女神様の使い5歳からやってます

めのめむし

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第2章 辺境編

第12話 敵対?

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 治癒を終わらせた美羽は、猛烈な空腹を覚えていた。

「お腹すいたよ」

 見るからに萎びてしまって、お腹を抑えてしゃがみ込んでいる。

「おねえさま、だいじょうぶですの?」
「レーチェル、すっごくお腹すいたから、何かお店に行きたい」
「おねえさまとごはんですか? いきましょう」

 レーチェルは乗り気になっていたが、きんちゃんが口を挟む。

「美羽様、この街はゴブリンの襲撃で、どこもやっていないと思われます」
「そんなぁ。私、あっちにいた時からずっとご飯食べてないの。
フィーナちゃんのところでは不思議とお腹空かなかったけど、もうずうっと食べてないよ」

 美羽が仰向けに倒れる。

(そういえば、ご飯もだけど、お風呂も入ってないなぁ。
最後に入ったのは、パパにうちに閉じ込められてから5日後だったかな。
その後はお腹すいちゃって入る元気なかったな。
あの時は美奈ちゃんといっしょに入って)

 美羽の目から涙がボロボロと溢れてきた。

「おねえさま! そんなにおなかすいたんですの?」
「ううん、違うの。悲しいことを思い出しちゃったの」

 レーチェルは少し考えて、美羽に声をかける。

「おねえさま! ここでおまちになっていてください。すぐもどってきます」

 そう言い残すと、レーチェルは邸に走って行った。

「レーチェル……行っちゃった。……寂しいなぁ。フィーナちゃんが言ってたっけ、寂しさが出るって」
「美羽様は、1人になってまだ時間が経っていないので、お辛いのでしょう」
「うん、そうだね……ママ、美奈ちゃん。会いたいなぁ」

 いつの間にか美羽は寝てしまった。
そこにレーチェルが戻ってきた。

「あら、おねえさま、おやすみになってしまったの?」
「レーチェルさん、風邪引いても困りますので、起こしても構いませんよ」
「そうね。おねえさま、おきてください」

 レーチェルに揺すられ、美羽が目を覚ます。

「ん~、レーチェル。どうしたの?」
「おねえさま、こんなところでねるとかぜひいてしまいますわ」
「そうだね。起きるよ」
「おねえさま、いいものもってきましたわ」
「何?」
「これですわ」

 レーチェルが持ってきたカゴについた布を剥がすと、サンドイッチが入っていた。

「うわぁ、すっごく美味しそう」
「やしきのりょうりちょうにつくってもらいましたの。わたしもおなかすいてしまいましたわ。いっしょにたべませんか?」
「すっごく嬉しいよ。レーチェル」
「うふふ、おねえさまによろこんでいただけるなんてうれしいですわ」

 サンドイッチはハムのようなものとチーズが挟まっていた。
久しぶりの食事は、本当に美味しかった。

(美奈ちゃんにも食べさせてあげられれば良かったなぁ)

 美奈のことを考えながら食べてると、いつの間にか、また涙が流れてしまったが、美羽はそれも構わず食べ続けた。
レーチェルは美羽が泣いているのに気がついていたが、微笑むだけで何も言わなかった。



 サンドイッチを食べた後、レーチェルに連れられて、邸に向かった。

 邸は、代官邸と言うこともあり、質素な内装になっていた。
最も美羽にとってはそれでも豪華なのだが。

 執事に応接室に案内される。
レーチェルといっしょに応接室のソファーに座っていると、すぐにモーガンとジョディ、カフィが入ってきた。

 モーガンとジョディはにこやかに微笑んでいる。カフィは美羽を見るなり嬉しそうにした。
モーガンとカフィは茶髪に茶色の目をしている。
ジョディはライトブラウンの髪に同じ色の目をしている。レーチェルはジョディに似たのだろう。

 一家がソファーに座ると、お茶が出された。

(苦っ、私は砂糖入れないと紅茶飲めないや)

 静かに紅茶をおいた。

「おや、ミウちゃんは果実水の方が良かったかな?」
「はい、それでお願いします」

 もともと果実水はレーチェルのためにあったので、すぐに出てきた。
一息ついたところで、モーガンが話し始める。

「いろいろ話を聞きたいところだが、まずは報酬の話をしないとな」
「はい、お願いします」
「怪我人の治療が銀貨27枚だな。それと、ゴブリンを退治して街を守ってくれたことに対して、銀貨250枚
ゴブリンクイーンの討伐が1匹銀貨25枚で5匹だから125枚 ゴブリンキングは銀貨200枚 
合計で銀貨602枚だな。金貨に直して金貨60枚と銀貨2枚だ。これを確認してくれ」

 モーガンは執事から皮袋を受け取ると、美羽の目の前に置いた。
美羽はそれをとると、数えた。
本来の美羽は計算は拙かったが、女神にもらった知識で問題なく行えるようになっている。

(お勉強してないのにできるなんて、ずるみたいだなぁ。まあ、これないと私、生きていけないからいいよね)

 モーガンが感心するように見ている。

「君は計算もできるのかい?」
「ええ、一応のものはできるようになりました」
「そうか、素晴らしいな」

 そう言って、モーガンはジョディと目を合わせた後、思案顔になり再び話し始めた。

「美羽、君のことを教えて欲しいんだ。君は5歳だと言うが、普通5歳が1人で旅をしてまちに現れることはない。
まして、ゴブリンの集団を撃破して、ゴブリンクイーンどころか、ゴブリンキングまで倒してしまうことなんて、まずないんだ」
「治癒だってそうよ。少なくとも100人は治癒したんじゃないの?」
「私が倒したのはゴブリンキングだけですよ。後はきんちゃんが全部倒したんです」
「それはそうだが、きんちゃんは魔法生物なのだろう? 魔法生物の功績は全て主人のものなのだよ。それに、その歳で、魔法生物まで作っていることもおかしい」

