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第三章 銀河の歌姫――Galaxy Minerva
26日目AM9:00
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刑事がホシではなく、肩のホシを追うようになったらおしまいだ。
――平塚八兵衛
☆
オセロ第一警察署は、ポープ警察の庁舎(警視庁)も兼ねる、巨大な本部ビルだ。
ポープ警察は9つの組織に分かれており、天王星に降り立ったライトとミグは、さっそく交通課の取り調べを受けることになった。
「君のせいで、警察の厄介になるとは・・・」
ミグがため息をついた。
軍人として、司法の世話になるのが情けないらしい。
「心配すんなミグ。ただの速度超過や。切符切って終わりやろ」
「そうかなあ・・・」
「だって、前もそうやったし」
「“前も”って・・・はあ」
しかし、ライトの楽観的な予想ははずれた。
☆
「なんで指紋を取られなきゃいかんのや!スピード違反がいつからそんな重罪になったんや!」
取調室でライトは徹底的に抗議した。
「いいから、この書類のここに指を押せばいいんだって!」
交通課の職員がイライラしながら言った。
ライトは革のジャケットに手を入れて腕を組んだ。
「い~や絶対納得がいかん!この星は民主主義の星やろ!」
「指紋くらいいいだろ!」
とうとう職員も大きな声を出した。
「やだやだやだ!指紋を許せば、お前らはどうせ、次に歯型、そんでDMAをとるんやろ!」
「そんなことするわけないだろ!・・・DMA?(一瞬考え込んで)ああ、DNAか」
「納得いく理由がなきゃ、オレは絶対せえへんからな!んなもんプライバシーの侵害や!」
ライトが騒ぐ取調室に、警官がどんどん集まってくる。
「お前ら集まってくるなや!鬱陶しい!」
このままでは、らちがあかないと判断した交通課の職員は、上司と何か言葉をかわすと、取調室から出て行った。
そして、内線電話で謎の番号を囁いた。
「コード10-66が進行・・・」
「コード10-66ってなんやねん!」
そしてライトにこう告げた。
「別室へどうぞ」
☆
屈強な体つきの老刑事が、足を踏み鳴らして取調室へ続く廊下を進んでいく。
「オレの星の秩序を乱すやつは許さん!ギタギタのメロメロにしてやる・・・!」
彼は、ゲオルグ・シドゥス警部(59)。
天王星捜査局(UBI)の外事担当のベテラン警部で、74年のファランクス重工爆破事件(いわゆるダイヤモンド作戦)や、76年のロッキード事件で活躍。
近年では、テロ組織「レプリカント」による地下鉄バイオテロを、未然に防いだ立役者としても知られている。
天王星には、地球のTIA、海王星のMI7に当たるような諜報機関がない。
代わりにその役割を担っているのが、国際犯罪を一手に引き受ける外事警察であり、ゲオルグ・シドゥス警部はその中でも最も優秀で、最も恐ろしい刑事だった。
定年を迎え、髪こそ白くなったものの、シドゥス警部は若手捜査官以上に血気盛んな人物で、どんなに強大な圧力にも決して屈しない。
ロッキードスキャンダルでは、元老院の無力化を目論んだディオクレティアヌス政務長官の最大の障害となり、「奴を消せ」という極秘文書がかわされたという、ものすごい伝説もある。
つまり、天王星の共和制が今なお保たれているのは、UBIの鬼警部が上層部の命令をはねつけて、国家権力の不正を暴いたからなのである。
彼は、上層部が指揮する諜報活動をこのように切り捨てた。
「通信傍受なんて頭でっかちのトンチキがすることだ。
いくらコンピュータが進歩しようが、人間のすることはいつの世も変わらねえ。
エゴと保身、それだけだ。
だからな、知恵と経験さえあれば、ホシがどういうカードを着るかはだいたい想像がつくもんだ。
そして、それは冷房の効いたオフィスの中じゃ身に付かねえんだよ」
さて、外事のスペシャリストであるシドゥス警部が、交通課に呼ばれるのは珍しい。
取調べを担当した者によれば、スピード違反で捕まった宇宙船の乗組員が、拇印を押すことに対し異常な抵抗を見せているのだという。
