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第三章 銀河の歌姫――Galaxy Minerva
28日目
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ステージの上で、私は世界一幸せな人だわ。
ー―ブリトニー・スピアーズ
☆
躍進し続ける巨大な竜ー―土星。
太陽系で最も人口が多いこの惑星は、もともと冥王星と思想を同じくする社会主義の星だったが、その後「社会主義市場経済」という修正社会主義体制をとり、安い賃金と大量の労働力を武器に、「宇宙の工場」として頭角を現すことになる。
また経済特区によって、積極的に外国資本を導入したことも大きい。
実際ライトとヴィンセントの会社は、勢いづく土星の経済とともに巨大化していったのだ。
土星を象徴する惑星の周囲をぐるりと巡る巨大な環は「万里の長城」と呼ばれ、現在では宇宙一巨大な太陽光発電所となっている。
そして今回のライブの会場こそ、この万里の長城なのだ。
土星に向かうリンドバーグ号船内でライトがラジオのスイッチを入れると、ライブ会場の様子を実況するレポーターの興奮した声が聞こえてきた。
《パトラ・ジュリエッタによる天王星&土星の平和友好ライブ「ギャラクシーミネルヴァ」がいよいよ土星時間本日午後から開演します!
このライブの模様は全宇宙で同時中継され、文字通り星の数の人間が宇宙の歌姫のパフォーマンスを堪能するわけです!
そしてなによりこれをご覧下さい!
宇宙一の収容数を誇る「サターン2型ホール」が満席です!
土星政府によればこの劇場が満席になったことはいまだかつてないということ。
歴史に残るライブになることは間違いありません!
あ、今ジュリエッタさんがリムジンから現れました!
真紅のドレスを着て赤絨毯を歩いています!》
☆
ラジオから聞こえるファンの大歓声。
「君はすごいライブに出るんやな・・・」
と、ライト。
これが彼女を送る最後の飛行になる。
「未だに信じられないです・・・」
助手席のアリエルは小さい手で胸を押さえた。
「これもみんなライトさんのおかげです。
本当にありがとうございます」
「言っとくけどオレは何もしてないで・・・」
「いえ・・・
もしあの時トポロ劇場でライトさんに会わなかったら、私はどうなっていたか・・・」
「そんなことないよ・・・君の努力が実ったんやって。
だから、もっと自分に自信を持っていいと思うで」
「自信・・・」
と、アリエル。
「ああ。君は自分自身の魅力に気づいてないんや。
オレも昔は、そうやった・・・」
「またまた~ご冗談を・・・!」
アリエルが爆笑した。
その反応に苦笑いをするライト。
「いやいや、ホンマやって。
オレも一応人間の心があるからね?
子どもの頃、母親にお前は間違ってないって励まされたからこそ、今の自分があるんや」
「お母さん・・・」
アリエルは故郷の親のことを思い出した。
「ああ、そういえばファーディナンドでは実家に寄らへんかったな。
せっかく戻ったんやから、顔見せてやればよかったのに」
「私・・・お父さんと母さんに約束したんです。
一人前のアイドルになったら帰ってくるって」
「そうか・・・」
「でも、今日のチケットはマネージャさんが実家に送ってくれたそうなんですよ。
だから・・・来てくれればいいな・・・」
アリエルはしみじみと呟いた。
「そりゃ親なら、娘の晴れ舞台は絶対に来るやろ。
君がジュリエッタのとなりで歌っているとこ見たら、たまげると思うで」
アリエルは微笑むと窓の外を眺めた。
「それと・・・
ライブを観せたい人が実は、もうひとりいるんです・・・」
「誰?もしかして・・・好きな男の子か!」
ライトがアリエルを肘でつついた。
困った顔で笑うアリエル。
「そう言いたいところですが・・・
私が最初に入った芸能事務所の社長さんなんです。
あの人にはとってもお世話になって・・・」
ウサギの刺繍が入ったポシェットを見つめるアリエル。
「へ~じゃあ、その社長が最初に君の才能を見出したんやな」
「はい・・・
事務所を移籍してから一度も会っていないけど・・・
もう一度会いたいなあ・・・」
ライトはフロントガラスに目を戻すと、リンドバーグ号の速度を落とした。
「あ、そろそろ到着や。
関係者専用ゲートでいいんだよね?」
「あ、そうです」
「じゃ、オレはここまでや。
観客席で応援してるからな」
するとアリエルは目に涙を浮かべた。
「おいおい、感極まるの2時間くらい早いやろ。
これからが君の夢のステージなんやから」
アリエルは涙を拭くと「はい!」と笑顔で答えて、コックピットを降りていった。
☆
ライブ会場の一般ゲートでは、天王星から来たシドゥス警部と会場警備員が揉めていた。
「ダメダメダメチケットない人通れないアルヨ!」
警部はUBIの警察手帳を開いてみせた。
「バカやろう、オレは警察だ!
ジュリエッタが暗殺されるかもしれんのだぞ!」
「ニーハオ」
会話が噛み合っていない。
警部はミグの方を振り返った。
「おい、らちがあかねえぞ!」
ミグは会場の警備体制を確認し、眉をひそめた。
「警備は徹底しているが・・・
ジュリエッタの暗殺をもし土星政府が黙認していたら・・・」
「ジュリエッタを守るものは何もねえ・・・!」
二人が会場に入れないでいると、ライトが二人に気づいて手を振った。
「あ、ミグ!やっぱりあんたも土星に!」
「ライト!」
ライトに駆け寄るミグ。
ライトはミグに頭を下げた。
「あのな・・・この前はすまんかったな。
ちょっと言いすぎたわ」
「いや、もう気にしてないよ・・・
それに・・・バスの爆破テロはアンディ・ボマーの犯行ではなかったんだ・・・」
「そうやったんや・・・」
「ああ・・・彼はあの日の朝に刑務所を出所していたんだ。
君が正しかった・・・
彼を死なせてしまったのは私の――」
「・・・あ、そうや」
と、ライトは内ポケットに手を入れた。
「実はお前にすっごいプレゼントがあるんや!」
「え・・・?」
嬉しそうにミグにチケットを見せるライト。
「じゃ~~ん!
