80日間宇宙一周

田代剛大

文字の大きさ
22 / 81
第三章 銀河の歌姫――Galaxy Minerva

26日目AM8:45

しおりを挟む
遠回りするのが遊び。遠回りとか、面倒くさいこととかが遊びなんです。
                                         ――所ジョージ



「♫タイヤキ~タイヤキ~さ~め~て~しまったら~電子レンジでチン、チンしてアンコもか~わ~く~♫」

リンドバーグ船内に響く所ボイス。
「お前本当に所さん好きやなあ」

コックピットのライトが、助手席でパスポートの準備をするミグに声をかけた。

「ほっといてくれ、トコジョーさんの歌にはな、ふか~い社会風刺があるんだよ・・・」

「♪意味ないじゃ~ん意味ないじゃ~ん」

「・・・・・・。この人そこまで深く考えてこの歌作ってないと思うで・・・」

ライトは自分の感想を素直に口にした。

「あるの!いいの!
所さんの歌を聴くと・・・宇宙はこんなに広いのに私はなんてつまらないことにあくせくしてるんだろうって癒されるんだよ・・・」

「♪たけしがバイクでゴンダワラ~」

ライトは、その点については同意した。

「確かに凄まじくバカバカしいもんな・・・」

「それがトコジョーさんのねらいなんだって」

「は~・・・歌で人を感動させるのも、難しいんやなあ」

ミグは自分のパスポートを閉じ、これからの予定を確認した。

ーーこのまま行けば、じきに天王星の領宙(りょうくう)に入るはずだ。

つまり、イミグレーションに立ち寄って入国許可を申請しなければならない。

たとえ、その惑星を素通りするにしてもだ。

現在の太陽系の情勢は言うまでもなく緊迫している。

事実、冥王星と海王星で連続してクーデターが起こったわけで、それがほかの惑星に飛び火する可能性は高い。

こんな時に不法入国でもしでかしたら、いらぬトラブルが起きるに違いないだろう。

「ライト、君のパスポートは?」

彼女は操縦席の相棒に声をかけた。

するとライトから信じられない返事が返ってきた。

「え?何それ?」

「何それって・・・旅券って言って、ほかの星の宙域に入るときに必要なんだよ。

・・・君まさか密入国を繰り返してたんじゃないだろうな!」

「いや、どっかにあったと思うけど・・・なくてもなんとかなるんちゃう?」

「君ってやつは本当にめちゃくちゃだなあ・・・

世の中にはルールっていうのがあって、それをみんなが守ることによって社会の秩序が保たれ・・・」

「どれくらいの大きさかだけ教えてくれへん?」

と、ライト。

ミグがため息をついてから

「手帳くらい」

と、つぶやいた。

「ならダッシュボードかもしれん」

ミグがダッシュボードを開けると、紙の束やカード類があふれ、ドサドサと床に落ちた。

ライトは面倒な書類はすべてここに突っ込んでいたらしい。

ミグがダッシュボードの中に詰まった書類をかき出す。

「あった?」

「待ってくれ。しかし・・・資格免許の山だなあ・・・ガス溶接に、航空無線、電気工事、非破壊検査・・・アメリカンエキスプレスカード・・・」

きれい好きな彼女は、ダッシュボードの整理をし始めた。

「なんで原子炉主任技師なんて持ってんだよ・・・!」

「星間エンジン作るのに、それ持ってないと逮捕されるって言われて・・・」

「なるほど・・・ああ、あったぞ。マクドナルドのレシートの中にあった」

「あ、じゃあこっちによこしてくれ」

コックピットからライトが手を伸ばす。

「君、テリヤキマックバーガーばっかり食べてるな」

「それはええから」

「まあ待ちなさい、私がパスポートの有効期限を確認してあげるよ」

そう言ってミグがパスポートを開くと、氏名、本籍欄に「Leona Earhart」と、彼女の知らない名前が記入されているのに気づいた。

「リーオナ・・・イヤハート??これ、君のパスポートじゃないぞ」

「ああ、それオレの恋人(ツレ)のやつや」

