女神様の使い5歳からやってます

めのめむし

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第4章 帝都編2

第59話 門将ローガン

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 美羽ときんちゃんは帝都の外門にたどり着いた。
美羽を見ると、衛兵が心配そうな顔で声をかけてきた。

「君、そんなに小さいのに一人で外に出ていたのかい?」

 基本的に帝都の外に出る時は、引き止められないために小さな美羽が通っても何も言われなかったのだが、入る時は検査をされるために不審がられた。

「うん、きんちゃんが強いから大丈夫だよ?」
「きんちゃん?」
「どうも、きんちゃんです」

 きんちゃんが衛兵のすぐ頭の後ろで声をかける。

「うおっ!」

 衛兵は驚いて振り返った。
きんちゃんのイタズラだ。だがもちろん冗談と通じていない。
衛兵は得体の知れない魚に槍を向け臨戦体制だ。

「あはは、きんちゃん驚かせたらダメだよぉ」

 美羽は開いた手を口に持っていき笑う。
その美羽の様子に毒気を抜かれた衛兵が美羽に尋ねる。

「お、お嬢ちゃん、その赤い魚はなんだい?」
「きんちゃんだよ。魔法生物なの」
「魔法生物ってなんだ?」
「魔法で作った生物だよ……あれ、そのままだ。あはは」

 美羽はそう屈託なく笑うが、衛兵はそれどころじゃない。

「とにかく君の従魔なのかな?」
「あ、そうだった。きんちゃんは従魔だよ」

 美羽は思い出したようにはにかんで言う。
衛兵は美羽のそんな様子に苦笑いをしながら続ける。

「何か証明できるものはないかな?」
「あるある、あるよ。きんちゃん出して」

 きんちゃんが異空間収納からギルドカードを出す。
美羽が受け取り、衛兵に渡す。

「はい、これ。」
「ど、どこからだし……、ギルドカ!? 君、Cランク冒険者なのか!?」

 衛兵が叫びながら言う。
その声に周りの衛兵や旅人、商人などもこちらを振り向く。

「あはは、声おっきい」

 美羽はわざとらしく耳を塞ぐ真似をして笑う。

「ああ、すまない。まさか君みたいな子が冒険者で、しかもCランクだなんて。帝都でも活動するのかい?」
「あ、そういえば、帝都に来てから一度も冒険者ギルドに行ってない」
「それなら、早く行ったほうがいいよ。Cランク冒険者には何かと連絡が多いからね」
「はーい」
「それにしても、君みたいな子が……。」
「おじさん?」
「おっと、すまない……これか、確かに従魔の欄にきんちゃんと書いてある」
「これで分かってくれた?」
「ああ、よく分かったよ。見せてくれてありがとう」

 そう言って、衛兵はギルドカードを美羽に返す。

「どういたしまして」

 美羽がにっこりと笑顔になって受け取ろうとしながら、返事をする。
あまりにも眩しいその笑顔に衛兵は釘付けになってしまう。
差し出したギルドカードを美羽が引っ張るのに手放すのを忘れてしまった。

 美羽は首を傾げる。
そして、何か気づいたような顔で言う。

「おじさん? 具合悪いの? 治癒してあげようか?」

 衛兵は美羽の言葉に我にかえる。

「はっ、いや、え?ちゆ? 君、治癒魔法も使えるのかい」
「うん、使えるよ。市場で治癒院をやってるんだ」
「そうなのか、ミウちゃん」
「えっ! なんで名前知ってるの?」

 美羽はびっくりのあまり素っ頓狂な声をあげる。
通りゆく人は今度は美羽に注目を集める。

「ははは、そのギルドカードに書いてあるよ」
「あ、そっか。あはは」

 美羽が心底おかしそうに笑った。

「じゃあ、もう行くね」
「ミウちゃん、中でお茶でも飲んでいかないかい?」
「知らない人について行ったらいけないんだよ」
「ああ、そうだな。僕の名前はローガンだ。この門の門将をやってる」
「門将って、この門で一番偉い人?」
「そうだね、この門では一番権限を持っているよ」
「おじさん、すごいねぇ」
「ああ、ありがとう」

 ローガンは美羽に褒められて、頬を赤く染め笑顔になる。

「それじゃあね、おじさん」
「あ、待って。お茶を飲んでいかないかい? もう名前も知ってるし、僕の娘で君くらいな子がいるんだよ。だから、話が聞きたいな」
「あはは、おじさんお仕事中でしょ。いくら偉いって言ってもサボっちゃダメだよ」
「そ、そうだな」
「またね、おじさん」
「ああ、またね」

 美羽が街に消えていくまでローガンは見ていた。

「振られちゃいましたね。門将」
「うわ! なんだ、ヴィクトか。驚かせるなよ」
「門将が近づいても気づかないんですよ。そんなにあの子が気に入っちゃいましたか? 可愛かったですもんね。
でも、手を出したら流石に俺も引きますよ」
「バカ言うな。ちょっと可愛くて、太陽みたいな笑顔に目が奪われて、気になっただけだ」
「めちゃくちゃ気に入ってるじゃないですか」
「でも、あの子は何者なんだろう。冒険者ランクだけじゃなくて、あの雰囲気はただものじゃないんだろうな。」
「門将、門番をやる楽しみが増えましたね」
「ヴィクト、バカ言ってないで持ち場につけ」
「ヘイヘーイ」

