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INTRODUCTION
はじめに
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――厄介な侵略者は、突然宇宙の果てからやってくる。
高度な知性を持つ異星人が巨大な宇宙船に乗って襲来し、その都市で一番高いビルを狙って、挨拶がわりの一発をお見舞いする。
SF映画でお馴染みのシーンだ。
彼らは冷酷非情かつ残忍で(そして目立ちたがりだ)、強大な科学力を武器に私たちの日常を脅かす。
その所業は悪そのものと言ってもいい。
だが、敵に知性や感情があり、その行為が侵略戦争ならば、場合によっては侵略者と交渉の余地はあるのではないだろうか。
戦争とは外交手段の一つだという人がいる。
これまでの戦争でも、宣戦布告もせずに敵国を奇襲した卑劣な独裁者はたくさんいたのだから、戦況によっては、ひとつのテーブルを囲み、恐るべき侵略者と講和会議をすることだって可能なはずだ。
それは現実離れした希望的観測だろうか?
☆
では現実の話をしよう。
長身で色白の美人だが、彼女はスーパーモデルでもハリウッド女優でもない。
冥王星宇宙軍のミグ・チオルコフスカヤ伍長(31)は、太陽系の果てで半年に4回ほど実際に侵略者と戦っている百戦錬磨の軍人だ。
彼女がエッジワースカイパーベルトという場所で、相手にしている敵のパワーは強烈だ。
彼らには、たった一つで全人類を73回分絶滅させるだけの威力があり、さらにその数は確認されているだけでも2千を超える。
最近の観測では、その百倍は存在するらしい。
現実の敵は絶望的に強く、さらに強すぎて私たちのような小さな存在など、認識すらしていないのだ。
私たちが大地を踏みしめるとき、膨大な数の微生物がその足の下敷きになって死んだと仮定しよう。
果たしてそれは、人類の土壌生物に対する侵略戦争と言えるのだろうか?
攻撃をするものと、されるものとのあいだに、圧倒的なスケールの差が存在する場合、それは戦争とか外交とか、そういった次元の話ではなくなる。
それは不条理な事故であり、理由のない大量虐殺なのだ。
☆
だから、冥王星の軍人たちは、決まってこうつぶやく。
もしもこれが“戦争”であったらどんなに素晴らしいことか、と。
たとえ侵略者が冷酷非情で残忍だろうと、言葉が通じるならば、終戦の可能性は0ではない。
だが残念ながら、この敵に決して言葉は通じない。
彼らは目的もなく人を殺す。
彼女たちが戦っている相手は、小惑星――ただの石と氷の塊だ。
☆
20年前、人類はその破壊力を目の当たりにした。
立憲君主制の海洋国家である海王星に、直径10kmの小惑星が地表から31度の角度でぶつかったのだ。
そのエネルギーはTNT火薬一億メガトン分で、海王星が誇る太陽系一美しい海のひとつは、一瞬のうちに蒸発し、「海の墓場」と言われる巨大なクレーターを残した。
死者の数は数え切れず、今なお海王星は復興からは立ち直っていない。
この未曾有の大災害で、侵略者を仕留めそこねた冥王星の軍隊は、徹底的に叩かれた。
その誹謗中傷が功を奏したのか、その後、大災害をもたらすようなサイズの小惑星は太陽系の惑星には落ちてはいない。
たった一度も。
☆
この物語は、そんな知られざる英雄の話である。
公にはなっていないが、ミグ・チオルコフスカヤとライト・ケレリトゥスの80日間に及ぶ宇宙の旅は、最終的に、太陽系全土を巻き込んだ大事件へと発展した。
本書はあくまでも事実をもとにした創作であるが、私は執筆にあたり、彼らの冒険を知る関係者――37名に直接インタビューを試み、事実関係を把握、確認することを心がけた。
特に、
冥王星のアイスバーグ空軍基地のアレクセイエフ・ギンツブルグ少将、
海王星王室広報部のリチャード・アップルシード、
オフィス・ジュリエッタのジェリー・ナカムラ、
プロメテウス社CEOシリウス・チェン、
エウロパ大学教務課のマクドナルド・ハムザ各氏には、惜しみない援助を頂いた。
また、トートを始め木星の様々な歴史的遺産を案内してくれたコーディネーター、ムハマド・ビン・ファイサル氏、
極めて多忙なメディア界の寵児ハロルド・ケプラー氏を紹介してくれた、MP通信のダニエル・ボイジャー氏にも、心から感謝を申し述べる。
本書は6つの章で構成されている。
一章では、階級が絶対の軍隊で良心の呵責に悩む一人の兵士を
二章では、想定外のマクロなクライシスに直面した政治家を
三章では、一見華やかではあるが、過酷な労働実態に翻弄されるクリエイターを
四章では、利益至上主義が最終的に社会全体を豊かにすると確信する企業家を
五章では、多大な犠牲を払ってでも未知の領域を開拓する野心に溢れた学術研究者を
六章では、玉石混交な膨大な情報を選別しなければならない諜報員とマスメディアを、それぞれ取り上げた。
最後に――
作中で犠牲となった人々の名前は仮名とし、彼らのモノローグは、著者の憶測によるものであることを申し添えておく。
高度な知性を持つ異星人が巨大な宇宙船に乗って襲来し、その都市で一番高いビルを狙って、挨拶がわりの一発をお見舞いする。
SF映画でお馴染みのシーンだ。
彼らは冷酷非情かつ残忍で(そして目立ちたがりだ)、強大な科学力を武器に私たちの日常を脅かす。
その所業は悪そのものと言ってもいい。
だが、敵に知性や感情があり、その行為が侵略戦争ならば、場合によっては侵略者と交渉の余地はあるのではないだろうか。
戦争とは外交手段の一つだという人がいる。
これまでの戦争でも、宣戦布告もせずに敵国を奇襲した卑劣な独裁者はたくさんいたのだから、戦況によっては、ひとつのテーブルを囲み、恐るべき侵略者と講和会議をすることだって可能なはずだ。
それは現実離れした希望的観測だろうか?
