女神様の使い5歳からやってます

めのめむし

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第4章 帝都編2

第61話 シアとアミ

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「初めまして。私は小桜美羽。女神レスフィーナちゃんの御使いだよ」

 美羽は輝くような笑顔を母娘に向けた。
母娘はその美しさにただただ見惚れていた。
 
「ねえ?」
「は、はい。あ、あの、今、御使い様とおっしゃいましたか?」
「うん、そうだけど。それより自己紹介を……何してるの?」

 母娘はひざまづいて手を合わせていた。

「あっ、いつものか。あのね、別に気にしないから、立ってもらえる? 話しづらいから」
「そ、それは、恐れ多いです」

 母親の方が言う。
美羽は困ったような顔をすると、ふと閃いたように手をポンと打ち付けた。
そして、母娘の手を取り、無理やり走り始めた。
少女も母親もびっくりする。

「ふぇえええ」
「み、御使い様ー」
「あははは、しっかり走らないと転んじゃうよぉ~」

 美羽は戸惑いながら、引っ張られてついてくる二人を気にすることなく、5歳とは思えないスピードで走った。
かなり早いのだが、獣人の母娘は種族の特性なのか、しっかりついてきていた。

「二人とも早いねぇー、すごいすごい」

 逆である。
5歳くらいにしか見えない美羽が、獣人の母娘を引っ張って走る方が異常だ。
しかし、そこには二人とも触れずに、どこに連れて行かれるのかと、戸惑いを顔に表していた。

 周りに注目されながら走った先にあったのは、おしゃれな外観のオープンカフェだった。
美羽がニコニコしながら二人に席を勧める。

「私、このカフェ来てみたかったんだよね。あ、座って座って」
「いえ、その。御使い様と同じ席なんて恐れ多い」
「あはは、なにそれ、御使い差別?」
「さ、差別なんてとんでもないです。ただ、人間もそうかもしれませんが、私たち獣人は女神レスフィーナ様を崇拝しておりますので、その御使い様であるなら……」
「もう、いいの。他のお客さんに迷惑でしょ。座ってよ」

 美羽はぷりぷりしながら言った。
その顔の愛らしさに母娘は思わず微笑んでしまった。
それを見た美羽はパァと明るい顔になり言った。

「やったぁ。やっと笑ったね。もう私を寂しい扱いなんかしないでよ」

 その言葉で、母親はハッとなった。
御使い様は確かに御使い様なのだろう。あれだけのことをやってしまうのだし、女神様の髪と瞳をしているのだ。
疑いようはない。
しかし、それと同時にまだ5歳くらいの子供なのだ。
自分たちが御使い様として扱っていたら、寂しいのではないか?
そもそも、このお方の両親はどこにいるのだろう。
一人で歩いていたところを見ると、天涯孤独なのかもしれない。
もし、そうなら、自分がすることは御使い様として扱うことではなくて、正確に5歳の女の子ミウちゃんとして扱うことなのではないだろうか。
もちろん、助けてもらった恩も御使い様に対しての敬意も忘れはしないが。

 それなら、今自分がする態度は……。

「ごめんなさいね、ミウちゃん。私、どうかしていたわ。もう寂しい思いなんかさせないからね。
それと、改めてありがとうね。二人とも助けてくれて」

 そう言うと、ミウは嬉しそうな顔で返事した。

「うん! ありがとう。じゃあ、あなたもね」

 そう言って、少女を見た。

「え、私は……」

 少女はまだ、御使い様に対しての態度を変えることに踏ん切りがつかない。
そこで母親が言った。

「アミ、ミウちゃんはその扱いを望んでいないわ。年相応に見られたいのよ。
あなただって、いやでしょ。敬われてばかりで、人間としてみてもらえないのは」
「うん、分かった。御使い様、いえ、ミウさん、ごめんなさい。いやな態度してました。
それと、救ってくれてありがとうございました。本当に、本当に、嬉しかった、です」

 少女、アミは助けてもらったことの喜びで泣いてしまった。

「あ、ごめんなさい、わだし、わだし、ぐす」

 母親がアミのそばに行こうとしたが、美羽が先にアミに近づいたので、美羽に任せる事として座り直した。

 美羽がアミの頭を引き寄せて自分の胸に抱いた。
美羽の方が小さいから、少し不格好な抱擁だが、アミは美羽にされるがままになっていた。
美羽の体からは神気が溢れてきて、三人を包み込んだ。

