80日間宇宙一周

田代剛大

文字の大きさ
23 / 81
第三章 銀河の歌姫――Galaxy Minerva

26日目AM9:00

しおりを挟む
刑事がホシではなく、肩のホシを追うようになったらおしまいだ。
                                    ――平塚八兵衛



オセロ第一警察署は、ポープ警察の庁舎(警視庁)も兼ねる、巨大な本部ビルだ。

ポープ警察は9つの組織に分かれており、天王星に降り立ったライトとミグは、さっそく交通課の取り調べを受けることになった。

「君のせいで、警察の厄介になるとは・・・」

ミグがため息をついた。

軍人として、司法の世話になるのが情けないらしい。

「心配すんなミグ。ただの速度超過や。切符切って終わりやろ」

「そうかなあ・・・」

「だって、前もそうやったし」

「“前も”って・・・はあ」

しかし、ライトの楽観的な予想ははずれた。



「なんで指紋を取られなきゃいかんのや!スピード違反がいつからそんな重罪になったんや!」

取調室でライトは徹底的に抗議した。

「いいから、この書類のここに指を押せばいいんだって!」

交通課の職員がイライラしながら言った。

ライトは革のジャケットに手を入れて腕を組んだ。

「い~や絶対納得がいかん!この星は民主主義の星やろ!」

「指紋くらいいいだろ!」

とうとう職員も大きな声を出した。

「やだやだやだ!指紋を許せば、お前らはどうせ、次に歯型、そんでDMAをとるんやろ!」

「そんなことするわけないだろ!・・・DMA?(一瞬考え込んで)ああ、DNAか」

「納得いく理由がなきゃ、オレは絶対せえへんからな!んなもんプライバシーの侵害や!」

ライトが騒ぐ取調室に、警官がどんどん集まってくる。

「お前ら集まってくるなや!鬱陶しい!」

このままでは、らちがあかないと判断した交通課の職員は、上司と何か言葉をかわすと、取調室から出て行った。

そして、内線電話で謎の番号を囁いた。

「コード10-66が進行・・・」

「コード10-66ってなんやねん!」

そしてライトにこう告げた。

「別室へどうぞ」



屈強な体つきの老刑事が、足を踏み鳴らして取調室へ続く廊下を進んでいく。

「オレの星の秩序を乱すやつは許さん!ギタギタのメロメロにしてやる・・・!」

彼は、ゲオルグ・シドゥス警部(59)。

天王星捜査局(UBI)の外事担当のベテラン警部で、74年のファランクス重工爆破事件(いわゆるダイヤモンド作戦)や、76年のロッキード事件で活躍。

近年では、テロ組織「レプリカント」による地下鉄バイオテロを、未然に防いだ立役者としても知られている。

天王星には、地球のTIA、海王星のMI7に当たるような諜報機関がない。

代わりにその役割を担っているのが、国際犯罪を一手に引き受ける外事警察であり、ゲオルグ・シドゥス警部はその中でも最も優秀で、最も恐ろしい刑事だった。

定年を迎え、髪こそ白くなったものの、シドゥス警部は若手捜査官以上に血気盛んな人物で、どんなに強大な圧力にも決して屈しない。

ロッキードスキャンダルでは、元老院の無力化を目論んだディオクレティアヌス政務長官の最大の障害となり、「奴を消せ」という極秘文書がかわされたという、ものすごい伝説もある。

つまり、天王星の共和制が今なお保たれているのは、UBIの鬼警部が上層部の命令をはねつけて、国家権力の不正を暴いたからなのである。

彼は、上層部が指揮する諜報活動をこのように切り捨てた。

「通信傍受なんて頭でっかちのトンチキがすることだ。

いくらコンピュータが進歩しようが、人間のすることはいつの世も変わらねえ。

エゴと保身、それだけだ。

だからな、知恵と経験さえあれば、ホシがどういうカードを着るかはだいたい想像がつくもんだ。

そして、それは冷房の効いたオフィスの中じゃ身に付かねえんだよ」

さて、外事のスペシャリストであるシドゥス警部が、交通課に呼ばれるのは珍しい。

取調べを担当した者によれば、スピード違反で捕まった宇宙船の乗組員が、拇印を押すことに対し異常な抵抗を見せているのだという。

シドゥス警部は取調室に入ると、交通課の職員に声をかけた。

「マエモノ(前科持ち)か?」

「いえ、犯罪歴はありません。

しかし、スペースハイウェイをマッハ3000で暴走していたそうです」

「マッハ3000だと?」

交通課から調書を受け取った警部が片眉を吊り上げた。

「移転が禁止されている技術を持ち込んでいる可能性もあるな。

よし、オレがはかせてやる、どいつだ?」

めくっていた資料を職員に渡すと、警部はマジックミラーの向こうに見覚えのある顔を見つけた。

「あのバカ・・・」

警部が扉を開けブースへ入ると、例の問題児がイスから立ち上がり、彼の名前を呼んだ。
「あ、ゲオルグのおっちゃん!」

「デカ長お知り合いですか?」

と、取調官。

「・・・そいつを釈放しろ。

とっととこの星から追い出せ。

オレたちの捜査の邪魔になる」

警部はそう言うと、腕を一振りした。

「しかし・・・」

「そいつはスパイでも運動家でもない。

ただのバカだ」

警部は取調べ官に断言した。

「なあ、なんかあったん?天王星」

警部と面識があったライトは、誰に対してもするように馴れ馴れしく声をかけた。

「お前には関係ない話だ。さあ帰った帰った。

こちとら領土問題で忙しいんだ・・・」

「じゃあ、前みたいにカツ丼食ってからでいい?」

「うるせえ~!外の定食屋で食え!」

鬼警部は、取調官から取り上げた調書を引き裂くと、ライトを部屋から追い出した。

ミグがエントランスで相棒の取調べが終わるのを待っていると、当人が納得いかないような表情で、こちらに歩いてくるのが見えた。

「なあ、大丈夫だった?」

ミグはソファから立ち上がると、預かっていた彼の私物を渡した。

「ああ・・・知り合いがおってな」

お気に入りのフライトゴーグルをいつものように額にセットするライト。

「君はたいていどの星でも警察沙汰を起こすよな・・・」

と、ミグが力なく微笑んだ。

「冥王星はお前が通報したんやろ!」

「あれは悪かったって謝ったじゃないか・・・で、どうする?この星で食事でもしていく?」

ミグがドレスウォッチに目をやる。時計の針は午前9時を回っていた。

「せやな。せっかくこの星に降りたことやし」

「リンドバーグ号は、裏のヘリポートにとめてあるってさ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...