シドゥス警部は取調室に入ると、交通課の職員に声をかけた。
「マエモノ(前科持ち)か?」
「いえ、犯罪歴はありません。
しかし、スペースハイウェイをマッハ3000で暴走していたそうです」
「マッハ3000だと?」
交通課から調書を受け取った警部が片眉を吊り上げた。
「移転が禁止されている技術を持ち込んでいる可能性もあるな。
よし、オレがはかせてやる、どいつだ?」
めくっていた資料を職員に渡すと、警部はマジックミラーの向こうに見覚えのある顔を見つけた。
「あのバカ・・・」
警部が扉を開けブースへ入ると、例の問題児がイスから立ち上がり、彼の名前を呼んだ。
「あ、ゲオルグのおっちゃん!」
「デカ長お知り合いですか?」
と、取調官。
「・・・そいつを釈放しろ。
とっととこの星から追い出せ。
オレたちの捜査の邪魔になる」
警部はそう言うと、腕を一振りした。
「しかし・・・」
「そいつはスパイでも運動家でもない。
ただのバカだ」
警部は取調べ官に断言した。
「なあ、なんかあったん?天王星」
警部と面識があったライトは、誰に対してもするように馴れ馴れしく声をかけた。
「お前には関係ない話だ。さあ帰った帰った。
こちとら領土問題で忙しいんだ・・・」
「じゃあ、前みたいにカツ丼食ってからでいい?」
「うるせえ~!外の定食屋で食え!」
鬼警部は、取調官から取り上げた調書を引き裂くと、ライトを部屋から追い出した。
ミグがエントランスで相棒の取調べが終わるのを待っていると、当人が納得いかないような表情で、こちらに歩いてくるのが見えた。
「なあ、大丈夫だった?」
ミグはソファから立ち上がると、預かっていた彼の私物を渡した。
「ああ・・・知り合いがおってな」
お気に入りのフライトゴーグルをいつものように額にセットするライト。
「君はたいていどの星でも警察沙汰を起こすよな・・・」
と、ミグが力なく微笑んだ。
「冥王星はお前が通報したんやろ!」
「あれは悪かったって謝ったじゃないか・・・で、どうする?この星で食事でもしていく?」
ミグがドレスウォッチに目をやる。時計の針は午前9時を回っていた。
「せやな。せっかくこの星に降りたことやし」
「リンドバーグ号は、裏のヘリポートにとめてあるってさ」
――平塚八兵衛
☆
オセロ第一警察署は、ポープ警察の庁舎(警視庁)も兼ねる、巨大な本部ビルだ。
ポープ警察は9つの組織に分かれており、天王星に降り立ったライトとミグは、さっそく交通課の取り調べを受けることになった。
「君のせいで、警察の厄介になるとは・・・」
ミグがため息をついた。
軍人として、司法の世話になるのが情けないらしい。
「心配すんなミグ。ただの速度超過や。切符切って終わりやろ」
「そうかなあ・・・」
「だって、前もそうやったし」
「“前も”って・・・はあ」
しかし、ライトの楽観的な予想ははずれた。
☆
「なんで指紋を取られなきゃいかんのや!スピード違反がいつからそんな重罪になったんや!」
取調室でライトは徹底的に抗議した。
「いいから、この書類のここに指を押せばいいんだって!」
交通課の職員がイライラしながら言った。
ライトは革のジャケットに手を入れて腕を組んだ。
「い~や絶対納得がいかん!この星は民主主義の星やろ!」
「指紋くらいいいだろ!」
とうとう職員も大きな声を出した。
「やだやだやだ!指紋を許せば、お前らはどうせ、次に歯型、そんでDMAをとるんやろ!」
「そんなことするわけないだろ!・・・DMA?(一瞬考え込んで)ああ、DNAか」
「納得いく理由がなきゃ、オレは絶対せえへんからな!んなもんプライバシーの侵害や!」
ライトが騒ぐ取調室に、警官がどんどん集まってくる。
「お前ら集まってくるなや!鬱陶しい!」
このままでは、らちがあかないと判断した交通課の職員は、上司と何か言葉をかわすと、取調室から出て行った。
そして、内線電話で謎の番号を囁いた。
「コード10-66が進行・・・」
「コード10-66ってなんやねん!」
そしてライトにこう告げた。
「別室へどうぞ」
☆
