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十二章 ヴォジャノーイ
五
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魔道車には隠密機能もあるらしく、ショクに案内された場所には何もないように見えた。が、そのショクがぱちりと指を鳴らすとすぐに姿を現す。高級車の名に違わない、いかにも貴族用といった見た目の逸品である。
しかし、それにはしゃぐような人間はいなかった。それは、ノーイの変貌によるものだろう。ノーイの正体がモンスターであると知っていたのは、ダンジョンの主とシェムハザ、ジューダスくらいで、その他の人間は薄々気づいていて口にしなかったか、全く気づいていなかったか。
彼等にとってノーイとは、働くのが嫌いで、楽して生きていきたいと言ってはばからない、けれど何だかんだ情に厚くて優しい所がある、そんな人物だった。まぁ極一部の人間は面白い男と呼んではばからなかったが。ともあれ、甘いものが好きで、おいしいものを食べると嬉しそうな顔をして、そんな普通の人間に見えていた。
ノーイがヴォジャノーイだと知っていて契約しているダンジョンの主でも、それなりに驚いたのだ。ダンジョンの主が知るノーイは、怠惰で、賢くはないがそれなりに使える使い魔で、ああ見えて本当に人望がある。モンスターに向かっていう言葉ではないが、ノーイは人間より人間らしく、故に人に慕われる何かを持っていた。それは畏怖されるばかりのダンジョンの主にはないもので、羨ましいという言葉にはある程度の真実があった。
だから、とダンジョンの主は先程からうつむいたままのシェムハザを見た。彼はノーイがヴォジャノーイであると知っていて、それでも執着していた人間だ。何度拒否されても愛情を示し続け、狂信にも見える態度を取り続けた。だが彼がヴォジャノーイと本格的な交流を持ったのは、人間を装うモンスター、ノーイとなってからのことだ。勇者パーティー時代に魔王軍のヴォジャノーイと接したことはあるだろうが、その時とは正しく人が違う。だから、シェムハザが受けた衝撃はさぞ大きかろうと。
ならば、傷ついたであろう雛を慰めてやるのも先達の務め。そう、ダンジョンの主は思った。ダンジョンの主はそれなりに、塔の学徒であったシェムハザを気にかけている。そうして、口を開こうとした瞬間だった。
「何なんですか師匠は!! あんな……あんなかっこいい一面を隠してただなんて!! これ以上僕の好意を得てどうしようっていうんですか!?」
「どうも何も思ってないと思うが」
「何なんですか何なんですか!! あーもー何なんですか!! 何なんですか!!」
「何なんだろうな」
お前がどうかしたのかだしお前が何なんだろうなである。発情といっても過言ではない様子で頬を染め、はわわと震えているシェムハザを見たダンジョンの主は、何か自分で立ち直った? みたいだし放置でいいかと即決した。いや、正直にいうと今のシェムハザに干渉すると暴発しそうで厄介だなと思ったのだ。
「ですよね!? 神様かっこよかったです!!」
「ですよね!! 何なんですかね師匠!!」
なのに巫女三姉妹の末妹、アークが燃料を投下した。我が意を得たりと興奮するシェムハザは、新しい玩具をもらった子どものようにぶんぶんと両手を振り回し、全身で喜びを表現している。アークもまた同じようにぴょんぴょんと飛び跳ね、シェムハザと手をつないで踊り出した。
一方、唖然としているのはランスロットである。魔王軍第二位、数多くの国を滅ぼした死の化身、ヴォジャノーイがこんな場所にいて、しかも結果的に勇者パーティーだった自分たちは彼に助けられた。そんな状況に混乱し、けれどもそれを表に出すこともできず、ぐるぐると巡る思考をどうにもできずにいたのに。何となく腹が立ってきたランスロットは、女子どもを叩く訳にはいかなかったので、手近かつ自分が叩いても問題なさそうなシェムハザの頭を叩いた。
「何するんですか!?」
「何をやってるんだお前は!? 何で踊ってるんだ……いや再開するな!! 踊るなって!!」
「神様がかっこよくて嬉しいなの儀式です!! 邪魔しないでください!!」
「あ、いや、君はその、踊っててくれて構わないんだが、この男をちょっと貸してくれないか、説教するから」
