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第三章 銀河の歌姫――Galaxy Minerva
1976年
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自分の直感を信じる勇気を持ちなさい。
ー―スティーブ・ジョブズ
☆
中学生になったある時、ヴィンセントが突然ライトに相談を持ちかけた。
「ライト。会社を作ろう」
「はあ?」
ロケットのターボポンプを取り付けていたライトは、6歳の頃よりもずっとたくましくなっていた。
重いパーツを運んでは組み立てていたので、知らず知らずのうちに筋肉がついてしまったのだ。
それとは対照的に、ヴィンセントの方は線の細い美青年になっていた。
小学生の頃は、ライトに対して一方的に言いなりになっていた気弱な少年も、最近では自分の意見をはっきりと伝えることが多くなっている。
それもそのはずー―ヴィンセントは中学校に入って、女子にモテだしたのである。
学校でのアイドル的な人気は、彼に自信を与えた。
「僕らの才能をお金に変えないのはもったいないって。
ロケット開発は、どんどん費用がかさんでいくし、二人のお小遣いやバイト代じゃ、もう賄えきれない。
ロケットを君がこれから作り続けたいなら、起業しかない」
ヴィンセントは力強く断言した。
「まじで?」
この頃のヴィンセントは、女子にモテる以外にも才能があることがわかった。
モノづくりではライトに敵わなかったものの、数学の成績だけは彼を退けたのである。
そのためヴィンセントは、ロケット開発そのものよりも、ライトがロケット開発を持続するために必要な資金を計算することに、興味の対象が移っていった。
汚れ一つないチョッキを着るヴィンセントは、油まみれのつなぎを着るライトに、タイプされた紙を差し出した。
「なにこれ?」
「過去3年の収支バランスを計算したんだけど、このまま開発コストが上がると、僕らの賃金を上回って、ひと月ごとにおよそ30%の赤字を・・・」
「あかん、オレにはさっぱり分からへん」
苦笑いをして、差し出されたグラフを突き返すライト。
「つまりだ、僕らのやっていることは、もう、趣味のレベルを超えているんだよ」
「でも、会社つくるかて、具体的にどうすりゃええんや?」
「それに関しては、僕に任せてほしい。
僕が君の代理人になってあげるよ。
登記申請とか、銀行との煩わしい交渉は、全部僕が引き受けるから、君は僕の差し出す書類にサインだけすればいいのさ」
「お前・・・・!」
ライトが突然声を押し殺した。
「ひっ・・・」
「なんてええやつなんや!!」
ライトはそう言うと、会社設立をあっさり承諾した。
こうして1976年11月に、「ライト&レイセオン社」が、二人の天才中学生によって設立された。
☆
会社のオフィスは、とりあえずは、ライトのガレージになった。
パーテーションで区切っただけのオフィスで、ライトとヴィンセントは会社の方針を考えることにした。
「これから宇宙ロケットは、コンピュータで飛ばす時代になるって。
だからうちの会社もコンピュータビジネスをやろうと覆うんだ」
紙コップに入れたコーヒーを、共同経営者に出しながらヴィンセント。
「確かにな~・・・でもオレ、電子工学そんな詳しくないで」
と、ライト。
「いや、何もダイオードやトランジスタを作れってんじゃなくてさ」
「コンピュータ作るんやろ?」
「いや・・・その・・・僕らがこれから作るのは、ハードウェアじゃなくてソフトウェアだ」
「え・・・それって、あれか。
ファミコンみたいなの作るんか」
「ま、まあ・・・」
「それはあかんよ~」
ライトは笑いながらヴィンセントの提案を拒否した。
「それはあかんて。だって、発明ちゃうもん」
ライトには、「発明=モノづくり」という先入観があった。
そういう意味で、ソフトウェア開発などは、彼にとっては実体のない不可解極まりないものだった。
「いいかい、ソフトウェアはハードウェアに比べて、固定費用がとんでもなく安く済むんだ。
例えば、これ」
そう言うと、ヴィンセントはハガキ大の薄い磁気ディスクを取り出した。
「これはフロッピーディスクっていうリムーバブルデバイス(記憶媒体)なんだが、これの原価は高くても1ドル以下。
しかしこの中にソフトウェアのデータを焼き付ければ、末端価格は100ドルにも跳ね上がる。
こんなうまい商売はないだろ?
