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第5章 崩れた日常
第127話 残虐勇者
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「僕を舐めるんじゃない! 魔王! すぐにこいつらを倒して、その次はお前だ」
(ハハハ、僕は完全に目立ってるじゃないか。これだよ、このタイミングを待っていたんだよ。
皇女たちも僕を見直して、好きになるに違いない)
蓮は、ちらりと皇女たちの方をみるが、皇女たちはクララの無事を喜び、抱き合っていて、こちらを見ていなかった。
(見ていない! それじゃあ意味がないじゃないか!)
蓮は、一瞬で皇女たちに近寄り、驚いている彼女らに告げた。
「君たちは僕の未来のお嫁さんたちだからね。僕には君たちを守る責任がある。僕がこの地獄から救い出してあげるよ」
それに対し、第一皇女のアメリアが振り切った顔で返す。
「はい、勇者様。この苦難から救っていただいたら、この身は勇者様に捧げます」
(これでいいわ。お父様、お母様、妹たちを救えるのなら。婚姻も私だけにするように後で頼もう)
アメリアは、勇者蓮を軽蔑している。本心では婚姻は拒否したいが、現状すがるものが勇者しかいない。
自分だけの犠牲でみんなが助かるのなら安いものだと思っていた。
話していると、残った魔人4体のうちの1体が蓮に向けて火魔法を放ってきた。
ゴオオオオオ!
かなり強力である。
しかし、蓮が避けてしまうと皇女たちに直撃してしまう。
見ていた誰もが、蓮は避けることをせずに直撃してしまうだろう。
そう思った時、なんと蓮は斜め上に跳んで避けてしまった。
謁見の間の皆が自分の目を疑った。
たった今、守る責任があると言ったばかりだったのである。
いきなり責任を放棄したのだ。
「フッ」
魔王でさえ思わず吹き出した。
目を瞑っていても見えているのだろう。
魔人の火魔法はまっすぐに皇女たちに迫った。
そこにクララが一歩前に出て、手を広げた。
パシュゥゥゥ……。
火魔法が、クララのペンダントの結界で消された。
蓮は、少し罰が悪そうに、しかし殊更明るく皇女たちに告げた。
「いやぁ、君の結界があるから大丈夫だと思ってたんだよ。君がいてくれるから、僕は戦いに専念できるよ」
クララは、無言で蓮を見る。その目は何も期待していない目だった。
「あ、いや、僕が君たちを守るのは変わらないよ。魔王軍を倒せば君たちを守ることになるだろう?」
しかし、クララは無言で見ている。
そのクララの無言の圧に耐えられなくなった蓮は、残りの4魔人に向く。
「お前たち! あの子達を巻き込むような攻撃をするな! 攻撃するなら僕だけにしろ」
すると、スクリーンが帝都民たちを映し出す。
『今、勇者様、皇女様たちをおいて逃げたぞ』
『未来のお嫁さんって言ってたのに、見捨てた気がするんだけど』
『大丈夫なのか? あの勇者』
『なんか、言い訳をしているけど』
蓮は焦った。
せっかく満を持して登場をしたことで、帝都民の期待を一身に集めることができたのに、これでは台無しである。
「おい! 魔王。帝都民が僕を勘違いしているから、そのスクリーンで僕をうつせ。
誤解を解かなければいけない」
すると、側近が呆れたように言う。
「下郎! そのようなことで魔王様を煩わせようとするな。貴様の行動の結果であろう。信用を取り戻したくば、行動で示してみせよ」
「くっ! 言われなくてもわかってる! 来い! お前たち。僕が倒してやる」
4魔人に向かって蓮が言うと、ようやくかと言った具合に、4魔人が動き出す。
先ほど、火魔法を放ったローブの魔人は何か集中をはじめ、大剣と盾を持った残り3魔人が蓮に一斉に切り掛かった。
3魔人のスピードは凄まじく、一瞬で蓮に肉薄。しかも避けにくいように、それぞれタイミングをずらした斬撃を蓮に浴びせてきた。
謁見の間の者もスクリーンで見ている帝都民も蓮がなますになるところを幻視した。
しかし、なんと蓮は最初の二つの斬撃をかわし、最後の斬撃を弾き返した。
そして、ローブの魔人が氷の刃の魔法を放ってきたが、それも剣で撃ち落とした。
「甘いよ。僕にそんなぬるい攻撃が通じると思っているのか? 魔人ども」