「邪魔しないでください!!」
「うるせぇこの邪教徒が!!」
守るべき女子どもであるアークには弱いが、かつての仲間で耐久力のあるシェムハザには容赦する理由がないため強く出られる。ランスロットはまた踊り出そうとしたシェムハザの頭を再度叩いて謎の儀式から引き剥がした。
しかし、それにはしゃぐような人間はいなかった。それは、ノーイの変貌によるものだろう。ノーイの正体がモンスターであると知っていたのは、ダンジョンの主とシェムハザ、ジューダスくらいで、その他の人間は薄々気づいていて口にしなかったか、全く気づいていなかったか。
彼等にとってノーイとは、働くのが嫌いで、楽して生きていきたいと言ってはばからない、けれど何だかんだ情に厚くて優しい所がある、そんな人物だった。まぁ極一部の人間は面白い男と呼んではばからなかったが。ともあれ、甘いものが好きで、おいしいものを食べると嬉しそうな顔をして、そんな普通の人間に見えていた。
ノーイがヴォジャノーイだと知っていて契約しているダンジョンの主でも、それなりに驚いたのだ。ダンジョンの主が知るノーイは、怠惰で、賢くはないがそれなりに使える使い魔で、ああ見えて本当に人望がある。モンスターに向かっていう言葉ではないが、ノーイは人間より人間らしく、故に人に慕われる何かを持っていた。それは畏怖されるばかりのダンジョンの主にはないもので、羨ましいという言葉にはある程度の真実があった。
だから、とダンジョンの主は先程からうつむいたままのシェムハザを見た。彼はノーイがヴォジャノーイであると知っていて、それでも執着していた人間だ。何度拒否されても愛情を示し続け、狂信にも見える態度を取り続けた。だが彼がヴォジャノーイと本格的な交流を持ったのは、人間を装うモンスター、ノーイとなってからのことだ。勇者パーティー時代に魔王軍のヴォジャノーイと接したことはあるだろうが、その時とは正しく人が違う。だから、シェムハザが受けた衝撃はさぞ大きかろうと。
ならば、傷ついたであろう雛を慰めてやるのも先達の務め。そう、ダンジョンの主は思った。ダンジョンの主はそれなりに、塔の学徒であったシェムハザを気にかけている。そうして、口を開こうとした瞬間だった。
「何なんですか師匠は!! あんな……あんなかっこいい一面を隠してただなんて!! これ以上僕の好意を得てどうしようっていうんですか!?」
「どうも何も思ってないと思うが」
「何なんですか何なんですか!! あーもー何なんですか!! 何なんですか!!」
「何なんだろうな」
お前がどうかしたのかだしお前が何なんだろうなである。発情といっても過言ではない様子で頬を染め、はわわと震えているシェムハザを見たダンジョンの主は、何か自分で立ち直った? みたいだし放置でいいかと即決した。いや、正直にいうと今のシェムハザに干渉すると暴発しそうで厄介だなと思ったのだ。
「ですよね!? 神様かっこよかったです!!」
「ですよね!! 何なんですかね師匠!!」
なのに巫女三姉妹の末妹、アークが燃料を投下した。我が意を得たりと興奮するシェムハザは、新しい玩具をもらった子どものようにぶんぶんと両手を振り回し、全身で喜びを表現している。アークもまた同じようにぴょんぴょんと飛び跳ね、シェムハザと手をつないで踊り出した。
一方、唖然としているのはランスロットである。魔王軍第二位、数多くの国を滅ぼした死の化身、ヴォジャノーイがこんな場所にいて、しかも結果的に勇者パーティーだった自分たちは彼に助けられた。そんな状況に混乱し、けれどもそれを表に出すこともできず、ぐるぐると巡る思考をどうにもできずにいたのに。何となく腹が立ってきたランスロットは、女子どもを叩く訳にはいかなかったので、手近かつ自分が叩いても問題なさそうなシェムハザの頭を叩いた。
「何するんですか!?」
「何をやってるんだお前は!? 何で踊ってるんだ……いや再開するな!! 踊るなって!!」
「神様がかっこよくて嬉しいなの儀式です!! 邪魔しないでください!!」
「あ、いや、君はその、踊っててくれて構わないんだが、この男をちょっと貸してくれないか、説教するから」
「邪魔しないでください!!」
「うるせぇこの邪教徒が!!」
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