ジュリエッタのコンサートのプラチナチケットや~!」
面食らって黙ってしまうミグ。
「・・・いや、今度はマジで本物やぞ。
どうや嬉しいか?」
すると、ミグは力いっぱいライトを抱きしめた。
「ライトでかした・・・!!」
ライトは動揺した。
「み・・・ミグ?」
☆
パトラ・ジュリエッタの控え室は、まるで高級マンションの一室のようになっていて、部屋の片隅にはなんとバーカウンターまでついていた。
「なぜ土星でのライブをわしに相談もせずに決めた!?」
そうジュリエッタを問い詰めるステッキの男は、第7惑星プロを一代で築き上げた社長ジェームズ・キャリバンだ。
キャリバンは戦後の「ノミのサーカス」から這い上がった男で、“虚構”で客から金を巻き上げることにかけては天才的な才覚を持っていた。
キャリバンは、酒が入るとしばしばこんなことを言う。
「オレは西部開拓時代に生まれていたら、つるはしを売っていたな」
才能もないのに夢を追うバカは、いつの時代にもいるー―
それを知っていたキャリバンは、ジュリエッタのサクセスストーリーを純粋な少女たちに吹聴することで、アイドル志望者の数を増やし、さらにその志望者を自身が経営するアイドル養成学校に入学させるという、一連のビジネスモデルを確立した。
莫大な入学金と引き換えに、少女たちが購入するのは「あなたもいつかはジュリエッタのようなトップアイドルになれます」という根拠のない“希望”だ。
一方のジュリエッタは、そんな社長の詐欺まがいのやり方に嫌気がさしており、最近では何かとキャリバンと衝突することが多くなっている。
一着10万ドルもする“赤絨毯用”の高級ドレスを着た宇宙一のアイドルは、気丈に答えた。
「無断でこのライブを開催したのは謝ります。
しかし今回の一連の騒動は、私が起こしたようなものです・・・
ですから私自身が天王星と土星の友好関係を築き直さなければ・・・」
「しかしだな、トップアイドルのお前にもしものことがあったら・・・」
「私は歌で争いを煽りたくない。私は歌で宇宙を平和にしたいんです。
打ち合わせがあるので、失礼」
そう言うとジュリエッタはキャリバンとの会話をあっさり切り上げて、部屋を出ていった。
扉が閉まると、キャリバンは怒りで顔を真っ赤にしてステッキを振った。
「たかが田舎娘がアーティストをきどりおって・・・!」
すると、カウンターに座る背の高い美しい女性が微笑んだ。
「あらあら・・・それなら、あの子に未練はないでしょう。
ここ数年あなたの言うことなんて、ろくに聞いてないらしいじゃない」
「し、しかしだな・・・
いくら生意気とは言え、看板アイドルのあいつを死なすのは惜しい」
「あなたの気持ちは、この際どうでもいいわ。
最高のステージの準備は整った。
あとは開演するまで」
そう言うと女はグラスを傾けた。
「分かった、勝手にしろ・・・
おい、今までさんざんお前らに協力してきたんだ。
わしに利はあるんだろうな?」
「追悼アルバムでも売ったらどうかしら」
女はオンザロックを飲み干すと、スっと立ち上がった。
「さてと、私も最後のライブを見に行かなくちゃ。
これでもジュリエッタのファンですから。
ごちそうさま」
そう言うと女は退室した。
マネージャーのレクセルは、キャリバンに囁いた。
「どうするんですか、社長・・・
本当にジュリエッタを見殺しにするんですか?」
キャリバンは苛立ちながら言った。
「うるさい、手は打ってある・・・!」
☆
ミグはインカム型の警察無線を受け取ると、「警部たちは会場周辺を頼みます!」と声をかけた。
「分かった!気をつけろよ!」とシドゥス警部。
プラチナチケットを見せ、会場内に入るライトとミグ。
ファンでごった返すエントランスには、ジュリエッタの彫像がまるで神話の女神のように噴水の中央で微笑んでいる。
ミグは歩きながらライトにインカムの一つを渡し、これまでの捜査状況を説明した。
「なんやて!?ジュリエッタの暗殺計画!?いくらなんでも無茶やろ」
「ああ、あくまでも可能性だが・・・
もしサーペンタリウスがジュリエッタを殺すなら、今日ほどのチャンスはない・・・」
「せやけど、あのジュリエッタ殺してどうなるっちゅうねん!」
石像を指さしてライト。
すると、ミグはライトにもわかるように話した。
「私がもし所ジョージさんを失ったら・・・どうなると思う?」
ライトはすぐに理解した。
「・・・なるほど。それは一大事や」
☆
同時刻ー―バックステージでは、ジュリエッタのライブに出演するダンサーやバンドが最後の打ち合わせをしていた。
その中には、緊張して落ち着かない様子のアリエルもいた。
ダンサーの一人が突然姿勢を整える。
「ジュリエッタさん!」
アリエルはビクッとすると、すぐさまダンサーの視線の先を振り返った。
「ウソ!?」
ステージ衣装に着替えたジュリエッタがバックステージにいる。
ー―本物だ。
アリエルはめまいがした。
「みんな今日はよろしくね・・・!
さやかちゃん最近泳いでる??
カナちゃん、今度美味しいケーキ屋教えてよ」
トップアイドルのジュリエッタは気取ったところが全くなく、メンバーに気さくに話しかけている。
アリエルが見たところ、彼女自身が最もこのライブを楽しんでいるようだった。
すると、ジュリエッタが自分のほうに近づいてくるのに気づいた。
「え~っと・・・」
アリエルの心拍数が急上昇する。
呼吸が安定しない。
「あなたがサブボーカルのアリエル・スカイちゃん・・・
はじめまして・・・ですよね?」
ジュリエッタはアリエルの前で立ち止まって微笑んだ。
「は、はい!今日はよろしくお願いします!」
「なんて呼べばいい?スカっぺ?」
クリップボードに止められたアリエルの履歴書に目を通しながらジュリエッタ。
「あ・・・アリエルでいいッス・・・」
すると、突然ジュリエッタの表情が変わった。
「なに、ファーディナンド出身なの?
私と同郷じゃん!同志よ・・・!」
嬉しそうなジュリエッタ。
アリエルが恥ずかしそうにしていると、なんとジュリエッタがアリエルにハグをしてきた。
突然の出来事に顔を真っ赤にして慌てるアリエル。
「なぬ!?
しかも、おとうさんがリゾートホテルの経営で、おかあさんがピアニストだと!?」
「あわわ、ごめんなさい・・・」
「すごい偶然!
実は私の両親もそうなのよ!
なんかスカッペとは、ただならぬ繋がりを感じるんだけど・・・」
ジュリエッタはすぐにアリエルのことが気に入ったらしい。
憧れのトップアイドルはしみじみ言った。
「は~こういうことってあるのね~・・・
今から打ち上げが楽しみになってきたわ、さてと・・・」
そう言うと、ジュリエッタはクリップボードをスタッフに渡し、メンバーに呼びかけた。
「本番まで1時間を切ったけど、軽くリハーサルをしましょう。
特にアリエルは、ほぼ飛び入りだからね・・・」
アリエルは恐る恐るジュリエッタに言った。
「わ、わたしその、そこまで難しい振付は・・・」
ジュリエッタはアリエルを安心させるように微笑んだ。
「ダンスが苦手なんだよね、大丈夫。
事務所のスタッフがそこを考慮して振り付けを変えてくれたから。
は~いダンサー諸君集合~」
そう言うと、ジュリエッタは振り付けの段取りが書かれた大きな模造紙を床に広げた。
集まってくるダンサーたち。
ジュリエッタはステージの中央を指差した。
「アリエル。あなたはほとんどこの位置から動かない。
とにかく私が動くから、あなたはバシバシその美しい歌声を宇宙中のファンに聴かせてやって」
「美しい歌声ってそんな・・・」
戸惑うアリエル。
雲の上の存在であるジュリエッタにこんな風に言われるなんて、彼女は夢にも思っていなかった。
ジュリエッタは笑顔だが、真面目な口調で言った。
「あなたのデモテープ聞いたよ。
私は戦慄したね。
とんでもないライバルが現れたって」
「ジュリエッタさん・・・」
「なら敵になる前に手を組んじゃおうって。
よろしくね!」
「はい・・・!」
☆
ミグとライトは開演前の会場を駆け回っていた。
「こんな巨大なホールじゃ、どこに殺し屋がいてもわからんで!」と、ライト。
確かにここは広すぎて、埒があかない。
サターン2型ホールの最大収容人数は10万人。
座席の数だけでも30000席以上もあるのだ。
ミグは落ち着いて考えた。
「もしジュリエッタの事務所が死の商人とつながっているのだとしたら・・・」
すると顔を上げてライトに言った。
「ライト、事務所関係者を探すぞ!」
「え?なんで?」
「もしライブ中に襲撃するなら、敵は振り付けの段取りを調べるはずだ!