我が社も、この流れに乗らない手はないって」
ライトは、納得がいかない様子で「う~ん」と、小さなフロッピーをつまらなさそうに眺めた。
そして、「オレ、やっぱ宇宙ロケット作りたい」と、フロッピーを会議机に放り投げた。
「気持ちはわかるけど、ロケットのような重厚長大な工業製品は、設備投資に巨額のお金がかかるのはわかるだろう。
まずは手堅く資本を集めて、会社の規模を拡大したあと、君の作りたいものを作ればいい」
「いや、オレは別に商売のためにロケットを作りたいわけやなくてな・・・」
ヴィンセントはだんだんイライラしてきた。
「わかってるわかってる。だが、利益を出さない会社には投資家は金を出さない。
君も経済の仕組みをもう少し学んで欲しい。
君は、あまりに商売っけがなさすぎる」
「な~んか、つまらなさそうやなあ・・・」
☆
「お~~っす!!」
と、大きな声を出し、ガレージにレオナがやってきた。
「また、こんなとこに引きこもって、よからぬ相談ですか!」
「イヤハートさん、そりゃ人聞きの悪い・・・」
居心地が悪そうにヴィンセント。
「にゃはにゃはにゃは!」
レオナは、この年になると持ち前の運動神経にさらに磨きがかかり、様々な運動部を勝利に導いていた。
今日は着ているユニホームからラクロス部に加勢したらしい。
「試合はどうやった?」
とライト。
「えへへへ、圧勝」
レオナは太陽のような笑顔を浮かべてVサインをした。
「どうだい、少年。
君もゼニカネの計算ばかりしてないで、スポーツで青春の汗を流してみては?」
「どうも・・・」
ヴィンセントの肩に腕を回し、彼のメガネを奪ってかけるレオナ。
「ところで、なんか冷たいものない?のど渇いたわ」
「ほい」
ライトが携帯冷蔵庫からメロンソーダを取り出し、レオナに放り投げた。
「サンキュ、へへへこれやこれや」
レオナは嬉しそうに缶のプルを持ち上げた。
「ほいで、ロケットの方は順調かい?」
「それがやな・・・とりあえずソフトウェアから作ることにしたんや」
「ソフトクリーム??ほう、またそれは思い切った路線変更やな。
あたしラムレーズンが好き」
「いや、コンピュータの。なんか、オレもよくわからへんのやけど・・・こういうもんやねんて」
ライトがフロッピーディスクを見せた。
「なんやこれ?そもそも、あたしには何するものかもわからへん」
フロッピーディスクをしげしげと見つめるレオナ。
「これにデータを詰め込めばボロ儲けできるんやと」
「ふ~ん・・・な~んかつまらなさそう」
ライトはヴィンセントの方を向いた。
「ほら、レオナも言うてるで。
やっぱ、よしたほうがええんちゃう?」
「だから、面白いつまらないの問題では・・・」
「なあ、君ら最近学校へも来てへんやろ。
たまには外に出ようや。
せや、自転車で海行こう。
よし決まり」
レオナは思いついたように、二人を強引に遊びに誘った。
「僕は、ここにいるよ・・・日焼けが嫌だから」
気乗りしないヴィンセントに対して、レオナが目をつむって楽しそうに言った。
「イヤハーツの規則は?レイセオン隊員」
「・・・リーダーの言うことは絶対」
「よくできました。ご褒美にメガネを返します」
「ヴィンセント、行こうや。
最近煮詰まってたし、いい気分転換になると思うで」
と、ライト。
「う、うん・・・」
ヴィンセントは力なく返事をすると、レオナから戻ってきたメガネをかけた。
☆
「あれ?僕の自転車パンクしてる・・・」
ガレージの脇に置いてある自分の自転車を見てヴィンセントがつぶやいた。
「どんくさいやっちゃなあ・・・」
レオナが首を振る。
「ちょっと待ってて、今直すから・・・」
ヴィンセントがガレージに工具箱を取りに行こうとすると、レオナが彼を呼び止めた。
「ああ、待ち待ち・・・あたしのオールドベッシー(※マウンテンバイク)貸したるよ」
ヴィンセントが振り返る。
「え?じゃあリーダーのは?」
するとレオナはライトの自転車の後ろに乗った。
「連れてって」
「喜んで」
☆
レオナを後ろに乗せてペダルを漕ぐライト。
「いや~気持ちいいな~!」
嬉しそうに笑うレオナ。
「あ、カモメ!」
「はしゃいで落ちるなよ?」
と、ライト。
「誰に言ってんねん!」
そう言うと後ろを向き、上り坂を辛そうに走るヴィンセントに声をかけた。
「ヴィンちゃん、ギヤを変えんねんて」
「変えたよ・・・」
息を切らせながらヴィンセント。
「変えてなんでそんな辛そうなん?」
レオナはキョトンとした。
「あいつ最近運動しとらんから・・・」
と、ライト。
「僕の自転車には電動モーターが付いているんだよ・・・」
「頑張れヴィンヴィン!あの頃を思い出すんや!」
レオナが檄を飛ばした。
「あ、あの頃??」
「一緒に自転車で海まで行ったやろ・・・あ、君は行ってないか」
「そういえば、レオナとの二人乗りって、その時以来やな」
「へへ、懐かしいやろ」
「あの時は、レオナがペダルを漕いでたけどな」
「そうやっけ?」
「あ、あの~・・・僕が共有していない思い出に浸られても・・・」
後ろのヴィンセントが気まずそうにつぶやく。
「ああ、つまり君に言えるのは、海はあとちょっとだから頑張れってことや」
「な・・・なんですか、それ・・・」
☆
海に着くと、レオナが真っ先に靴を脱ぎ波打ち際に駆け出した。
「沖まで競争しようぜ~!」
自転車を止める二人に向かって手招きをするレオナ。
「“沖”って一体どこまで泳ぐつもりなんだろう・・・
体育会系って、“夕日に向かってダッシュ”とか、つじつまの合わないことをよく言うんだよな・・・」
困り果てた顔でヴィンセント。
自転車をこいだだけでばててしまったようだ。
「お~い早く早く~!」
「オレ達、水着持ってきてないよ」
ライトが苦笑いをした。
「うん、あたしも!」
「え・・・」と男たち。
「乾く乾く!」
そう言うと、ユニフォームを脱いで海に気持ちよさそうに入っていった。
「ひゃっほ~!」
「あの人絶対に本能だけで生きてるよ、どうしよう・・・」
とヴィンセント。
「そうか・・・?」
砂浜に座り、アンダーシャツ一枚で、楽しそうに泳いでいるレオナをぼんやりと見るライト。
「・・・おっぱい大きいよなあ」
ヴィンセントがふと呟いた。
「お前・・・本当そういうことばっかやなあ・・・」
「二人乗りでおっぱい当たっただろ?どうだった?」
ため息をつくライト。
「・・・君が羨ましいよ」
「へ?」
「彼女、絶対君が好きだよ」
「そんなことないよ・・・ほら、お前のファンクラブが来たで」
そう言うとライトは、砂浜の向こうを指さした。
「レイセオンく~ん!あたしたちと遊ぼうよ~!」
ヴィンセントが振り返ると、学校の女子の集団が彼を呼んでいた。
一緒にビーチバレーをしたいらしい。
「なんでお前がそんなにもてるんだかわからへん」
ライトがかぶりを降った。
「いいか、彼女を幸せにしてやれよ」
そう言うと、ヴィンセントは女の子たちの方に駆け寄ると、いつも学校でやるようなキザで二枚目なモードになった。
「まったくしょうがない子猫ちゃんたちだなあベイビ~」
「きゃー!」という黄色い声。
しばらくして、一人で泳いでいたレオナがシャツの裾を絞って砂浜に上がってきた。
「あれ?ヴィンセントくんは?」
「女子に連れてかれた」
と、ライト。
「なんで彼がそんなにもててるんだかわからへん」
レオナはそう言うと、ライトからタオルを受け取り、太陽で美しく輝くブロンドの髪を拭いた。
その様子を見ていたライトは、彼女の腕が思っていた以上に細く、自分の腕がそれに比べるとずっ
と太いことに気づいた。
ー―レオナの腕ってこんなに華奢だったっけ?
