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朝晩の風が冷たくなってきた。
布団から出る時間がどんどん遅くなっている。
起こしに来た楓さんに「もう少し」と駄々をこねている。お腹減ったり厠に行きたくなったら仕方なく起きるけど。
何もしなくていい。
神である十夜がそう言った。だから俺は堂々と何もしない事にしている。
逆に、何かしろと言ってきたら実家に帰らせていただく所存である。
だいたい十夜だって本当に何にもしてないからね。
最初は疑ったけど本当に何にもしてないから。
そんで、俺は最近十夜を呼び捨てにしている。
心の中で呼び捨てにしてたらついうっかり口に出してしまって十夜がそれでいいって言うからそうしてる。
何もしない十夜は夜だけは時々神様たちの宴会に出かけて行く。
俺はもう一緒に行かなくてもいいと言われてるからお留守番。俺がもし次に行く気になるとしたら四年後くらいかな。
黒さんからは集まりには伴侶がいるなら同伴するものだと聞いたけど、十夜はまだ俺が本当の伴侶ではないから構わないと言う。
伴侶ではない今の俺は十夜のなんなんだろうか。
初冬の庭に銀杏の葉っぱが落ちて行くのを横になってぼんやり見てたら眠くなってうとうとしてきた。
目をつぶって眠りに落ちそうになるかならないかの幸せな瞬間を味わっている俺の側に十夜が来たのがわかった。
俺が完全に眠ったと思っているのか頭を撫でたり髪をすいたりしている。
俺は眠ったふりでその指の感触を楽しむ。
このところの俺は、五百年もの間誰のことも伴侶に欲しいと思ったことがない十夜がちょうどいい俺を見つけて伴侶になれと言ったことの意味をずっと考えていた。
十夜の唇が俺の頬に落ちて俺もすとんと眠りの淵に落ち込んだ。
目が覚めたら布団の中で外は夕陽で赤く染まっていた。
もそもそと布団からはいだして、羽織りを羽織る。
障子を開けて、縁側から外に出ようと草履を履いて庭を歩く。
サクサクと土を踏む音が聞こえる。
居ついたぶちの猫が毛繕いする側で、肝試しするみたいに雀が近づいたり離れたりしていた。猫は知っていてわざと知らないふりをしている。
吾郎さんが薪を割る音が聞こえる。台所から煮炊きの煙が上がってる。
開け放した障子の部屋でクロさんが筆を手に何か書き付けているのが見えた。
十夜が庭に居た。
俺に気がついて振り返って笑う。
胸が痛くなって着物の襟を握った。
「十夜、俺家に帰ろうと思う」
「そうか。わかった」
十夜の静かな笑みを見て俺は言葉を間違えた事に気がついた。
「あの、十夜、ちがうんだ。じーちゃんとばーちゃんの位牌を取ってこようと思って」
十夜が目を瞬かせて俺を見た。
あの古くてボロいじーちゃんの家に誰も住まなくなっても、十夜が結界を張ってくれてるおかげで痛むこともなく維持されている。
相続人は親父だから、もし戻ることが有れば登記簿の場所でもメモに残しておけばあとは好きにするだろう。
でもじーちゃんとばーちゃんをほったらかしはよくない。
二人の位牌をここに持ってこようと思うんだけど、どうだろうか。
というようなことを十夜に言った。
俺の話を聞いていた十夜の顔がみるみる真っ赤になって、それから俺に手を伸ばしたり引っ込めたりして落ち着きがない。
しばらくその辺をうろうろ歩きまわって深呼吸して、やっと俺のところに戻ってきて「着替えたら出かけよう」とだけ言って行ってしまった。俺も部屋に戻った。
はて?着替えって?って思ってたら楓さんが部屋に来て俺がここに来た時のスウェット上下を渡してくれた。なるほど。
もちろんスウェットは綺麗に洗われてた。
黒スーツの十夜と二人でじーちゃんの家にパーっと行って位牌を風呂敷に包んでチャーっと帰って来た。
家は何にも変わり無し。
庭もそのまんま。季節だけは移ろいで雑草が枯れてたり葉っぱが落ちたりはしてたけど。