そして最もジュリエッタを狙いやすいポイントで彼女を撃ち殺す!」
観客は自分の席の前に立つミグに迷惑そうな顔をした。
(いい加減どいてくれないかなあ・・・・)
☆
「ちょっとアンタラ、何シテルあるよ?」
「STAFF ONLY」と書かれた扉の前に立った場内警備員が、不審な二人組に話しかけた。
「ライブのスタッフにはどこで会える!?」
と、ミグ。
「NONOダメダメ、英語ヨメルカ?
関係者以外立チ入リ禁止ネ」
そう言うと警備員は無線を掴んだ。
応援をよこすつもりらしい。
ライトは怒鳴った。
「オレはアリエル=スカイのマネージャーや!」
すると警備員の表情が変わった。
「・・・ソナタもしかしてミスターライトか?」
と、警備員。
「そうや・・・!」
すると警備員は辺りを見回すと、ほかのファンに気づかれないように静かに扉を開けた。
「ツイテマイレ」
☆
関係者専用通路を駆ける二人。
壁越しに、ファンの凄まじい大歓声が聞こえてきた。
「あかんライブが始まったみたいや!」
焦るライト。
「私は事務所関係者を探す!
お前はジュリエッタを守れ!」
「分かった!」
ライトはミグと別れて歓声が聞こえるバックステージへ向かった。
☆
ミグがしばらく連絡通路を進んでいると、片側の壁がガラス張りになり、向こうが調整室になっているのが分かった。
複数のモニターがライブ会場の様子を様々な角度で映し出し、それをスタッフが眺めている。
「なにしてるんですかあなた!ここは立ち入り禁止ですよ!」
調整室のスタッフが、突然部屋に入ってきたミグに叫んだ。
何事かと、扉の方を振り向くディレクターやプロデューサー。
「ライブはもう開演しているんです、出てってください!」
「どうした?」
と、プロデューサーが扉に近づいてきた。
「この人、ゲストバッジもないのに入ってきちゃったんですよ・・・」
ミグは叫んだ。
「今日のライブの曲目と、その振り付けを教えろ!」
「はあ、あなたどういうファンですか!?
真似して踊りたいなら自分でDVDでも買って調べなさいよ!
下の売店で売ってるから・・・!」
「それじゃ間に合わない!
ジュリエッタが危ないんだ!」
ミグの言動に、スタッフたちは彼女をたまにいる危ないファンだと思ったらしい。
ミグを刺激しないようにプロデューサーは作り笑いを浮かべた。
「そうですか、そうですか・・・まずは、落ち着きましょう。
あ、お菓子でもどうです?
これなかなか買えないんですよ・・・」
プロデューサーは、苺大福のようなお菓子を手にとってミグの方に向けると、アシスタントディレクターに「・・・早く警備員を呼べ・・・!」と小声で囁いた。
「あんたらのアイドル、パトラ・ジュリエッタが殺されるかもしれないんだぞ!」
ミグがそう言うと、部屋の奥でステッキの男が立ち上がった。
男は笑った。
「はっはっは・・・面白いことを言う。
会場の警備は完璧ですよ」
「あなたは・・・?」
「第7惑星プロ社長のキャリバンです。
どこのどなたか知りませんが、ご心配には及びません。
土星政府が威信をかけて、ジュリエッタを守ってくれております」
即座にミグは、この男の言葉が信用できないことを直感的に悟った。
その土星にもジュリエッタを暗殺する動機があるのだからー―
そして今まさに、会場警備員の格好をした殺し屋が、客席の間をぬってステージに近づこうとしていた。
☆
一方のバックステージでは、待機中のアリエルがステージのジュリエッタを間近で見て感動していた。
「すごい・・・これがずっと・・・ずっと憧れてきた宇宙一のアイドル・・・」
熱唱しながらステージを縦横無尽に駆け回るジュリエッタ。
ステージ開演前は、気さくで優しいお姉さんだったが、いざライブが始まると迫力やオーラが違う。
彼女が女神と言われる理由がわかった。
10万人の観客を一体化させるなんて、神がかっているー―
そんなジュリエッタに殺し屋はレーザーポインターの照準を合わせた。
最初の曲『Much @do About Nothing』が終わった。
ジュリエッタいわく、最初の曲でライブの成否は8割決まってしまうという。
そして、掴みは大成功だったようだ。
笑顔でステージから消えるジュリエッタはバックステージに戻ると、慌てて衣装を着替えた。
次の曲まで30秒もない。
衣装係に囲まれてジュリエッタは、アリエルの方を向いた。
「いよいよ出番よアリエル!や~わくわくするね!」
嬉しそうなジュリエッタとは対照的に、アリエルはステージの規模にたじろいでいた。
トポロ劇場が千個入っても余るくらいの巨大さだ。
「あ、あうあうあう・・・あんなにお客さんが・・・私に出来るんでしょうか?」
着替えを終えたジュリエッタは、動揺するアリエルに顔を近づけた。
ジュリエッタは、アリエルの目をじっと見つめた。
「アリエル!リラックス。
あなたはなんでアイドルを目指したの?」
ジュリエッタの目を見つめ返すアリエル。
「歌が好きだから?
ダンスが好きだから?
たくさんの人を楽しませたいから?」
そしてニッコリと笑った。
「このステージには、そのすべてがある。楽しもう!」
「ジュリエッタさん・・・」
ジュリエッタはアリエルの背中をポンと叩いた。
「ジュリエッタでいい。私は精一杯あなたの引き立て役に回る。
宇宙を驚かせてやりなさい!」
二曲めの前奏が始まった。
汗をほとばしらせジュリエッタはメンバーに叫んだ。
「みんな行くよ!」
太陽のように眩しいステージにジュリエッタとアリエルが飛び出す。
ファンが振る無数のコンサートライトは、まるで夜空にきらめく星座のようだ。
ジュリエッタはアリエルの方に一瞬目をやると「ね、壮観でしょう?」と言うように微笑んだ。
会場のボルテージは最高潮。
女神はマイクを持つ手を天に突き上げた。
「マイリトルスター!!」
ファンの凄まじい歓声は宇宙最大のステージを振動させた。
☆
ミグは駆けつけた警備員に調整室を追い出されていた。
「おい!話は終わってないぞ!」
相手にされず怒鳴るミグ。
「こっちは終わった」
と、キャリバン。
「まったく最近のファンはマナーがなっちゃいないですよね・・・」
呆れたようにスタッフが言った。
「まあ、メジャーになるっていうのはそういうことだからな。
ああいうのもいるさ」
キャリバンがそう言うと、調整室のドアは閉められ、中から鍵がかけられる音が聞こえた。
廊下に一人立ち尽くすミグ。
マイリトルスターのベース音だけ静かに聞こえてくる。
「ファン・・・そうだ・・・!」
ミグは何かを思いつくと、客席の方に走り出した。
大熱狂の客席。
ミグは撮影用立ち見席でバズーカのようなカメラを構えるファンの一人に話しかけた。
マイリトルスターの爆音に負けないようにファンの耳元で叫ぶミグ。
「なあ!君らはジュリエッタのファンだよな!?」
突然耳元で声をかけられ驚くファン。
「うわ!なんだこのおばさん・・・!」
「ライブ中ですよ。迷惑だなあ・・・」
「頼む、今日のライブで最もジュリエッタが映える曲を教えてくれ!」
「全部聴け!」
とファン。
「強いて言うなら!」
ミグの喉はガラガラだ。
「それなら・・・今歌ってる曲だよ」
ファンはステージを指差した。
振り返るミグ。
「え・・・!?