なぜならライトは、腕相撲で彼女に勝てたことがないからだ。
「あ~あ、二人きりになっちゃったね」
と、レオナ。
「どうする?あいつらに混ぜてもらう?」
ライトは、ビーチボールで盛り上がっているヴィンセント達の方を指さした。
その様子を見るレオナは、しばらく黙りこむと
「・・・お話でもしようか」
と言った。
☆
ライトとレオナは、砂浜に座りながら、海を見つめた。
「なあ、ライト・・・海王星っていう星は、地球よりずっと大きくて、しかもほとんどが海なんやて」
そう言うと、レオナは落ちていた木の棒を拾って、何気なく砂浜に絵を描いた。
「どんな世界なんやろうなあ・・・」
レオナの話を、黙って聞くライト。
彼女は立ち上がると、今度は大きな丸の横に小さい丸を描いた。
「もっと行くと、冥王星っていう小さな星があってな。
ここはエベレストよりも気温が低いんやて。
でも、天然ガスがたくさんあって、それで地面の氷を溶かして暖をとってるんや」
楽しそうなレオナを、見つめ続けるライト。
「冥王星よりも先は、いよいよ太陽系の果てや。
人類ではイエガーしか行ったことのない、未知の領域・・・!」
少女は、砂浜を駆け出して、線を波打ち際まで引くと、立ち止まった。
打ち寄せる波によって、少しずつ消えていく線を見下ろして、レオナが静かに言った。
「私は・・・誰よりも遠くに行きたい。
誰も知らない広い世界を見てみたい・・・」
「レオナならきっと行けるよ。
世界初の女性パイロットになるんやろ?」
「うん・・・でも・・・」
彼女が何かを言いかけると、遠くから女の子の悲鳴が聞こえてきた。
レオナとライトが声がした方を振り返ると、ヴィンセントとさっきの女の子達が、サーファー風の男3人に絡まれていた。
「こりゃあかん。
ライトお前はここにいろ。
あたしが助けてくるから」
「でも、相手は3人やぞ・・・いくらレオナでも・・・」
不安そうなライト。
「前もそうやったやろ。
お前は誰か人を呼んでこい。
いいか、絶対に来るなよ。
危ないから」
ライトは頷いた。
☆
「なあ、君たち。そんなやつよりもオレ達と遊ぼうぜ?」
ヴィンセントの後ろにいる少女たちににじり寄るサーファー。
女の子たちは不安そうにヴィンセントを見つめている。
「レイセオンくん・・・」
「き・・・君たち、彼女たちが嫌がっているじゃないか・・・ここは紳士的に話・・・」
「オイ!」
と突然大きな声を出すサーファー。
「いや、なんでもないっす・・・」
ヴィンセントは、あっさり気圧された。
「へっ、情けない奴だぜ、てめえはとっとと失せな。
その子達はオレらが可愛がってやるからよ」
黙ってうつむいたまま動かないヴィンセント。
「オイ、聞こえねえのか?
どけって言ってんだよ!
ぶん殴っちゃうぞ!」
「やってみろ・・・」
かすかな声でヴィンセント。
「僕が土星でどんな目にあったかなんて知らないだろう・・・
革命軍の連中に比べれば、君たちなんて怖くない・・・!」
そう言うとヴィンセントはボクシングの構えをした。
「さあ、相手になろう!