「口だけの勇者だと思ったが、そうでもないようだな。我々魔人は人間の騎士を20人は相手をできると自負している。それを4人も1人で相手をするなど、なかなかのものだ」
魔人の1人が言った。
蓮はニヤリとして言う。
「ははは、そりゃそうだよ。僕は勇者だからね。でも、こんなものじゃないよ。僕の実力は。
見せてあげるよ。『フレイムブレード』」
蓮の剣が青白い炎を纏い出す。
「僕のは炎を纏うんだけどね、そこの炎斬魔将は炎を纏わないで相手を切ったら火だるまにするようじゃないか。
どっちが強いか、君ともやってみたいねぇ」
蓮が、炎斬魔将ヴォルクを挑発するが、ヴォルクはちらりと蓮を一瞥しただけで、何も返してこない。
それに対して、不満そうに蓮が言う。
「ダンマリか。まあいいよ。こいつらを倒したら、魔王を倒してから、君とも遊んであげるよ」
そう言って、4魔神に向き直る。
ローブの魔人が言う。
「われらを前にして、ヴォルク様を挑発するなど、随分と余裕ではないか」
「実際余裕だからね。君たちもさっきの攻防で実力差は感じたでしょ」
「そう言っていられるのも今のうちだ」
ローブの男がそういうと、ローブの男は魔人3人に何か魔法をかけた。
すると、3人の魔人は先ほどよりもさらに素早い動きで、蓮に斬りかかった。
身体強化の魔法だったようだ。
1人目が深くかがみ込み、足を薙ぎ払いにきた。
蓮は、深く屈んでいるので、ちょうど良い高さになる頭を斬ろうと考えるが、すぐに2人目が迫っていて、それができない。
蓮は足に対する斬撃をやむなく跳んで避けるが、それは悪手だった。
空中に浮いた蓮に、2人目が胴を薙いできた。
それを間一髪剣で受け止めるが、魔人の剛力で体が浮き上がる。
それを3人目が上空から斬り下ろしてきた。
蓮は下を向いたまま浮き上がっており、魔人の斬り下ろしは背中側のちょうど腰あたりを真っ二つにしようと迫ってくる。
蓮はそれを驚異的な身体能力で、90度体を捻り、なんとかかわす。
その交わした先に、魔人の火魔法が迫っていて、蓮の体に直撃する。
「ぐああああ」
蓮は苦しそうな呻き声をあげて、火だるまになりながら落下するが、
『ウォーター』
水の魔法を唱えて、全身に水をかけて消火した。
着地し、立ち上がった蓮は怒りの声を上げる。
「おのれ! 雑魚どもが。僕をこんな目に合わせるなんて。許さない許さない許さない許さない」
4人の魔人はすでに元の陣形に戻っている。そして、蓮の癇癪を呆れてみていた。
相手をする必要もないと思った4魔人が、次の攻撃に移ろうとした時だった。
蓮が叫んだ。
『メキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロ』
なんと、高度な炎魔法メキロを12連発したのだった。
魔人たちは素早く散開しようとするが、メキロの発射速度は同レベルの魔法では風系の魔法を抑えて最速である。
動くこともできずに直撃してしまった。
青白い業火が魔人たちを包む。盾などなんの役にも立たずに全身を焼かれて、盾持ちの3人の魔人は倒れた。
ローブの魔人だけが魔法障壁を張ってギリギリ逃れたが、大量のメキロを抑えるのに魔力を使いすぎてしまって、魔力が残っていなかった。
脱力して、腕がだらりと下がったところに後ろから声が聞こえた。
「やあ、さっきはよくもやってくれたね。人を燃やすなんて酷いじゃないか」
「クッ」
後ろを振り向こうとしたローブの魔人の腹から青白い炎を纏った剣が突き出していた。
「ごふっ」
ローブの魔人が血を吐く。
蓮が冷酷に言った。
「お返しに、体の中から燃やしてあげるよ」
その瞬間、魔人に刺さっている、蓮の剣に纏った青白い炎がより一層燃え上がり、魔人の体内を燃やし始めた。
「うぎゃああああああああああ」
魔人の目、口、鼻、耳から炎が吹き出してくる。
「あははははははははははは。どうだい、僕の炎の味は? どんな味か教えてくれよ~」
「ああああああああああ」
蓮は答えることなどできない魔人に向かって話しかけ続ける。
「あははははははははははは。僕を炎に包んでくれたんだから、こうするのは当然だよねえ。反省したかい?」
「……。」
魔人は立ったまま、体の内側を焼き尽くされて、皮だけが残った状態にされてしまった。
皮だけを残す燃やし方をするのは、かなりの高等技術がいるのだが、青ざめた人間側にそれを誉めそやすものは誰もいなかった。