じゃあ、この曲のどの部分の振り付けが一番ジュリエッタを抜ける!?」
「二番のサビでしょ。だからもうそろそろどいてくれない?」
ー―時間がない・・・!
ミグはインカムを掴んでライトに叫んだ。
「ライト分かった!この曲の二番のサビでジュリエッタは一人になる!」
それを聞いたバックステージのライトは慌てた。
「ー―ってもうやないか~~!!」
ライトは猛スピードでステージへ駆け出した。
☆
ステージ上では、いよいよアリエルが歌うパートが迫っていた。
数え切れない観客の熱気に圧倒される、ウサギの少女。
アリエルはいつになく冷静に考えた。
ー―ダメだ、ダメだ・・・私はジュリエッタさんのようにはなれない。
ジュリエッタさんとは踏んでいる場数が違う。
飛び入りの私がジュリエッタさんのように歌えるわけない・・・
アリエルは深呼吸をすると、目をつむった。
そして衛星ファーディナンドでライトにだけ歌ったコンサートを思い出した。
☆
ー―さあ、聞かせてくれ!
客はオレだけや、これなら緊張もせんやろー―
☆
アリエルは悟った。
ー―私はジュリエッタさんみたく、“みんな”のためには歌えない・・・
今の私は・・・“誰か”のためにしか歌えないー―
アリエルが再び目を開けると、彼女を苦しめ続けた、心の揺らぎはなくなっていた。
マイリトルスターの旋律以外何も聞こえない。
彼女はリラックスして歌い出した。
自然と音が溢れ出してくる。
にわかに会場の空気が変わった。
ファンは騒然とした。
「なんだあの子・・・すげえ・・・!」
☆
ライトが広大なバックステージを駆けていくと、観客席からステージの方に向かって歩く不審な警備員に気づいた。
他の観客の振る発光スティックが邪魔でよく見えないが、その警備員は赤いビームをジュリエッタの方へ飛ばしていた。
ー―レーザー照準だ・・・!
ライトは怒鳴った。
「いた!ミグ!
今、お前のいる場所からステージの方へ10メートル降りたところや!」
《分かった!》とミグ。
警備員は、狙撃ライフルの引き金に手をかけた。
ライトは戦慄した。
ー―あかん間に合わへん。
そして彼はステージに飛び出した。
「ジュリエッタふせろ~~~~!」
ライトがジュリエッタに飛びかかり押し倒す。
銃声が聞こえたのはその直後だった。
☆
人が撃たれて倒れる音。
観客が絶叫する。
我先へと逃げ惑う人々。
会場は危険なパニック状態になった。
ステージではジュリエッタを抱きしめながらライトが息を切らせていた。
「はあはあ・・・大丈夫か!?」
ライトを見つめるジュリエッタ。
「ええ、私は・・・」
すると、ジュリエッタが何かに気づき、ライトの後ろを指差した。
振り返るライト。
二人の後ろでアリエルが倒れている。
恐怖で顔をこわばらせるライト。
「アリエル!!」
アリエルは仰向けに倒れ、頭上に輝く真っ白なスポットライトを見つめていた。
☆
腕利きのスナイパーはジュリエッタの狙撃に失敗して毒づいた。
「なんだと!なぜ振り付けが変わった!?」
すると、殺し屋の背後からミグが体当たりをぶちかました。
ミグ共々地面に倒れるスナイパー。
ミグは手際よく男を取り押さえて、こうつぶやいた。
「お前は本当に運がいい。昔の私ならお前を殺していた・・・」
「なぜ、殺さない・・・?」
「あんたらの仲間になるのはごめんだ・・・」
手錠をかけるミグ。
すると、突然殺し屋は涙を流した。
「殺せ・・・殺してくれ!」
ミグは首を振った。
「裁判を受けて、罪を償いなさい」
☆
「アリエル・・・!」
ライトはアリエルに駆け寄り、言葉を失った。
アリエルは力なく笑った。
「生きてます・・・でも・・・これって・・・まずいですよね・・・」
口径の大きい銃弾で貫かれたアリエルの華奢な胴体は、上半身と下半身がちぎれてしまっていた。
「そんな・・・」
無残な状況にショックを受けるライト。
アリエルはぼんやりとした口調でつぶやいた。
自分の身に起こったことがあまりにも非現実的で、実感がないのだ。
「そうか・・・
私なんかがオーディションにあっさり受かったのは、私をジュリエッタさんの身代わりにするためだったんですね・・・
うまい話ってないんだな・・・」
ジュリエッタは口元を手で押さえながら、涙目になった。
「だから事務所は直前に振り付けを変えたんだ・・・ひどい・・・」
「アリエル・・・」
アリエルは目を閉じた。
「・・・全て分かりました・・・
私がなぜ生まれたのか・・・
私は最初からジュリエッタさんの模倣品として作られたんだ・・・
私の夢は・・・あらかじめプログラムされていたんですね・・・」
アリエルの胴体からは配線が飛び出ている。
そして、とうとう彼女は涙を流した。
「私は・・・人間ですらなかったんだ・・・」
ライトは、アリエルの上半身を優しく抱きしめた。
アリエルは震えだした。
怖いのだ。
「私・・・どうすれば・・・
死ぬって・・・どういう事なんですか?」
ライトは無力感に苛まれた。
「それはオレ達人間にもわからへん・・・」
☆
ーー上手くいったな。
ジェームズ・キャリバンはVIP専用の地下格納庫に続く連絡通路を歩いていた。
キャリバンはこの星の大衆の興味が移ろいやすいことを知っている。
だからジュリエッタといえども死んでしまったら、遅かれ早かれ次のアイドルに取って代わられてしまうだろう。
そして、それはうちの事務所のアイドルとは限らないーー
ーージュリエッタを捨てるのは、あいつの人気が衰えてからだ。
まだ早い。
こういうことのために、あのロボットを事務所に入れたわけだ。
テンペストのバカ社長は喜んでいたが、たかが機械が人の心を感動させられるわけ無いだろ。
とにもかくにも暗殺は実行され、そして失敗した。
あの女も、これで当分は下手なことはできまい。
すべてはうやむや・・・
地下格納庫へ入るキャリバン。
するとキャリバンは目を疑った。
自分の自家用ジェットを、天王警察が取り囲んでいるのだ。
「天王星に逃げ帰るのなら送っていくぜ」
と、シドゥス警部。
「な・・・」
「第7惑星プロ、ジェームズ・キャリバン。殺人容疑、及びロボット保護法違反で逮捕する」
キャリバンは怒鳴った。
「何だお前ら・・・!?
