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白の記録 十三
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「久々に心の底から驚きました」
「悪かったって、すまないと思っているよ、流石に神経の通っている耳の長さを二倍にしようって心持ちで引っ張ったのは暴力でしかなかった」
「本当に悪いと思ってますか?」
本当だとも、この目を……いや見なくていい何か怖いから。
何もかもが嫌になった私が、衝動的かつ発作的に自称白兎の頭から生えていた兎耳を力の限り引っ張ったので、話し合いは一旦中断となった。一彦先生はドン引きしているし白兎も今は私の手が届かない位置にいる。
「いくら何でもあれは可哀想だろ、もっとちゃんと謝ってやれよ」
「……ごめんなさい?」
「何で疑問形なんだよしっかりはっきりお前が悪いンだよさっきのは」
何故か悪霊から道徳の授業を受けている私を眺めていた自称……いいや、白兎は陰鬱に笑った。一応、楽しいだとか面白いだとか思ってくれたらしい。
「まぁ怒ってはないのでいいですよ」
「怒ってはないけど気に障ったから殺すとかない?」
「お前怖い物知らずか?」
どちらかといえば自暴自棄である。自分でも自分の言動が恐ろしくて仕方ない。私はまだ正気だろうか、ということを考えられる程度には正気だと思いたいのだが。
「どうも話を聞くに、僕と貴方たちは協力できそうだと思いまして」
「協力?」
と、白兎の言葉に首を傾げたのは一彦先生。訝しげに顔をしかめて、荒く舌打ちする。
「あのヒス女の……」
「それが我等が女王陛下を指しているならまずお前から殺しますが」
「待て待てさっき協力できそうと言っただろう前言撤回が秒は止めろ一彦先生に至ってはさっき絶対に聞き捨てならん言葉があったぞリピート頼む」
「協力?」
「そっちじゃないんだよなぁ!!」
「わかってるけど面と向かって殺すって言われたし……つーか何でオレの名前知ってるンだよ?」
「それはそれとして何でそこで微妙に日和るんだよ!?」
思わず口が滑ったので勢いで誤魔化す。本心も混ざっていたが、まぁうん、このまま押し切ろう。
「これは単純な確認であって君曰くの女王陛下を貶める意図は一切ないということを重々承知してほしいのだけれども」
「えぇまぁ、あの、その手の動きを止めてくれません? また耳を引っ張ろうとしてるでしょう?」
「君の挙動によってはそうなるかもしれないというだけのことだよ気にしないでくれ」
「それはもう脅迫じゃないですか」
「で、先生曰くのヒス女っていうのは、名前を呼んだら来るかもしれない私と同じ顔の彼女のことで合ってる?」
「いや……何か口から出た……わかンねぇけど多分そうじゃねぇかな……? 何かそういう風に呼んでたような……?」
これはギリギリセーフだろうか、アウトだろうか。一彦先生があの呼称を用いるのは、ダウンロードコンテンツの中での話だ。それも、Dエンドクリア済みデータがないと出てこない、特殊ルートでの。
いやもうね、無料とはいえダウンロードコンテンツであんなもんお出しすんなって感じの話だ。まぁ、Dエンドクリア済みデータがない場合は、よくある感じのバレンタインストーリーだったらしいけど。私はクリア済みデータがあったから、心の準備も何もできずに剛速球のデッドボールが直撃だった。
「有人、の名に心当たりは?」
「ありひと……? ありひと、あり……あぁあ!?」
アウトだ。一彦先生が真っ青になって悲鳴を上げている。じゃああれだ、もうこの周回……いや、全周回においてボスが増えた。タソガレアリスがラスボスなら、有人は裏ボスだ。何せ、男体化に加えて殺人鬼化した、「私」なのだから。属性過多が過ぎるんじゃないか、いやこれは二重表現かな。あぁうん、いつもの現実逃避だよ。
「悪かったって、すまないと思っているよ、流石に神経の通っている耳の長さを二倍にしようって心持ちで引っ張ったのは暴力でしかなかった」
「本当に悪いと思ってますか?」
本当だとも、この目を……いや見なくていい何か怖いから。
何もかもが嫌になった私が、衝動的かつ発作的に自称白兎の頭から生えていた兎耳を力の限り引っ張ったので、話し合いは一旦中断となった。一彦先生はドン引きしているし白兎も今は私の手が届かない位置にいる。
「いくら何でもあれは可哀想だろ、もっとちゃんと謝ってやれよ」
「……ごめんなさい?」
「何で疑問形なんだよしっかりはっきりお前が悪いンだよさっきのは」
何故か悪霊から道徳の授業を受けている私を眺めていた自称……いいや、白兎は陰鬱に笑った。一応、楽しいだとか面白いだとか思ってくれたらしい。
「まぁ怒ってはないのでいいですよ」
「怒ってはないけど気に障ったから殺すとかない?」
「お前怖い物知らずか?」
どちらかといえば自暴自棄である。自分でも自分の言動が恐ろしくて仕方ない。私はまだ正気だろうか、ということを考えられる程度には正気だと思いたいのだが。
「どうも話を聞くに、僕と貴方たちは協力できそうだと思いまして」
「協力?」
と、白兎の言葉に首を傾げたのは一彦先生。訝しげに顔をしかめて、荒く舌打ちする。
「あのヒス女の……」
「それが我等が女王陛下を指しているならまずお前から殺しますが」
「待て待てさっき協力できそうと言っただろう前言撤回が秒は止めろ一彦先生に至ってはさっき絶対に聞き捨てならん言葉があったぞリピート頼む」
「協力?」
「そっちじゃないんだよなぁ!!」
「わかってるけど面と向かって殺すって言われたし……つーか何でオレの名前知ってるンだよ?」
「それはそれとして何でそこで微妙に日和るんだよ!?」
思わず口が滑ったので勢いで誤魔化す。本心も混ざっていたが、まぁうん、このまま押し切ろう。
「これは単純な確認であって君曰くの女王陛下を貶める意図は一切ないということを重々承知してほしいのだけれども」
「えぇまぁ、あの、その手の動きを止めてくれません? また耳を引っ張ろうとしてるでしょう?」
「君の挙動によってはそうなるかもしれないというだけのことだよ気にしないでくれ」
「それはもう脅迫じゃないですか」
「で、先生曰くのヒス女っていうのは、名前を呼んだら来るかもしれない私と同じ顔の彼女のことで合ってる?」
「いや……何か口から出た……わかンねぇけど多分そうじゃねぇかな……? 何かそういう風に呼んでたような……?」
これはギリギリセーフだろうか、アウトだろうか。一彦先生があの呼称を用いるのは、ダウンロードコンテンツの中での話だ。それも、Dエンドクリア済みデータがないと出てこない、特殊ルートでの。
いやもうね、無料とはいえダウンロードコンテンツであんなもんお出しすんなって感じの話だ。まぁ、Dエンドクリア済みデータがない場合は、よくある感じのバレンタインストーリーだったらしいけど。私はクリア済みデータがあったから、心の準備も何もできずに剛速球のデッドボールが直撃だった。
「有人、の名に心当たりは?」
「ありひと……? ありひと、あり……あぁあ!?」
アウトだ。一彦先生が真っ青になって悲鳴を上げている。じゃああれだ、もうこの周回……いや、全周回においてボスが増えた。タソガレアリスがラスボスなら、有人は裏ボスだ。何せ、男体化に加えて殺人鬼化した、「私」なのだから。属性過多が過ぎるんじゃないか、いやこれは二重表現かな。あぁうん、いつもの現実逃避だよ。
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