 すると、さっきまでの恐怖や悲しみ、絶望の感覚が光に溶けていくようだった。

(ミウさんに抱かれていると、すごく心地いい。どんどん怖かった気持ちがなくなって、元気になっていくみたい)

 美羽はもうアミが泣いていない様子を見ると、手を離して、席についた。
アミは泣いていた目を拭いながら照れくさそうにしていた。

 美羽が空気を変えるような明るい声で言った。

「さあ、疲れたと思うから、甘いものでも食べよう。ね」
「でも、私たち、お金持っていないのよ」
「平気平気。私は持ってるよ。こう見えていっぱい稼いでるんだよ」

 美羽が元気いっぱいに答える。
しかし、母親は申し訳なさそうに言う。

「でもそれじゃあ、助けてもらった上にご馳走になってしまう事になるの。とてもそんな恥ずかし……ミウちゃん?」
「ひぐ、ふぐ、二人が一緒に食べてくれない。寂しいヨォ。さっきは寂しいことしないって言ったのにぃ」

 美羽が泣いていた。いや、手を顔に当てているだけの泣き真似だった。
母親もそれには気づいたが、美羽の意図に感謝して受け取る事にした。

「ごめんね。もう遠慮しないからね。ご馳走してくれる?」
「うん!」

 パッと一瞬で明るい可愛い笑顔になった。
そんな美羽を見てアミは思った。

(この方には敵わないな)

 ウェイトレスが注文をとりに来た。
まだ、決まっていなかったので、美羽が聞いた。

「お姉ちゃん、私、ここ初めてきたの。それで、甘いものが食べたいんだけど、お姉ちゃんのおすすめを教えて」

 ニコニコしながら聞いた。
ウェイトレスはその笑顔に顔をだらしなくしながら、おすすめを教えてくれた。

「お嬢ちゃん、よく言えたわねー。偉いわぁ。そうねぇ、お姉さんのおすすめは龍の森パフェよ。
龍の卵の形をしたチョコがのっていて、中はとろりとしたカスタード、チョコムース、フルーツとアイスクリームが入っているのよ。仕上げにたっぷりの生クリームがのっているから、とても濃厚で美味しいよ」

 それを聞いていた、アミは目を輝かせていた。
母親も平静を装っているが食べたそうだ。
女性は甘いものに目がない。

「二人ともそれでいいよね。もう決めちゃうね。龍の森パフェ3つください」
「はい、わかりました。待っててね、お嬢ちゃん」
「うん、お姉ちゃんよろしく!」

 ウェイトレスは足取り軽く戻って行った。

 ウェイトレスが離れたら、美羽が話し始めた。

「二人とも自己紹介してくれる? まず私からね。私は小桜美羽。もう呼んでくれてるけど、美羽でいいよ。女神フィーナちゃんの御使いをやってるの。この子は私の魔法生物できんちゃん」
「きんちゃんです。よろしくお願いします」

 母親はきんちゃんに驚いていたが、話が進まなくなると思い、一度置いておいた。

「ごめんねミウちゃん、自己紹介が遅くなって。私の名前はシア。犬獣人、25歳よ」
「私の名前はアミです。ママと同じ犬獣人で8歳です」
「シアちゃんにアミ、よろしくね」
「よろしくミウちゃん」
「よろしくお願いしますミウさん」

 お互いで自己紹介が終わったところで、龍の森パフェがやってきた。

「うわぁ、すごぉーい」

 美羽が目をキラキラさせている。
それもそのはず。
まずボリュームがすごかった。
美羽の顔よりは大きい見た目に、綺麗なデコレーション。
チョコに合いそうな甘酸っぱそうなフルーツ、たっぷりとのったクリーム、ふんだんに使ったチョコレートの数々。

 シアもアミも嬉しそうに見ている。

「おいしそー、どこから食べようかな?」
 
 美羽がパフェを凝視して悩んでいた。
すると、ウェイトレスのお姉さんが、

「ねえ、お嬢ちゃん。わ、私が、最初の一口、食べさせてあげようか?」
「本当! やったぁ」
「え、いいの?」

 ウェイトレスは、逆に聞き返すがすでに美羽は口を開けて待っている。
それならと、ウェイトレスはスプーンを持って、美羽のパフェのクリームと卵のチョコレートの一部をすくって美羽の口に持っていった。