なんの証拠があってそんなこと・・・!」
すると警官隊の中からミグが現れて、キャリバンにプラチナチケットを見せた。
「よくもまあ騙し続けたもんだよ。
あの子の両親に送った二枚のチケットって・・・これなんじゃないか?」
「あんた・・・」
ーー調整室に入ってきた女だ。
警部は、白と黒にペイントされたパトロール船のドアを開けた。
「ミグが捕まえた殺し屋が全て吐いたよ。
言い訳は天王星で聞こう」
ー―ブリトニー・スピアーズ
☆
躍進し続ける巨大な竜ー―土星。
太陽系で最も人口が多いこの惑星は、もともと冥王星と思想を同じくする社会主義の星だったが、その後「社会主義市場経済」という修正社会主義体制をとり、安い賃金と大量の労働力を武器に、「宇宙の工場」として頭角を現すことになる。
また経済特区によって、積極的に外国資本を導入したことも大きい。
実際ライトとヴィンセントの会社は、勢いづく土星の経済とともに巨大化していったのだ。
土星を象徴する惑星の周囲をぐるりと巡る巨大な環は「万里の長城」と呼ばれ、現在では宇宙一巨大な太陽光発電所となっている。
そして今回のライブの会場こそ、この万里の長城なのだ。
土星に向かうリンドバーグ号船内でライトがラジオのスイッチを入れると、ライブ会場の様子を実況するレポーターの興奮した声が聞こえてきた。
《パトラ・ジュリエッタによる天王星&土星の平和友好ライブ「ギャラクシーミネルヴァ」がいよいよ土星時間本日午後から開演します!
このライブの模様は全宇宙で同時中継され、文字通り星の数の人間が宇宙の歌姫のパフォーマンスを堪能するわけです!
そしてなによりこれをご覧下さい!
宇宙一の収容数を誇る「サターン2型ホール」が満席です!
土星政府によればこの劇場が満席になったことはいまだかつてないということ。
歴史に残るライブになることは間違いありません!
あ、今ジュリエッタさんがリムジンから現れました!
真紅のドレスを着て赤絨毯を歩いています!》
☆
ラジオから聞こえるファンの大歓声。
「君はすごいライブに出るんやな・・・」
と、ライト。
これが彼女を送る最後の飛行になる。
「未だに信じられないです・・・」
助手席のアリエルは小さい手で胸を押さえた。
「これもみんなライトさんのおかげです。
本当にありがとうございます」
「言っとくけどオレは何もしてないで・・・」
「いえ・・・
もしあの時トポロ劇場でライトさんに会わなかったら、私はどうなっていたか・・・」
「そんなことないよ・・・君の努力が実ったんやって。
だから、もっと自分に自信を持っていいと思うで」
「自信・・・」
と、アリエル。
「ああ。君は自分自身の魅力に気づいてないんや。
オレも昔は、そうやった・・・」
「またまた~ご冗談を・・・!」
アリエルが爆笑した。
その反応に苦笑いをするライト。
「いやいや、ホンマやって。
オレも一応人間の心があるからね?
子どもの頃、母親にお前は間違ってないって励まされたからこそ、今の自分があるんや」
「お母さん・・・」
アリエルは故郷の親のことを思い出した。
「ああ、そういえばファーディナンドでは実家に寄らへんかったな。
せっかく戻ったんやから、顔見せてやればよかったのに」
「私・・・お父さんと母さんに約束したんです。
一人前のアイドルになったら帰ってくるって」
「そうか・・・」
「でも、今日のチケットはマネージャさんが実家に送ってくれたそうなんですよ。
だから・・・来てくれればいいな・・・」
アリエルはしみじみと呟いた。
「そりゃ親なら、娘の晴れ舞台は絶対に来るやろ。
君がジュリエッタのとなりで歌っているとこ見たら、たまげると思うで」
アリエルは微笑むと窓の外を眺めた。
「それと・・・
ライブを観せたい人が実は、もうひとりいるんです・・・」
「誰?もしかして・・・好きな男の子か!」
ライトがアリエルを肘でつついた。
困った顔で笑うアリエル。
「そう言いたいところですが・・・
私が最初に入った芸能事務所の社長さんなんです。
あの人にはとってもお世話になって・・・」
ウサギの刺繍が入ったポシェットを見つめるアリエル。
「へ~じゃあ、その社長が最初に君の才能を見出したんやな」
「はい・・・
事務所を移籍してから一度も会っていないけど・・・
もう一度会いたいなあ・・・」
ライトはフロントガラスに目を戻すと、リンドバーグ号の速度を落とした。
「あ、そろそろ到着や。
関係者専用ゲートでいいんだよね?」
「あ、そうです」
「じゃ、オレはここまでや。
観客席で応援してるからな」
するとアリエルは目に涙を浮かべた。
「おいおい、感極まるの2時間くらい早いやろ。
これからが君の夢のステージなんやから」
アリエルは涙を拭くと「はい!」と笑顔で答えて、コックピットを降りていった。
☆
ライブ会場の一般ゲートでは、天王星から来たシドゥス警部と会場警備員が揉めていた。
「ダメダメダメチケットない人通れないアルヨ!」
警部はUBIの警察手帳を開いてみせた。
「バカやろう、オレは警察だ!
ジュリエッタが暗殺されるかもしれんのだぞ!」
「ニーハオ」
会話が噛み合っていない。
警部はミグの方を振り返った。
「おい、らちがあかねえぞ!」
ミグは会場の警備体制を確認し、眉をひそめた。
「警備は徹底しているが・・・
ジュリエッタの暗殺をもし土星政府が黙認していたら・・・」
「ジュリエッタを守るものは何もねえ・・・!」
二人が会場に入れないでいると、ライトが二人に気づいて手を振った。
「あ、ミグ!やっぱりあんたも土星に!」
「ライト!」
ライトに駆け寄るミグ。
ライトはミグに頭を下げた。
「あのな・・・この前はすまんかったな。
ちょっと言いすぎたわ」
「いや、もう気にしてないよ・・・
それに・・・バスの爆破テロはアンディ・ボマーの犯行ではなかったんだ・・・」
「そうやったんや・・・」
「ああ・・・彼はあの日の朝に刑務所を出所していたんだ。
君が正しかった・・・
彼を死なせてしまったのは私の――」
「・・・あ、そうや」
と、ライトは内ポケットに手を入れた。
「実はお前にすっごいプレゼントがあるんや!」
「え・・・?」
嬉しそうにミグにチケットを見せるライト。
「じゃ~~ん!