かかってきたまえ!」
が、ヴィンセントはあっさりサーファーの一発でノックアウトされてしまった。
「レイセオンくん!!」
砂浜に倒れるヴィンセントを乗り越えて、女の子達に近づくサーファー。
「さ~て君たち、こんな馬鹿とじゃなくて、オレ達とどっか店でもいかない?」
「待て・・・!」
すると、ヴィンセントがサーファーの足を掴んだ。
「なんだ、しつこいやつだな。
今度は一発じゃすまねえぞ」
「やれるならやってみろ・・・
そんな度胸もないくせに・・・」
フレームが歪んだメガネをかけてフラフラと立ち上がるヴィンセント。
「ブルースやっちまおうぜ?」
「上等だ・・・」
サーファーのリーダー格が、ヴィンセントの襟を掴むと、指輪だらけの手で殴りかかった。
その刹那ー―
「やめろ!あたしの子分に手を出すな!!」
レオナがサーファー集団の前に立ちはだかった。
「おいおい、今度は何だ?勇ましく登場した割には、随分キュートなお嬢ちゃんじゃねえか」
サーファー達が苦笑いをした。
「お前ら、よくもあたしの子分を可愛がってくれたな、礼はたっぷりさせてもらうで」
「おいおい、彼女、本気か?冗談きついぜ・・・」
そう言い終わる瞬間、レオナはリーダー格の男の股間を思い切り蹴り上げた。
「ぐっ!」
突然の急所攻撃に、身をかがめる男の顎に間髪入れず頭突きを食らわせ、一人目を撃破するレオナ。
「てめえ!」
仲間の男がレオナに襲いかかると、レオナは持っていた木の棒を振り回し応戦した。
しかし、男の一人に木の棒を掴まれると、レオナは後ろからもうひとりの男に羽交い絞めにされてしまった。
「離せ!離さんかい!!」
レオナは必死で脚をばたつかせ、男の顔を打ち付けたが、やがて脚も掴まれ、完全に身動きが取れなくなった。
そこへ、奇襲を受けたリーダー格が、怒りで顔を真っ赤にして近づいてきた。
「てめえ、女のくせに舐めた真似しやがって・・・!」
「女かどうかなんてケンカに関係ないやろ!
あたしはレオナ・イヤハートや!覚えとけ!」
「そうか、じゃあ確認してやる」
そう言うと、男はレオナの胸を握りだした。
ショックで顔をこわばらせるレオナ。
その瞬間ー―
男はものすごい勢いで、何者かに蹴り飛ばされた。
二度の不意打ちを食らった男は、砂浜に崩れると、そのまま起き上がらなかった。
「ブルース!!」
仲間の男が振り返ると、そこには鬼の形相を浮かべたライトがいた。
「お前ら~地獄みせたる・・・!」
その迫力に、男たちは肝を潰された。
ー―こいつ、何をしでかすかわからない・・・
ライトは、砂浜に体をうずめたリーダー格に馬乗りになると、
「レオナに謝れ!」
と何度も顔を殴りつけた。
慌ててレオナがライトを取り押さえるが、力が強くてどうにもならない。
「あかんライト!おさえろ!!死んでしまうって!」
我を忘れたライトは怒鳴った。
「レオナをあんな目に遭わせたヤツやぞ!死んで当然や!!」
「あかん!どんな人間にも生きる権利がある!!」
レオナは必死でライトを諌めた。
「悪人にもか!」
「そうや!!」
殴るのをやめて黙り込むライト。
肩で息をしながら、気持ちを落ち着ける。
ライトの下には血まみれのサーファーが横たわっていた。
「だから・・・だから、もう許してやれ・・・あたしはもう大丈夫やから・・・な?」
そう言うレオナの目はかすかに潤んでいた。
☆
警察の事情聴取が終わり、3人が家路に着く頃には水辺線に夕日が沈みかけていた。
「いや~今回はライトが大活躍やったなあ・・・」
レオナは砂浜を歩きながら、ヴィンセントに声をかけた。
「な?ヴィンセントくん?」
「・・・・・・」
黙り込むヴィンセント。
メガネのフレームはガタガタだ。
「ヴィンセントどうした?」
ライトも心配そうに尋ねた。
「・・・君らのせいで、またひどい目にあったよ・・・」
「まあ、こういうこともあるから人生楽しいんやて・・・
ケツにロケット花火刺さった時よりはマシやろ」
そう言ってレオナが笑うと
「僕は全然楽しくない」
と不機嫌そうにヴィンセントがつぶやいた。
気まずい空気。
「ま、まあまあ・・・あのサーファーどももお前が女の子にモテモテで嫉妬したんやって・・・」
ライトが二人の間に入って仲裁しようとした。
「うんうん。君は男前やから・・・」
レオナも頷いた。
しかしヴィンセントは押し殺した声で言った。
「僕は女子の前でケンカに負けただけ・・・株を上げたのは君らじゃないか!」
「いや、だってチームの仲間を守るのはリーダーとしては当然やし・・・」
レオナがそう言うと、ヴィンセントがとうとう我慢できずに叫んだ。
「僕は君らの子分じゃない!」
そして、彼は徒歩で家に帰っていった。
ヴィンセントを黙って見送る二人。
やがてレオナがポツリとつぶやいた。
「ライト・・・イヤハーツは解散や・・・
私はもうリーダーを降りる」
「え?ホンマに?」
とライト。
「ああ・・・今回のケンカでよくわかったよ」