蓮が魔人から剣を抜いて、玉座で頬杖をついて目をつぶる魔王にその剣を向けた。
「さあ、次は君だよ。魔王! 僕のために灰になってくれ」
魔王は静かにその目を開いた。
—————————— 同時刻の美羽 ———————————
ハイオーガたちに「桜塵の誓い」をかけて、支配下に置いた美羽が名前をオガタロからオガニジュウロまでつけた頃の話。
「ガアアアア」
「きゃああ!」
リーダーのオガタロが美羽に後ろから声をかけてきたのだ。
オーガの顔も声も怖い。本人はただ声をかけたつもりだが、声をかけられた美羽は怖い顔で咆哮を受けたように感じる。
相手に恐怖を与える方が、生物的に有利になることを学んで、普通にしていても怖くなったのだろう。
美羽は怖すぎて飛び上がり、尻餅をついて涙目になっている。
「もう! もう! 怖いでしょ! なんで、ガアアアアなんて言うの!」
「グルルルル」
「ひっ!? な、なんで? 私を脅かそうとしてるの?」
「ガアアアア」
「やっ、やめてー! もう、ガアアアアもグルルルルも禁止! 言ったら砂に変えちゃうからー!」
ハイオーガたちは慌てて口を抑えた。
怖い顔のハイオーガたち20体が同時に口を抑えている。
一種の不気味さがあった。
「ふう、これなら大丈夫」
口を抑えるハイオーガたちの前で、美羽はニコニコするが、コリンが心配そうに聞いてきた。
「御使い様、大丈夫でしょうか?」
「え? 何が?」
「いえ、オーガは咆哮でコミュニケーションをとっていたようなのですけど、その咆哮をさせないとなると、コミュニケーションはどうするのかなって思って」
「あ、そうか。オーガ語の会話ができないってことか」
「はい、不便ではないかなと思いまして」
「そうなのかな? そうなの?」
美羽がオガタロに聞いてみると、口を抑えたまま首を縦に振った。
「そうなんだ。でも、あの叫びはダメだからね!」
ハイオーガたちみんながしゅんとする。
美羽はそんなハイオーガたちを見て、思わず口にする。
「これはこれで、かわい……くないよ! やっぱり怖いよ!」
ますますしゅんとなるハイオーガたち。
捨てられた子犬のような目で美羽を見る。怖い顔で……。
「そんな顔されても怖いんだからね! せめて可愛く喋りなよ!……あ、そか」
美羽は何か思いついたかのようにドヤ顔でいまだに口を抑えているハイオーガたちの前に来る。
「みんな、喋りたい?」
コクコクと首を縦に振るハイオーガたち。
「そうでしょそうでしょ。えへへ、いい解決策、思いついちゃったー」
首を傾げる口を抑えた20体のオーガ。
「はっぴょーしまーす。じゃじゃーん、これからはオガと言ってください」
首を傾げるハイオーガとコリン。美羽が何言ってるか全くわからない。
そんな、イマイチどころかイマサンくらいの反応のなさに業を煮やした美羽がハイオーガのモノマネをする。
「もう、やってみせるから、見ててよ!」
ハイオーガの動きを真似てのっしりと歩き始めた。
顔も、オーガの顔真似をして目を鋭く見開いて、眉間に皺を寄せ口角を下げ、精一杯の怖い顔にする。
(かわいい)
見ていたコリンは思わずそう思ってしまった。美羽は真面目だったのだが。
そして、美羽は
のっしのっしと歩きながら、喋り出した。
「オガオガ。オガオガ」
(((((かわいい)))))
近くにいた治癒士たちもコリンと同じことを思った。
そして、美羽はぴたりと止まり、ハイオーガたちを見て、
「はい、これを真似してオガオガ言ってください」
((((((ああ、遊びじゃなかったんだ)))))))
近くの大人たちは幼女の遊びだと思っていたようだった。
その後、美羽に強要されたハイオーガたちはオガオガ言いながら、その辺を歩き回る。
「こら! オガロクロ! 顔が怖いよ。オガジュウサンロはさっきよりも優しくなってるよ。いい感じ」
顔の指導にまで余念がない美羽だった。
それ以降、ハイオーガたちは優しい顔でオガオガ言ってコミュニケーションを取るようになった。
(ハハハ、僕は完全に目立ってるじゃないか。これだよ、このタイミングを待っていたんだよ。
皇女たちも僕を見直して、好きになるに違いない)
蓮は、ちらりと皇女たちの方をみるが、皇女たちはクララの無事を喜び、抱き合っていて、こちらを見ていなかった。
(見ていない! それじゃあ意味がないじゃないか!)