「アーン」
「アーン」

 パクッ。
美羽がスプーンを加える。
そして、顔を蕩けさせる。

「うーん、美味しいー。甘くてちょっと苦くてでもクリームが苦いのをなくして、甘くて。
お姉ちゃん、美味しいよ!」

 そんな美羽の姿を見たウェイトレスの頬は緩み切っていた。

「あーん、可愛い。お姉ちゃんの名前はミコっていうの。お嬢ちゃんの名前は?」
「私は美羽だよ」
「きゃー、私と一文字同じ。嬉しい。ね、また来てね」
「うん、また来るよ」

 そういうと、ミコは離れていった。

 それを見ていたアミは思った。

(御使い様の力がなくても、こうやって人に好かれていくんだろうな、ミウ様は)

 その後、パフェを食べ終わって満足してから、美羽が二人に質問をした。

「二人はなんでジェフの奴隷をしていたの?」

 それにはシアが話し始めた。

「ここから少し離れたところだけど、私たち獣人が住む村があったの。
一番最初は犬獣人だけの村だったのですが、人間に迫害された他の種の獣人がたどり着き、様々な種族が暮らす村になっていたの。

 みんな家族を作り、穏やかに暮らしていたわ。

 そこへ、先日ゴルディアック商会に雇われた傭兵たちが村を襲ってきたのよ。
獣人は身体能力では、決して人間に劣らないのだけど、寝静まった時というのと、かなりの人数で襲ってきたので、逃げるのに精一杯で村の者たちは散り散りになってしまったの。

 バラバラで逃げた先で個別で捕まったようね。

男たちで、抵抗したものたちもいたんだけど、そういった者たちはみんな殺されてしまったの。
私の夫も私たちが見ている前で……」
「……ママ」

 アミがシアの手を握る。
美羽は悲しそうな顔で言う。

「シアちゃん、辛ければ話さなくていいよ」
「ううん、ミウちゃんありがとう。私は大丈夫よ」

 そして、シアは気丈に話を続けた。

「私たちも村から出たところで捕まったの」
「じゃあ、ゴルディアック商会には他にも捕まっている人たちがいっぱいいるの?」
「ええ、ほとんどが地下牢に入れられているわ」

 美羽は不思議に思って首を傾げて尋ねる。

「なんで、二人は外に出てたの?」
「私たちはジェフに気に入られて、ジェフが商会長に言って、私たちを自分専用の奴隷にしたのよ。
12歳のジェフにとって、私たちは初めての奴隷で、嬉しかったのでしょうね。
私たちを犯そうとしたのだけど、アミはまだ小さいから懇願して、私だけが相手をする事になったの。
それからよ。ジェフは私たちを見せびらかすように、外に連れて歩いていたのは。
人目につくところに行っては殴る蹴るの暴行を受けたの。
夜は毎晩犯されたわ」

 シアが悔しそうに言う。
美羽は嫌悪感を隠さない態度で聞いていた。

(あのジェフにはもっと制裁が必要だね)

そこできんちゃんが口を挟んできた。

「美羽様、完全に違法奴隷ですね」
「違法奴隷?」
「この国には奴隷制度が確かに存在していますが、認められているのは借金奴隷と犯罪奴隷それと戦争奴隷だけなんです。
借金奴隷はお金を返し終わるまで拘束されている形ですが、その間も最低限の権利は守られるのです。
犯罪奴隷は基本的に一般には出回りません。鉱山などのあまり人がやりたがらない仕事に従事させられます。
戦争奴隷は、ある程度功績を積むと、帝国市民として認められます。
一般人を不当に奴隷に落とすことは禁じられているのです」
「なんで、それが国にバレないの?」
「みんな隷属の首輪をしていますので、逆らえないですし、人目につかないところにいますので」
「国にばれたらどうなるの?」
「重罪になるでしょうね。奴隷制度が国を動かしているので、違法なことをすれば根幹を揺るがしかねないので」
「ふーん、そうなんだ。ね、シアちゃん」
「なぁに、ミウちゃん」
「ゴルディアック商会の地下にはまだ獣人がいっぱいいるの?」
「はい、ほとんどの人が商品として売られるので、地下にいますね」
「そう」

 美羽は何か思案げな顔になり、しばらく沈黙する。
考えがまとまったのか、口を開いた。

「それじゃあさ」

 美羽がニヤリと笑った。

(こんな顔でもミウさんは可愛いな)

 などと、アミは関係ないことを思った。
そう考えられているとは知らずに美羽は言った。

「獣人たち、全員解放しちゃう?」
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