!」
「うるせえ! ずっと連絡よこさなかった親不孝者が会社を首になった途端に里帰りか! 甘ったれんじゃねえぞ。立て! その腐った今生叩き直してやる」
親父が怒鳴りながら俺に近づき拳を振り上げる。
ちょ、待って、てか、なんで俺が会社をクビになった事しってんの?
とりあえず、親父の拳から逃げなきゃいけないが背負った荷物が雪に埋もれて身動きが出来ない。
容赦なく振り下ろされる拳に覚悟を決めて目をつぶった。
「おやめくださいませ!!!」
綾華の声にうっすら目を開けると、綾華が俺をかばう様に立っており親父がポカンと動きを止めていた。
立つ綾華の足が微かに震えている。
突然の綾華の登場に、親父は振り上げた拳と綾華を交互に見て戸惑っていたが、拳を下ろし咳払いをした。
「あー、べっぴんさん。アンタ、誰……」
親父が気まずそうに綾華に尋ねる声を遮る様に、にぎやかな声が旅館の入り口からしてきた。
「大声がしたが何の騒ぎだい???」
「お父さん、声が大きいよ」
「おじいちゃん、ギックリ腰で辛いって言ってたんだから、大人しく寝てなよぉ」
入り口から現れたのは、お袋と姉貴と姪っ子たちだった。
親父の目の前に立っている綾華を見つけると、姪の亜紀が「可愛いぃ」と言いながら駆け寄ってくる。
「いらっしゃいませー、ご予約の方ですか? お一人様です? お連れ様はいらっしゃいますかぁ?」
亜紀のまくしたてる様な質問に、綾華は戸惑いながら俺の方を向いてきた。
綾華の視線につられるように亜紀も視線を移してきた。
「あれぇ、英二おじさんじゃん。しばらく見ないうちに痩せたねぇ」
オイ、久しぶりに会った叔父に対してかける言葉がそれか?
亜紀の声にお袋と姉貴も綾華の背中越しに俺を見つける。
「英二じゃないかい! 連絡したのは昨夜なのにもう来るなんて、どんな手品を使ったんだい。お母さん嬉しいわぁ」
「帰ってきた早々、雪に埋もれて遊んでるなんてお前は子供か?」
お袋は嬉々として、姉貴は冷めた目で俺を見下ろしながら近寄ってきた。
俺の身内勢ぞろいと分かると、綾華は緊張した面持ちで三歩ほど後ろに下がり、お袋たちに道を開けた。
「いや、遊んでるわけじゃなくて、親父に殴られて吹っ飛ばされた」
「いい年した大人が何をやられてるんだ、情けない」
「そう言わないでよ、姉さん。ごめん、ちょっと手を貸して。リュックが雪に埋もれて立ち上がれなくて」
「本当に情けないね。ほら、手を出しな」
綾華の荷物を持っていない方の手を差し出し、姉貴に引っ張り上げてもらった。
その際に、綾華の旅行カバンに目を向けた姉貴は不思議そうに聞いてきた。
「そのカバン、お前のじゃないだろ。有名ブランドの超高級品だぞ」
「あぁ、これはそこにいる子だよ。実家に帰って来るのについてきたんだ」
みんなの視線が集まると綾華は緊張した面持ちで居ずまいを正し、軽く腰を折り曲げた。
「初めまして、英二様のご家族の皆様方。四条 綾華と申します。英二様には日頃からお世話になっております。この度、父よりキチンとご挨拶する様に申し遣って参りました」
綾華のバカ丁寧な挨拶に親父たちはみんなポカーンとしていた。
姉貴が訝し気に俺を見て、再び綾華に視線を向ける。
「えっと、何か今、英二の事を様付けで呼んでた様な気がするんだけど、こいつ、君に何かしたのかな?」
「はい、英二様はわたくしを暴漢から助けてくださいました。わたくしの恩人ですの」
「ですのって……。えーと、もう一度聞くけど、君は英二の何かな?」
「英二様はわたくしの大切な方ですの」
ぶ、待て綾華、その言い方はまずいって。ほら、みんなの視線が一斉に俺を向いてるし。
慌てて訂正の言葉を言おうと思ったが姉貴に先を越された。
「えーと、念のために聞くけど大切ってどういう意味かな?」
「あの、その……英二様をお慕いしております」
「若いようだけど、君の年齢は?」
「今年で十六歳になりましたわ」
場が沈黙に包まれた。親父もお袋も唖然としている。
同い年の亜紀だけは何故か目を輝かせている。
姉貴は笑みを浮かべながら、俺の方を振り向く。
「……英二」
「……はい、なんでしょう姉さん」
「父さんに殴られたのは、どっちの頬だっけ?」
「……右頬です」
瞬間、俺の左頬に姉貴の平手打ちがさく裂し、俺は再び雪の中に埋もれた。
右頬がジンジンする、歯は折れていないみたいだが口の中は多少切ったかもしれない。
親父は体調くずしてんじゃなかったのかよ。
「お、親父、いきなり何すんだよ!」
「うるせえ! ずっと連絡よこさなかった親不孝者が会社を首になった途端に里帰りか! 甘ったれんじゃねえぞ。立て! その腐った今生叩き直してやる」
親父が怒鳴りながら俺に近づき拳を振り上げる。
ちょ、待って、てか、なんで俺が会社をクビになった事しってんの?