蓮は、一瞬で皇女たちに近寄り、驚いている彼女らに告げた。
「君たちは僕の未来のお嫁さんたちだからね。僕には君たちを守る責任がある。僕がこの地獄から救い出してあげるよ」
それに対し、第一皇女のアメリアが振り切った顔で返す。
「はい、勇者様。この苦難から救っていただいたら、この身は勇者様に捧げます」
(これでいいわ。お父様、お母様、妹たちを救えるのなら。婚姻も私だけにするように後で頼もう)
アメリアは、勇者蓮を軽蔑している。本心では婚姻は拒否したいが、現状すがるものが勇者しかいない。
自分だけの犠牲でみんなが助かるのなら安いものだと思っていた。
話していると、残った魔人4体のうちの1体が蓮に向けて火魔法を放ってきた。
ゴオオオオオ!
かなり強力である。
しかし、蓮が避けてしまうと皇女たちに直撃してしまう。
見ていた誰もが、蓮は避けることをせずに直撃してしまうだろう。
そう思った時、なんと蓮は斜め上に跳んで避けてしまった。
謁見の間の皆が自分の目を疑った。
たった今、守る責任があると言ったばかりだったのである。
いきなり責任を放棄したのだ。
「フッ」
魔王でさえ思わず吹き出した。
目を瞑っていても見えているのだろう。
魔人の火魔法はまっすぐに皇女たちに迫った。
そこにクララが一歩前に出て、手を広げた。
パシュゥゥゥ……。
火魔法が、クララのペンダントの結界で消された。
蓮は、少し罰が悪そうに、しかし殊更明るく皇女たちに告げた。
「いやぁ、君の結界があるから大丈夫だと思ってたんだよ。君がいてくれるから、僕は戦いに専念できるよ」
クララは、無言で蓮を見る。その目は何も期待していない目だった。
「あ、いや、僕が君たちを守るのは変わらないよ。魔王軍を倒せば君たちを守ることになるだろう?」
しかし、クララは無言で見ている。
そのクララの無言の圧に耐えられなくなった蓮は、残りの4魔人に向く。
「お前たち! あの子達を巻き込むような攻撃をするな! 攻撃するなら僕だけにしろ」
すると、スクリーンが帝都民たちを映し出す。
『今、勇者様、皇女様たちをおいて逃げたぞ』
『未来のお嫁さんって言ってたのに、見捨てた気がするんだけど』
『大丈夫なのか? あの勇者』
『なんか、言い訳をしているけど』
蓮は焦った。
せっかく満を持して登場をしたことで、帝都民の期待を一身に集めることができたのに、これでは台無しである。
「おい! 魔王。帝都民が僕を勘違いしているから、そのスクリーンで僕をうつせ。
誤解を解かなければいけない」
すると、側近が呆れたように言う。
「下郎! そのようなことで魔王様を煩わせようとするな。貴様の行動の結果であろう。信用を取り戻したくば、行動で示してみせよ」
「くっ! 言われなくてもわかってる! 来い! お前たち。僕が倒してやる」
4魔人に向かって蓮が言うと、ようやくかと言った具合に、4魔人が動き出す。
先ほど、火魔法を放ったローブの魔人は何か集中をはじめ、大剣と盾を持った残り3魔人が蓮に一斉に切り掛かった。
3魔人のスピードは凄まじく、一瞬で蓮に肉薄。しかも避けにくいように、それぞれタイミングをずらした斬撃を蓮に浴びせてきた。
謁見の間の者もスクリーンで見ている帝都民も蓮がなますになるところを幻視した。
しかし、なんと蓮は最初の二つの斬撃をかわし、最後の斬撃を弾き返した。
そして、ローブの魔人が氷の刃の魔法を放ってきたが、それも剣で撃ち落とした。
「甘いよ。僕にそんなぬるい攻撃が通じると思っているのか? 魔人ども」
「口だけの勇者だと思ったが、そうでもないようだな。我々魔人は人間の騎士を20人は相手をできると自負している。それを4人も1人で相手をするなど、なかなかのものだ」
魔人の1人が言った。
蓮はニヤリとして言う。
「ははは、そりゃそうだよ。僕は勇者だからね。でも、こんなものじゃないよ。僕の実力は。
見せてあげるよ。『フレイムブレード』」
蓮の剣が青白い炎を纏い出す。