ライトがあっさり言った。

「君、恋人いたの?」

「アホか、オレはいつでもモテモテや」

ミグは言葉を失った。

ーーライトの恋人って一体・・・

ミグは、自分の胸の“希望の海”に触れながら、ライトが一体どんな女性を恋人に選んだのか想像してみた。

――すごい。見当もつかない・・・



「制限速度~マッハ2000」

レムス2000は、宇宙を行き交うロケットの速度を計測するスペースハイウェイパトロール管轄のスピードメーター衛星だ。

その衛星の影に隠れて、スピード違反の取り締まりをしているのが天王警察交通課である。

アントニオ・デクリオン巡査(29)は、白と黒に塗り分けられたパトロール船のコックピットで、あくびをしていた。

ー―閑職に回されちまったなあ。

ラジオでパトラ・ジュリエッタのライブ中継を聞きながら、デクリオン巡査は冷めた缶コーヒーをすすった。

配置替えの際、スペースハイウェイパトロールは、交通課きっての精鋭が任される重要な職務だと上司に説明されたが、いくらなんでも上空400キロメートルに飛ばされるとは、さすがの彼も思っていなかった。

巡査はため息をついた。

ー―だいたい、このハイウェイでの制限速度はマッハ2000だぜ?

スピード違反なんてしたくても、できるものじゃねーよ・・・暴走族の連中にそんなエンジンをチューンする頭脳はねえしな。

ちっ、あまりにオレひとりが走り屋どもを検挙しすぎて、地上の連中に煙たがれたってことか。

巡査が、退屈しのぎにかつての武勇伝に浸っていると、突然コックピットにアラートが鳴り響いた。

あまりにも予期していなかった出来事が起きたので、彼は缶コーヒーをこぼしてしまった。

ー―ああ、ちくしょう!うそだろ。

レーダーを確認すると、猛スピードで移動を続ける未確認飛行物体が、スピードメーター衛星を横切っていくのが分かった。

その物体は警察のレーダーが捕捉しきれないほど高速で移動しており、巡査はコンソールを叩いてレーダーの範囲を1万倍にまで広げた。

ほどなくして、レムスを示す光点が消えた。

あまりに未確認飛行物体のスピードが速すぎて、爆発してしまったらしい。

ー―なんだ、こいつは!?

巡査は即座に本部に無線を入れた。そしてパトロール船の赤いフラッドライトを点灯させた。



規制速度を120万キロ超過したリンドバーグ号のコックピットに無線が割り込んできた。

《はい、そこの未確認航空機止まってください》

「この周波数は・・・あかん、警察や」
ライトがヘッドセットを引っつかむ。

《こちらは天王警察スペースハイウェイパトロール。

進路を34に変更した後、ロケットエンジンを切ってそのまま待機せよ。

飛行高度は13000メガフィートを維持。

こちらから磁力牽引を行ないます。》

「いや、オイラたちパスポートもうとるから・・・これ、不法入国ちゃうで」

《もう一度繰り返す。

進路を34に変更した後、ロケットエンジンを切ってそのまま待機せよ。

従わない場合、そちらのエンジンを実力行使で停止する用意がこちらにはある。

コピー(了解)?》

「なんだか知らんが、すごいことになりそうや」

ラムジェットエンジンを停止させるライトの隣で、ヘッドホンをしたミグは警察に気づかないまま、所さんの名曲『車庫証明騒動歌』を口ずさんでいた。

「♪でもそらお前 俺だって警察に来たくて来てんじゃないんだから、オ~ラ お前の態度が気にくわぬ~オラ 愛想の一つも言ってみろ~

か弱い市民は命令的な~お前の態度や言動に~車~庫証明が欲しいから付き合ってんだよ~♪」

「・・・ミグ、今その歌、歌うのやめてくれへん・・・?」

「え?」

ミグが窓を覗くと、警察のパトロール船がサイレンを光らせて接近してくるのが目に入った。

ヘッドホンを外すミグ。

「君、今度は一体何をした?」

「さあ・・・」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...