「一度の敗戦くらいどうってことないやろ。
レオナは今だって十分強いよ」
「ありがとう・・・でも・・・
きっと・・・子どもの頃と“何か”が変わってしまったんや。
ヴィンセント君にだって男としてのプライドがある・・・
だから、お前らは自由に生きればええ。
ロケットでもソフトクリームでも好きなもん追いかけてな。
あと、あたしはラムレーズンが好き・・・」
「そんな・・・!レオナはこれからもずっとオレらのリーダーやって!」
必死に食い下がるライト。
「いや・・・あたしは、もう男には敵わへん・・・
お前らを守ってやることはでけへんよ」
それだけ言うと、レオナは自分のマウンテンバイクのサドルに手をかけた。
「帰ろう?ライト・・・」
ライトは動かない。
「じゃ、じゃあ・・・」
「え?」
振り返るレオナ。
「オレがレオナを守るんじゃアカンかな・・・」
ー―スティーブ・ジョブズ
☆
中学生になったある時、ヴィンセントが突然ライトに相談を持ちかけた。
「ライト。会社を作ろう」
「はあ?」
ロケットのターボポンプを取り付けていたライトは、6歳の頃よりもずっとたくましくなっていた。
重いパーツを運んでは組み立てていたので、知らず知らずのうちに筋肉がついてしまったのだ。
それとは対照的に、ヴィンセントの方は線の細い美青年になっていた。
小学生の頃は、ライトに対して一方的に言いなりになっていた気弱な少年も、最近では自分の意見をはっきりと伝えることが多くなっている。
それもそのはずー―ヴィンセントは中学校に入って、女子にモテだしたのである。
学校でのアイドル的な人気は、彼に自信を与えた。
「僕らの才能をお金に変えないのはもったいないって。
ロケット開発は、どんどん費用がかさんでいくし、二人のお小遣いやバイト代じゃ、もう賄えきれない。
ロケットを君がこれから作り続けたいなら、起業しかない」
ヴィンセントは力強く断言した。
「まじで?」
この頃のヴィンセントは、女子にモテる以外にも才能があることがわかった。
モノづくりではライトに敵わなかったものの、数学の成績だけは彼を退けたのである。
そのためヴィンセントは、ロケット開発そのものよりも、ライトがロケット開発を持続するために必要な資金を計算することに、興味の対象が移っていった。
汚れ一つないチョッキを着るヴィンセントは、油まみれのつなぎを着るライトに、タイプされた紙を差し出した。
「なにこれ?」
「過去3年の収支バランスを計算したんだけど、このまま開発コストが上がると、僕らの賃金を上回って、ひと月ごとにおよそ30%の赤字を・・・」
「あかん、オレにはさっぱり分からへん」
苦笑いをして、差し出されたグラフを突き返すライト。
「つまりだ、僕らのやっていることは、もう、趣味のレベルを超えているんだよ」
「でも、会社つくるかて、具体的にどうすりゃええんや?」
「それに関しては、僕に任せてほしい。
僕が君の代理人になってあげるよ。
登記申請とか、銀行との煩わしい交渉は、全部僕が引き受けるから、君は僕の差し出す書類にサインだけすればいいのさ」
「お前・・・・!」
ライトが突然声を押し殺した。
「ひっ・・・」
「なんてええやつなんや!!」
ライトはそう言うと、会社設立をあっさり承諾した。
こうして1976年11月に、「ライト&レイセオン社」が、二人の天才中学生によって設立された。
☆
会社のオフィスは、とりあえずは、ライトのガレージになった。
パーテーションで区切っただけのオフィスで、ライトとヴィンセントは会社の方針を考えることにした。
「これから宇宙ロケットは、コンピュータで飛ばす時代になるって。
だからうちの会社もコンピュータビジネスをやろうと覆うんだ」
紙コップに入れたコーヒーを、共同経営者に出しながらヴィンセント。
「確かにな~・・・でもオレ、電子工学そんな詳しくないで」
と、ライト。
「いや、何もダイオードやトランジスタを作れってんじゃなくてさ」
「コンピュータ作るんやろ?」
「いや・・・その・・・僕らがこれから作るのは、ハードウェアじゃなくてソフトウェアだ」
「え・・・それって、あれか。
ファミコンみたいなの作るんか」
「ま、まあ・・・」
「それはあかんよ~」
ライトは笑いながらヴィンセントの提案を拒否した。
「それはあかんて。だって、発明ちゃうもん」
ライトには、「発明=モノづくり」という先入観があった。
そういう意味で、ソフトウェア開発などは、彼にとっては実体のない不可解極まりないものだった。
「いいかい、ソフトウェアはハードウェアに比べて、固定費用がとんでもなく安く済むんだ。
例えば、これ」
そう言うと、ヴィンセントはハガキ大の薄い磁気ディスクを取り出した。
「これはフロッピーディスクっていうリムーバブルデバイス(記憶媒体)なんだが、これの原価は高くても1ドル以下。
しかしこの中にソフトウェアのデータを焼き付ければ、末端価格は100ドルにも跳ね上がる。
こんなうまい商売はないだろ?
