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十一章 ランスロット
十
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「まとめると、大神官は生き延びたい、騎士団長は……大神官を連れ戻したい、でいいのか?」
「騎士団長としてはそうなるが……かつての仲間としては、正直、見逃してやりたい。今回の騒動は明らかにおかしい。無実の罪で仲間が殺されるなんて、騎士としても一人の人間としても看過できない」
「魔王崇拝だっけ?」
「それと、汚染呪法行使の疑いだな。他にも色々あったが、大きいのはその二つで」
無罪とも言い切れなくなってきたな、とノーイは思った。
汚染呪法とは死魔法の蔑称であり、使えば使うだけ魂の質が変化することからそう呼ばれている。使い手であるノーイからすれば、魂の質とは何ぞや、その変化による影響とは何ぞや、といった所ではあるのだが、人間、その中でも特に神官などの類はは清らかな魂とやらに固執しているからまぁそういうことなのだろう。
そしてこの死魔法、シェムハザが何よりも興味を持っている魔法である。ノーイはそのきっかけやら経緯やらを知らないのだが、自分が死魔法を使えるせいでシェムハザに執着されていることは理解していた。とはいえ、シェムハザには死魔法を扱える素養はないだろうというのがノーイの見解だ。
「……ならそうだな、丁度ソロモンと話もつけてきたし、帝国に移住でもするか。ついてくるなら止めはしない。愚か者に石を投げられている雛とその輩を救うのも一興だ」
「狂帝ソロモンか!?」
ランスロットの悲鳴じみた、非難するような声が響く。ダンジョンの主は肩を竦めて、小首を傾げたようだった。
「魔法狂いの魔道帝ソロモンだな」
「そっ……んな、貴方はともかく、我々が受け入れられるとは思えない!!」
「ソロモンは我が弟子の弟子……孫弟子でな、大師匠なんぞと呼ばれている。王国でやれることはほぼやり尽くしたからどうしようかと相談したら、是非帝国に来てほしいと。ついでに何人か、まぁあの時は巫女三人のつもりだったが……連れていってもいいかと聞けば、歓迎すると言っていた」
狂帝、またの名を魔道帝ソロモン。王国とは敵対こそしていないが、友好的でもない帝国の主。多くの国を蹂躙した魔王軍が唯一その地を踏まなかったのは、皇帝である彼を筆頭として国民全員が精強な魔法使いだから。
しかして彼等は徹頭徹尾、実用的な魔法しか使わない。故に研究を重視する塔とは没交渉で、庵とも交流はない。また、国全体に独自の信仰があるため、教会との関係は最悪だ。別名を、踏み人知らずの帝国、魔法帝国、狂帝の箱庭など。
排他的とまでは言えないが、王国民であり王国にとって大きな影響力を持つ勇者パーティーが受け入れられるとは思えない、というのがランスロットの考えであった。
「じゃあオレはお役御免ってことで」
「お前とジューダスは雑用係だから手放すつもりはないな」
「うぐぅ……」
巫女三人、という言葉を聞き逃さなかったノーイが希望を込めて言ったものの、ダンジョンの主は即答した。肩を落とすノーイに、ランスロットが声をかける。
「そういえば貴方は誰なんだ? シェムハザが師匠と呼んでいたが、神官でも魔法使いでもなさそうだし……冒険者にしては」
僅かの間しか見ていないが身のこなしに違和感がある。見た目はどこにでもいそうな冒険者なのに、歩き方、視線の動き、息の間、それらがどうしても、暗殺者のそれに似ているように見える。しかし、それをそのまま口にもできず、ランスロットは口籠った。
「これは雑用係だ」
「はい……雑用係のノーイです……」
肩をすぼめてしおしおと復唱するノーイを見詰めていたランスロットは怪訝そうな表情になったが、本題はそこではないと頭を切り替えた。
「えぇと……そう、シェムハザは大神官、パリカーは大魔女で……俺は王国の騎士団長で……あまつさえヴェルシエルは……」
「どうせ雛は教会と縁を切るだろうし、大魔女は庵から追放されている。お前は……まぁ、ついてくるなら騎士団長の任は解かれるだろう。ヴェルシエルも既に一度は魔王を殺したんだ、雑用係の言い分を借りればお役御免だろう。それに、お前たちはそれぞれ実戦的な、それこそ魔王をも討伐できる魔法使いでもあるだろう? ソロモンは大歓迎すると思うがな」
ダンジョンの主はそう答えて、何か問題は? と言わんばかりに両手を広げた。ランスロットはしばらく天井を仰いで唸っていたが、はぁ、と深い溜め息をつく。
「……騎士団長ランスロットは死んだ、と」
「それがいい。それによくよく考えてみろ、いや、もう考えただろう? 魔王討伐という功があってさえ、王国は大神官を裏切った。大魔女は……まぁ、自業自得な所もあるが、あれも王国の罠にかけられた結果と言っていいだろう。さて、次の獲物は誰だろうな?」