屈強な体つきの老刑事が、足を踏み鳴らして取調室へ続く廊下を進んでいく。
「オレの星の秩序を乱すやつは許さん!ギタギタのメロメロにしてやる・・・!」
彼は、ゲオルグ・シドゥス警部(59)。
天王星捜査局(UBI)の外事担当のベテラン警部で、74年のファランクス重工爆破事件(いわゆるダイヤモンド作戦)や、76年のロッキード事件で活躍。
近年では、テロ組織「レプリカント」による地下鉄バイオテロを、未然に防いだ立役者としても知られている。
天王星には、地球のTIA、海王星のMI7に当たるような諜報機関がない。
代わりにその役割を担っているのが、国際犯罪を一手に引き受ける外事警察であり、ゲオルグ・シドゥス警部はその中でも最も優秀で、最も恐ろしい刑事だった。
定年を迎え、髪こそ白くなったものの、シドゥス警部は若手捜査官以上に血気盛んな人物で、どんなに強大な圧力にも決して屈しない。
ロッキードスキャンダルでは、元老院の無力化を目論んだディオクレティアヌス政務長官の最大の障害となり、「奴を消せ」という極秘文書がかわされたという、ものすごい伝説もある。
つまり、天王星の共和制が今なお保たれているのは、UBIの鬼警部が上層部の命令をはねつけて、国家権力の不正を暴いたからなのである。
彼は、上層部が指揮する諜報活動をこのように切り捨てた。
「通信傍受なんて頭でっかちのトンチキがすることだ。
いくらコンピュータが進歩しようが、人間のすることはいつの世も変わらねえ。
エゴと保身、それだけだ。
だからな、知恵と経験さえあれば、ホシがどういうカードを着るかはだいたい想像がつくもんだ。
そして、それは冷房の効いたオフィスの中じゃ身に付かねえんだよ」
さて、外事のスペシャリストであるシドゥス警部が、交通課に呼ばれるのは珍しい。
取調べを担当した者によれば、スピード違反で捕まった宇宙船の乗組員が、拇印を押すことに対し異常な抵抗を見せているのだという。
シドゥス警部は取調室に入ると、交通課の職員に声をかけた。
「マエモノ(前科持ち)か?」
「いえ、犯罪歴はありません。
しかし、スペースハイウェイをマッハ3000で暴走していたそうです」
「マッハ3000だと?」
交通課から調書を受け取った警部が片眉を吊り上げた。
「移転が禁止されている技術を持ち込んでいる可能性もあるな。
よし、オレがはかせてやる、どいつだ?」
めくっていた資料を職員に渡すと、警部はマジックミラーの向こうに見覚えのある顔を見つけた。
「あのバカ・・・」
警部が扉を開けブースへ入ると、例の問題児がイスから立ち上がり、彼の名前を呼んだ。
「あ、ゲオルグのおっちゃん!」
「デカ長お知り合いですか?」
と、取調官。
「・・・そいつを釈放しろ。
とっととこの星から追い出せ。
オレたちの捜査の邪魔になる」
警部はそう言うと、腕を一振りした。
「しかし・・・」
「そいつはスパイでも運動家でもない。
ただのバカだ」
警部は取調べ官に断言した。
「なあ、なんかあったん?天王星」
警部と面識があったライトは、誰に対してもするように馴れ馴れしく声をかけた。
「お前には関係ない話だ。さあ帰った帰った。
こちとら領土問題で忙しいんだ・・・」
「じゃあ、前みたいにカツ丼食ってからでいい?」
「うるせえ~!外の定食屋で食え!」
鬼警部は、取調官から取り上げた調書を引き裂くと、ライトを部屋から追い出した。
ミグがエントランスで相棒の取調べが終わるのを待っていると、当人が納得いかないような表情で、こちらに歩いてくるのが見えた。
「なあ、大丈夫だった?」
ミグはソファから立ち上がると、預かっていた彼の私物を渡した。
「ああ・・・知り合いがおってな」
お気に入りのフライトゴーグルをいつものように額にセットするライト。
「君はたいていどの星でも警察沙汰を起こすよな・・・」
と、ミグが力なく微笑んだ。
「冥王星はお前が通報したんやろ!」
「あれは悪かったって謝ったじゃないか・・・で、どうする?この星で食事でもしていく?」
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