とりあえず、親父の拳から逃げなきゃいけないが背負った荷物が雪に埋もれて身動きが出来ない。
容赦なく振り下ろされる拳に覚悟を決めて目をつぶった。
「おやめくださいませ!!!」
綾華の声にうっすら目を開けると、綾華が俺をかばう様に立っており親父がポカンと動きを止めていた。
立つ綾華の足が微かに震えている。
突然の綾華の登場に、親父は振り上げた拳と綾華を交互に見て戸惑っていたが、拳を下ろし咳払いをした。
「あー、べっぴんさん。アンタ、誰……」
親父が気まずそうに綾華に尋ねる声を遮る様に、にぎやかな声が旅館の入り口からしてきた。
「大声がしたが何の騒ぎだい???」
「お父さん、声が大きいよ」
「おじいちゃん、ギックリ腰で辛いって言ってたんだから、大人しく寝てなよぉ」
入り口から現れたのは、お袋と姉貴と姪っ子たちだった。
親父の目の前に立っている綾華を見つけると、姪の亜紀が「可愛いぃ」と言いながら駆け寄ってくる。
「いらっしゃいませー、ご予約の方ですか? お一人様です? お連れ様はいらっしゃいますかぁ?」
亜紀のまくしたてる様な質問に、綾華は戸惑いながら俺の方を向いてきた。
綾華の視線につられるように亜紀も視線を移してきた。
「あれぇ、英二おじさんじゃん。しばらく見ないうちに痩せたねぇ」
オイ、久しぶりに会った叔父に対してかける言葉がそれか?
亜紀の声にお袋と姉貴も綾華の背中越しに俺を見つける。
「英二じゃないかい! 連絡したのは昨夜なのにもう来るなんて、どんな手品を使ったんだい。お母さん嬉しいわぁ」
「帰ってきた早々、雪に埋もれて遊んでるなんてお前は子供か?」
お袋は嬉々として、姉貴は冷めた目で俺を見下ろしながら近寄ってきた。
俺の身内勢ぞろいと分かると、綾華は緊張した面持ちで三歩ほど後ろに下がり、お袋たちに道を開けた。
「いや、遊んでるわけじゃなくて、親父に殴られて吹っ飛ばされた」
「いい年した大人が何をやられてるんだ、情けない」
「そう言わないでよ、姉さん。ごめん、ちょっと手を貸して。リュックが雪に埋もれて立ち上がれなくて」
「本当に情けないね。ほら、手を出しな」
綾華の荷物を持っていない方の手を差し出し、姉貴に引っ張り上げてもらった。
その際に、綾華の旅行カバンに目を向けた姉貴は不思議そうに聞いてきた。
「そのカバン、お前のじゃないだろ。有名ブランドの超高級品だぞ」
「あぁ、これはそこにいる子だよ。実家に帰って来るのについてきたんだ」
みんなの視線が集まると綾華は緊張した面持ちで居ずまいを正し、軽く腰を折り曲げた。
「初めまして、英二様のご家族の皆様方。四条 綾華と申します。英二様には日頃からお世話になっております。この度、父よりキチンとご挨拶する様に申し遣って参りました」
綾華のバカ丁寧な挨拶に親父たちはみんなポカーンとしていた。
姉貴が訝し気に俺を見て、再び綾華に視線を向ける。
「えっと、何か今、英二の事を様付けで呼んでた様な気がするんだけど、こいつ、君に何かしたのかな?」
「はい、英二様はわたくしを暴漢から助けてくださいました。わたくしの恩人ですの」
「ですのって……。えーと、もう一度聞くけど、君は英二の何かな?」
「英二様はわたくしの大切な方ですの」
ぶ、待て綾華、その言い方はまずいって。ほら、みんなの視線が一斉に俺を向いてるし。
慌てて訂正の言葉を言おうと思ったが姉貴に先を越された。
「えーと、念のために聞くけど大切ってどういう意味かな?」
「あの、その……英二様をお慕いしております」
「若いようだけど、君の年齢は?」
「今年で十六歳になりましたわ」
場が沈黙に包まれた。親父もお袋も唖然としている。
同い年の亜紀だけは何故か目を輝かせている。
姉貴は笑みを浮かべながら、俺の方を振り向く。
「……英二」
「……はい、なんでしょう姉さん」
「父さんに殴られたのは、どっちの頬だっけ?」
「……右頬です」
瞬間、俺の左頬に姉貴の平手打ちがさく裂し、俺は再び雪の中に埋もれた。
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