ジュリエッタのコンサートのプラチナチケットや~!」
面食らって黙ってしまうミグ。
「・・・いや、今度はマジで本物やぞ。
どうや嬉しいか?」
すると、ミグは力いっぱいライトを抱きしめた。
「ライトでかした・・・!!」
ライトは動揺した。
「み・・・ミグ?」
☆
パトラ・ジュリエッタの控え室は、まるで高級マンションの一室のようになっていて、部屋の片隅にはなんとバーカウンターまでついていた。
「なぜ土星でのライブをわしに相談もせずに決めた!?」
そうジュリエッタを問い詰めるステッキの男は、第7惑星プロを一代で築き上げた社長ジェームズ・キャリバンだ。
キャリバンは戦後の「ノミのサーカス」から這い上がった男で、“虚構”で客から金を巻き上げることにかけては天才的な才覚を持っていた。
キャリバンは、酒が入るとしばしばこんなことを言う。
「オレは西部開拓時代に生まれていたら、つるはしを売っていたな」
才能もないのに夢を追うバカは、いつの時代にもいるー―
それを知っていたキャリバンは、ジュリエッタのサクセスストーリーを純粋な少女たちに吹聴することで、アイドル志望者の数を増やし、さらにその志望者を自身が経営するアイドル養成学校に入学させるという、一連のビジネスモデルを確立した。
莫大な入学金と引き換えに、少女たちが購入するのは「あなたもいつかはジュリエッタのようなトップアイドルになれます」という根拠のない“希望”だ。
一方のジュリエッタは、そんな社長の詐欺まがいのやり方に嫌気がさしており、最近では何かとキャリバンと衝突することが多くなっている。
一着10万ドルもする“赤絨毯用”の高級ドレスを着た宇宙一のアイドルは、気丈に答えた。
「無断でこのライブを開催したのは謝ります。
しかし今回の一連の騒動は、私が起こしたようなものです・・・
ですから私自身が天王星と土星の友好関係を築き直さなければ・・・」
「しかしだな、トップアイドルのお前にもしものことがあったら・・・」
「私は歌で争いを煽りたくない。私は歌で宇宙を平和にしたいんです。
打ち合わせがあるので、失礼」
そう言うとジュリエッタはキャリバンとの会話をあっさり切り上げて、部屋を出ていった。
扉が閉まると、キャリバンは怒りで顔を真っ赤にしてステッキを振った。
「たかが田舎娘がアーティストをきどりおって・・・!」
すると、カウンターに座る背の高い美しい女性が微笑んだ。
「あらあら・・・それなら、あの子に未練はないでしょう。
ここ数年あなたの言うことなんて、ろくに聞いてないらしいじゃない」
「し、しかしだな・・・
いくら生意気とは言え、看板アイドルのあいつを死なすのは惜しい」
「あなたの気持ちは、この際どうでもいいわ。
最高のステージの準備は整った。
あとは開演するまで」
そう言うと女はグラスを傾けた。
「分かった、勝手にしろ・・・
おい、今までさんざんお前らに協力してきたんだ。
わしに利はあるんだろうな?」
「追悼アルバムでも売ったらどうかしら」
女はオンザロックを飲み干すと、スっと立ち上がった。
「さてと、私も最後のライブを見に行かなくちゃ。
これでもジュリエッタのファンですから。
ごちそうさま」
そう言うと女は退室した。
マネージャーのレクセルは、キャリバンに囁いた。
「どうするんですか、社長・・・
本当にジュリエッタを見殺しにするんですか?」
キャリバンは苛立ちながら言った。
「うるさい、手は打ってある・・・!」
☆
ミグはインカム型の警察無線を受け取ると、「警部たちは会場周辺を頼みます!」と声をかけた。
「分かった!気をつけろよ!」とシドゥス警部。
プラチナチケットを見せ、会場内に入るライトとミグ。
ファンでごった返すエントランスには、ジュリエッタの彫像がまるで神話の女神のように噴水の中央で微笑んでいる。
ミグは歩きながらライトにインカムの一つを渡し、これまでの捜査状況を説明した。
「なんやて!?ジュリエッタの暗殺計画!?いくらなんでも無茶やろ」
「ああ、あくまでも可能性だが・・・
もしサーペンタリウスがジュリエッタを殺すなら、今日ほどのチャンスはない・・・」
「せやけど、あのジュリエッタ殺してどうなるっちゅうねん!」
石像を指さしてライト。
すると、ミグはライトにもわかるように話した。
「私がもし所ジョージさんを失ったら・・・どうなると思う?」
ライトはすぐに理解した。
「・・・なるほど。それは一大事や」
☆
同時刻ー―バックステージでは、ジュリエッタのライブに出演するダンサーやバンドが最後の打ち合わせをしていた。
その中には、緊張して落ち着かない様子のアリエルもいた。
ダンサーの一人が突然姿勢を整える。
「ジュリエッタさん!」
アリエルはビクッとすると、すぐさまダンサーの視線の先を振り返った。
「ウソ!?」
ステージ衣装に着替えたジュリエッタがバックステージにいる。
ー―本物だ。
アリエルはめまいがした。
「みんな今日はよろしくね・・・!
さやかちゃん最近泳いでる??
カナちゃん、今度美味しいケーキ屋教えてよ」
トップアイドルのジュリエッタは気取ったところが全くなく、メンバーに気さくに話しかけている。
アリエルが見たところ、彼女自身が最もこのライブを楽しんでいるようだった。
すると、ジュリエッタが自分のほうに近づいてくるのに気づいた。
「え~っと・・・」
アリエルの心拍数が急上昇する。
呼吸が安定しない。
「あなたがサブボーカルのアリエル・スカイちゃん・・・
はじめまして・・・ですよね?」
ジュリエッタはアリエルの前で立ち止まって微笑んだ。
「は、はい!今日はよろしくお願いします!」
「なんて呼べばいい?スカっぺ?」
クリップボードに止められたアリエルの履歴書に目を通しながらジュリエッタ。
「あ・・・アリエルでいいッス・・・」
すると、突然ジュリエッタの表情が変わった。
「なに、ファーディナンド出身なの?
私と同郷じゃん!同志よ・・・!」
嬉しそうなジュリエッタ。
アリエルが恥ずかしそうにしていると、なんとジュリエッタがアリエルにハグをしてきた。
突然の出来事に顔を真っ赤にして慌てるアリエル。
「なぬ!?
しかも、おとうさんがリゾートホテルの経営で、おかあさんがピアニストだと!?」
「あわわ、ごめんなさい・・・」
「すごい偶然!
実は私の両親もそうなのよ!
なんかスカッペとは、ただならぬ繋がりを感じるんだけど・・・」
ジュリエッタはすぐにアリエルのことが気に入ったらしい。
憧れのトップアイドルはしみじみ言った。
「は~こういうことってあるのね~・・・
今から打ち上げが楽しみになってきたわ、さてと・・・」
そう言うと、ジュリエッタはクリップボードをスタッフに渡し、メンバーに呼びかけた。
「本番まで1時間を切ったけど、軽くリハーサルをしましょう。
特にアリエルは、ほぼ飛び入りだからね・・・」
アリエルは恐る恐るジュリエッタに言った。
「わ、わたしその、そこまで難しい振付は・・・」
ジュリエッタはアリエルを安心させるように微笑んだ。
「ダンスが苦手なんだよね、大丈夫。
事務所のスタッフがそこを考慮して振り付けを変えてくれたから。
は~いダンサー諸君集合~」
そう言うと、ジュリエッタは振り付けの段取りが書かれた大きな模造紙を床に広げた。
集まってくるダンサーたち。
ジュリエッタはステージの中央を指差した。
「アリエル。あなたはほとんどこの位置から動かない。
とにかく私が動くから、あなたはバシバシその美しい歌声を宇宙中のファンに聴かせてやって」
「美しい歌声ってそんな・・・」
戸惑うアリエル。
雲の上の存在であるジュリエッタにこんな風に言われるなんて、彼女は夢にも思っていなかった。
ジュリエッタは笑顔だが、真面目な口調で言った。
「あなたのデモテープ聞いたよ。
私は戦慄したね。
とんでもないライバルが現れたって」
「ジュリエッタさん・・・」
「なら敵になる前に手を組んじゃおうって。
よろしくね!」
「はい・・・!」
☆
ミグとライトは開演前の会場を駆け回っていた。
「こんな巨大なホールじゃ、どこに殺し屋がいてもわからんで!」と、ライト。
確かにここは広すぎて、埒があかない。
サターン2型ホールの最大収容人数は10万人。
座席の数だけでも30000席以上もあるのだ。
ミグは落ち着いて考えた。
「もしジュリエッタの事務所が死の商人とつながっているのだとしたら・・・」
すると顔を上げてライトに言った。
「ライト、事務所関係者を探すぞ!」
「え?なんで?」
「もしライブ中に襲撃するなら、敵は振り付けの段取りを調べるはずだ!