 平和な帝都の外門はやはり平和だった。


 美羽は外門を過ぎて、大通りを歩いていた。

 きんちゃんがこちらをチラチラ見ている。
美羽が不思議になってきんちゃんに尋ねる。

「どうしたの、きんちゃん」
「いえ、ずいぶん変わったなと」
「なにが?」
「美羽様、この世界にきた時と比べて、ずいぶん笑うようになったので」
「そうかなぁ」
「ええ、来たばかりの時は男の人には、あのような笑顔を見せなかったでしょう」
「うーん、そうかも?」
「そうなんです。ただ、それはいいことなんですが、美羽様の笑顔は人を惹きつけてしまうので、よからぬ連中が寄ってくる恐れが増えてしまうのが心配なのですが」
「それならー」

 美羽がきんちゃんを背伸びして掴む。
そしてぎゅーっと抱きしめた。

「きんちゃんが守ってね」

 美羽が無条件に信頼を寄せている笑顔で言う。
それを見て、きんちゃんは表情の分かりにくい顔を笑顔にさせ応えた。

「ええ、必ず。貴女の笑顔は私が守ります」
「あはは、嬉しいよー、きんちゃん」

 美羽はきんちゃんのおでこに唇を押し当てた。

 美羽ときんちゃんがほんわかした雰囲気で帰っていると、怒声が鳴り響いた。

「このノロマ! 誰のおかげで生きてられると思ってんだよ!」

 見ると、高そうな服を着た少年が獣の耳を生やした粗末な貫頭衣のような服を着て首輪をしている少女を蹴っていた。
そこへ、先に進んでいた、獣の耳を生やした首輪をした女性が間に入る。

「お許しください。この子は今日具合が悪くて」
「ああん? 誰に口聞いてるんだよ! この獣風情が!」

 少年は間に入った女性の頬を思い切り叩いた。

「あう」

 女性はそのまま横に倒れてしまう。
少年は女性を見てニヤリと笑う。

「許すかどうかは俺が決めるんだよ。余計な口を挟むな!」
「お願いです。この子だけはお許しください。この子だけは」
 
 女性は額を地面に擦り付けながら懇願する。
その様子が少年の嗜虐心を尚更刺激してしまった。

「母親のお前が教育ができないから、俺がお前のガキを教育してやるんだよ」

 少女の母親らしき女性は顔を絶望に染め、少女は震えて蹲り、少年は興奮して舌なめずりをし、少年の護衛らしき3人の取り巻きはニヤニヤしていた。

「おい! ガキ!」
「は、はい」

 少女は震えながら答える。
少年は興奮で口を半開きにしながら言う。

「顔を上げろ」

 少女が恐る恐る顔を上げる。
その瞬間だった。

 少年が少女の顎を蹴り上げた。

「あうっ」

 少女は後ろにひっくり返り後頭部を地面に打ち付ける。
少女の母親は慌てて少女のところに向かおうとする。
その母親の腹へ少年が回し蹴りをする。

「ごふっ」

 母親がその場にうずくまり動けなくなる。

「ワハハ、勝手に動くんじゃねえよ。……でも、そうだな。今から言ったことをすれば今日のところは許してやるよ」
「な、に、を」

 少年は愉悦に表情を歪めながら言った。

「裸になれぇ。今ここでなぁ」
「なっ」
「いやかぁ、それならいいんだぞぉー」

 そう言いながら、少女の方を向く。
まだ少女は動けない。
この状態で暴力を振るわれたら、命にも関わるかも知れない。
母親は諦めたように言う。

「わかり、ました」
「よーし、言ったなぁー。早く脱げぇ」
「はい……」

 少年は何かを思いついたようにニヤァと笑う。
嫌な笑いだ。

「いや、待て。お前は脱がなくていい。脱ぐのを手伝わせる」
「自分でできます!」
「おい、お前ら。こいつの服をビリビリに引き裂いて裸にしてやれ」
「ヘッヘッヘッ」

 太った護衛が舌なめずりをしながら、女性に近づいていく。
その横には他の二人の護衛も女性に近づいていく。

「いや……」
「お前は戻るまで着る服がないんだ。よかったな、涼しくなってなぁ」
「お、おやめください」

 そこに、少女が気がつき、状況を理解する。
か細い声で、少年に懇願する。

「待って……ママにひどいこと……しないで」
「ギャハハ! 酷いことぉ? この女はお前のためになることをするんだよぉ」
「そ、んな」
「さぁ、お前ら早くその女をひん剥け」

 主人が主人なら、護衛も護衛である。
下卑た顔を醜悪に歪めながら女性の服に手をかける。

「ママァ」
「大丈夫よ。心配しなくていいのよ」

 女性が少女を見て気丈に笑う。
少女は涙をポロポロ流す。

 今まさに、女性の服が引き裂かれて衆目に晒されてしまう寸前だった。
優しく力強い、何処か幼なげな声がその場に響いた。

「ママ、美奈ちゃん。大丈夫だよ」

 その場の全員がそちらを向くよりも早く、女性の服を掴んだ太った男が悲鳴をあげた。

「うぎゃあああ、俺の手がぁぁぁ」

 太った男が手を押さえているが、その手は関節が一つ増えたように折れて曲がっていた。

 全員が呆気に取られている中、声がふたたび聞こえた。
先ほどよりも声に侮蔑が混じっている。

「ほんっと、男って碌なことしないねぇー」

 全員の視線が声の方に向いた。

 そこには赤い魚を肩に乗せた桜色の髪の幼女がいた。

「お、お前は」

 少年が驚愕の表情で言う。
その様子を見て美羽は記憶が蘇った。

「あなたは市場で絡んできた、うーんと……そう、ジャフだ」
「ジェフだー」

 ジェフはここ一番大きい声で叫んだ。
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