その日から十夜がなんか変だ。
布団から出る時間がどんどん遅くなっている。
起こしに来た楓さんに「もう少し」と駄々をこねている。お腹減ったり厠に行きたくなったら仕方なく起きるけど。
何もしなくていい。
神である十夜がそう言った。だから俺は堂々と何もしない事にしている。
逆に、何かしろと言ってきたら実家に帰らせていただく所存である。
だいたい十夜だって本当に何にもしてないからね。
最初は疑ったけど本当に何にもしてないから。
そんで、俺は最近十夜を呼び捨てにしている。
心の中で呼び捨てにしてたらついうっかり口に出してしまって十夜がそれでいいって言うからそうしてる。
何もしない十夜は夜だけは時々神様たちの宴会に出かけて行く。
俺はもう一緒に行かなくてもいいと言われてるからお留守番。俺がもし次に行く気になるとしたら四年後くらいかな。
黒さんからは集まりには伴侶がいるなら同伴するものだと聞いたけど、十夜はまだ俺が本当の伴侶ではないから構わないと言う。
伴侶ではない今の俺は十夜のなんなんだろうか。
初冬の庭に銀杏の葉っぱが落ちて行くのを横になってぼんやり見てたら眠くなってうとうとしてきた。
目をつぶって眠りに落ちそうになるかならないかの幸せな瞬間を味わっている俺の側に十夜が来たのがわかった。
俺が完全に眠ったと思っているのか頭を撫でたり髪をすいたりしている。
俺は眠ったふりでその指の感触を楽しむ。
このところの俺は、五百年もの間誰のことも伴侶に欲しいと思ったことがない十夜がちょうどいい俺を見つけて伴侶になれと言ったことの意味をずっと考えていた。
十夜の唇が俺の頬に落ちて俺もすとんと眠りの淵に落ち込んだ。
目が覚めたら布団の中で外は夕陽で赤く染まっていた。
もそもそと布団からはいだして、羽織りを羽織る。
障子を開けて、縁側から外に出ようと草履を履いて庭を歩く。
サクサクと土を踏む音が聞こえる。
居ついたぶちの猫が毛繕いする側で、肝試しするみたいに雀が近づいたり離れたりしていた。猫は知っていてわざと知らないふりをしている。
吾郎さんが薪を割る音が聞こえる。台所から煮炊きの煙が上がってる。
開け放した障子の部屋でクロさんが筆を手に何か書き付けているのが見えた。
十夜が庭に居た。
俺に気がついて振り返って笑う。
胸が痛くなって着物の襟を握った。
「十夜、俺家に帰ろうと思う」
「そうか。わかった」
十夜の静かな笑みを見て俺は言葉を間違えた事に気がついた。
「あの、十夜、ちがうんだ。じーちゃんとばーちゃんの位牌を取ってこようと思って」
十夜が目を瞬かせて俺を見た。
あの古くてボロいじーちゃんの家に誰も住まなくなっても、十夜が結界を張ってくれてるおかげで痛むこともなく維持されている。
相続人は親父だから、もし戻ることが有れば登記簿の場所でもメモに残しておけばあとは好きにするだろう。
でもじーちゃんとばーちゃんをほったらかしはよくない。
二人の位牌をここに持ってこようと思うんだけど、どうだろうか。
というようなことを十夜に言った。
俺の話を聞いていた十夜の顔がみるみる真っ赤になって、それから俺に手を伸ばしたり引っ込めたりして落ち着きがない。
しばらくその辺をうろうろ歩きまわって深呼吸して、やっと俺のところに戻ってきて「着替えたら出かけよう」とだけ言って行ってしまった。俺も部屋に戻った。
はて?着替えって?って思ってたら楓さんが部屋に来て俺がここに来た時のスウェット上下を渡してくれた。なるほど。
もちろんスウェットは綺麗に洗われてた。
黒スーツの十夜と二人でじーちゃんの家にパーっと行って位牌を風呂敷に包んでチャーっと帰って来た。
家は何にも変わり無し。
庭もそのまんま。季節だけは移ろいで雑草が枯れてたり葉っぱが落ちたりはしてたけど。
その日から十夜がなんか変だ。
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