そして最もジュリエッタを狙いやすいポイントで彼女を撃ち殺す!」
観客は自分の席の前に立つミグに迷惑そうな顔をした。
(いい加減どいてくれないかなあ・・・・)
☆
「ちょっとアンタラ、何シテルあるよ?」
「STAFF ONLY」と書かれた扉の前に立った場内警備員が、不審な二人組に話しかけた。
「ライブのスタッフにはどこで会える!?」
と、ミグ。
「NONOダメダメ、英語ヨメルカ?
関係者以外立チ入リ禁止ネ」
そう言うと警備員は無線を掴んだ。
応援をよこすつもりらしい。
ライトは怒鳴った。
「オレはアリエル=スカイのマネージャーや!」
すると警備員の表情が変わった。
「・・・ソナタもしかしてミスターライトか?」
と、警備員。
「そうや・・・!」
すると警備員は辺りを見回すと、ほかのファンに気づかれないように静かに扉を開けた。
「ツイテマイレ」
☆
関係者専用通路を駆ける二人。
壁越しに、ファンの凄まじい大歓声が聞こえてきた。
「あかんライブが始まったみたいや!」
焦るライト。
「私は事務所関係者を探す!
お前はジュリエッタを守れ!」
「分かった!」
ライトはミグと別れて歓声が聞こえるバックステージへ向かった。
☆
ミグがしばらく連絡通路を進んでいると、片側の壁がガラス張りになり、向こうが調整室になっているのが分かった。
複数のモニターがライブ会場の様子を様々な角度で映し出し、それをスタッフが眺めている。
「なにしてるんですかあなた!ここは立ち入り禁止ですよ!」
調整室のスタッフが、突然部屋に入ってきたミグに叫んだ。
何事かと、扉の方を振り向くディレクターやプロデューサー。
「ライブはもう開演しているんです、出てってください!」
「どうした?」
と、プロデューサーが扉に近づいてきた。
「この人、ゲストバッジもないのに入ってきちゃったんですよ・・・」
ミグは叫んだ。
「今日のライブの曲目と、その振り付けを教えろ!」
「はあ、あなたどういうファンですか!?
真似して踊りたいなら自分でDVDでも買って調べなさいよ!
下の売店で売ってるから・・・!」
「それじゃ間に合わない!
ジュリエッタが危ないんだ!」
ミグの言動に、スタッフたちは彼女をたまにいる危ないファンだと思ったらしい。
ミグを刺激しないようにプロデューサーは作り笑いを浮かべた。
「そうですか、そうですか・・・まずは、落ち着きましょう。
あ、お菓子でもどうです?
これなかなか買えないんですよ・・・」
プロデューサーは、苺大福のようなお菓子を手にとってミグの方に向けると、アシスタントディレクターに「・・・早く警備員を呼べ・・・!」と小声で囁いた。
「あんたらのアイドル、パトラ・ジュリエッタが殺されるかもしれないんだぞ!」
ミグがそう言うと、部屋の奥でステッキの男が立ち上がった。
男は笑った。
「はっはっは・・・面白いことを言う。
会場の警備は完璧ですよ」
「あなたは・・・?」
「第7惑星プロ社長のキャリバンです。
どこのどなたか知りませんが、ご心配には及びません。
土星政府が威信をかけて、ジュリエッタを守ってくれております」
即座にミグは、この男の言葉が信用できないことを直感的に悟った。
その土星にもジュリエッタを暗殺する動機があるのだからー―
そして今まさに、会場警備員の格好をした殺し屋が、客席の間をぬってステージに近づこうとしていた。
☆
一方のバックステージでは、待機中のアリエルがステージのジュリエッタを間近で見て感動していた。
「すごい・・・これがずっと・・・ずっと憧れてきた宇宙一のアイドル・・・」
熱唱しながらステージを縦横無尽に駆け回るジュリエッタ。
ステージ開演前は、気さくで優しいお姉さんだったが、いざライブが始まると迫力やオーラが違う。
彼女が女神と言われる理由がわかった。
10万人の観客を一体化させるなんて、神がかっているー―
そんなジュリエッタに殺し屋はレーザーポインターの照準を合わせた。
最初の曲『Much @do About Nothing』が終わった。
ジュリエッタいわく、最初の曲でライブの成否は8割決まってしまうという。
そして、掴みは大成功だったようだ。
笑顔でステージから消えるジュリエッタはバックステージに戻ると、慌てて衣装を着替えた。
次の曲まで30秒もない。
衣装係に囲まれてジュリエッタは、アリエルの方を向いた。
「いよいよ出番よアリエル!や~わくわくするね!」
嬉しそうなジュリエッタとは対照的に、アリエルはステージの規模にたじろいでいた。
トポロ劇場が千個入っても余るくらいの巨大さだ。
「あ、あうあうあう・・・あんなにお客さんが・・・私に出来るんでしょうか?」
着替えを終えたジュリエッタは、動揺するアリエルに顔を近づけた。
ジュリエッタは、アリエルの目をじっと見つめた。
「アリエル!リラックス。
あなたはなんでアイドルを目指したの?」
ジュリエッタの目を見つめ返すアリエル。
「歌が好きだから?
ダンスが好きだから?
たくさんの人を楽しませたいから?」
そしてニッコリと笑った。
「このステージには、そのすべてがある。楽しもう!」
「ジュリエッタさん・・・」
ジュリエッタはアリエルの背中をポンと叩いた。
「ジュリエッタでいい。私は精一杯あなたの引き立て役に回る。
宇宙を驚かせてやりなさい!」
二曲めの前奏が始まった。
汗をほとばしらせジュリエッタはメンバーに叫んだ。
「みんな行くよ!」
太陽のように眩しいステージにジュリエッタとアリエルが飛び出す。
ファンが振る無数のコンサートライトは、まるで夜空にきらめく星座のようだ。
ジュリエッタはアリエルの方に一瞬目をやると「ね、壮観でしょう?」と言うように微笑んだ。
会場のボルテージは最高潮。
女神はマイクを持つ手を天に突き上げた。
「マイリトルスター!!」
ファンの凄まじい歓声は宇宙最大のステージを振動させた。
☆
ミグは駆けつけた警備員に調整室を追い出されていた。
「おい!話は終わってないぞ!」
相手にされず怒鳴るミグ。
「こっちは終わった」
と、キャリバン。
「まったく最近のファンはマナーがなっちゃいないですよね・・・」
呆れたようにスタッフが言った。
「まあ、メジャーになるっていうのはそういうことだからな。
ああいうのもいるさ」
キャリバンがそう言うと、調整室のドアは閉められ、中から鍵がかけられる音が聞こえた。
廊下に一人立ち尽くすミグ。
マイリトルスターのベース音だけ静かに聞こえてくる。
「ファン・・・そうだ・・・!」
ミグは何かを思いつくと、客席の方に走り出した。
大熱狂の客席。
ミグは撮影用立ち見席でバズーカのようなカメラを構えるファンの一人に話しかけた。
マイリトルスターの爆音に負けないようにファンの耳元で叫ぶミグ。
「なあ!君らはジュリエッタのファンだよな!?」
突然耳元で声をかけられ驚くファン。
「うわ!なんだこのおばさん・・・!」
「ライブ中ですよ。迷惑だなあ・・・」
「頼む、今日のライブで最もジュリエッタが映える曲を教えてくれ!」
「全部聴け!」
とファン。
「強いて言うなら!」
ミグの喉はガラガラだ。
「それなら・・・今歌ってる曲だよ」
ファンはステージを指差した。
振り返るミグ。
「え・・・!?