我が社も、この流れに乗らない手はないって」
ライトは、納得がいかない様子で「う~ん」と、小さなフロッピーをつまらなさそうに眺めた。
そして、「オレ、やっぱ宇宙ロケット作りたい」と、フロッピーを会議机に放り投げた。
「気持ちはわかるけど、ロケットのような重厚長大な工業製品は、設備投資に巨額のお金がかかるのはわかるだろう。
まずは手堅く資本を集めて、会社の規模を拡大したあと、君の作りたいものを作ればいい」
「いや、オレは別に商売のためにロケットを作りたいわけやなくてな・・・」
ヴィンセントはだんだんイライラしてきた。
「わかってるわかってる。だが、利益を出さない会社には投資家は金を出さない。
君も経済の仕組みをもう少し学んで欲しい。
君は、あまりに商売っけがなさすぎる」
「な~んか、つまらなさそうやなあ・・・」
☆
「お~~っす!!」
と、大きな声を出し、ガレージにレオナがやってきた。
「また、こんなとこに引きこもって、よからぬ相談ですか!」
「イヤハートさん、そりゃ人聞きの悪い・・・」
居心地が悪そうにヴィンセント。
「にゃはにゃはにゃは!」
レオナは、この年になると持ち前の運動神経にさらに磨きがかかり、様々な運動部を勝利に導いていた。
今日は着ているユニホームからラクロス部に加勢したらしい。
「試合はどうやった?」
とライト。
「えへへへ、圧勝」
レオナは太陽のような笑顔を浮かべてVサインをした。
「どうだい、少年。
君もゼニカネの計算ばかりしてないで、スポーツで青春の汗を流してみては?」
「どうも・・・」
ヴィンセントの肩に腕を回し、彼のメガネを奪ってかけるレオナ。
「ところで、なんか冷たいものない?のど渇いたわ」
「ほい」
ライトが携帯冷蔵庫からメロンソーダを取り出し、レオナに放り投げた。
「サンキュ、へへへこれやこれや」
レオナは嬉しそうに缶のプルを持ち上げた。
「ほいで、ロケットの方は順調かい?」
「それがやな・・・とりあえずソフトウェアから作ることにしたんや」
「ソフトクリーム??ほう、またそれは思い切った路線変更やな。
あたしラムレーズンが好き」
「いや、コンピュータの。なんか、オレもよくわからへんのやけど・・・こういうもんやねんて」
ライトがフロッピーディスクを見せた。
「なんやこれ?そもそも、あたしには何するものかもわからへん」
フロッピーディスクをしげしげと見つめるレオナ。
「これにデータを詰め込めばボロ儲けできるんやと」
「ふ~ん・・・な~んかつまらなさそう」
ライトはヴィンセントの方を向いた。
「ほら、レオナも言うてるで。
やっぱ、よしたほうがええんちゃう?」
「だから、面白いつまらないの問題では・・・」
「なあ、君ら最近学校へも来てへんやろ。
たまには外に出ようや。
せや、自転車で海行こう。
よし決まり」
レオナは思いついたように、二人を強引に遊びに誘った。
「僕は、ここにいるよ・・・日焼けが嫌だから」
気乗りしないヴィンセントに対して、レオナが目をつむって楽しそうに言った。
「イヤハーツの規則は?レイセオン隊員」
「・・・リーダーの言うことは絶対」
「よくできました。ご褒美にメガネを返します」
「ヴィンセント、行こうや。
最近煮詰まってたし、いい気分転換になると思うで」
と、ライト。
「う、うん・・・」
ヴィンセントは力なく返事をすると、レオナから戻ってきたメガネをかけた。
☆
「あれ?僕の自転車パンクしてる・・・」
ガレージの脇に置いてある自分の自転車を見てヴィンセントがつぶやいた。
「どんくさいやっちゃなあ・・・」
レオナが首を振る。
「ちょっと待ってて、今直すから・・・」
ヴィンセントがガレージに工具箱を取りに行こうとすると、レオナが彼を呼び止めた。
「ああ、待ち待ち・・・あたしのオールドベッシー(※マウンテンバイク)貸したるよ」
ヴィンセントが振り返る。
「え?じゃあリーダーのは?」
するとレオナはライトの自転車の後ろに乗った。
「連れてって」
「喜んで」
☆
レオナを後ろに乗せてペダルを漕ぐライト。
「いや~気持ちいいな~!」
嬉しそうに笑うレオナ。
「あ、カモメ!」
「はしゃいで落ちるなよ?」
と、ライト。
「誰に言ってんねん!」
そう言うと後ろを向き、上り坂を辛そうに走るヴィンセントに声をかけた。
「ヴィンちゃん、ギヤを変えんねんて」
「変えたよ・・・」
息を切らせながらヴィンセント。
「変えてなんでそんな辛そうなん?」
レオナはキョトンとした。
「あいつ最近運動しとらんから・・・」
と、ライト。
「僕の自転車には電動モーターが付いているんだよ・・・」
「頑張れヴィンヴィン!あの頃を思い出すんや!」
レオナが檄を飛ばした。
「あ、あの頃??」
「一緒に自転車で海まで行ったやろ・・・あ、君は行ってないか」
「そういえば、レオナとの二人乗りって、その時以来やな」
「へへ、懐かしいやろ」
「あの時は、レオナがペダルを漕いでたけどな」
「そうやっけ?」
「あ、あの~・・・僕が共有していない思い出に浸られても・・・」
後ろのヴィンセントが気まずそうにつぶやく。
「ああ、つまり君に言えるのは、海はあとちょっとだから頑張れってことや」
「な・・・なんですか、それ・・・」
☆
海に着くと、レオナが真っ先に靴を脱ぎ波打ち際に駆け出した。
「沖まで競争しようぜ~!」
自転車を止める二人に向かって手招きをするレオナ。
「“沖”って一体どこまで泳ぐつもりなんだろう・・・
体育会系って、“夕日に向かってダッシュ”とか、つじつまの合わないことをよく言うんだよな・・・」
困り果てた顔でヴィンセント。
自転車をこいだだけでばててしまったようだ。
「お~い早く早く~!」
「オレ達、水着持ってきてないよ」
ライトが苦笑いをした。
「うん、あたしも!」
「え・・・」と男たち。
「乾く乾く!」
そう言うと、ユニフォームを脱いで海に気持ちよさそうに入っていった。
「ひゃっほ~!」
「あの人絶対に本能だけで生きてるよ、どうしよう・・・」
とヴィンセント。
「そうか・・・?」
砂浜に座り、アンダーシャツ一枚で、楽しそうに泳いでいるレオナをぼんやりと見るライト。
「・・・おっぱい大きいよなあ」
ヴィンセントがふと呟いた。
「お前・・・本当そういうことばっかやなあ・・・」
「二人乗りでおっぱい当たっただろ?どうだった?」
ため息をつくライト。
「・・・君が羨ましいよ」
「へ?」
「彼女、絶対君が好きだよ」
「そんなことないよ・・・ほら、お前のファンクラブが来たで」
そう言うとライトは、砂浜の向こうを指さした。
「レイセオンく~ん!あたしたちと遊ぼうよ~!」
ヴィンセントが振り返ると、学校の女子の集団が彼を呼んでいた。
一緒にビーチバレーをしたいらしい。
「なんでお前がそんなにもてるんだかわからへん」
ライトがかぶりを降った。
「いいか、彼女を幸せにしてやれよ」
そう言うと、ヴィンセントは女の子たちの方に駆け寄ると、いつも学校でやるようなキザで二枚目なモードになった。
「まったくしょうがない子猫ちゃんたちだなあベイビ~」
「きゃー!」という黄色い声。
しばらくして、一人で泳いでいたレオナがシャツの裾を絞って砂浜に上がってきた。
「あれ?ヴィンセントくんは?」
「女子に連れてかれた」
と、ライト。
「なんで彼がそんなにもててるんだかわからへん」
レオナはそう言うと、ライトからタオルを受け取り、太陽で美しく輝くブロンドの髪を拭いた。
その様子を見ていたライトは、彼女の腕が思っていた以上に細く、自分の腕がそれに比べるとずっ
と太いことに気づいた。
ー―レオナの腕ってこんなに華奢だったっけ?