ダンジョンの主の声は笑っていた。ランスロットはそんなダンジョンの主を見据えて、深く、深く頭を下げた。
「騎士団長としてはそうなるが……かつての仲間としては、正直、見逃してやりたい。今回の騒動は明らかにおかしい。無実の罪で仲間が殺されるなんて、騎士としても一人の人間としても看過できない」
「魔王崇拝だっけ?」
「それと、汚染呪法行使の疑いだな。他にも色々あったが、大きいのはその二つで」
無罪とも言い切れなくなってきたな、とノーイは思った。
汚染呪法とは死魔法の蔑称であり、使えば使うだけ魂の質が変化することからそう呼ばれている。使い手であるノーイからすれば、魂の質とは何ぞや、その変化による影響とは何ぞや、といった所ではあるのだが、人間、その中でも特に神官などの類はは清らかな魂とやらに固執しているからまぁそういうことなのだろう。
そしてこの死魔法、シェムハザが何よりも興味を持っている魔法である。ノーイはそのきっかけやら経緯やらを知らないのだが、自分が死魔法を使えるせいでシェムハザに執着されていることは理解していた。とはいえ、シェムハザには死魔法を扱える素養はないだろうというのがノーイの見解だ。
「……ならそうだな、丁度ソロモンと話もつけてきたし、帝国に移住でもするか。ついてくるなら止めはしない。愚か者に石を投げられている雛とその輩を救うのも一興だ」
「狂帝ソロモンか!?」
ランスロットの悲鳴じみた、非難するような声が響く。ダンジョンの主は肩を竦めて、小首を傾げたようだった。
「魔法狂いの魔道帝ソロモンだな」
「そっ……んな、貴方はともかく、我々が受け入れられるとは思えない!!」
「ソロモンは我が弟子の弟子……孫弟子でな、大師匠なんぞと呼ばれている。王国でやれることはほぼやり尽くしたからどうしようかと相談したら、是非帝国に来てほしいと。ついでに何人か、まぁあの時は巫女三人のつもりだったが……連れていってもいいかと聞けば、歓迎すると言っていた」
狂帝、またの名を魔道帝ソロモン。王国とは敵対こそしていないが、友好的でもない帝国の主。多くの国を蹂躙した魔王軍が唯一その地を踏まなかったのは、皇帝である彼を筆頭として国民全員が精強な魔法使いだから。
しかして彼等は徹頭徹尾、実用的な魔法しか使わない。故に研究を重視する塔とは没交渉で、庵とも交流はない。また、国全体に独自の信仰があるため、教会との関係は最悪だ。別名を、踏み人知らずの帝国、魔法帝国、狂帝の箱庭など。
排他的とまでは言えないが、王国民であり王国にとって大きな影響力を持つ勇者パーティーが受け入れられるとは思えない、というのがランスロットの考えであった。
「じゃあオレはお役御免ってことで」
「お前とジューダスは雑用係だから手放すつもりはないな」
「うぐぅ……」
巫女三人、という言葉を聞き逃さなかったノーイが希望を込めて言ったものの、ダンジョンの主は即答した。肩を落とすノーイに、ランスロットが声をかける。
「そういえば貴方は誰なんだ? シェムハザが師匠と呼んでいたが、神官でも魔法使いでもなさそうだし……冒険者にしては」
僅かの間しか見ていないが身のこなしに違和感がある。見た目はどこにでもいそうな冒険者なのに、歩き方、視線の動き、息の間、それらがどうしても、暗殺者のそれに似ているように見える。しかし、それをそのまま口にもできず、ランスロットは口籠った。
「これは雑用係だ」
「はい……雑用係のノーイです……」
肩をすぼめてしおしおと復唱するノーイを見詰めていたランスロットは怪訝そうな表情になったが、本題はそこではないと頭を切り替えた。
「えぇと……そう、シェムハザは大神官、パリカーは大魔女で……俺は王国の騎士団長で……あまつさえヴェルシエルは……」
「どうせ雛は教会と縁を切るだろうし、大魔女は庵から追放されている。お前は……まぁ、ついてくるなら騎士団長の任は解かれるだろう。ヴェルシエルも既に一度は魔王を殺したんだ、雑用係の言い分を借りればお役御免だろう。それに、お前たちはそれぞれ実戦的な、それこそ魔王をも討伐できる魔法使いでもあるだろう? ソロモンは大歓迎すると思うがな」
ダンジョンの主はそう答えて、何か問題は? と言わんばかりに両手を広げた。ランスロットはしばらく天井を仰いで唸っていたが、はぁ、と深い溜め息をつく。
「……騎士団長ランスロットは死んだ、と」
「それがいい。それによくよく考えてみろ、いや、もう考えただろう? 魔王討伐という功があってさえ、王国は大神官を裏切った。大魔女は……まぁ、自業自得な所もあるが、あれも王国の罠にかけられた結果と言っていいだろう。さて、次の獲物は誰だろうな?」
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