☆
では現実の話をしよう。
長身で色白の美人だが、彼女はスーパーモデルでもハリウッド女優でもない。
冥王星宇宙軍のミグ・チオルコフスカヤ伍長(31)は、太陽系の果てで半年に4回ほど実際に侵略者と戦っている百戦錬磨の軍人だ。
彼女がエッジワースカイパーベルトという場所で、相手にしている敵のパワーは強烈だ。
彼らには、たった一つで全人類を73回分絶滅させるだけの威力があり、さらにその数は確認されているだけでも2千を超える。
最近の観測では、その百倍は存在するらしい。
現実の敵は絶望的に強く、さらに強すぎて私たちのような小さな存在など、認識すらしていないのだ。
私たちが大地を踏みしめるとき、膨大な数の微生物がその足の下敷きになって死んだと仮定しよう。
果たしてそれは、人類の土壌生物に対する侵略戦争と言えるのだろうか?
攻撃をするものと、されるものとのあいだに、圧倒的なスケールの差が存在する場合、それは戦争とか外交とか、そういった次元の話ではなくなる。
それは不条理な事故であり、理由のない大量虐殺なのだ。
☆
だから、冥王星の軍人たちは、決まってこうつぶやく。
もしもこれが“戦争”であったらどんなに素晴らしいことか、と。
たとえ侵略者が冷酷非情で残忍だろうと、言葉が通じるならば、終戦の可能性は0ではない。
だが残念ながら、この敵に決して言葉は通じない。
彼らは目的もなく人を殺す。
彼女たちが戦っている相手は、小惑星――ただの石と氷の塊だ。
☆
20年前、人類はその破壊力を目の当たりにした。
立憲君主制の海洋国家である海王星に、直径10kmの小惑星が地表から31度の角度でぶつかったのだ。
そのエネルギーはTNT火薬一億メガトン分で、海王星が誇る太陽系一美しい海のひとつは、一瞬のうちに蒸発し、「海の墓場」と言われる巨大なクレーターを残した。
死者の数は数え切れず、今なお海王星は復興からは立ち直っていない。
この未曾有の大災害で、侵略者を仕留めそこねた冥王星の軍隊は、徹底的に叩かれた。
その誹謗中傷が功を奏したのか、その後、大災害をもたらすようなサイズの小惑星は太陽系の惑星には落ちてはいない。
たった一度も。
☆
この物語は、そんな知られざる英雄の話である。
公にはなっていないが、ミグ・チオルコフスカヤとライト・ケレリトゥスの80日間に及ぶ宇宙の旅は、最終的に、太陽系全土を巻き込んだ大事件へと発展した。
本書はあくまでも事実をもとにした創作であるが、私は執筆にあたり、彼らの冒険を知る関係者――37名に直接インタビューを試み、事実関係を把握、確認することを心がけた。
特に、
冥王星のアイスバーグ空軍基地のアレクセイエフ・ギンツブルグ少将、
海王星王室広報部のリチャード・アップルシード、
オフィス・ジュリエッタのジェリー・ナカムラ、
プロメテウス社CEOシリウス・チェン、
エウロパ大学教務課のマクドナルド・ハムザ各氏には、惜しみない援助を頂いた。
また、トートを始め木星の様々な歴史的遺産を案内してくれたコーディネーター、ムハマド・ビン・ファイサル氏、
極めて多忙なメディア界の寵児ハロルド・ケプラー氏を紹介してくれた、MP通信のダニエル・ボイジャー氏にも、心から感謝を申し述べる。
本書は6つの章で構成されている。
一章では、階級が絶対の軍隊で良心の呵責に悩む一人の兵士を
二章では、想定外のマクロなクライシスに直面した政治家を
三章では、一見華やかではあるが、過酷な労働実態に翻弄されるクリエイターを
四章では、利益至上主義が最終的に社会全体を豊かにすると確信する企業家を
五章では、多大な犠牲を払ってでも未知の領域を開拓する野心に溢れた学術研究者を
六章では、玉石混交な膨大な情報を選別しなければならない諜報員とマスメディアを、それぞれ取り上げた。
最後に――
作中で犠牲となった人々の名前は仮名とし、彼らのモノローグは、著者の憶測によるものであることを申し添えておく。
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