なぜならライトは、腕相撲で彼女に勝てたことがないからだ。
「あ~あ、二人きりになっちゃったね」
と、レオナ。
「どうする?あいつらに混ぜてもらう?」
ライトは、ビーチボールで盛り上がっているヴィンセント達の方を指さした。
その様子を見るレオナは、しばらく黙りこむと
「・・・お話でもしようか」
と言った。
☆
ライトとレオナは、砂浜に座りながら、海を見つめた。
「なあ、ライト・・・海王星っていう星は、地球よりずっと大きくて、しかもほとんどが海なんやて」
そう言うと、レオナは落ちていた木の棒を拾って、何気なく砂浜に絵を描いた。
「どんな世界なんやろうなあ・・・」
レオナの話を、黙って聞くライト。
彼女は立ち上がると、今度は大きな丸の横に小さい丸を描いた。
「もっと行くと、冥王星っていう小さな星があってな。
ここはエベレストよりも気温が低いんやて。
でも、天然ガスがたくさんあって、それで地面の氷を溶かして暖をとってるんや」
楽しそうなレオナを、見つめ続けるライト。
「冥王星よりも先は、いよいよ太陽系の果てや。
人類ではイエガーしか行ったことのない、未知の領域・・・!」
少女は、砂浜を駆け出して、線を波打ち際まで引くと、立ち止まった。
打ち寄せる波によって、少しずつ消えていく線を見下ろして、レオナが静かに言った。
「私は・・・誰よりも遠くに行きたい。
誰も知らない広い世界を見てみたい・・・」
「レオナならきっと行けるよ。
世界初の女性パイロットになるんやろ?」
「うん・・・でも・・・」
彼女が何かを言いかけると、遠くから女の子の悲鳴が聞こえてきた。
レオナとライトが声がした方を振り返ると、ヴィンセントとさっきの女の子達が、サーファー風の男3人に絡まれていた。
「こりゃあかん。
ライトお前はここにいろ。
あたしが助けてくるから」
「でも、相手は3人やぞ・・・いくらレオナでも・・・」
不安そうなライト。
「前もそうやったやろ。
お前は誰か人を呼んでこい。
いいか、絶対に来るなよ。
危ないから」
ライトは頷いた。
☆
「なあ、君たち。そんなやつよりもオレ達と遊ぼうぜ?」
ヴィンセントの後ろにいる少女たちににじり寄るサーファー。
女の子たちは不安そうにヴィンセントを見つめている。
「レイセオンくん・・・」
「き・・・君たち、彼女たちが嫌がっているじゃないか・・・ここは紳士的に話・・・」
「オイ!」
と突然大きな声を出すサーファー。
「いや、なんでもないっす・・・」
ヴィンセントは、あっさり気圧された。
「へっ、情けない奴だぜ、てめえはとっとと失せな。
その子達はオレらが可愛がってやるからよ」
黙ってうつむいたまま動かないヴィンセント。
「オイ、聞こえねえのか?
どけって言ってんだよ!
ぶん殴っちゃうぞ!」
「やってみろ・・・」
かすかな声でヴィンセント。
「僕が土星でどんな目にあったかなんて知らないだろう・・・
革命軍の連中に比べれば、君たちなんて怖くない・・・!」
そう言うとヴィンセントはボクシングの構えをした。
「さあ、相手になろう!