「僕のは炎を纏うんだけどね、そこの炎斬魔将は炎を纏わないで相手を切ったら火だるまにするようじゃないか。
どっちが強いか、君ともやってみたいねぇ」
蓮が、炎斬魔将ヴォルクを挑発するが、ヴォルクはちらりと蓮を一瞥しただけで、何も返してこない。
それに対して、不満そうに蓮が言う。
「ダンマリか。まあいいよ。こいつらを倒したら、魔王を倒してから、君とも遊んであげるよ」
そう言って、4魔神に向き直る。
ローブの魔人が言う。
「われらを前にして、ヴォルク様を挑発するなど、随分と余裕ではないか」
「実際余裕だからね。君たちもさっきの攻防で実力差は感じたでしょ」
「そう言っていられるのも今のうちだ」
ローブの男がそういうと、ローブの男は魔人3人に何か魔法をかけた。
すると、3人の魔人は先ほどよりもさらに素早い動きで、蓮に斬りかかった。
身体強化の魔法だったようだ。
1人目が深くかがみ込み、足を薙ぎ払いにきた。
蓮は、深く屈んでいるので、ちょうど良い高さになる頭を斬ろうと考えるが、すぐに2人目が迫っていて、それができない。
蓮は足に対する斬撃をやむなく跳んで避けるが、それは悪手だった。
空中に浮いた蓮に、2人目が胴を薙いできた。
それを間一髪剣で受け止めるが、魔人の剛力で体が浮き上がる。
それを3人目が上空から斬り下ろしてきた。
蓮は下を向いたまま浮き上がっており、魔人の斬り下ろしは背中側のちょうど腰あたりを真っ二つにしようと迫ってくる。
蓮はそれを驚異的な身体能力で、90度体を捻り、なんとかかわす。
その交わした先に、魔人の火魔法が迫っていて、蓮の体に直撃する。
「ぐああああ」
蓮は苦しそうな呻き声をあげて、火だるまになりながら落下するが、
『ウォーター』
水の魔法を唱えて、全身に水をかけて消火した。
着地し、立ち上がった蓮は怒りの声を上げる。
「おのれ! 雑魚どもが。僕をこんな目に合わせるなんて。許さない許さない許さない許さない」
4人の魔人はすでに元の陣形に戻っている。そして、蓮の癇癪を呆れてみていた。
相手をする必要もないと思った4魔人が、次の攻撃に移ろうとした時だった。
蓮が叫んだ。
『メキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロメキロ』
なんと、高度な炎魔法メキロを12連発したのだった。
魔人たちは素早く散開しようとするが、メキロの発射速度は同レベルの魔法では風系の魔法を抑えて最速である。
動くこともできずに直撃してしまった。
青白い業火が魔人たちを包む。盾などなんの役にも立たずに全身を焼かれて、盾持ちの3人の魔人は倒れた。
ローブの魔人だけが魔法障壁を張ってギリギリ逃れたが、大量のメキロを抑えるのに魔力を使いすぎてしまって、魔力が残っていなかった。
脱力して、腕がだらりと下がったところに後ろから声が聞こえた。
「やあ、さっきはよくもやってくれたね。人を燃やすなんて酷いじゃないか」
「クッ」
後ろを振り向こうとしたローブの魔人の腹から青白い炎を纏った剣が突き出していた。
「ごふっ」
ローブの魔人が血を吐く。
蓮が冷酷に言った。
「お返しに、体の中から燃やしてあげるよ」
その瞬間、魔人に刺さっている、蓮の剣に纏った青白い炎がより一層燃え上がり、魔人の体内を燃やし始めた。
「うぎゃああああああああああ」
魔人の目、口、鼻、耳から炎が吹き出してくる。
「あははははははははははは。どうだい、僕の炎の味は? どんな味か教えてくれよ~」
「ああああああああああ」
蓮は答えることなどできない魔人に向かって話しかけ続ける。
「あははははははははははは。僕を炎に包んでくれたんだから、こうするのは当然だよねえ。反省したかい?」
「……。」
魔人は立ったまま、体の内側を焼き尽くされて、皮だけが残った状態にされてしまった。
皮だけを残す燃やし方をするのは、かなりの高等技術がいるのだが、青ざめた人間側にそれを誉めそやすものは誰もいなかった。
蓮が魔人から剣を抜いて、玉座で頬杖をついて目をつぶる魔王にその剣を向けた。