じゃあ、この曲のどの部分の振り付けが一番ジュリエッタを抜ける!?」
「二番のサビでしょ。だからもうそろそろどいてくれない?」
ー―時間がない・・・!
ミグはインカムを掴んでライトに叫んだ。
「ライト分かった!この曲の二番のサビでジュリエッタは一人になる!」
それを聞いたバックステージのライトは慌てた。
「ー―ってもうやないか~~!!」
ライトは猛スピードでステージへ駆け出した。
☆
ステージ上では、いよいよアリエルが歌うパートが迫っていた。
数え切れない観客の熱気に圧倒される、ウサギの少女。
アリエルはいつになく冷静に考えた。
ー―ダメだ、ダメだ・・・私はジュリエッタさんのようにはなれない。
ジュリエッタさんとは踏んでいる場数が違う。
飛び入りの私がジュリエッタさんのように歌えるわけない・・・
アリエルは深呼吸をすると、目をつむった。
そして衛星ファーディナンドでライトにだけ歌ったコンサートを思い出した。
☆
ー―さあ、聞かせてくれ!
客はオレだけや、これなら緊張もせんやろー―
☆
アリエルは悟った。
ー―私はジュリエッタさんみたく、“みんな”のためには歌えない・・・
今の私は・・・“誰か”のためにしか歌えないー―
アリエルが再び目を開けると、彼女を苦しめ続けた、心の揺らぎはなくなっていた。
マイリトルスターの旋律以外何も聞こえない。
彼女はリラックスして歌い出した。
自然と音が溢れ出してくる。
にわかに会場の空気が変わった。
ファンは騒然とした。
「なんだあの子・・・すげえ・・・!」
☆
ライトが広大なバックステージを駆けていくと、観客席からステージの方に向かって歩く不審な警備員に気づいた。
他の観客の振る発光スティックが邪魔でよく見えないが、その警備員は赤いビームをジュリエッタの方へ飛ばしていた。
ー―レーザー照準だ・・・!
ライトは怒鳴った。
「いた!ミグ!
今、お前のいる場所からステージの方へ10メートル降りたところや!」
《分かった!》とミグ。
警備員は、狙撃ライフルの引き金に手をかけた。
ライトは戦慄した。
ー―あかん間に合わへん。
そして彼はステージに飛び出した。
「ジュリエッタふせろ~~~~!」
ライトがジュリエッタに飛びかかり押し倒す。
銃声が聞こえたのはその直後だった。
☆
人が撃たれて倒れる音。
観客が絶叫する。
我先へと逃げ惑う人々。
会場は危険なパニック状態になった。
ステージではジュリエッタを抱きしめながらライトが息を切らせていた。
「はあはあ・・・大丈夫か!?」
ライトを見つめるジュリエッタ。
「ええ、私は・・・」
すると、ジュリエッタが何かに気づき、ライトの後ろを指差した。
振り返るライト。
二人の後ろでアリエルが倒れている。
恐怖で顔をこわばらせるライト。
「アリエル!!」
アリエルは仰向けに倒れ、頭上に輝く真っ白なスポットライトを見つめていた。
☆
腕利きのスナイパーはジュリエッタの狙撃に失敗して毒づいた。
「なんだと!なぜ振り付けが変わった!?」
すると、殺し屋の背後からミグが体当たりをぶちかました。
ミグ共々地面に倒れるスナイパー。
ミグは手際よく男を取り押さえて、こうつぶやいた。
「お前は本当に運がいい。昔の私ならお前を殺していた・・・」
「なぜ、殺さない・・・?」
「あんたらの仲間になるのはごめんだ・・・」
手錠をかけるミグ。
すると、突然殺し屋は涙を流した。
「殺せ・・・殺してくれ!」
ミグは首を振った。
「裁判を受けて、罪を償いなさい」
☆
「アリエル・・・!」
ライトはアリエルに駆け寄り、言葉を失った。
アリエルは力なく笑った。
「生きてます・・・でも・・・これって・・・まずいですよね・・・」
口径の大きい銃弾で貫かれたアリエルの華奢な胴体は、上半身と下半身がちぎれてしまっていた。
「そんな・・・」
無残な状況にショックを受けるライト。
アリエルはぼんやりとした口調でつぶやいた。
自分の身に起こったことがあまりにも非現実的で、実感がないのだ。
「そうか・・・
私なんかがオーディションにあっさり受かったのは、私をジュリエッタさんの身代わりにするためだったんですね・・・
うまい話ってないんだな・・・」
ジュリエッタは口元を手で押さえながら、涙目になった。
「だから事務所は直前に振り付けを変えたんだ・・・ひどい・・・」
「アリエル・・・」
アリエルは目を閉じた。
「・・・全て分かりました・・・
私がなぜ生まれたのか・・・
私は最初からジュリエッタさんの模倣品として作られたんだ・・・
私の夢は・・・あらかじめプログラムされていたんですね・・・」
アリエルの胴体からは配線が飛び出ている。
そして、とうとう彼女は涙を流した。
「私は・・・人間ですらなかったんだ・・・」
ライトは、アリエルの上半身を優しく抱きしめた。
アリエルは震えだした。
怖いのだ。
「私・・・どうすれば・・・
死ぬって・・・どういう事なんですか?」
ライトは無力感に苛まれた。
「それはオレ達人間にもわからへん・・・」
☆
ーー上手くいったな。
ジェームズ・キャリバンはVIP専用の地下格納庫に続く連絡通路を歩いていた。
キャリバンはこの星の大衆の興味が移ろいやすいことを知っている。
だからジュリエッタといえども死んでしまったら、遅かれ早かれ次のアイドルに取って代わられてしまうだろう。
そして、それはうちの事務所のアイドルとは限らないーー
ーージュリエッタを捨てるのは、あいつの人気が衰えてからだ。
まだ早い。
こういうことのために、あのロボットを事務所に入れたわけだ。
テンペストのバカ社長は喜んでいたが、たかが機械が人の心を感動させられるわけ無いだろ。
とにもかくにも暗殺は実行され、そして失敗した。
あの女も、これで当分は下手なことはできまい。
すべてはうやむや・・・
地下格納庫へ入るキャリバン。
するとキャリバンは目を疑った。
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と、シドゥス警部。
「な・・・」
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「何だお前ら・・・!?
なんの証拠があってそんなこと・・・!」
すると警官隊の中からミグが現れて、キャリバンにプラチナチケットを見せた。
「よくもまあ騙し続けたもんだよ。
あの子の両親に送った二枚のチケットって・・・これなんじゃないか?」
「あんた・・・」
ーー調整室に入ってきた女だ。
警部は、白と黒にペイントされたパトロール船のドアを開けた。
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