かかってきたまえ!」
が、ヴィンセントはあっさりサーファーの一発でノックアウトされてしまった。
「レイセオンくん!!」
砂浜に倒れるヴィンセントを乗り越えて、女の子達に近づくサーファー。
「さ~て君たち、こんな馬鹿とじゃなくて、オレ達とどっか店でもいかない?」
「待て・・・!」
すると、ヴィンセントがサーファーの足を掴んだ。
「なんだ、しつこいやつだな。
今度は一発じゃすまねえぞ」
「やれるならやってみろ・・・
そんな度胸もないくせに・・・」
フレームが歪んだメガネをかけてフラフラと立ち上がるヴィンセント。
「ブルースやっちまおうぜ?」
「上等だ・・・」
サーファーのリーダー格が、ヴィンセントの襟を掴むと、指輪だらけの手で殴りかかった。
その刹那ー―
「やめろ!あたしの子分に手を出すな!!」
レオナがサーファー集団の前に立ちはだかった。
「おいおい、今度は何だ?勇ましく登場した割には、随分キュートなお嬢ちゃんじゃねえか」
サーファー達が苦笑いをした。
「お前ら、よくもあたしの子分を可愛がってくれたな、礼はたっぷりさせてもらうで」
「おいおい、彼女、本気か?冗談きついぜ・・・」
そう言い終わる瞬間、レオナはリーダー格の男の股間を思い切り蹴り上げた。
「ぐっ!」
突然の急所攻撃に、身をかがめる男の顎に間髪入れず頭突きを食らわせ、一人目を撃破するレオナ。
「てめえ!」
仲間の男がレオナに襲いかかると、レオナは持っていた木の棒を振り回し応戦した。
しかし、男の一人に木の棒を掴まれると、レオナは後ろからもうひとりの男に羽交い絞めにされてしまった。
「離せ!離さんかい!!」
レオナは必死で脚をばたつかせ、男の顔を打ち付けたが、やがて脚も掴まれ、完全に身動きが取れなくなった。
そこへ、奇襲を受けたリーダー格が、怒りで顔を真っ赤にして近づいてきた。
「てめえ、女のくせに舐めた真似しやがって・・・!」
「女かどうかなんてケンカに関係ないやろ!
あたしはレオナ・イヤハートや!覚えとけ!」
「そうか、じゃあ確認してやる」
そう言うと、男はレオナの胸を握りだした。
ショックで顔をこわばらせるレオナ。
その瞬間ー―
男はものすごい勢いで、何者かに蹴り飛ばされた。
二度の不意打ちを食らった男は、砂浜に崩れると、そのまま起き上がらなかった。
「ブルース!!」
仲間の男が振り返ると、そこには鬼の形相を浮かべたライトがいた。
「お前ら~地獄みせたる・・・!」
その迫力に、男たちは肝を潰された。
ー―こいつ、何をしでかすかわからない・・・
ライトは、砂浜に体をうずめたリーダー格に馬乗りになると、
「レオナに謝れ!」
と何度も顔を殴りつけた。
慌ててレオナがライトを取り押さえるが、力が強くてどうにもならない。
「あかんライト!おさえろ!!死んでしまうって!」
我を忘れたライトは怒鳴った。
「レオナをあんな目に遭わせたヤツやぞ!死んで当然や!!」
「あかん!どんな人間にも生きる権利がある!!」
レオナは必死でライトを諌めた。
「悪人にもか!」
「そうや!!」
殴るのをやめて黙り込むライト。
肩で息をしながら、気持ちを落ち着ける。
ライトの下には血まみれのサーファーが横たわっていた。
「だから・・・だから、もう許してやれ・・・あたしはもう大丈夫やから・・・な?」
そう言うレオナの目はかすかに潤んでいた。
☆
警察の事情聴取が終わり、3人が家路に着く頃には水辺線に夕日が沈みかけていた。
「いや~今回はライトが大活躍やったなあ・・・」
レオナは砂浜を歩きながら、ヴィンセントに声をかけた。
「な?ヴィンセントくん?」
「・・・・・・」
黙り込むヴィンセント。
メガネのフレームはガタガタだ。
「ヴィンセントどうした?」
ライトも心配そうに尋ねた。
「・・・君らのせいで、またひどい目にあったよ・・・」
「まあ、こういうこともあるから人生楽しいんやて・・・
ケツにロケット花火刺さった時よりはマシやろ」
そう言ってレオナが笑うと
「僕は全然楽しくない」
と不機嫌そうにヴィンセントがつぶやいた。
気まずい空気。
「ま、まあまあ・・・あのサーファーどももお前が女の子にモテモテで嫉妬したんやって・・・」
ライトが二人の間に入って仲裁しようとした。
「うんうん。君は男前やから・・・」
レオナも頷いた。
しかしヴィンセントは押し殺した声で言った。
「僕は女子の前でケンカに負けただけ・・・株を上げたのは君らじゃないか!」
「いや、だってチームの仲間を守るのはリーダーとしては当然やし・・・」
レオナがそう言うと、ヴィンセントがとうとう我慢できずに叫んだ。
「僕は君らの子分じゃない!」
そして、彼は徒歩で家に帰っていった。
ヴィンセントを黙って見送る二人。
やがてレオナがポツリとつぶやいた。
「ライト・・・イヤハーツは解散や・・・
私はもうリーダーを降りる」
「え?ホンマに?」
とライト。
「ああ・・・今回のケンカでよくわかったよ」
「一度の敗戦くらいどうってことないやろ。
レオナは今だって十分強いよ」
「ありがとう・・・でも・・・
きっと・・・子どもの頃と“何か”が変わってしまったんや。
ヴィンセント君にだって男としてのプライドがある・・・
だから、お前らは自由に生きればええ。
ロケットでもソフトクリームでも好きなもん追いかけてな。
あと、あたしはラムレーズンが好き・・・」
「そんな・・・!レオナはこれからもずっとオレらのリーダーやって!」
必死に食い下がるライト。
「いや・・・あたしは、もう男には敵わへん・・・
お前らを守ってやることはでけへんよ」
それだけ言うと、レオナは自分のマウンテンバイクのサドルに手をかけた。
「帰ろう?ライト・・・」
ライトは動かない。
「じゃ、じゃあ・・・」
「え?」
振り返るレオナ。
「オレがレオナを守るんじゃアカンかな・・・」
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