「さあ、次は君だよ。魔王! 僕のために灰になってくれ」
魔王は静かにその目を開いた。
—————————— 同時刻の美羽 ———————————
ハイオーガたちに「桜塵の誓い」をかけて、支配下に置いた美羽が名前をオガタロからオガニジュウロまでつけた頃の話。
「ガアアアア」
「きゃああ!」
リーダーのオガタロが美羽に後ろから声をかけてきたのだ。
オーガの顔も声も怖い。本人はただ声をかけたつもりだが、声をかけられた美羽は怖い顔で咆哮を受けたように感じる。
相手に恐怖を与える方が、生物的に有利になることを学んで、普通にしていても怖くなったのだろう。
美羽は怖すぎて飛び上がり、尻餅をついて涙目になっている。
「もう! もう! 怖いでしょ! なんで、ガアアアアなんて言うの!」
「グルルルル」
「ひっ!? な、なんで? 私を脅かそうとしてるの?」
「ガアアアア」
「やっ、やめてー! もう、ガアアアアもグルルルルも禁止! 言ったら砂に変えちゃうからー!」
ハイオーガたちは慌てて口を抑えた。
怖い顔のハイオーガたち20体が同時に口を抑えている。
一種の不気味さがあった。
「ふう、これなら大丈夫」
口を抑えるハイオーガたちの前で、美羽はニコニコするが、コリンが心配そうに聞いてきた。
「御使い様、大丈夫でしょうか?」
「え? 何が?」
「いえ、オーガは咆哮でコミュニケーションをとっていたようなのですけど、その咆哮をさせないとなると、コミュニケーションはどうするのかなって思って」
「あ、そうか。オーガ語の会話ができないってことか」
「はい、不便ではないかなと思いまして」
「そうなのかな? そうなの?」
美羽がオガタロに聞いてみると、口を抑えたまま首を縦に振った。
「そうなんだ。でも、あの叫びはダメだからね!」
ハイオーガたちみんながしゅんとする。
美羽はそんなハイオーガたちを見て、思わず口にする。
「これはこれで、かわい……くないよ! やっぱり怖いよ!」
ますますしゅんとなるハイオーガたち。
捨てられた子犬のような目で美羽を見る。怖い顔で……。
「そんな顔されても怖いんだからね! せめて可愛く喋りなよ!……あ、そか」
美羽は何か思いついたかのようにドヤ顔でいまだに口を抑えているハイオーガたちの前に来る。
「みんな、喋りたい?」
コクコクと首を縦に振るハイオーガたち。
「そうでしょそうでしょ。えへへ、いい解決策、思いついちゃったー」
首を傾げる口を抑えた20体のオーガ。
「はっぴょーしまーす。じゃじゃーん、これからはオガと言ってください」
首を傾げるハイオーガとコリン。美羽が何言ってるか全くわからない。
そんな、イマイチどころかイマサンくらいの反応のなさに業を煮やした美羽がハイオーガのモノマネをする。
「もう、やってみせるから、見ててよ!」
ハイオーガの動きを真似てのっしりと歩き始めた。
顔も、オーガの顔真似をして目を鋭く見開いて、眉間に皺を寄せ口角を下げ、精一杯の怖い顔にする。
(かわいい)
見ていたコリンは思わずそう思ってしまった。美羽は真面目だったのだが。
そして、美羽は
のっしのっしと歩きながら、喋り出した。
「オガオガ。オガオガ」
(((((かわいい)))))
近くにいた治癒士たちもコリンと同じことを思った。
そして、美羽はぴたりと止まり、ハイオーガたちを見て、
「はい、これを真似してオガオガ言ってください」
((((((ああ、遊びじゃなかったんだ)))))))
近くの大人たちは幼女の遊びだと思っていたようだった。
その後、美羽に強要されたハイオーガたちはオガオガ言いながら、その辺を歩き回る。
「こら! オガロクロ! 顔が怖いよ。オガジュウサンロはさっきよりも優しくなってるよ。いい感じ」
顔の指導にまで余念がない美羽だった。
それ以降、ハイオーガたちは優しい顔でオガオガ言ってコミュニケーションを取るようになった。
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