 根掘り葉掘り聞かれそうな雰囲気に美羽は警戒した。

「それって、話さないといけないことですか? 私にだって秘密はありますけど」

 そこで、レーチェルが口を挟む。

「そうですわ、おとうさま。おねえさまはたすけてくれたのです。おねえさまをうたがうようなききかたやめてください」

 すると、モーガンは鋭い目でレーチェルを一瞥した。

「レーチェルは黙っていなさい。これは安全保障の問題でもあるんだよ」

 レーチェルは普段見ない父の厳しい言葉に息を呑む。
 そして、美羽に向き直り続ける。

「私はここの領主だ。君に命令すれば全て君は話さなければならないんだよ」
「話さなければどうなるんですか?」
「牢屋に入ってもらって、拷問することになるね。君みたいな小さい子では耐えられないだろう。
素直に話したほうがいいよ」

 モーガンがスッと手を上げると、5人の兵士が中に入ってきて、美羽に剣を向けた。

「あなた、やりすぎよ!」
「おとうさま! おねえさまになにするんですの」
「二人とも黙りなさい。美羽が黙って言うことを聞けばなにもしない」

 ジョディとレーチェルが止めようとするが一喝されてしまう。
それを見ていた美羽は大の男の敵意に当てられ、青い顔になるが、それでもお腹に力を入れて話し出す。

「そうですか。わかりました。……なんでこんなに、みんな偉そうなの? きんちゃん」
「はい、美羽様」

 きんちゃんが返事をすると同時にきんちゃんと美羽の周りには氷の尖った棒が無数に現れた。
レーチェルとジョディ以外、この部屋にいるもの全てに、向けられていた。

「これは刺さったら爆発するの。ゴブリンキングを一撃で仕留めるくらいの力が、1つ1つにあるよ。
死にたくなかったら動かないでね。レーチェルの家族を殺したいとは思わないよ」

 モーガンは驚いて言葉を紡げないでいる。

「……不思議なんだけど、私たちがゴブリンを退治したのに、なんでそんな脅しが通用すると思ったの?」

 モーガンもカフィも兵士たちもメイドや執事まで皆青い顔をしている。
しかし、モーガンも立場上引くわけにはいかない。

「こんなことをしたら、帝国を敵に回したのも同然なんだよ。君は逃げ回らないといけなくなる」
「いいよ。もう、大人の男にいいようにされないの。
私が弱かったから美奈ちゃんを死なせてしまったの。
脅しには負けないよ。
大人の男は弱いとみたらすぐに脅してくる。だからもう、誰にも敬語は使わないし、頭も下げない。
これはどんなに偉い人だってそうよ。
もう、誰にも弱みは見せない」

 モーガンはそれ以上言葉を継げないでいた。

 その様子を見た美羽は、席を立つ。
レーチェルはボロボロ泣いている。

「ヒック、おねえさま……」
「ごめんね、レーチェル。最初に来た街でこんなことになるなんて残念だよ」

 すると、ジョディがモーガンに向かって叫んだ。

「あなた!」

 その声で、我に帰ったモーガンが口を開いた。

「すまなかった! ちょっと君を試しただけなんだ。
君を傷つける意図なんて最初からなかったんだ。
話を聞いてくれないだろうか?」

「信用できないよ。いきなり剣を向けたり、牢屋に入れるなんて言う人をどう信用すればいいの? 
言っておくけど、私は貴族の権威なんか興味ないし従う気もないよ。
情には情で返すし、仇には仇で返すよ」

 モーガンが次の言葉が出ないところで、ジョディが口をひらく。

「美羽ちゃん、ごめんなさい。本当にあなたを傷つける気はなかったの。
あなたさえ良かったら、うちといっしょに領都まで行って、その間この国のことを教えてあげられればと思っていたのよ。
それをこの人が、貴族風を吹かせてしまったのだけど、最初はそんな気がなかったの。
だから、お願い。話を聞いてくれないかしら」

 ジョディは包容力のありそうな女性だ。そういう女性を見ると、美玲を思い出してしまう。
そんな人の真摯な言葉を無碍にしたくない。
それに、やはりレーチェルをこのままにして去りたくない。

「分かったよ」

 そう言うと、ソファーに座り直した。

「おねえさま!」

 レーチェルが美羽の首にしがみついてきた。

「ふえーん」

 しばらく、レーチェルが泣き続けたのでおさまるまで頭を撫でてあやした。

 泣き止んだところで、モーガンに向かって口をひらく。

「話は聞くわ」

 モーガンは、汗を拭いながらおずおずと言う。

「この氷を消してもらってもいいかな?」
「ああ、そうね。きんちゃん」
「はい、美羽様」

 すると、氷の棒が霧散した。6本を残して。
その6本はモーガンと兵士を向いている。
モーガンが恐る恐る尋ねる。

「あの、これは?」
「私のことを子供だからって馬鹿にしてるんでしょうけど、あいにく全て信用して解除するような馬鹿じゃないよ。
私に何かしようとしたら、きんちゃんは私の指示を待たないで、即撃つよ」
「あ、ああ、そうか」
「うふふ、あなた自業自得ね」
「そうですわ。おとうさまははんせいするべきですわ」
 
 妻と娘に言われ、モーガンはガックリと項垂れた。




 
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